そんなこんなで、午後の講義の時間がやって来てしまった。
僕は不安げな表情を隠すこともなく、壇上の教授が話す内容を断片的にメモする。
「はぁ……」
講義が始まる前に一旦部屋まで戻って、新しい着替えと下着を持ってきたのだが、それでも先輩の機嫌は一向に良くならなかった。
膨れっ面のまま、そっぽを向いて会話すらしてくれない。意外と意地っ張りなのだ、先輩は。
「心配だ……」
よくわからない怒りに任せて実験を続ける先輩を放置して、こうして講義を受けていることに果てしない不安を覚える。
一応、一之瀬と二宮を叩き起こして先輩に付けさせたが、それが却って不安を増幅させている。
「……早く終わらないかな」
決して講義が退屈だとかそういう話ではなく、純粋に心配だからだ。
カリカリとペンをノートに走らせ、いつ使うかも分からないアナログな記録を残しながら、僕は何度目になるか分からないため息をついた。
⭐⭐⭐
「ふ、ふふふ……できた、できたぞ!」
「やりましたねー、せんぱーい」
「この短時間で……やっぱり天才なんッスねぇ」
一本の試験管を掲げ、ミントは渾身のドヤ顔を浮かべる。この短時間で感度3000倍薬を完成させたゆえの、実績にもとづいたドヤ顔であった。
周りに立つ一之瀬と二宮からも、パチパチとまばらな拍手が上がる。
「それで、これどう使うんスか?」
「決まっているだろう! 後輩くんに使うんだよ!」
「男の感度3000倍とか誰得なんスか?」
熱の籠もった目で復讐に燃えるミント。それを眺めながら、二宮は冷静なツッコミを披露していた。
ツッコミ役の北条が居ない今、一番の常識人は自分だと自負しているのだ。そして、その認識は概ね正しい。
「あたしにもー、後で分けてくださいー」
「いいとも! この薬は一滴でも垂らしたら、垂らした場所が感度3000倍になるという最高の薬だからね!」
「劇薬の間違いッスよね?」
先輩だったら、どこらへんが最高なのか小一時間問い詰めてるところだろうなぁ、なんて遠い目をする二宮なのであった。
「これで後輩くんのチンポをめちゃくちゃ敏感にして、たっぷりと搾り取ってやるのさ……クックック、愉しみだなぁ」
「うわー、北条くんご愁傷さまー」
「ち、チンポ……」
唐突に出てきたその生々しい単語に、二宮はゴクリと生唾を飲み込んだ。
感度3000倍、なんていうエロ漫画でしか使わないような薬を開発している時点でこうなることは半ば予想できていたが──それでもやはり、生で聞かされると如実に反応してしまう。変態の悲しきサガだった。
「凛花ちゃんも一緒にヤるかい?」
「ふぇっ!?」
そんな中、ミントから突然名指しされ、二宮はすっとんきょうな声を上げてしまった。
なぜ自分に話を振るのかと、二宮は驚愕の表情でミントを見る。
「な、ななな何言ってるんスか!?」
「なにって、ナニの話だが?」
そんな視線を受けた当人は、指で輪っかを作って、その中に人差し指を出し入れさせていた。非常に有名な、セックスを暗喩するジェスチャーだ。
「君もしたいんだろう? 後輩くんと──セ・ッ・ク・ス❤」
「んなっ……!!」
見透かされている。
二宮は背筋が冷える感覚と、お腹が熱くなる感覚を同時に味わっていた。
「キミがわたしの部屋に隠しカメラを仕掛けていたのは分かっているよ。そして、それをオカズにオナニーをしていたこともね」
「あっ、あああぁぁ……!」
背筋が冷える感覚が強くなる。確かに先輩にバレたら興奮するかもとは言ったが、こっちの先輩にバレても嬉しくない。ただ絶望感が積み上がるだけだ。
「えー、凛花ちゃんも隠しカメラ仕掛けてたんですかー? お揃いですねー、奇遇ですー」
「……へ?」
ここまで無言を貫いていた一之瀬が、ぴょこんと二宮の前に躍り出る。そのままスマホを操作し、画面がよく見えるような角度で二宮の眼前に突き出した。
