時間は戻り、北条たちが沖縄に着いた頃。
「むむ」
人間に擬態した邪神・ハスターこと八尋寧々は、眉を寄せながら沖縄空港に降り立った。
歩いただけで、だぷん❤とOカップ爆乳が揺れ、周囲の視線が釘付けになる。
「どうかしたのかい?」
そんな意図せず発生したドスケベ空間に、もう一つの超巨大おっぱいが現れた。
赤いアロハシャツに包まれたNカップ爆乳が、どぷん❤と揺れ、周囲の視線を奪い去る。
「ずいぶんと険しい顔をしているようだけど。美人が台無しだよ?」
人間に擬態した邪神・ニャルラトホテプこと三峰ミントは、首を傾げながら寧々の方を見つめた。
寧々の肉体がミントの肉体を雛形としている事もあって、二人の見た目はよく似ている。知らない人間が見たら、姉妹かと勘違いするレベルだ。
「別に……って言いたいけど、ちょっと無視できない殺気を感じちゃってさ」
「あぁ、ここは海に囲まれた離島だからねぇ。当然といえば当然かな」
納得したように、ミントは頷く。その様子を見て、寧々は更に顔をしかめた。
「無視していい……?」
「あまりオススメはしないかな。アイツ『来ないならこっちから行くぞ』ってタイプだしね」
「封印されてるくせに……」
「アトラの蜘蛛が、依り代を用意したみたいだからね。ほら、これログ」
トン、と軽く頭を小突かれると、邪神たちによる冒涜的な会話が頭に流れ込んでくる。
普通の人間が見たら発狂必死なその情報を、寧々は呆れた顔で読み流していった。
「マジじゃん、あのワーカーホリックめ……っていうか、コレ見る限りアンタのせいでもあるっぽいんだけど!?」
「ははは、そんな訳ないだろう。よしんばわたしの所為だったとしても、それは後輩くんを拐ったキミが元凶でもある。つまり、自業自得という奴さ」
「むぐぅ……!」
無駄に回る弁舌で、寧々を説き伏せる事に成功したミント。ぐうの音も出ないとはこの事か。
ひとしきり唸って頭を抱えた寧々は、観念したように顔を上げた。
「あーもう分かったよ! ボク直々に行けばいいんでしょ! 行けば!」
「ふふ。面白い土産話、期待しているよ」
「死ね!」
シンプルかつこの上ない罵声を飛ばしながら、寧々はくるりと踵を返した。
そうしてそのまま、研究室のメンバーが出ていった出口とは別の出口から外に出る。
「あっつ……」
扉を開けた瞬間に感じる、圧倒的な夏の空気。寧々の憂鬱を加速させるには、これ以上ない気候であった。
「はぁ……さっさと済ませよ」
空港を出て、徒歩五分。
沖縄の海が一望できる展望台に着いた寧々は、おもむろに着ていた服を脱ぎ捨てた。黄色いワンピースが空に舞い、そして虚空へ消えていく。
邪神ともなれば、衣服の収納など自由自在なのだ。
「はぁ〜……この身体でアイツに会いたくねぇ〜……」
ボテッ❤と膨らんだ自身のお腹を触りながら、寧々はため息をこぼす。
お腹に宿っているのは、七つ子の赤ちゃんだ。数が数な上に人間の赤ちゃんではないので、妊娠初期なのに臨月かと疑う程に腹が膨れている。
「重いし、動きづらいし、殺し合いになったら勝てる気がしないんだけど」
愚痴をこぼしつつも、お腹を撫でる寧々の顔は穏やかで幸せに満ちている。それは普段のメスガキ顔とは似ても似つかない、母の顔だった。
「しゃ〜ない、覚悟決めますか〜……お?」
そう呟いた直後、海面から異形の姿が顔を出す。人間と魚を掛け合せたような、人間が魚に変貌したような、冒涜的な姿。
先程の慈愛に満ちた笑顔から一転、寧々は表情を険しくする。身重とはいえ、深きものどもに遅れを取る程なまってない。
「さっそく刺客〜? やることが陰湿というか、なんというか……やるなら相手になるけど?」
「∃<⁈〜仝ςゝ>(%*]」
「へぇ〜? 珍しいこともあるもんだね、話したいことがあるなんて」
人間には聞き取れない言葉を理解し、戦闘態勢を解く寧々。
なんだか肩透かしを食らった気分だ。
「;#£Θ§ヽ’ΖΘ?」
「え、そのために服を脱いで待ってたんだろうって? いや、そっちが拒否しても無理やり殴り込みに行くために脱いだんだけど」
「%ーο©∃ρ……」
自由奔放で好戦的な寧々の言動に、深きものどもは早速胃を痛めていた。
神話生物といえど、その実態はブラック企業の下っ端社員と同じ存在。上司、もとい上位存在の破天荒さに振り回されてばかりなのだ。
「そんじゃ遠慮なく──お邪魔しま〜す」
