「あげるわけ無いだろ、ハスター」
「え〜? それ、キミの許可が必要な事象なのかなぁ、ニャル」
お風呂場にて睨み合う二人の間に、ピリついた空気が流れ始める。
いや、どうしてこうなった。
「ちょっ、あの──」
「後輩くんは黙っててくれ」
「人間チャンは大人しくしててね〜」
初手から発言を封じられてしまった。マジでどうしよう、この状況。
「そもそも、過去の記憶を改竄して自分に懐くようにコントロールしてたんでしょ? だったら、そんなの正妻とか言わなくない? むしろ悪女ムーブじゃん」
全く理解も納得も出来ていないが、どうやら過去の記憶が先輩の手で改竄されてたらしい。
だとしたら、あのとき二宮が『幼い頃に結婚の約束をしていた』と言ったのは、真実だった可能性がある。
「ハッ、分かってないねぇ。あの頃の後輩くんの惨状を見ていないからそんな事を言えるんだよ」
今、惨状って言ったか? そんなにひどい過去なのか、僕の過去は。
というか、先輩って何者なんだ? 上位存在か何かか?
「親の意向で朝から晩まで勉強、および習い事の毎日。果てには、親の意に沿わなければ教育と言う名の体罰。友達一人も作れないあんな閉鎖的な環境で、幼い子供が心を保つのは不可能というものだよ」
え、なにそれ知らない。そんな家庭だったっけ、僕の家。
あ、いやでも──少しだけ、思い出してきたかも。
「それでも人生を弄んだのには変わりないじゃん。それに、友達は居なくても許嫁は居たんでしょ?」
「……まぁ、ね」
ハスター、と呼ばれた女の子の言葉に対し、先輩が少しだけ口ごもる。
許嫁とか居たのか、知らなかった。
「後輩くんの許嫁は、凛花ちゃんだよ」
「えっ?」
「だから本来、後輩くんの隣に居るべきなのは──凛花ちゃんだったのさ」
「…………」
あぁ、なるほど。それで合点がいった。
許嫁だったら、幼い頃に結婚の約束もするか。
「ほ~ら、やっぱり人間チャンの人生弄んでるじゃ〜ん」
「まぁ、否定はできないかな」
「人間チャン、ボクと一緒に行こう? こんなのに縋ってても良いこと無いよ?」
「同類のくせに、何言ってるんだか」
いや、口論しながらおっぱいを押し付けないでくれ。左腕と脇腹が幸せになっちゃうだろ。
しかもこの感触──外套の前部分を開けて、生乳を押し付けてきてるな。かなりシリアスな雰囲気なのに、構わずチンポが勃起しそうになるんだが。
「ん、コレなに? あ❤もしかして❤」
「……後輩くん?」
そんな目で見ないでください。
だって、しょうがないだろ。男はおっぱいを押し付けられたら、無条件に興奮する悲しい生き物なんだよ。
だから、美少女二人の前でチンポがビキビキに勃起するのも、ただの生理現象なんだ。不可抗力なんだ。
「アハッ❤ボクのおっぱいで気持ちよくなるなら、もうニャルはいらないね~❤さぁ人間チャン❤家に帰って、ボクと一緒に気持ちいいことしようね〜❤」
「むぅ〜……!」
ちょっ、だからそんな押し付けないで。興奮しちゃうから。
先輩もほっぺた膨らませてないで、早く助けて。
「か、勘違いするなよハスター。後輩くんは、わたしの裸を見ているから興奮してるのさ」
なんか得意げな顔しながら、今度は全裸の先輩が右腕に絡みついてきた。おっぱいで右腕を挟み込み、脇腹にまで押し当ててくる。
「ね、ねぇ❤そうだろう、後輩くん❤」
K・A・W・A・I・I。
「わっ❤さっきより大きくなった……❤」
「ふ、ふふん❤これでどっちに興奮しているのか証明されたね❤」
目を潤ませて、上目遣いで見つめてくるの、めちゃくちゃ可愛いな。可愛すぎる。
「そんな小手先のテクニックで、いい気にならないでよねっ!」
「んむっ!?」
おっぱいに包まれた左手が引っ張られ、唐突に唇を奪われる。
甘くて、柔らかくて、いい匂いがした。
「ぷはっ❤へっへ〜ん❤キスも〜らいっ❤」
「あーっ!」
一方的に唾液を注ぎ込まれ、口を離される。
なんか、めちゃくちゃ甘かったな。蜂蜜みたいな味がしたような。
「後輩くん、すぐに吐き出したまえ!」
「いや、もう飲んじゃいましたよ」
「む~っ!」
無茶言わないでほしい。
「なら、上書きするまでだよっ──はむっ❤」
「んむっ」
