ダンまちはもっと肌色が多い方がいいと思うんだ。 作:黒のトビ
そして、ここまでベルくんに酷い行いをした小説があっただろうか。
「はあぁぁぁぁぁ…………。」
ベル・クラネルが大きく溜息を吐く。
彼は今、オラリオの通りを重い足取りで歩いていた。
周囲では買い物をする住人や、ダンジョンに向かう冒険者などが行き交い、それなりの人通りがあり活気に満ちていた。
笑顔をで歩く者も多く、街中の雰囲気も明るい。
そんな中を、陰鬱そうな気配を出しながら、俯き加減で幽鬼の様に歩くベルは周囲から完全に浮いていた。
現に、彼の前から歩いてきた通行人はその雰囲気に驚き、つい道を譲る形で横に逸れてしまったほどだ。
ベルはそんな周囲の視線に気付くことなく、とぼとぼと足を目的地へと進める。
ケヒトの湯の大騒動から数日が経ち、今の彼の姿からは考えられないかもしれないが、ベルはいつも通りの日常を過ごしていた。
大爆発によって瓦礫と化したケヒトの湯は、今はもうきれいさっぱり更地となり、その痕跡すらも消え去っていた。オラリオ住人も、憩いの場が消え去ったことを惜しみつつも、騒動が起こることなど日常茶飯事であるためか、すでに何事もなかったかのように今まで通りの生活に戻っていた。
ベルも、騒動の直後こそ知り合いの幾人にも
今回は前回と違い、知り合いの目の前で
無論、それでもベルにとっては十分大事であった。見られることに慣れたわけではない。
こうして箇条書きで見るとまるでベルが性経験豊富に見えるが、彼はその
では、何故ベルが悲壮感すら感じさせる様子で街中を歩いているのか。
それは、彼がこれから向かう場所が原因だった。
ベルの目的地はギルドであった。
ヘスティアファミリアの団長として、どうしても今日中にギルドに提出しなければならない書類があったのだ。
本来ならばもう少し早めに提出する予定だったのだが、ケヒトの湯の騒動後にベルがしばらく引き籠ったことで提出が遅くなってしまった。
今日中にギルドに赴けば良いとはいえ、いつもならば生真面目なベルは急いでいる筈だ。しかし、ベルは急ぐどころか、できればギルドに行きたくないと文字通り足取りが重かった。
ベルがギルドに行きたくない理由、それはエイナだ。
彼女と顔を合わせ難い理由がベルにはあった。
先のケヒトの湯での騒動の際、ベルはエイナと諍いを起こしてしまっていたのだ。
いや、諍いというには聊か一方的ではあった。
ケヒトの湯の騒動の時に、ベルは女湯に侵入した。
ヘルメスに無理やり放り込まれたとはいえ、それは紛れもない事実だ。
女湯の中で、多くの女性達のあられもない姿を見てしまったことも否定はできない。気恥ずかしくはあったが、見たくなかったかと聞かれれば、決して否とも言えなかった。
そのことがエイナにバレてしまい、彼女が激怒したのだ。
激怒の原因は、それだけではなかった。
ベルはエイナと遭遇した時、全裸だった。
何一つ隠すことなく、エイナの眼前で
直前にガネーシャの
しかも、その時ベルの
アスフィがベルが
女湯に侵入したことでさえ許しがたいというのに、股間に指輪を嵌めていたのだ。変態的な欲求を満たしていると思われてもしょうがない状況だろう。
それを見た彼女の心境は、想像に難くない。
ベルはその時の彼女の表情を、今でもありありと思い出せる。
自身の
今思い返しても、体が震える。
彼女の心底軽蔑した声で発せられた「変態」という言葉は、今でも耳にこびりついて離れない。
