「まぁ、全員怪我がなくて良かったよ!」
「ホントですよ……」
「けほっ、まだ喉がけむいですー」
「換気しような、換気」
あれから汚れた部屋の掃除をして、なんとか一息ついていたところ。
部屋の隅で二宮の論文を読みつつ、未だに実験を続けようとしている先輩と同期に苦言を呈す。
「よーし、実験再開だー!」
「おー」
「いや少しは懲りてください」
さっき爆発したのに、即座に同じ実験を始めるな。せめて別の実験をしてくれ。
「まったく……」
まぁご存知の通り、僕の苦言は一ミリも聞き入れられることはなく、二人は意気揚々と奥の実験台の方へ走っていってしまった。
あの様子だと、感度3000倍薬を完成させるまで終わらなさそうだな。講義終わったら夜食でも作って差し入れるとしよう。
「元気ッスねー」
「二宮も混ざるか?」
「いやいや、遠慮しとくッスよー」
賢明な判断だ。今のレベルで実験に加わったら、間違いなく怪我するだろうからな。今は下積みとして、地道に論文を作成する時期だ。僕も一年前はそうだった。
先輩はこの研究室に来た翌日からもう実験してたらしいけど。やっぱ天才だよな、あの人。
「それでそれで、論文どうッスか!?」
「あー……テーマは悪くない」
「そうッスよね、そうッスよね!」
論文を作成する際には、そのテーマがどう社会に役立つか考えて作成しろと言ってある。
研究者といっても、結局は人間である。人間である以上、人間社会に多少なりとも貢献して、対価を貰わなければならない。
故に、革新的とまでは行かずとも、少しぐらい人間社会の役に立てるようなテーマを設定すべきなのだ。
「『経口する粉末型麻酔薬とその有効利用について』か……これ、睡眠薬とは違うんだよな?」
「もちろんッス!」
上体を反らし、そのデカいおっぱいを突き出しながら、二宮は得意げに鼻を鳴らした。
先輩よりは小さいが、男目線から見れば十分にデカいその爆乳が、だぷんだぷんと元気に跳ね回っている。
「従来の睡眠薬は、飲んでから効能が発揮されるのに時間がかかっていたッス! ですがこの経口麻酔薬は、飲んだら即座に昏倒! しかも針を使わないので、注射が嫌いな人にもオススメできる薬品ッスよ!」
それは安全な薬品なんだろうな?
絶対良くない副作用あるだろ、そんなの。
「……確かに、注射が嫌いな人間は一定数存在する。中には注射針を見ただけで泣き叫んだり、暴れ狂ったりするような人も居る……そういう人に時間と人員を掛けず、安全に麻酔を投与できるというのは……まぁ役に立つか」
「そうッスよねー!」
とまあ、頭ごなしに否定するのも良くないので、とりあえずメリットだけは拾っておく。
さて、では核心に触れようか。
「そんでこれ、人体に対する副作用とかは無いんだろうな?」
「…………」
おいおい、黙るな黙るな。そんなの、副作用ありますって認めちゃってるようなもんだぞ。
「い、一応……安全ッスよ?」
「一応ってなんだ、一応って」
へったくそな口笛を吹きながら、二宮は思いっきり明後日の方向へ目を逸らした。
はい、えげつない副作用があるの確定です。ありがとうございました。
「ボツ」
「ちょっ! ちょっと待ってくださいッス、先輩!!」
縋り付くどさくさに紛れて胸を押し付けるな。興奮するだろうが。こちとら出かける前のキスで、まだムラムラが残ってるんだぞコノヤロウ。
「ち、治験は済ませてあるッス! アタシで!」
「……誰に作ってもらったんだ」
「一之瀬先輩ッス!」
あのヤロウ……僕以外への対応が神すぎるだろ。流石はウチのマスコットキャラクターだな。滅びよ。
「その結果、えっと……」
「なんだ」
「服薬したら、次の日の同じ時間まで起きないことが判明したッス!」
「…………」
なるほど。つまりこの経口麻酔薬を服薬したら、丸一日眠り続けるってことか。
「致命的じゃねぇか……」
「そ、そこはこれから改良していく予定ッス!」
本当か? なんか改良しても、副作用が追加されるだけで終わりのような気がするんだが。改良って言わなくないか、それは。
「あのなぁ──」
「後輩くーん! 助けてくれー!」
二宮に苦言を呈しようとしたところ、実験台の方から助けを求める声が聞こえてきた。今度はなにやらかしたんですかね、あの二人。
「……どうしたんですか、せんぱ──い?」
実験台の方へ振り向いた瞬間、目に入ってきたのは見慣れたまんまるの肌色。そして見慣れた桃色の突起が二つ。
端的に言うならば、先輩のKカップ爆乳が惜しげもなくドーンとさらけ出されていたのだ。もちろん、乳輪と乳首までバッチリと。
「な、なななな──!」
「服が溶けたんだ! 胸のとこだけ!」
おそらく薬品が掛かったのであろう胸元の布地だけが、綺麗サッパリ無くなっていた。そのせいで開放されたKカップ爆乳が、たぷんたぷんと柔らかそうに揺れている。
ああもう、なんだってもう。なぜこの先輩はこういういやらしいハプニングを起こすのか。興奮してしまうだろうが。
「あ、あわわわわわぁ!?」
「お、落ち着け二宮! とりあえず目を塞げ!」
「は、はいッス!!」
赤面しながら震える二宮に指示を出して目を塞がせたのだが……こいつ、指の隙間からガッツリ見てやがるな。このムッツリめ。
「一之瀬、とりあえずタオルを──って、一之瀬?」
「我が生涯に……一片の悔い無し……!」
「一之瀬ぇぇぇー!?」
実験台の横で、一之瀬は血の海に沈んでいた。自分が出した鼻血の海に。
ああもうコイツ、肝心なところで役に立たねぇ。
「普通にミスったなー、はっはっは!」
「はっはっは、じゃないんですよ!」
いつも見慣れた裸とはいえ、こんな公衆の面前で堂々とさらけ出されるのはマズすぎる。特に今は、二宮が見ている前だ。非常にマズい。
(襲うなよ……絶対に襲うなよ、僕)
極めて冷静に──僕が先輩を襲う前に──このハプニングを収拾させる必要がある。
それはつまり、先輩のおっぱいの誘惑に負けず、このピンチを乗り切る必要があるという訳で。
(それなんて無理ゲーですか?)
