※この作品はR-18です。

淫蕩王ベルムハルト   作:ヒステリア

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(3)黒のエレミア

 一刻後、リッドは村から少し離れた森の奥にある洞窟の近く辿り着いた。すると……

 

「おっ、きたきた。びびってこなかったらどうしようかと思ってたぜ」

 

 リッドを見つけるや、洞窟の前に立っていた五人の男がニヤニヤした笑みを浮かべる。いずれも昼間絡んできた盗賊達だ。彼らを見てリッドは呆れた顔になる。

 

「やっぱり君達か。あれだけやられたのにまだ懲りてないみたいだね」

「へっ、あれしきの事で懲りるようじゃ山賊なんかつとまらねえよ。だが、てめえのようなガキにやられたままじゃ俺たちのメンツが立たなくなっちまうんでな。わざわざここまで来てもらったってわけだ」

 

 そんな言葉を吐きながら山賊達はリッドににじり寄る。リッドは臆する様子もなく――

 

「君達のメンツなんてどうだっていい。それよりレティ様はどこだ? 約束通り一人で来たんだ。彼女は返してもらうよ!」

 

 声に怒気を含めながらリッドも山賊達に向かって一歩踏み出す。すると賊達は顔を青くしながら後ろに下がった。昼間やられた記憶と恐怖はまだ抜けていないらしい。

 だが、彼らはリッドのまわりを見回してから再び笑みを浮かべ、わざとらしく首を斜めに傾けた。

 

「レティさま? いったい誰のことだ?」

「――とぼけるな! お前達がさらった長い金髪の女の人のことだ。手紙にも『あの女を返してほしければ一人で来い』って書いてあっただろう!」

 

 しらを切る山賊にリッドは荒ぶった声をぶつける。すると山賊はああと首を揺らしながら言った。

 

「悪いな、ありゃお前を誘き出す方便だ。かなりの上玉だったからほんとはさらいたかったんだが、昼間の戦いぶりを見る限りあっさり捕まえれるようなタマじゃなさそうだからな。お前と二人がかりで抵抗されると万が一って事もありえるし、村にひそんでる仲間に頼んで足止めするだけにしておいた」

「なに……じゃあレティ様はまだ村の中に」

 

 言いながらリッドは村の方を振り返る。だが、彼女の前には数十人の山賊達が行く手を阻むように立ちふさがっていた。

 

「おおっと、帰るにはまだはええぜ。せっかく俺達のアジトまで来たんだ。もてなしでも受けていってくれや。少し痛めつけて腕の片方でももらったら解放してやるからよ。俺達に逆らったらどうなるのか、その姿で触れ回ってくれや」

 

 後方に立っている、顔に傷跡の付いた男が下卑た言葉と笑いを漏らす。あいつが山賊団の親玉(ボス)らしい。まわりの賊と違い鎧を纏っているところを見るに、傭兵くずれだろう。

 

「やれやれ、仕方ないな。二度と悪さしようと思わない程度は痛い目を見てもらうよ――『鉄腕』解放!」

 

 リッドが拳を掲げると、両手に黒い籠手が填められる。それを見た瞬間――

 

「かかれえぇぇ――!!」

「おおおおおぉぉぉっ!!」

 

 頭領が剣を振るいながら怒声を上げた瞬間、手下達が一斉にリッドに襲い掛かってくる。リッドは一番近くにいた賊のもとまで飛び込み、彼が持っていた剣を弾き落としながら彼の腹部を殴り昏倒させる。そして一瞬ほどの間も置かず隣の賊の腹部を蹴り、さらにその隣に立ってた賊の頭部を殴りつけ、三数えるほどの間に七人もの賊を蹴散らしていく。

 それを見て他の賊達もリッドがただの旅人じゃないと気づき、足をすくめる。リッドは彼らを一睨みしてすぐ足を踏み出し、近くで固まっていた賊達を打ち払う。それを見て頭領が怒鳴り声をあげた。

 

「怖じ気づくんじゃねえ! 相手は俺らの肩にも届かねえガキが一匹だ。囲んでタコ殴りにしてやれ!!」

 

 その怒声に手下達は我を取り戻し、リッドのまわりを囲みながら彼女に迫る。冷静さを保っている頭と予想より統率の取れた賊達にリッドはわずかな感心とその力と統率力を別の事に生かせよという思いを抱きながら、右手を頭上に掲げる。

 すると、彼女のまわりに火花をほとばしらせた光球が浮かびあがる。それを見て賊達は思わず動きを止めた。リッドは彼らを一瞥し――

 