生憎とベルは、その直後にエイナの平手打ちによって気絶してしまったため、エイナのその後の反応は分からないが、怒りが収まっているなどとは到底思えない。
つまり、これからベルが向かう先には怒れるエイナが待っているということなのだ。ベルからすれば死刑台を上る死刑囚のような気分だった。
歩みが遅くなっても仕方のないことだろう。
あれやこれやと言ってはみたが、ベルが恐れていることは結局のところ一つだった。
エイナに嫌われてしまったという事実を、確認したくないのだ。
ギルドに行けば、彼女と会ってしまう。
そうすると、彼女が今まで自分に向けてくれていた優しい視線とは正反対の、軽蔑した視線が向けられるに違いないのだ。
それを自分の目で見たくない。
ベルがギルドへ行くことを渋る理由は、最終的にはそれだけに絞られる。
ベルがどれだけ渋ろうとも、用事がある以上目的地に進まないわけにはいかず、どれだけ歩みを遅くしても、いずれは到着してしまう。
遂にギルドに辿り着いてしまった。
ギルドの正門を前にして、腹の底がズンと重くなったような気がする。
できることなら今すぐ回れ右をして帰りたい。
しかし、そんなことできるはずもなく。いつまでも突っ立ている訳にもいかず、ベルはより重くなった足を引きずりながらギルドの中へと入っていった。
ギルド内はいつもと変わらず、多くの人で溢れていた。
これからダンジョンへと向かう者、ダンジョンの成果を換金に来た者。活気あふれる者達を横目に、ベルはのそのそと通い慣れた通路を進む。
そして遂に目的地が見えてきてしまった。
ベルが普段から利用している見慣れたカウンターでは、ギルドの受付嬢が黙々と仕事をこなしていた。
ハーフエルフらしい整った顔に眼鏡を飾り、真面目な表情で書類を眺めている女性、エイナ・チュールがそこにいた。
エイナの姿を見た途端、ベルの足は完全に止まってしまった。
これは別に、ベルがエイナに見惚れてしまったためではない。
いや、エイナの美貌を思えば、そうなってしまってもなんらおかしなことではないが、今回に限っては理由が違った。
直にエイナの姿を見たことで、心中で渦巻いていた不安が爆発しそうになったのだ。
あまりの恐怖に足が竦む。
心臓が爆発しそうなほどに激しく鼓動する。
急激に喉が渇き、呼吸が荒くなる。
今すぐにでも、踵を返してここから逃げ出したい。
弱気な心に支配されそうになるベルだが、ここまで来て逃げ出すわけにはいかないと、勇気を振り絞る。
震える足を無理やり動かし、僅かずつではあるがカウンターへと近付いていく。
一歩、また一歩と懸命に足を動かす。
今のベルは最早、ドラゴン退治に向かう物語の主人公の気分だった。そこに誇らしさは微塵もなく、傍から見れば怯え惑うモブ同然なのだがベルにとってはそうなのだ。
そして、カウンターまでの距離があと数歩程度の距離まで近付いた時、不意にエイナが書類から顔を上げた。
「「あ」」
ばっちり目が合った。
いきなりの出来事に二人して言葉を失い、沈黙の一時が流れる。
心構えしていたものの実際にエイナと対面した途端、考えていたことが全て吹き飛んでしまい何も言えなくなってしまったベルと、先日のことを考えないように只管仕事に没頭していたところに、その原因たるベルが突然目の前に現れてこちらも思考停止してしまったエイナ。
両者共に、相手に会ったら言いたいことがあったというのに何も言えず、只々沈黙のみが支配する。
周囲に人がいれば、二人の何か声をかけたかもしれないが、残念なことに周囲に人影はない。
