一方その頃。
「うぇへへぇ……❤しぇんぱぁい……❤」
「みんとせんぱ〜い❤ちゅっちゅ〜❤」
「アキラくぅん……❤」
「すぴー……くかー……」
ストーカー四人衆は、全員揃って仲良くラブホのベッドで居眠りをかましていた。
『ふふ❤』
しかし実のところ、この眠りが、かの無貌の神──ニャルラトホテプによってもたらされたということは、本人以外に知る由もない事実なのであった。
◆◇◆◇
濃いような、いつも通りなような──そんな特に変化のないピンク色の毎日を送っていたら、いつの間にか四月になっていた。
時が過ぎるのは早いものだ。
「ふぁ〜……眠いねぇ」
「しっかりしてください、先輩」
春、それは出会いと進級の季節。
他の大学生たちの例に漏れず、僕たちも無事に進級を果たしていた。
と言っても、特に変わったことは無い。研究室に集まり、いつものメンバーで会話に花を咲かせている。
「そんなこと言ったって、しょうがないだろう。実験が大詰めだったんだ……ふぁ」
先輩は四年に。
「本当ッスか〜? 先輩と朝までしっぽりヤッてたんじゃないんスか〜?」
二宮は二年に。
「あぁ、あくびをする仕草でさえ美しいです、ミント先輩……!」
一之瀬と僕は三年に。
「相変わらずミント狂いね、一之瀬ちゃん」
名取先輩も四年に。
「今日はこれから顔合わせなんですから、もう少しシャキッとしてください」
「あぁ……確かゼミに新しく新入生の子が入るんだっけ?」
「珍しいッスよね〜。一年から、しかも入学して早々ゼミに入るなんて」
二宮の言葉は尤もだ。
普通、ゼミに入るのはニ年以降から。入学してすぐゼミに入る子は中々居ない。単純に講義を優先する子が多いからだ。
「どんな子なの?」
「んふふ、いい子よ」
一之瀬の問いに、名取先輩は笑って答える。そりゃまぁ、名取先輩が面接したんだから知ってるだろうけど。
補足しておくが、ウチのゼミの面接官は名取先輩だ。その理由は……まぁ察してほしい。
先生があんなだから、お鉢が生徒に回ってきたというだけの話だ。ホントはダメなんだけど。
「具体的には?」
「そうねぇ……人好きのする性格で」
ふむふむ。
「一人称がボクで」
ん?
「珍しいピンク色の髪と目をしてたのよ」
おいおい。
「……先輩」
「……ああ。猛烈に嫌な予感がするね」
明るい性格で、一人称がボクで、ピンク色の髪と瞳。そんな人物と、つい最近どこかで会ったような気がする。
具体的には、セックスまでして妊娠させたような気がする。
「ピンク髪って……染めてるんスか?」
「いや、地毛って言ってたね。色素異常だって言ってた」
「色素異常……ね」
髪がピンクになる色素異常なんて存在するはず無いだろ、いい加減にしろ。
「これ、確定ですよね」
「ああ、間違いなくクロだね」
どうやったのかは知らないが、確実にあの子が入学してきている。
しかも、九条研にまで来るだなんて。
「お、お待たせしました……」
ガラリ、と研究室の引き戸が引かれ、アリス先生が入ってくる。
その後ろには、いつか見たピンクの髪。
「こちら、今日からゼミに入る一年の……」
「先輩のみなさ~ん! こ〜んに〜ちわ〜! 新入生のハス──じゃなかった、
ピンク色の髪に、アクセントの黄色いリボン。俗に言う童貞を殺す服──胸元が派手に空いたセーターに白衣という、なんとも破壊力の高いコーディネート。
それらを視界に収めることで、嫌な予感は確信に変わった。
「はぁ……」
「はぁ〜……」
僕と先輩はため息をつき。
「ホントに髪ピンク色なんスね! かわいいッス!」
「ミント先輩に似た顔つきしてるわね……親戚かしら」
「ね、元気ないい子でしょ?」
二宮と一之瀬と名取先輩は呑気な感想を抱き。
「あわ、あわわわわ……!」
アリス先生はひたすら狼狽えている。
「アハッ❤」
そんなカオスな空間の中で、ハスターちゃん──もとい八尋ちゃんは、渾身のメスガキ顔を浮かべてみせた。
「これからよろしくお願いしますね❤せ〜んぱいっ❤❤」
僕と先輩を、しっかりと真正面から見つめながら。