「ゲヴェイア・クーゲル!」

 

 魔法(わざ)の名を叫ぶとともに彼女が右手を振り下ろした瞬間、光球が賊の一団に振り注いで賊達を巻き込みながら爆発を起こす。それを目にしながら、

 

「カノーネ……」

 

 リッドは右手に魔力を集め、次の技を放とうとした――その時、すぐ後ろから殺気を感じ取りリッドは背後を振り向く。そして剣を振りかぶりながらリッドに迫ってくる男が見えた。

 

「調子にのんじゃねええっ!!」

 

 不意打ちに気づかれるや、彼は自棄を起こしたように剣を振ってくる。リッドは難なく剣をかわすが、まわりの賊達も勢いに乗って攻撃を仕掛けてくる。

 リッドは身をよじって攻撃をかわしては的確に急所を突いて賊を倒していく。その向こうから――

 

『Standard……』

 

 その声に反応してリッドはそちらに顔を向ける。頭はリッドに橙色の光が集まった刃を向けて――

 

「死ねええっ!!」

『Feuer!』

 

 頭の吼えると同時に剣から無機質な声が響き、刃の先に集まった光がまっすぐ撃ち出される。リッドはすぐに避けようとするが、眼前に立った敵に阻まれ動きを止める。その直後――

 

「――ぐああっ!」

 

 側面から魔力弾を喰らい、リッドはうめき声をあげながら地面に転がる。その拍子に服が破れ、白い下着と少し盛り上がった胸が見えた。賊の何人かが目ざとくそれを見つけて……

 

「おい見ろよ。こいつ女物の下着なんかつけてるぜ。もしかして……」

「女みたいなガキだと思ったら本当に女だったのか。そう思って見てみるとなかなかいい顔してるじゃねえか」

 

 賊達は舌なめずりをしながら彼女ににじり寄る。その後ろで彼らの頭領も笑みを浮かべながら言葉を放った。

 

「女か、ちょうどいい。しばらく嬲りものにした後でこいつの死体を村の前に晒してやるとしよう。それを見ればあの村の住民どもは俺達に逆らおうとしなくなるはずだ。この女の仲間どもも怖じ気づいて逃げ出すに違いない」

 

 そう言って頭領はやれと言うように顎をしゃくる。それを見るまでもなく、手下達は下卑た笑みを浮かべ、または口から涎を垂らしながらリッドににじり寄る。それを見てリッドは胸を押さえながら後ろに下がる。

 

――油断した。まさか射撃魔法が使える奴がいたなんて。しかもこんなタイミングで女だとばれるなんて。もしここで負けたりなんかしたら……。

 

 男だと思われてる間はほぼ無縁だった獣欲を向けられて、身体が竦み上がる。

 それを抑え、上着を閉じながら山賊達を睨んだところで――。

 

「はあああっ!」

「ぐああっ!」

 

 ふいに山賊達の後ろから男の掛け声と野太いうめき声が上がる。何事かとリッドと山賊達が目を向けた先で頭上から吹き飛んでそのまま地面に倒れる山賊と黒い鎧を着た金髪の男が目に映った。

 

「な――なんだてめえは!?」

 

 彼を見て賊の一人が荒げた声を上げる。一方リッドは目を見張りながら――

 

「――ハルトさん!」

「ようリッド。ちょっと目を離したすきに色気のある恰好になってるじゃねえか」

 

 ハルトはリッドを見つけるや、温泉で鉢合わせた時と似た言葉と憎らしい笑みをかけてくる。だが、この状況だとそれが頼もしくも思えてくる。彼の後ろにはさらに四人の守護騎士とレティの姿も見えた。

 それを見て昼間の賊の一人が声を上げた。

 

「お、お頭! あいつらです! 昼間俺たちの邪魔をした、あの女の仲間だ!」

「――なにぃ!」

 

 ハルト達を指さしながら声を荒げる子分に頭領も荒い声を漏らす。その一方、彼を見てハルトは口を吊り上げた。

 

「てめえ、見たことあると思ったらメルヴィンでレティをさらおうとした糞公爵の兵じゃねえか。まさかこんな所まで逃げて山賊の親玉やってたとはな」

「お、お前達は――」

 

 ハルト達を見た途端、賊の頭領はぎくりと体を震わせる。それを見て守護騎士達は目を見張り、レティも「ああ」と思い出したように声を上げた。それを見聞きしてリッドも頭領の正体と経緯を悟る。

