無事に先輩の出産が終わって、その数分後。
『この騒ぎを止めるいい方法を思いついてね。まずは下準備も兼ねて、アイツに会いに行こうか』
そう告げる先輩に従い、ツァトゥグァちゃん達の家を後にした僕たち。
玄関から外に出た瞬間、気づけば見覚えのあるグニャグニャした不思議な空間に足を踏み入れていた。十中八九先輩の仕業だろう。
「うーん……」
以前も通ったけど、相変わらず気持ち悪い空間だ。じっくり見ないようにって言われたけど、元々進んで見たくなるようなものでもない。目を閉じて進むのが安牌だろう。
腕の中に日奈を抱え、先輩に手を引かれながら空間内を歩いていく。
「だいじょぶ、パパの『さんち』はひながまもる」
「ありがと……SAN値ってなに?」
思わず呟いた質問だったが、誰も答えてくれない。
SAN値ってなんだよ、マジで。
「よし、もう目を開けてもいいよ」
先輩の言葉と共に、 ゆっくりと目を開ける。
そうして、出口に辿り着いて見えた景色は。
「ようこそ後輩くん──神々の住まう地、ドリームランドへ」
小高い丘の上、小さな街を一望できる場所。気持ちのいい風が吹く草原に、僕たちは立っていた。空は見渡す限りの青空で、雲ひとつ無い快晴だ。
ここで家族3人ピクニックでもしたら、きっと最高の思い出になるに違いない。お弁当もレジャーシートも持ってきていないのが、相当に悔やまれる所だ。
「いやいや、そうじゃなくて……どこですか、ここ!?」
「だからドリームランドだと言ってるだろう?」
そのドリームランドが何かって質問してるんだが!?
「簡単に説明すると、現実とは異なる世界──異世界ってやつだね。ほら、漫画や小説なんかで聞いたことあるだろう?」
「……たしかに、最近よく目にしますけど」
異世界転生、異世界転移。
どちらも創作の題材として広く普及しているものだ。
「……マジかぁ」
しかしまさか、自分がその異世界転移を体験することになるとは、夢にも思っていなかったが。元の世界に戻れるんだろうな、これ。
不気味な笑顔を浮かべている先輩に視線を向けると、ますます笑みを深める始末。色々と怖いわ、マジで。
「ふふん、いきなりライトノベルの主人公になってしまったねぇ〜、後輩くん?」
「茶化さないでください、先輩」
「ま、もう後輩くんは主人公なんだけどね」
「え?」
「ふふ、なんでもないよ」
サラッと何か言わなかったか……?
気の所為か……?
「まぁ、今回はお試しみたいなものだからねぇ。用事を済ませたらさっさと帰るとも」
「それを聞いて安心しました」
地球で起きてる未曾有の大規模人類発情事件、まだ解決してないからな。
そこんところ忘れてなさそうで安心したわ。
「さてと……居るんだろう、ノーデンス?」
先程の不気味な笑顔から一転、真剣な表情を浮かべる先輩。時々見せる、邪神モードの空気だ。
「あぁ、流石じゃな──ナイアルラトテップ」
その声に応えてか、いつの間にか僕の隣に背の高い老人が立っていた。白い布服に身を包み、立派なヒゲをたくわえている。
まったく気づかなかった。
気配すら感じなかった。
その老人は、まるで無から急に現れたみたいに、ごく当たり前にそこに存在していた。
「あ〜……んん〜……わたしの名前、表記揺れが激しいからしょうがないんだけど……ナイアじゃなくてニャルの方で呼んでくれない?」
「どっちでもいいじゃろ。というか、心底どうでもいいわい」
「よくないんだが?」
まるで数年ぶりに再会した旧友のように、先輩と老人は話し始めた。
老人──ノーデンスと呼ばれた人物からは、悪い気配を感じない。というか、どことなく安心するような雰囲気だ。先輩ほどじゃないけど。
「あ、あの……」
「ん?」
意を決して、ノーデンスさんに話し掛けてみる。
チラリと、人の良さそうな顔がこちらを向いた。
「お主は?」
「あぁ、彼は後輩くんだよ。わたしの伴侶さ」
「ほぅ……?」
こちらが何か口にする前に、先輩からの紹介がねじ込まれる。するとノーデンスさんの眼光が、やたらと鋭いものに変わった。
まるで値踏みされているかのような──というか、完全に何かを調べてるような視線を感じる。
「そして、その腕の中に居るのがわたし達の娘さ」
「ひなです、うまれていちにちです」
「なんと……!?」
手を挙げて気さくに挨拶をする日奈を見て、ノーデンスさんは目を丸くした。
なんか面白いな、この神様。さっきから表情がコロコロ変わるし、実は愉快な人なのかもしれん。
「ふむ、ふむふむ……なるほどのぅ」
「え、えーっと……」
「お主も不憫じゃのぅ、あんなロクでもない神性に目をつけられて」
「はー!? わたしは誰もが認める完全無欠のパーフェクト邪神ちゃんなんだがー!?」
