あと、チラッと新キャラが出ます。
あの後、ゴムボートで水に着水する派手な絶叫系に乗った。
結果、先輩はさらに上機嫌になった。今日は機嫌が青天井だな、この人。
「楽しかったね、後輩くん!」
「そ、そうですね……めっちゃ冷てぇ……」
前の席に座ったせいで、水をモロに被ってしまってヤバい。めっちゃ冷たい。
しかし不幸中の幸いというべきか、今日は日差しも強めで暖かい日だ。風邪は引かなくて済みそうでよかった。
「先輩、次の行き先は僕が決めていいですか?」
「もちろん良いとも! いっぱい刺激的な体験ができて、非常に満足したからね!」
それはよかった。絶叫系は苦手だったけど、付き合った甲斐があったな。
「それで、後輩くんはどこをご所望だい? メリーゴーランドでも、ティーカップでも、何でも付き合うよ!」
「ありがとうございます、じゃあ──」
入口で受け取ったパンフレットを開き、次に乗るアトラクションを二人で決める。
こういう何気ない時間も、先輩と一緒だと凄く楽しく感じてしまうな。
(……尾行されてなければ、もっと楽しいんだろうけどな)
バレないように、顔は向けずに目線だけで尾行者の姿を確認する。
すると近くのカフェのテーブルに、お粗末な変装をした四人が座っているのが見えた。
結構前から気づいてたが、何してるんだろうな、あの四人は。
「先輩は気づいてなさそうだけど……」
「んぉ? 何か言ったかい、後輩くん?」
「いえ、何も」
とりあえず放置しておくか。今のところ実害は無さそうだし、関わると逆に面倒なことになりそうだ。
それよりも、次のアトラクションを早く決めなければ。先輩が退屈してしまう。
「ここ、行ってみたいです」
「ホラー系か! いいね!」
地図で指さしたのは、専用の乗り物に乗って幽霊の出るホラースポットを進んでいくアトラクションだ。
説明文を見る限り、ゆっくり進んでいくタイプらしいので、丁度いいだろう。
「じゃあ行こうか、後輩くん!」
花が咲いたような笑顔のまま、右手を差し出す先輩。
僕は、その手を掴んで。
「はい!」
自分でも、らしくないような──無邪気な笑みを浮かべた。
◆◇◆◇
「ひゃわ〜! なにココ、人がいっぱいだ〜!」
ジェットコースターの支柱に飛び乗り、遊園地を一望する存在がいた。
黄色い外套を身に纏う、小さな人影。しかし肝心の黄色い外套はボロボロに古びており、その端からは柔らかそうな太ももが覗いていた。
男が見れば一目で欲情間違いなしの、エッチすぎる太ももだった。
「う~ん、ボクがちょっと目を離した隙に、こんなに繁殖してるだなんて……人間ってエッチだなぁ」
フードによって目元は見えない。しかし、その艷やかな唇から紡がれるソプラノボイスは、聴く者すべてを虜にする。
危険な魅力、とでも言うべきだろうか。関わったら破滅が確定するような、そんな予感を全身から放っていた。
「見つけたよ、ニャル」
ピンク色の瞳が、キラリと輝く。獲物を見つけた狩人のように、ゆっくり口角が上がっていった。
「お楽しみ中みたいだし、ちょ〜っとイタズラしちゃおっかなぁ?」
建物内のアトラクションに入っていく、一組の男女。その姿を見つけ、黄衣の女王は建物を指差す。
それと同時に、おぞましい気配が建物内を包んだ。今の一瞬だけで、彼女がアトラクションに何かを仕掛けたのは明白であった。
「名付けて、綱渡りドキドキ☆急接近大作戦〜!」
どうやら、ネーミングセンスは皆無らしい。
◆◇◆◇
「……チッ、あの黄色……」
「どうしました、先輩?」
「あぁいや、何でもないよ」
アトラクションの世界観説明も終わり、専用の乗り物に乗って出発した直後。先輩がイラついたように、何かを呟いた。黄色って何のことだろう。
「結構雰囲気ありますね」
「あぁ、そうだね……」
真っ暗な建物の奥の方から、ひんやりとした空気が流れてくる。
まるで、今にも本物のお化けが飛び出してきそうな雰囲気だ。
「……シャン、聞こえる? 狩人も──そう。そっちはお願いね」
「先輩?」
「なんだい、後輩くん?」
なんか真剣な顔しながらブツブツ言っていたから、気になって声を掛けたのだが。
なのに声をかけた瞬間、いつもの先輩に戻ってしまった。どうしたんだろうか。
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「なに身構えてるんですか、先輩。もしかしてホラー系は苦手でした?」
