ダンまちはもっと肌色が多い方がいいと思うんだ。 作:黒のトビ
リューさんはむっつり。
きっとそう。
未調査区域の温泉で起こったハプニング、後に「リトルガネーシャ事件」もしくは「白いファイヤボルト事件」と女性陣の中で呼ばれることとなる出来事。
衝撃的体験をしてしまった彼女達の、地上に戻ってからの物語である。
【リューの場合】
「豊穣の女主人」へと帰りついたリューは、女主人のミアに疲労を見抜かれ休むことを命じられる。
階層主との戦闘などで、自身の疲労具合について自覚していたリューは、素直に応じ、自室へと向かった。
後ろから猫人ウェイトレスがずるいと騒ぎ出し、直後に何かを殴ったような音が聞こえたが、努めて無視した。
自室に辿り着いたリューは、中に入り扉を閉めると同時に大きく息を吐いた。
そのまま外套や装備を外していくが、その速度は普段の彼女と比べると酷く緩慢だった。
ダンジョンという常に緊張を強いられる場所から、自室という気の抜ける場所に戻ったことで、一気に疲労感を覚えたのだ。
自分が思っていた以上に疲労していたことに気付いたリューは、身軽な格好になると、そのままベッドへと倒れ込む。
ギシギシと音を立てながらも、自身の身体を優しく受け止めてくれるベッドに心地良さを感じながら、眠気に襲われ目を閉じる。
微睡みながらふいに思い返すのはつい先刻の出来事だ。
瞼の裏に浮かんでくる光景は、短時間で起きたとは思えないほどに、密度の高い出来事の数々だった。
神ともにダンジョンへ潜ったこと。
闇派閥からベルとレフィーヤを助けたこと。
階層主と戦ったこと。
様々な場面が順々に浮かんでは消えていった。
そして帰還時に発見した温泉での出来事が思い浮かび――――。
「――――っ!」
唐突に眠気が吹っ飛んだ。
思わず体を起こし、思い浮かんだ光景を消し去るように頭を振るう。
顔が熱を持ち、赤くなっていくことが自覚できた。
今思い浮かんだ光景は何かの間違いだ。
そう自分に言い聞かせながら、再び横になり目を閉じた。
瞼に浮かんできた光景は――――。
可愛らしい笑顔を浮かべるベル。
その股間でプルンと揺れる
またしても目を見開き、先程よりも赤面するリュー。
温泉で見たベルの恥部は、これ以上ない程にしっかりとリューの記憶に刻まれてしまっていたのだ。
温泉で【ガネーシャ】が丸出しになった時、そこまで赤面していなかったリューは、他の者と比べると幾分か冷静に見えたが、それは飽くまで傍から見てそう見えたに過ぎなかった。
生粋のエルフであるリューが、異性の恥部をあれほどはっきりと目撃した経験などあるはずもなく。
それを見た瞬間からリューの頭は完全に混乱し、ただただ【ガネーシャ】を見詰め続けることしかできなくなってしまっていたのだ。
熱を逃がすかのように大きく息を吐き、再び目を閉じる。
「っ!」
今度は【ガネーシャ】が
その光景を振り払い、無理にでも目を閉じる。
浮かんだのは、むき出しになったピンク色の先端から【ファイヤボルト】が発射される場面だった。
ベッドの上で転げまわるリュー。
一度思い出してしまったことで、その光景が頭から離れなくなっていた。
今リューの心の内は、羞恥心とベルへの申し訳なさでいっぱいだった。
リューにとってベルは、現状最も親しい異性と言っても過言ではない存在だ。
恋しているとまでは言わないものの、憎からずは思っている。
そうでなければ、水浴びを見られたことを責めたであろうし、罰しもしただろう、当然アストレアファミリアの話などするはずもなかった。
そんな仲の良い相手の痴態が忘れられない。
ベルに対して物凄く悪いことをしてしまっている、という感覚がリューの中の良心を刺激する。