これは、異様な雰囲気を撒き散らしながら取りつかれたように仕事をするエイナが原因だった。彼女を怖がってここ数日の間受付嬢はエイナの傍に近寄らず、受付嬢がいない為冒険者もまた、ここのカウンターに近寄ることはなかった。
普段ならエイナ目当ての冒険者が近寄ってきそうなものだが、さすがにこの雰囲気の彼女に近付こうとは思う勇者はいなかったようだ。
「「……………………。」」
お互いに目を逸らすことなく、呼吸すら潜めて相手を見つめ続ける。
傍から見れば、まるで戦闘中に相手の挙動を牽制し合うようにも見えるが、本人たちにそんなつもりはなく、只々思考が追い付いていないだけだ。
緊張から流れた汗が両者同時に頬を伝う。
「「…………っあの!」」
どうにかこの異様な状況を脱しようと放った言葉が被った。
「「……っ!」」
出だしで躓いたことで続く言葉が出ず、またしても黙り込む二人。
先程よりも重い沈黙が流れる。
しかし、いつまでも手をこまねいている訳にもいかない。
ベルは重苦しい雰囲気を吹き飛ばすべく、決心を固めて口を再び開いた。
「「ごめんなさいっ!!」」
二人が同時に、勢いよく頭を下げた。
全く同じ謝罪が、全く同じタイミングで行われたのだ。
「「…………えっ?」」
先程から鏡合わせの様に同じ行動を取る二人は、息が合っていると言えるのだろうか。
予想外の謝罪に、ポカンとした表情を浮かべて見つめ合うベルとエイナを見ている者がいれば、そんな感想を抱いてもおかしくないだろう。
エイナの謝罪にベルは大いに混乱した。
一瞬聞き間違いかとも思ったが、エイナの反応を見るにそれもなさそうだ。
自分が謝罪するのは分かる。許可なく女湯に侵入したのだ、犯罪と言ってもいいことをしでかした自分は、本来様々な所に謝罪行脚に行かねばならない立場であろう。
ケヒトの湯でもエイナの激怒っぷりを目の当たりにした身としては、謝罪は必須と言えた。
しかし、エイナが自分に謝罪する理由が分からない。
自分がエイナに謝ることはあっても、エイナが自分に謝ることなどないはずなのだ。
「ふふっ。」
混乱するベルを見ていたエイナは、彼の様子がおかしく思え、つい笑みが零れた。
自分以上に慌てている人を見ると、自分は不思議と落ち着いてくるものだ。先程の緊張が嘘のように溶け、普段の穏やかな気持ちが戻ってくる。
「あのねベル君。
この間のケヒトの湯の事件が落ち着いた後に、アンドロメダさんが訪ねてきて事情を説明してくれたの。
ベル君はヘルメス様に無理やり女湯に連れ込まれたんだって。」
「エイナさん……!」
いつもと変わらぬ優しい微笑みを浮かべながら語られる話に、ベルは心に圧し掛かっていた重圧が消え去ってゆくのを感じた。
もはや完全にエイナに嫌われてしまったと思っていたベルは、普段通りの笑顔を向けてくれる彼女に、心の底から歓喜の感情が浮かび上がり自然と顔が綻んでいく。
それと同時にアスフィに対して、心から感謝した。先のケヒトの湯で助けてくれたことも併せて、ベルの中でアスフィの株が急激に上昇していく。一番信頼している人は誰かと聞かれたら、アスフィの名前を出すかもしれない程、ベルの中でアスフィの信頼度は高くなっている。
なお、ベルは
「ベル君がそんなことするはずないってわかってたはずなのに、信じてあげることもしないで、頭ごなしにベル君が悪いって決めつけて。
挙句の果てに、殴っちゃうなんて…………私、最低なことしたよね。
本当にごめんなさいっ!」
泣きそうな顔で、再び頭を下げるエイナ。