今度はおっぱいに包まれた右腕が引っ張られ、再び唇を奪われる。
甘くて、柔らかくて、いい匂いがした。
「無駄だよ、ニャル。こういう事はボクの方が上手なんだから」
「んじゅるるるっ❤❤ぶじゅる❤じゅぼぼぼぼっ❤❤❤べろべろぉっ❤れろぉぉおおぉっ❤❤❤」
「あの、話聞いてる?」
さっきとは対象的に、口の中の唾液をすべて持ってかれる。
かなりの美少女である先輩が、ブッサイクな顔でディープキスをしている。中々にチンポにクる光景だった。
「ごっきゅ❤ごっきゅ❤ぷっはぁ❤❤❤ごちそうさま、後輩くん❤❤」
「ぷはっ……お粗末さまでした」
スケベすぎだろ、なんだそのトロ顔は。
襲うぞ、今すぐに。
「見せつけてくれるね、ニャル」
内に秘める情欲のままに、先輩に手を伸ばそうとして──
「でも、やっぱりボクの方が一枚上手だ」
その手が、力なく垂れ下がった。
「後輩くん?」
全身から力が抜けていく。
意識が黒く塗りつぶされていく。
「キミの伴侶、ちょっと借りるね❤」
「なっ!」
左腕を引っ張られる。
力の入らない身体では抵抗することもできずに、底の見えない闇の中へ落ちていった。
「後輩くん!」
先輩の声が聴こえる。
残った意志の力を振り絞って、手を伸ばそうとした。
「ご機嫌よう、千の顔を持つ無貌の邪神──ニャルラトホテプ」
しかし、伸ばした手は届かず──僕はハスターちゃんと共に、闇の底へと落ちていくのだった。
◆◇◆◇
思い出した。
僕の実家は日本どころか、世界でも有数の巨大な製薬会社だった。
『やめて』
僕はその家の長男として産まれた。
『思い出さないで』
家を継ぐという使命を背負った僕に、両親は惜しみない投資を繰り返していた。
曰く、人の上に立つ者はそれ相応の責任と覚悟が必要なのだと。
『辛いことばっかりだよ』
立派な大人だったと思う。それこそ、人の上に立てる見本のような、清廉潔白な大人だったと思う。
でも、親としては失格も良いところだった。
『ねぇ、お願い』
そりゃあ人間、欠点の一つや二つあって然るべきだろう。何の欠点も持たない人間が居たら、その人こそ神様と呼ぶべきだ。
『後輩くん』
まぁ要するに。
僕の両親は、神様では無かったというだけの話だ。
◆◇◆◇
「やられた……まったく、あのお転婆め」
ラブホテルのお風呂場にて、ミントは鮮やかな金髪を掻いて顔をしかめる。
同僚の邪神に、見事にしてやられた。有り体に事実を述べるのならば、北条が連れ去られたのだ。
「ふふ……」
先日の、アリスに一日レンタルされた時とはワケが違う。
邪神に気に入られ、連れ去られるということの意味を、他ならぬミントはよく知っていた。
「ふふふ……くっくっく……なぁ〜んてね❤」
パクリ、とミントの背中が裂ける。
「ハスターのやつ、まんまと出し抜いたつもりだろうけど──わたしがそんな初歩的なミス、するわけ無いんだよねぇ❤」
綺麗な碧色の瞳から、光が失われていく。
「ふふ❤まぁ後輩くんの中に眠る力──『色欲』の力があれば、とりあえず精神は大丈夫だろう❤発狂もしない筈だ❤」
その裂け目から、数本の黒い触手が飛び出してくる。
『あぁ、待っててくれたまえ、後輩くん❤』
飛び出た触手が、ミントの身体を押さえつける。次いで顔だけが綺麗に抜け落ちている、異形のヒトガタが這い出してきた。
敵に囚われた愛する人を、自らの手で助けに行く。そんな心躍るシチュエーションを前に、無貌のヒトガタは思わず身を震わせる。
『すぐに、助け出してあげるからね❤』
ここに、無貌の外なる神──ニャルラトホテプが完全顕現を果たしたのだった。
なんと、10月30日をもって『とても都合のいいオナホ先輩』は一周年を迎えました。
こんな頭悪いピンク色だらけの小説が一周年とか真実か……?幻覚見せられてんじゃないか……?とか思いましたが、ビックリすることに真実です。
しかも書籍化までして、マジで幻覚見せられてんじゃないか……?って思いましたが、ビックリすることにマジで真実です。
それもこれも、いつも読んでくださっている読者さま・感想をくれる読者さまのお陰です。
本当にありがとうございます&これからもよろしくお願い致します。