しばらくベッドを転げまわっていたリューだが、どうしても【ガネーシャ】の画が消えない。
一旦、頭を落ち着かせようとベッドから立ち上がり、部屋の隅に置いてある飲み物を取りに行こうとした時。
コンコン。
ノックの音が聞こえた。
「リュー?大丈夫ですか?」
聞こえた声は、「豊穣の女主人」で共に働くシルの声であった。
どうやらベッドの上で悶える音が漏れ聞こえていたようで、心配して様子を見に来たらしい。
「シ、シル!?なんでもありません。大丈夫ですよ」
返事をしながら扉を開け、部屋にシルを招き入れる。
招かれたシルはリューの顔を見て、心配そうに眉を顰める。
「顔が赤いわ。疲れて熱でも出たの?」
自身を気遣ってくれるシルを見ていると、不思議と心が落ち着き、先程まで脳裏に焼き付いていた光景が消えていった。
「本当に大丈夫ですよ。ありがとうございます、シル」
感謝の言葉と共に、微笑むリュー。
赤みの引いた、自然な笑顔に安心したのか、シルも同じように笑みを浮かべる。
「それならよかったわ。帰ってきたときの様子が変だったから、心配になっちゃって」
「そうですね。今日はいろいろと大変でした」
「へぇ、どんなことがあったの?」
そのまま二人は暫しの談笑を楽しむ。
ダンジョンのこと、冒険者達のこと、階層主との闘いのこと。
話題は様々なことに及んだ。
水浴びを覗かれたことなど、一部伏せた部分もあったが。
思ったよりも長時間話し続けたことで、喉の渇きを覚えたリューが一旦話を止め、二人分の飲み物を注いでいる時、不意にシルが呟いた。
「いいなぁ、リューは。ベルさんの雄姿が見れて」
ガシャパリンゴスッ!
突如響いた騒音に、シルが驚いて音がした方に顔を向けると。
何も躓く物のないはずの場所で盛大に転び、頭から飲み物を被って倒れたリューの姿があった。
普段の一部の隙も無い彼女の姿からは考えられない醜態だ。
「ど、どうしたの!?大丈夫!?」
思いもよらないリューの醜態に、駆け寄って声をかけるシル。
当のリューは、転んだ時に打ったのか、頭を押さえて悶えていた。
「だ、大丈夫です!なんでもありません!ええ、なんでもありませんよ!」
先程と同じような返答を、涙目になりながら返すリューだったが、赤みの引いて行った先程とは違い、今の彼女の顔は真っ赤に染まっていた。
何かあった。それもベル関連で。
リューの態度からそれを察したシルは、今まで浮かべていた物とは種類の違う笑顔を浮かべてリューに詰め寄る。
「リュー?ベルさんと何があったんですか?いえ、ナニがあったんですか!?」
笑顔は本来威嚇する時に浮かべる表情である。
そんな言葉が浮かび上がってしまいかねない程に、今のシルの笑顔には凄みがあった。
恐怖を感じ、リューは思わず座ったまま後ずさる。
しかし、彼女はシルの問いに答えるわけにはいかなかった。
それもそのはず。
ベルの雄姿と言われて、リューが思い描いたベルの姿は、自身の過去を真剣に聞いてくれた優しい姿でなく、階層主と戦う凛々しい姿でもなく、温泉で見た生まれたままの姿であったのだ。
あなたの想い人の【ガネーシャ】を目撃しました、などと言えるはずもない。
ましてや、その最後に至るまでもを見てしまっているのだ、なにをどう言えばいいのか。
非常に興奮して迫ってくるシルを、何とか躱そうと試行錯誤するリューだったが、まるで神のようにこちらの誤魔化しを見破ってくるシルに徐々に追い詰められていった。
結局、二人の攻防は、大騒ぎを聞きつけてやってきた怒れるミアに、二人とも殴られるという形で有耶無耶となった。
のび太くんが脱いだら、静香ちゃんはいや~んと言う。
これは様式美。
そういうことである。