彼女は心から先日の自分の行動を悔いていた。
決して短くない間、ベルのことを見ていて、彼の真面目さなんて十分に理解していた筈なのだ。そんな真面目な彼に自分は惹かれたのだ。
それなのにベルを信じ切ることができなかった。
恋する乙女として、想い人を信じることができなかった。そのことがエイナに強い自己嫌悪を抱かせていた。
「頭を上げてください。
エイナさんは何も悪くありませんし、僕も何も気にしてません。」
エイナを安心させるように、優しい声で語りかける。
「もし、エイナさんが悪いと思っていたとしたら、僕はエイナさんを許しますよ。」
ああ、この人を好きになってよかった。
出会った時から変わらない、優しい笑顔を向けてくれるベルを見て、エイナは深く彼に惚れ直した。
心臓が高鳴り、自然と頬が赤く染まる。
ベルを見る目にも熱が籠るのを自覚する。
今のエイナを傍から見る者がいれば、目の前の少年に恋していると一目でバレてしまったことだろう。
張本人のベルは一切気が付いていないが。
微笑み合う二人の間に温かい雰囲気が漂う。
それはまるで、恋人同士が醸し出す空気にも見えた。
「それに――――」
そんな暖かな空気をベルの一言が一変させた。
「あんな格好をしていたんじゃ、殴られても仕方ないですしね。」
何気なく呟かれたベルの言葉が、エイナの記憶を刺激した。
怒りや自己嫌悪によって、今の今までは思い起こされることのなかった、脳裏の奥底に眠っていた記憶が急速に浮上する。
ケヒトの湯でベルと出会った時の光景。
ベルが自分を宥めようと立ち上がった瞬間、視界に飛び込んできたモノ。
プルンと揺れるそれが頭の中で鮮明に再生される。
ベルの
エイナの顔が真っ赤に染まる。
つい今しがた感じていたほんのりとした温かさとは違い、火が付いたかのような熱がエイナの頭を焼く。
そう、自分は見てしまったのだ。想い人たるベルの、目の前で笑顔を浮かべる少年の、最も大切な男の子のシンボルを。
「――――っ!?」
急に顔を赤くしたエイナに一瞬首を傾げたベルだったが、自分の台詞を思い返したことで、エイナが何故顔を赤くしたのかを理解して、同じように顔を真っ赤に染め上げた。
ベルもまた、目の前の女性に自分の
顔を真っ赤にした二人が、続く言葉を失い黙り込む。
先程とは違った緊張感が二人を支配していた。
そんな緊張感の中、エイナがとった行動は完全に無意識によるものだった。
無意識に。
本当に無意識のうちに、彼女は視線を下に向けていた。
時に、女性は男性の視線に敏感だという話をよく聞く。
男性が、女性の胸などに視線を向けると、女性は間違いなくそれに気が付くという。
女性はそれだけ性的な視線を感じ取る機能に優れているということだ。
しかし、これは男性がそういった視線に鈍感という訳ではない。
男性だって性的な視線を向けられれば、それに気が付くこともある。
「!?」
エイナの視線に気が付いたベルが、咄嗟に両手で股間を隠した。
視線を遮るように、見られてしまわぬように。
エイナは、無意識にベルの股間に視線を向けてしまったのだ。
正確には、ズボンとパンツの奥に隠されたベルの
「――――ち、違うのベル君!!
たしかに見ちゃったけど、ほ、本当に違うのっ!?」
ベルの反応で、自身の無意識の行動に気が付いたエイナが必死に弁明する。
泣き出しそうな表情を浮かべるベルに、エイナの頭はもう大混乱だ。
「あの時だって全然しっかりとは見れなかったし!
はっきりとは覚えてないから!全然大丈夫だから!!