 頭領は顔を青くしながらも、それを誤魔化すように声を張り上げた。

 

「ええい、ものどもやっちまえ!! 相手は女と子供ばかりだ! 捕まえた女はお前らの好きにさせてやるぞ!」

 

 そんな言葉で頭領は手下達を鼓舞するものの、脂汗を流しながら命令する親分の態度と恐怖心のかけらも見せず立ちふさがる敵を見て、手下達はその場に立ち尽くす。そんな彼らの前でハルトは刃を構え……。

 

「『ドルハダス』」

『Sein Wille』

 

 主の呼びかけに彼の剣は無機質な声を発し、銀色の鉛玉を吐き出す。それとともに漆黒の刃のまわりに赤黒い炎のような魔力が沸き上がった。

 それを見て賊達を前に、ハルトの黒剣は無機質な声を発した。

 

『fliegende Klinge』

「――しゃああっ!」

 

 剣の発声とともにハルトが吼えながら剣を振りかぶる。その瞬間、剣から細長い刃が放たれ、棒立ちする賊達の体を真っ二つに斬り裂く。半身を失い大量の血を噴き出しながら倒れる仲間を見て、残りの賊達はひっと悲鳴を上げる。

 そこへハルトは剣を振りかぶりながら賊に斬りかかり、騎士達も主とともに続く。

 そんな中、レティも賊を倒しながらリッドの傍まで走り寄ってきた。

 

「リッド、大丈夫? 賊なんかに傷を負わされるなんてあなたらしくもないわね」

「すみません。予想より敵が多かったのと、昼間倒した相手だから油断しちゃったみたいです」

 

 戦いながら声をかけてくる姉分を見ながら、リッドは自嘲気味な返事を漏らす。

 そこで戦いの混乱に紛れて逃げ出そうとしている頭領が見えた。リッドは舌打ちしながら彼を追いかける。それを見てレティは「リッド」と叫ぶものの、そこに数人の賊が襲い掛かってきて、レティは槍を振るい彼らを返り討ちにする。そうして敵を片づけた頃にはリッドも頭領もすでにこの場にいなかった。

 

 

 

 

 

「くそ――どうしてこんなことに」

 

 森の中を駆けながら、頭領だった男は独り毒づく。

 こんなはずではなかった。“商売”の邪魔をしたガキに身の程を教え込んでやるだけのはずだった。それがどうしてこんな事に。だが――

 

「まだだ。何とかここを逃げて、またどこかで盗賊どもを束ねて――」

「待て!」

 

 その声に思わず頭領は動きを止める。その直後、眼前に黄色い魔力弾が眼前を横切り、先に生えていた樹を撃ち砕く。

 頭領は弾が放たれた方を見た。その先には……

 

「手下達を置いて自分だけ逃げられると思っているのか。おとなしく投降するんだ!」

 

 リッドは厳しい目と声を頭領にぶつける。頭領は額だけでなく顔中に青筋を浮かべながら憎悪に満ちた声を返した。

 

「この男女め……お前のせいで俺がせっかく築き上げた軍団がめちゃくちゃになっちまったじゃねえか。てめえだけは許さねえ――ぶっ殺してやる!!」

 

 そう吠えながら頭領はリッドに剣を向ける。それに対しリッドは仕方なく拳を構えるが、その拳は微妙に震えていた。それに気づいたのか、ただ自棄(やけ)を起こしただけか――

 

「死ねえええっ!!」

 

 頭領は剣を構え魔力弾を撃ち出す。リッドは難なくそれを避けながら頭領に迫る。そこで――

 

「がああああっ!!」

 

 リッドが迫ってきた瞬間、頭領は剣を真上に振りかぶり、リッドに向けてまっすぐ振り下ろす。

 

「はああっ!」

 

 リッドは拳を突き上げて剣を弾き飛ばし、そのまま頭領のどてっ腹に一撃入れようとする。だが頭領はリッドが構えている隙に懐から小刀を取り出し――

 

「くらえっ!」

「――っ!」

 

 リッドは体をよじって小刀をかわすものの、彼女の脇腹に小刀の刃がかする。

 すると、視界がぶれ、体がふらついた。頭領はそれを見逃さず――

 

「はああっ!」

「ぐあっ!」

 

 頭領は野太い腕でリッドの腕を掴み、地面に押し倒す。そして下卑た笑みを浮かべながら彼女にのしかかった。

 

「へへっ、手こずらせやがって。苦労させられた分楽しませてもらわねえとな」

「や、やめろ――離せ!!」

 