ザボン、と躊躇なく沖縄の海にダイブする寧々。そのまま海の中を漂い、深きものどもの先導について行く。
もちろん息継ぎなど必要ない。ガワは人間とはいえ、その本性は邪悪な神話生物だ。この程度の環境変化じゃビクともしない。
「色鮮やか……こういうのを、人間の感性では綺麗って表現するんだっけ……お?」
そうしてしばらく海の中を進んでいると、目の前に巨大な神殿が見えてきた。
海底都市ルルイエ──にある小型神殿のレプリカだ。分譲住宅というやつである。
「さてさて、どんな罠が待ち構えてるのかな〜」
気怠げに、だが警戒は怠らず。寧々は慎重に神殿の門をくぐった。
「よく来たな、ハスター」
するとそこには、巨大な玉座に腰掛ける、水色っぽい青髪のLカップ爆乳長身美少女が存在した。そして当然のように全裸である。
ふわふわと水中に浮かぶ爆乳が、普通のシチュエーションでは拝めないエロスを生み出していた。
「えっと……クトゥルフ?」
「他の誰に見えるというのだ。目玉が腐ったか?」
「いや、誰だって見間違えるでしょ、その姿は」
普段の邪神に相応しい容姿とは打って変わって、今のクトゥルフは誰もが認める美少女だ。
黄金の比率で整った顔パーツ。雄大な海を思わせる青髪。サファイアを思わせる青い瞳。
どこを切り取っても、絶世の美少女という単語が相応しい。
「アトラの蜘蛛が拵えたものでな。中々に心地が良い」
「人間キライじゃなかったっけ?」
「好かんとも。だが、それは精神性に限ったもの──肉の器に嫌悪感など抱かん」
「そりゃまた、成長したねぇクトゥルフ」
数千年会っていなかった間に、いつの間にか成長していた仇敵。それを貶すでも馬鹿にするでもなく、寧々は素直に称賛した。
お互いに随分丸くなったと言える。まぁ、寧々の方は物理的にも丸くなっているのだが。
「で、ボクに話って何なのさ」
「その前に──その腹はどうした」
呆れたような、訝しむような、不思議な表情でクトゥルフは寧々のボテ腹を指差した。
まんまるに膨らんだお腹をさすりながら、寧々は呑気に喋り始める。
「あぁ、コレ? コレはね〜……『色欲』の原罪を宿した人間チャンにブチ犯されて、七つ子を孕まされちゃったの!」
「ほう、七つの原罪か」
ニタァ❤と、ちょっと見せられないレベルの淫らで冒涜的な笑顔を浮かべながら、寧々は嬉しそうに言葉を紡ぐ。
そんな寧々の様子を気にもせず、クトゥルフは眉を寄せて思案を始めた。
「もしや、その人間とは──ニャルラトホテプの伴侶ではないか?」
「あったり〜! なになに、クトゥルフもニャルの恋人のこと知ってたんだ〜!」
「不本意ながら……な。今日貴様を呼んだのは他でもない、その人間について話をするためだ」
玉座から立ち上がり、クトゥルフは告げる。
「単刀直入に言う──ニャルラトホテプの伴侶をNTRしたい」
「なんて?」
寧々は、自分の耳が腐ったのかと錯覚した。
「あのクソ生意気な自称トリックスターの最も大切なものを奪い、絶望させてやるのだ! あぁ目に浮かぶぞ、泣きべそをかいて我の前に跪くニャルラトホテプの姿が──クックック、ハーッハッハッハ!!!」
「えぇ……」
上機嫌に、高笑いまでして、クトゥルフは自らの作戦をひけらかす。
しかし、そんなクトゥルフの姿を見ている寧々はといえば、既視感しか感じていなかった。
(これ、この前のボクじゃん……)
ニャルラトホテプの伴侶を誘拐し、逆に分からせられた自分そのものだと感じていたのだ。
当人に恥をかかせたいが為に、伴侶を狙った点まで共通している。やはりライバルだと思考回路も似るのだろうか。
(うーん……まぁ面白そうだしいっか!)
この黄色が好きな邪神、無貌の神ほどではないが、面白そうなことが好きなタチであった。
もちろんそれだけというわけではなく『ここで頼みを断ったら殺されそうだな〜』という心配もあったからだ。
つまり北条を生贄に捧げたのだ、この邪神。正しく人の心を持たない邪神の所業であった。
「いいよ、手伝ってあげる」
「そうか」
「え〜っとね〜……拐ったりする姑息なやり方だとまず成功しないから、真正面から突破しよ〜」
「真正面から、だと?」
訝しむクトゥルフに、寧々は──ハスターは告げた。
「その魅惑的なおっぱいとおまんこで、人間チャンを骨抜きにしちゃお〜ってコト❤❤」
絶対に成功しないであろう作戦を、性に無知で無垢な邪神に向けて。