それにね!」
もうエイナは自分が何を言っているのかも定かではなかった。
言わなくてもいい余計なことがどんどん口から零れていく。
故に、つい口を滑らせてしまった。
「すごく可愛かったからっ!!」
あ、と思った時にはもう遅かった。
覆水盆に返らず。
放たれた言葉は、しっかりとベルに届いていた。
羞恥に身体を震わせ、目尻に涙を浮かべるベルを見て、エイナは次の言葉をなくした。
確かに、あの時に見たベルの
平均と比べても小振りと言えるサイズ、すっぽりと先端まで覆われた皮、年齢的に生えていてもおかしくない恥毛も見受けられず、全体的に幼いと言えるそれは、可愛いと評してもおかしくなかった。
男を感じさせるモノではなかったが、童顔なベルには似合っていると思う。
想い人の大切な部分であるためか、エイナにはことさら淫靡に見えたものだ。
エイナがどう感じようとも、男性のそこにとって可愛いが良い表現ではないことくらいは知っている。
しかし、すでに放ってしまった言葉は取り消すことができず、それをフォローするだけの経験も彼女にはなかった。
今までも何度も沈黙はあったが、今回のそれは今までの比ではない程に異様な雰囲気の沈黙だった。
羞恥に顔を赤く染めて落ち込むベルと、あわあわと混乱し狼狽えるエイナ。
そんな雰囲気の中、エイナがとった行動は――――。
「あ、ああ~、ベル君が持ってきた書類ってこれよねじゃあちょっと手続してきちゃうから待っててねすぐ処理してくるから。」
その場からの逃亡だった。
早口で、ひったくる様にベルから書類を受け取り、そのまま足早にカウンターの奥に引っ込んでいき、瞬きする間にエイナの姿は消えていた。
足をぶつけたり、転んだりしながら去っていくエイナの背中を、唖然と見つめることしかできないベルがその場に残された。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
エイナの姿が見えなくなると、ベルはしゃがみ込んで大きく溜息を吐いた。
ようやく視線から逃れたというのに顔から熱が引かない。心臓の鼓動がドキドキと大きな音を鳴らす。
羞恥の極みにあった状況から、一息付けたというのにベルのテンションはすぐには元に戻らなかった。
見られてしまっていたことは理解していた。
ケヒトの湯で全裸でいたのは自分だし、それをエイナに見られたのは記憶に新しい。それでもなお、エイナの口から見られた事実を再確認させられれば恥ずかしさも 一入だ。
あまつさえ、自分のモノをさして可愛いなどという評価をされてしまった。ベルはもう羞恥心でどうにかなってしまいそうだった。
エイナが戻ってくるまでにはまだしばらくかかるだろう。それまでになんとか気持ちを切り替えなければ、エイナの顔を見ることもできないかもしれない。
ベルが気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返していると、そんな彼に近付いて来る人影があった。
気配に気が付いたベルが振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
「おっとっうっとくぅ~ん。」
妙に甘ったるい声色で声をかけてきた女性。
ピンク色の髪の毛を揺らし、猫の様に目を細め笑いながら近付いてきたのは、ギルドの受付嬢にして、エイナの友人ミィシャ・フロットであった。
「ミ、ミィシャさん。」
「久しぶりだねぇ。エイナに用事?」
ミィシャを見たベルは思わず言葉に詰まり、顔を赤く染め、視線を逸らしてしまった。
とある理由から、彼女を真っ直ぐ見ることができなかったのだ。
先程ミィシャは久しぶりと言ったが、正確には久しぶりではない。数日前にベルはミィシャと出会っていた。
それは、ケヒトの湯での騒動まで遡る。
ケヒトの湯で女湯に侵入した際、ベルはミィシャの全裸を見てしまったのだ。それも全裸のミィシャを下から見上げるという形で、彼女の秘めるべき全てをしっかりと瞼に焼き付けてしまった。
ミィシャの姿を見たベルはその時の記憶が蘇り、思わず制服の上から彼女の裸体を思い浮かべてしまったのだ。
「えっと、その。ファミリアの提出書類があって。」
「ふ~ん。
いや~。それにしてもあんなにピリピリしてたエイナに話しかけるなんて、意外と肝が据わってるんだね。
それとも、弟君だけは特別だったのかな?」