「ほらほらー、これ見てくださいー」
『こ、こにょっ❤さっきまであれだけしてたのに、まだやる気なのかい❤底なしの性欲だなっ❤』
『先輩がエロすぎるのが悪いんです』
『責任転嫁するんじゃない❤このド変態めっ❤』
「あっ……あっ、あっ」
画面の中には、お風呂場で激しく交わるミントと北条の姿があった。
壁に手を付けて腰を突き出す体勢になったミントのトロトロおまんこに、思いっきり北条のデカチンポが突き刺さっている。今朝のお風呂場での一幕だ。
『あおおぉぉぉーーーっ!!!❤❤❤』
『犬の鳴き真似ですか?』
「わ、ぁ……! お、お風呂場でこんな……!」
「おやおやー? その様子を見るにー、お風呂場には仕掛けてないんだー? まだまだ甘いねー」
一之瀬のスマホから、獣のようなミントの喘ぎ声が聞こえてくる。お風呂場ということもあり、よく響くその声はとても卑猥に聞こえてしまう。
二宮は無意識に、自身の股間に手を当てていた。
『イキ死ねっ! このぷにロリマゾ爆乳オナホールが!!』
『ほぎょぉおぉぉぉーーーっ!?!?❤❤❤』
「あわわ、すっごい出てる……先輩すご……❤」
「狙い目は先輩の部屋とー、お風呂場、トイレ、リビングかなー。そこを抑えておけば大丈夫だと思うよー」
何が大丈夫なのかはさっぱり分からなかったが、二宮はその映像を見て、はしたなく股間を濡らしていた。
ダイレクトすぎる痴態に、二宮の女の部分が強く反応してしまう。
指でショーツの上から割れ目をなぞれば、くちゅりと淫らな水音がした。
「一之瀬くんは盗撮の常習犯でね。高校の頃から、よくわたしの着替えとかお風呂とかを盗撮していたんだ」
「えへへー、照れますー」
「……アタシが言うのも変だと思うッスが、照れる場面じゃないと思うッス……」
ミントと一之瀬から次々と飛び出す爆弾発言に、二宮はもうノックアウト寸前だ。控えめに言って、心臓が持ちそうにない。気を抜いたら気絶してしまいそうだ。
「おかげでカメラの気配には敏感になってしまってね。ゆえに、凛花ちゃんのカメラにも気づけたというわけさ」
「な、なるほど……」
なるほどじゃないが。
「盗撮した画像を加工してー、こんな卑猥な写真まで作っちゃいましたー♪」
「おお! 我が体ながら、これは実にエロいな! ぜひ後でオカズにしよう!」
「是非ー♪」
「…………」
目の前で繰り広げられる、性に奔放すぎる会話の嵐。みんな表面には出さないだけで、頭の中ではエロいこと考えたりしてるんだなぁ、と一つ勉強になった二宮なのであった。
「それで、どうするのかな凛花ちゃん」
「はひっ!?」
ずいっと距離を詰めてきたミントに、下から顔を覗き込まれる。キラキラと光る碧色の瞳に、二宮の困惑した顔がくっきりと映し出されていた。
「セックスするのか、しないのか。決断しておくれ」
「…………」
「あたしもー、せんぱいとラブラブチュッチュしたいですー❤」
「うん。後で相手してあげるから待っててね、陽毬ちゃん」
指先が震える。口の中が渇く。
いきなり降って湧いた空前のチャンスに、二宮は言いようのない興奮と恐怖を感じていた。
「…………」
無理だと思っていた。
だって先輩には、もう相応しい相手が居たから。金髪碧眼のぷにロリ爆乳オナホールという、自分がどう頑張っても勝てないような最高のお相手がいたから。
「え、えっと……」
だから、半ば諦めていた。イチャイチャも、ラブラブも、セックスも。
全部諦めて、先輩の隣で一人の後輩として笑っていられれば、それでいいと思っていた。
「よろしく……お願いします……❤」
だけど、その関係を少しでも前に進められるなら。
「にひっ❤いいとも❤」
この小さくて大きな先輩の思惑に、乗ってみるのも悪くない──そう思った。