いや、ちょっとだけあるか……ホントにちょっとだけ。
で、まぁ……妊娠させるつもりでしこたまセックスしても、やっぱり妊娠しなかった訳で。
「はぁ」
何かの呪いなのか、これは。不妊の呪いでもかかってるのか。そうとしか考えられないんだが。
「次はどのアトラクションに乗ろうか!」
こっちの気も知らないで、先輩は嬉しそうに手を引いて遊園地内を歩いていく。
個人的な意見として、そろそろ休憩したいのが本音だ。
「……先輩、ちょっと喉が渇いたので、カフェに寄っても良いですか」
「ん、あぁいいとも!」
流石にこのコンディションのまま次のアトラクションに行くのは自殺行為ということで、少しだけカフェで休むことにした。
ここのカフェは、カフェというより売店に近い形式らしい。カウンターで飲み物や食べ物を受け取り、それを持って直接席に向かう。
「コーラを一つ」
「りんごジュース一つ!」
売店のお姉さんに注文をして、少し待つ。数秒後、あっという間にコーラとりんごジュースが手渡された。
「ありがとうございます」
「ありがとうね!」
素早く無駄のない対応に、流石はプロだと感嘆させられる──っていうか、先輩はここでもりんごジュースなんだな。
子供っぽいというか、ブレないというか、なんというか。まぁ、そういうところが可愛いんだが。
「ごくごく……ぷはぁっ! 美味しいねぇ後輩くん!」
「それは良かったです」
「いつも飲んでる精液とは喉越しが段違いだ!」
「そういうこと言わないでもらえます?」
あっという間にコップ内の中身をすべて飲み干し、ご満悦な笑顔を浮かべる先輩。
可愛すぎるだろ……天使か、天使なのかオイ。発言は全然天使じゃないけど。
「じー」
そんで今度は僕が飲んでるコーラに狙いを定めてきてるんだが。
先輩、炭酸苦手でしょうが。
「……飲みます? 飲みかけですけど」
「わ〜い! 飲む飲む〜!」
くっそ可愛い。
なんだこの生き物は。女神か?
「んっぐ、んっぐ……ぷはぁ〜!」
「満足しました?」
「もちろん! まんぞくまんぞ──げっぷ」
あ、ゲップした。
そんな姿も可愛いな、先輩。
「し、失礼。淑女として、はしたない姿を見せてしまった」
「何を今さら。ベッドの上では毎回、潰れたカエルみたいに無様な姿を晒してるでしょう」
「それとコレとは話が別なのだよ!」
そういうものだろうか。僕にとっては、どっちも可愛い先輩に変わりないのだが。
「さてと……休憩しましたし、そろそろ行きますか」
「あっ、待ってくれ後輩くん」
立ち上がろうとしたら、先輩から待ったが掛かる。何で引き止めるのかと疑問に思って先輩の方を見ると、なんとそこには。
「にひっ❤」
衣服をズラして、乳首をチラ見せしてくる先輩の姿があった。
「なっ……!」
一瞬、思考がピンク色に染まる。
しかし、すぐさま切り替えて、周囲に人の目が無いかを確認した。
「何してんですか先輩っ……!」
「おっぱいチャレンジというやつさ❤こういうの好きだろう?❤」
「大好きですけど!」
慌てて先輩の衣服を元に戻し、再び周囲を確認する。幸いなことに、ちょうど誰も見ていなかったようだ。
今日の先輩のコーディネートは、白のタートルネックに青色のカーディガン。下は同じく青色のタイトスカートとなっている。
(タートルネックなのに、なんで胸辺りに留めボタンが付いてるのかと思ったら……そういう事だったのか)
この先輩、内緒で衣服を改造したな、まったくもう。
いつもは面倒くさがりなのに、エロの事になったら急に積極的になりやがって。無駄にセンス良いのが腹立つな、コノヤロウ。
「おや、お気に召さなかったかな❤」
「はぁ……いや、先輩の乳首は大好きですけど、それとこれとは話が別っていうか」
単純な情欲よりも『先輩の身体は僕のものだ、決して誰にも渡さない』みたいな、燃えるような独占欲のほうが強くなっちゃうんだよな。
まぁ、万が一先輩が他の男に寝取られるようなことがあっても、速攻で寝取り返してやるけど。誰が相手だろうと、必ず。
「とにかく、こういうハレンチな事は禁止です。今日は純粋に楽しみましょう」
「え〜」
「え〜、じゃありません」