今でさえ、もう襲いそうになってるのに。神様はちょっと鬼畜が過ぎるんじゃないかな。
「とっ、とりあえずタオル取ってきます!」
「頼んだよー」
応急処置として、給湯室に置いてあるタオルでおっぱいを隠してしまおう。僕の服を貸すというのも考えたが、それだと絶対に胸の部分が張り裂けるので却下だ。
爆速で研究室を出て、爆速でタオルを手に先輩の所まで戻る。過去最高のタイムが出た気がするな。
「はやっ。後輩くん、頑張り過ぎじゃないかい?」
「はぁ、はぁ……そ、そりゃあ頑張るでしょう……」
なんたってここは大学だ。先輩のあられもない姿を、誰かに見られるわけにはいかない。先輩の裸は僕だけのものだ。
「と、とりあえず、タオルで前を隠してください……」
「ふむ。こうかい?」
先輩はタオルを胸の前に垂らし、おっぱいを隠す。しかし、明らかにサイズが足りていない。
乳首がまったく隠れていないし、なんなら谷間の一部しか隠せていない。もう全然ダメだ。一番大きいサイズのやつを持ってきたはずなんだがな。
「おやおやぁー?❤これじゃあ余計エッチになってしまったねぇー?❤」
「ぐっ……」
なんか先輩の顔がだんだん色っぽくなっていく。このままじゃマズい。先輩までスイッチが入ってしまったら、もう本格的に止められなくなる。
ああもう、体を左右に揺らすんじゃない。二つのおっぱいが柔らかそうにたぷんたぷん揺れて、思わず襲ってしまいそうになる。
「二宮、なにか上に羽織るもの──って」
「きゅううぅぅ……」
「あらら❤凛花ちゃんには刺激が強すぎたみたいだねぇ❤」
ああもう、どいつもこいつも気絶しおってからに! そんだけ先輩のおっぱいは凶器ってことかよ!
「後輩くん❤後輩くん❤」
「なんですか!?」
先輩の声に呼ばれて、振り向いたその瞬間。両手にむにゅんと柔らかな感触が広がった。
感触だけで即座に何が触れたか理解できる。いつも散々揉み尽くしている、先輩のおっぱいの感触だった。
「後輩くんがこうして両手で隠してくれれば、万事解決じゃないかな❤」
「ちょっ」
「ここには人の目は無いよ❤」
言われて気づく。
一之瀬も二宮も気絶してしまった今、この場には僕と先輩の二人だけ。
「せ、先輩……」
「ふふ❤大学でするのは初めてだけど、スリルがあって良いんじゃないかな❤」
そっと、先輩の手が僕の股間に触れる。
ああヤバい。先輩はヤる気だ。ヤる気マンマンだ。
(どうする、どうすればいい)
流石に研究室でセックスするわけにはいかないだろう。そんな所を誰かに見られたりしたら、先輩のイメージに傷がつく。
何かないか。この状況を打破する、画期的なアイディアは。
「あ」
あった。先輩のKカップ爆乳を隠す方法が、一つだけ。
「どうしたんだい、後輩くん❤」
「いや、こうして白衣を後ろ前逆に被せれば良いんじゃないかなーって」
「……ふぇ?」
先輩の着ていた白衣を脱がせ、前後ろ逆に着せる。それだけで淫らだった筈の空気はピタリと鎮まった。
やっぱり先輩のおっぱいが原因だったか。魔性の女だな先輩は。まったく。
「ふぅ……これで一件落着ですね」
「…………」
焦ったが、最終的には何とかなってよかった。研究室で本気セックスとかいう大惨事にもならないで済んだし、これが最良の選択だったことだろう。
それなのに、なんで先輩はプルプル震えてるんですかね。なんか黒いオーラも纏ってるし、怖いんですけど。
「…………」
「あ、あのー……先輩?」
「後輩くん」
「は、はい」
なんか、先輩に似合わない低い声が聞こえたぞ。誰の声かな。
「帰ったら、覚悟しておくんだね」
「あ、はい」
そんな先輩の言葉に、なんとなく逆襲の気配を感じたのは気のせいだろうか。