 その言葉と歪んだ笑みを見た途端、リッドはぞくりとした悪寒を覚え、必死に体を動かす。しかし、刃に塗られた麻痺薬のせいか、体が思うように動かず視界までおぼつかなくなる。

 一方頭領は身動きが取れない彼女の胸に手をやって上着を引き千切り、白くて小さな胸を剥き出しにした。

 

「あ……ぁぁ……」

 

 見ず知らずの醜男に体を蹂躙されているショックとこれから起こることを想像し、リッドの目からとうとう涙が溢れる。それを嘲笑いながら頭領は彼女の胸を揉みしだき、さらに下のズボンに手をかけようとする。

 

「や、やめてぇ……」

「今さら泣いて謝っても無駄だ。なに、じきにお前も気持ちよくなるさ。いい加減観念しな!」

「い、いやあああああ!!」

 

 リッドはたまらず叫び声を上げる。それに構わず、頭領は彼女の下半身を隠すズボンを引き千切ろうとした。

 その時――

 

「――はあっ!」

「ぐああっ――!」

 

 あらぬ方から黒い炎が飛んできて、頭領は弾き飛ばされる。リッドはすぐに胸を隠しながら炎が飛んできた方を見上げた。

 

「ハルトさん……」

 

 ハルトはリッドを見下ろし、怒りに顔を歪ませた顔を頭領に向けながら彼に一歩近づく。それを見て頭領はひっと情けない声を上げ――

 

「ま、待ってくれ。降参だ。俺が悪かった。そいつは諦める。だから見逃してくれ!」

 

 後ろに這いながら頭領は命乞いをする。ハルトは黙ったまままた一歩前に踏み出した。それを見て――

 

「そ、そうだ! 向こうの俺たちのアジトに今まで商人や旅人から奪ってきた宝がたんまりある。俺を見逃してくれたらお前さんに全部やるよ。さっさと行かねえと誰かが持っていっちまうかもしれねえぜ――」

 

 頭領はハルトの反対側にある洞窟の方を指さしながらまくしたてる。しかしハルトは聞いていない様子で彼の方に近づき――

 

「ふん――」

「――ぐぁ」

 

 ハルトが剣を振るった瞬間、盗賊の首が宙を飛び、首から上を失った胴体はおびただしい血を噴き出しながら地面に倒れる。その拍子に顔についた返り血を汚そうに手の甲で拭いながら、ハルトは彼女の方を振り向いた。

 

「よう、危ないところだったな。毒を喰らっちまったようだが、手を貸した方がいいか」

「う、ううん、大丈夫。これぐらい自分で――ぐぅ」

 

 そう言ってリッドは立ち上がろうとするが、麻痺のせいで体を起こすどころか剥き出しのままの胸を隠す事すらできなかった。

 そんな彼女を見かねたのか――。

 

「たく、仕方ねえな」

 

 と言いながらハルトは背中につけていたマントを外し、それをリッドの体にかける。そして彼女の背中に手を回し――。

 

「うわっ! い、いいよ、しばらく経てば動けるようになると思うから」

「そんなに待てるか。俺ぁさっさと宿に帰って飯ともうひとっ風呂入りたいんだ。おとなしくしてろ」

 

 粗っぽくそう吐き捨てながらハルトはリッドを抱えて、シグナムやレティ達の元へ戻っていく。

 自分を抱きかかえるハルトの腕は賊達と違い、暖かみと安心感があるもので、格好が悪いと思いながらもしばらくこうしていたいと思えるものだった。

 

 そしてリッドはある決意をする。

 今回の事で自分は“男”というものに恐怖を覚えてしまった。このままじゃヴィヴィ様やレティ様を守ることも『エレミアの技』を次代に伝える事もできなくなるだろう。だったらもう“彼”に……。

 

「ねえ、ハルトさん」

「あん、なんだ?」

 

 リッドが呼ぶと、ハルトは彼女を見ずに空返事を返す。リッドは一呼吸分ほどの間をおいて……。

 

「今夜、一晩時間をもらえないかな。ハルトさんにお願いしたいことがあるんだ」

「なに……?」

 

 リッドの口から出てきた言葉に、ハルトは眉を上げながら彼女の顔を見下ろす。彼女は顔を赤くしながらハルトから目を反らす。

 レティあたりをダシに明日あたりで落とすつもりだったが、まさか彼女の方から誘ってくるとは。

 心境の変化があったのか、それとも今助けた事でハルトに惚れてしまったのか、どっちにしろ手間が省けたと思いながらハルトは足を進めた。

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