「別にそういう訳じゃないが……むしろ、わたしは本来脅かす側というか、なんというか……」
歯切れの悪い返事だ。いつもの先輩らしくないな。
「先輩」
「わひゃっ!?」
隣に座る先輩の手を、両手で優しく握りしめる。
すべすべで、柔らかくて、小さくて──なんというか、ずっと握っていたい感触をしていた。
「こっ、後輩くん!?」
「大丈夫ですよ、先輩」
先輩の体温が、先輩の鼓動が、握っている手を通して伝わってくる。
「先輩のことは、僕が絶対に守りますから」
「……っ!」
向き合いながら、先輩に自分の思いを告げる。ちょっとクサいかもだけど、たまにはこういうのも良いだろう。紛れもない、本心からの言葉だ。
「まったく、後輩くんは……そんなこと言われたら、ますます好きになっちゃうだろう」
「ダメなんですか?」
「ダメじゃないが……あぁくそっ、心が繋がる感覚とはコレの事か……!」
真っ赤になった顔を逸らしながら、またしてもブツブツと呟く先輩。
やっぱり、このアトラクションに乗ってから、なんか様子がおかしいぞ。
「先輩、どこか具合悪いんで──」
と、口を開いたその瞬間──乗り物が暗闇を抜けて、最初のホラーゾーンに突入した。
「|3ρ!?}‘··||¡©©®⁈‼§£」
「∋>∃$ゝ℃;ςΖΘ仝_>!?」
「Γ(©’<]\ー47!|々Γ〜」
そこは、外国の墓場だった。
映画で見るような、平たい墓石が建てられた、中世の墓場。
そこで異形の存在──ゾンビやグール──たちが、楽しそうにダンスを踊っている。
「……アイツ、マジ……ホントマジ……」
「先輩?」
なんか俯いてプルプル震えてる。
本格的に心配になってきたんだが。
「げっほげっほ……うわぁ、最近のアトラクションって臭いまで再現してるんですね」
「……認識阻害かけといて良かったよ……」
肉が腐ったような臭いと、魚が腐ったような臭いが合わさって、なんとも言えない『吐き気を催す臭い』を醸し出している。
これは日本に住んでたら中々嗅げない臭いだぞ。最近の遊園地って凄いなぁ。
「……まぁ、後輩くんの身に直接的な危害が及ばなければ、別にいいか……」
そうして、乗り物は次のエリアに進んでいく。
「£∋仝$}0*^Ζ⁈£!?」
「®8>ρ4ς6∋(%!」
「!;®℃]?ゝゝヽ|¡〜」
そこは、黄金の蜂蜜が壁を覆っている空間だった。黒い蜂のような生き物が飛び回り、せっせと蜂蜜を集めては、透明な瓶の中に詰めていく。
ホラーと言うより、どっちかと言えば、おとぎ話に近い光景だった。
「……自分の眷属まで駆り出すのか……」
今度の先輩は、なんか白目を剥いて呆れていた。
そして今回はさっきと違い、本物の蜂蜜みたいな香りが漂ってきている。
甘い匂いが、昔食べたハニートーストを思い出させてくれた。
「なんか、お腹空いてきましたね」
「そうだね……ここを出たらお昼にしようか」
そうして、乗り物は次のエリアに進んでいく。
「〜’∋〜’8ρ·§々仝ο>!」
「⁈∃£#06!ー@Θ!!」
最後のエリアは海のど真ん中。
タコを擬人化したような巨大生物と、黄色い外套を纏った巨大な人影が、取っ組み合いながら戦っている場面だった。
顔にかかる水しぶきがすごい。これが最新鋭のアトラクションってやつなのか。
「なんか、怪獣映画みたいですね!」
「……ソウダネ……」
何故か、先輩はまた白目を剥いていた。
あ、黄色い外套の人影がタコの巨人を蹴り飛ばした。
「よし行け! 避けて、そこで右ストレート!」
「…………」
「はっ、すみません先輩!」
ガラにもなく、巨大生物同士の対決に興奮してしまった。
昔はよく見てたなぁ、こういう特撮映画。
「……アイツ、今度会ったら絶対にシメる」
そうして、乗り物はゴールへ辿り着いた。
ホラー系って言ってたけど、言うほどホラーじゃなかったな。
でも結構楽しかったし、満足できるクオリティをしていた。
「楽しかったですね、先輩!」
「あぁ……もう二度と乗りたく無いけどね」
「何でですか!?」
足早に建物の出口へ向かいつつ、先輩はため息をつく。このアトラクション、どうやら先輩は気に入らなかったようだ。
個人的には、すごく面白かったと思うんだけど。
その後。
先輩はヤケ食いと称して、売店のハニーポップコーンを五袋ほど食べ尽くしたのだった。
いや食べ過ぎだろ。