まったく、この色ボケ先輩は。こっちがどれだけ襲いたい衝動を我慢してるのか、知らないのか。
今だって勃起を抑えるので必死なんだぞ。
「エッチな事なんてしなくたって、僕は先輩と普通にデートできるだけで楽しいですよ」
「後輩くん……!」
先輩の手をとって、席を立つ。
さぁ、次はどのアトラクションに行こうか。
◆◇◆◇
「うーわ、あの二人めっちゃイイふいんきッスよ」
「『ふいんき』じゃなくて雰囲気ですよ〜」
「うぅ……北条くん楽しそうですぅ……」
「イイ感じに心の距離、縮まってるわね」
楽しそうに遊園地を巡る二人を、コソコソと物陰から監視する人影があった。
二宮凛花、一之瀬陽毬、九条アリス、名取京香の研究室メンバー達である。
全員サングラスに帽子という、ドラマでしか見たことのないような、コテコテの変装を披露している。
「いやー、しかし今回の作戦は大成功ッスね」
「ミント先輩、あの日から目に見えて元気なかったですからね〜」
共にあの日を経験した二人は、愛おしそうにお腹を撫でつつ、深く頷く。
見た目はあまり変わっていないが、ほんの少しだけお腹が膨らんでいるのが見て取れた。
「うぅ……人が多い……帰りたい……」
「もう少しだけ辛抱してくださいッス。というか、付いてきたいって言ったのは先生ッスよ?」
「そ、そうですけどぉ……」
「観念してください、アリス先生〜」
「陽毬ちゃん、あなたの本当の姿はみんな知ってるから、無理して演技しなくても良いのよ?」
「えっ」
ワイワイ、ガヤガヤ。
周囲の喧騒に紛れているが──否、あえて周囲と同じように振る舞っているのだろう。ラブラブな二人に尾行を気取られないために。
「い、いつ知ったの?」
「ミントが隠し撮りしてた動画で❤」
「ち、ちなみに、いつの映像?」
「ラブホで初めて、北条くんに抱き潰された時のやつよ❤」
「忘れてくれない?」
「無理ね❤あの時の陽毬ちゃん、可愛かったわ〜❤」
「うげぇ……よりによって、一番知られたくない奴に知られちゃった……」
辟易するように頬杖をつく陽毬に対し、いつの間にか背後に回って抱きしめている京香。
彼氏のふたなり化以降、黒髪で小さい女の子を見ると、ついついイジメてしまうようになった京香なのであった。
「うぅ……なんでみんな、こんなに元気なんですか……溶けるぅ……」
「いつにも増してグロッキーッスね〜」
「水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ネオン──」
「あ、耐えきれなくて現実逃避モードになったッス」
目の前に広がる陽のオーラに耐えきれなくなったのか、アリスはブツブツと元素名を呟くだけの存在になってしまった。
濃い陰のオーラが、アリスの周囲を漂っている。
「それにしても、今さら遊園地デートなんてする必要あるんスか? 先輩たち、傍から見ても相当ラブラブだと思うんスけど」
「それは確かに」
凛花の疑問に、陽毬が肯定を返す。
確かに、これ以上ラブラブ度は上がらなそうなのに、なぜ今さら普通の恋人みたいなデートをするのか。
その疑問には、昔から二人をよく知る京香が答えてくれた。
「それは簡単よ。あの二人、付き合ってから一回もデートしたこと無いんだもの」
「へ?」
「は?」
京香の言葉を聞いて、凛花と陽毬が顔をしかめる。
そんなカップルが居るのか、と。
「つまり今回が初デートってわけね」
「は〜……前から常識外れだとは思ってたッスけど、まさかそこまでとは……」
「色ボケ北条が甲斐性無しなのがダメなのよ。後でシメましょう」
「いいッスね、お供するッス」
ノリノリで指を鳴らす、凛花と陽毬。本人の知らないところで運命が決まってしまった、哀れな北条なのであった。
「まぁとにかく、今は二人の行く末を観察しましょ。きっと面白いわよ」
「トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム──」
「一人だけまったく面白くなさそうにしてるんスけど、大丈夫ッスか?」
「あ、移動するみたいね。私たちも行きましょう」
「話聞けッス」
二人が移動したのを見届け、四人はこっそりと後をつける。
まだまだ、淫乱カップルの初デートは始まったばかりだ。