「そういうところじゃぞ」
「そういうところですよ、先輩」
不覚にも、先輩への呆れの感情でノーデンスさんと心が一つになる。先輩がトラブルメーカーなのをよく知っているとみた。
「お主、あやつの側が嫌になったら儂に言うのじゃぞ。すぐに保護してやるからの」
「は、はぁ」
「聞き捨てならない言葉が聞こえてきたんだがー!? お前なんかに後輩くんをあげるわけないだろ、この虚弱体質ジジィ!」
「先輩、口が悪くなってますよ」
いつにも増して先輩の気が短い。ハスターちゃんとクトゥルフさんみたいに、犬猿の仲ってやつなのだろうか。
「ふ、ふん! そもそも、後輩くんがお前みたいなしわがれたジジイに靡くものか! 若くておっぱいとお尻が大きい女の子になってから出直してくるんだね!」
あの、それ遠回しに僕がドスケベの変態だって言ってるのと同義なんですが。
流れ弾がこっちにも飛んできてるんですが。
「ふむ。お主は若いおなごが好きなのか?」
「え? あぁいや……まぁ、はい……大好きです……」
この状況で嘘をついても仕方がないと──神様相手に嘘をついても意味が無いと──知っているからこそ、しぶしぶ本音を吐露する。
それを聞いたノーデンスさんは、数秒考え込んでから口を開いた。
「ならば、姿が変われば問題なし、という事じゃな?」
「へ?」
次の瞬間、ノーデンスさんの身体が優しい光に包まれる。
全身を覆った光は徐々に収束していき、収まった後に立っていたのは──
「ほれ、これならどうじゃ」
白い布服の下から覗く、豊満なおっぱい。
薄い生地を押し上げる、肉付きの良いお尻と細いしっぽ。
そして、白い髪に翡翠の目をした絶世の美少女だった。
背は先輩と同程度で、見事なロリ爆乳体型だ。
更に、何故か頭には猫耳が付いている。
「ちょっ、それは卑怯だろうノーデンス!」
「何を言うか。お主も人間のおなごの姿をしておるじゃろう?」
「いやいや! のじゃロリに加えて猫耳と尻尾まで付けるのは反則を通り越してるって!」
目の前で先輩と口論をする、Kカップ爆乳を携えた猫耳のじゃロリ美少女。
しかも、声までロリ可愛く変化してるときた。
なんだこれ、ギャップ萌えポイントが多すぎるんだが? 萌え殺す気か?
「ふぅむ……しかし、こんな小さくて重たい身体が好みとは、人間のおのこの趣味はよく分からんのぉ」
「あっ! まさか後輩くんの記憶を読み取って変化したな!?」
「ふぉっふぉっふぉっ、まだまだ対策が甘いのじゃ、ニャルラトホテプよ」
「むぎぎぎぎぎ……!」
あ、先輩がめっちゃ悔しそうな顔してる。珍しい。
「だ、大丈夫だよね後輩くん! こんな下品なおっぱいと低俗なお尻をした可愛いだけのVTuberみたいな奴に靡かないよね!?」
あの、特大ブーメラン刺さってますよ、先輩。
「って、もう勃起してるし!」
「いやぁ……これは生理現象っていうか……ははは」
だって、布の隙間からチラチラと桃色の乳首が見えてるし。
しかも、薄い布越しにツルツルの割れ目が透けて見えるし。
こんなの、健全な男子なら絶対に勃起すると思うんですよ。
「はぁ……まぁ分かりきってた事だけどね。女の子を前にした後輩くんが、我慢なんて出来るはず無いって」
「す、すみません……」
「いいさ。日奈はわたしが預かっておくから、思う存分しっぽり楽しむといいよ」
「…………」
「その代わり、後でしっかり埋め合わせすること❤いいね❤」
「は、はい!」
毛布にくるまった日奈を受け取ると、そのまま何処かへ歩き去ってしまう先輩。
これは、後でたっぷり埋め合わせをしなきゃだな。もうやめてって泣き叫ぶまで犯し尽くしてやるとしよう。
「ふむ、儂に用事があったのではないのか?」
「別に急ぐ用事でもないからね〜。日奈と一緒に、適当にその辺を回ってくるよ〜」
「れべりんぐしてくる〜」
そう言い残して、先輩は一瞬でその場から消えてしまった。流石は神様と言うべきか。
そして、後に残されたのは僕とノーデンスちゃんのふたりきり。
「さて、ではエッチとやらを始めようかの」
「いきなりですか……」
「ふぉっふぉっ❤『色欲』を宿すその魂がどれ程のものか、確かめておかねばならんからな❤」
「バレてる……」
パチン、とノーデンスちゃんが指を鳴らすと、周囲の景色が変わっていく。気がつけば、あっという間にラブホの一室に閉じ込められていた。
異世界に来てまで、いつものラブホにお世話になるのか……なんか泣けてくるな、代り映えしなくて。
「さて、早速始めるのじゃ❤」
ふかふかのベッドに腰掛け、ノーデンスちゃんは淫蕩に笑う。その顔はまさしく、獲物を捕食する狩人の笑みだった。