挙動不審気味なベルの態度を気にした様子もなく、朗らかに話し続けるミィシャだが、対応するベルは、裸を見てしまった羞恥心と罪悪感から、うまく言葉を返せなかった。
気まずさから、エイナが戻ってこないかとカウンターの奥に視線を向けるが、エイナの気配は感じられなかった。
戻ってきたらきたで、また別の気まずさがあるのだが。
「そういえばさ、この間のケヒトの湯の大騒ぎあったじゃん?」
「っ!?」
気まずい雰囲気を纏うベルだが、ミィシャの言葉に思わずビクッと体を震わせる。
もしかしたら、女湯での出来事について言及されるのではないかと身構えてしまったのだ。
「まさかあんな大爆発起こすなんて思わなかったよね。
びっくりしちゃった。」
ミィシャの言葉に、ベルは安堵した。
懸念していた内容ではなかったようで、ホッと息を吐く。
「……そうですね。僕も驚きました。」
故にベルは油断してしまった。
「実は爆発の前にも大事件が起こっててね。
なんと女湯で大騒ぎしてた男がいたんだよ。」
「うぇっ!?」
思わず引き攣った様な声が漏れてしまった。心臓がドキッと大きく跳ね上がる。背中を冷たい汗が伝う。
それも当然のこと、何しろミィシャが語っている女湯で騒いだ男、それはベル自身なのだから。
あからさまに動揺するベルだったが、何故かミィシャはそれに気が付いていない様子で話を続ける。
「そんでさ~。あたしその子にすっぽんぽん見られちゃったんだよねぇ。」
「そ、そそそれは大変でしたねっ!?」
裸を見たその子というのもベルのことだ。
ベルの動揺はどんどん激しくなっていくが、やはりミィシャはスルーしている。
「でもね、それはお互い様なんだ。」
「――――え?」
ミィシャの言葉の意味が理解できず、ベルの口から疑問の声が漏れる。
「あたしもその子のすっぽんぽん見てやったってこと。」
「ええっ!?」
身に覚えのないベルは、思わず大きな声を出してしまう。
確かにベルはケヒトの湯で多くの女性に裸を晒してしまったが、ミィシャに見られた記憶はなかった。
混乱するベルだが、その答えはすぐにミィシャの口から語られた。
「ケヒトの湯が爆発した後に、その子が気絶して倒れてたんだよね。」
あの後かっ!とベルは天を仰ぐ。
ミィシャが自分を見つけたのは、エイナの張り手によって気絶してしまった後だということが分かった。確かにそれならば身に覚えがないのも当然である。
「まあ、カツラで顔隠してたんで誰なのかは分からなかったけどね。」
どうやらそれが自分だとバレてはいないようだと、安堵するベル。
不幸中の幸いといったところか、最悪の状況は免れていたようだと、おそらくカツラを被せてくれたのはアスフィだろうと予想し、アスフィに感謝の念を送る。
「でもそれ以外は全部丸出しだったからねぇ。ばっちり見ちゃったよ。
――――
ベルの顔が再び真っ赤に染まる。
「こ~んなくらいのがちょこ~んとね。くっ付いてて。」
そう言ってミィシャは態々ベルの顔の前に手をかざし、親指と人差し指でそのサイズを示す。指の幅はおおよそベルの
羞恥に染まったベルは、無意識の内にズボンの上から自身の股間を押さえていた。
そんなベルの姿を見ていたミィシャは、その顔に獲物を甚振る猫のような表情を浮かべる。
もうお分かりだろうが、ミィシャは全裸で倒れていたのがベルだということに気が付いている。
ケヒトの湯で
彼女は気が付いていないふりをして、ベルの反応を楽しんでいたのだ。
やや悪趣味な行動と言えるが、ミィシャからすれば自分の全裸も隅々まで見られているのだ、少しくらい揶揄っても問題ないだろうと考えていた。
それになにより、とても面白いのだ。
「もうほんとに可愛いかったよ。」
ベルの耳元にグッと顔を寄せ、内緒話をするかのように囁く。
「すっぽんぽんで大股開きで倒れてるものだがら、完全に丸見えでね。
親指くらいしかない白くて小さなおちんちんで、しかも先まですっぽり被った包茎君だったよ。先っちょなんて皮が余ってたくらい。
袋も縮こまってて、タマタマも小っちゃくって、まるでクルミみたいだった。
それがプルプル揺れて、可愛いのなんの。
アソコの毛もほとんど生えてなかったし、ほんとにまだまだお子ちゃまだね。
あんなにしっかり男の子のおちんちん見たのなんて初めてだったよ。」
ミィシャが事細かに
途中からベルの
吐息が耳を擽り、声が鼓膜を振動させるたびに、ミィシャの指がベルの
錯覚だと分かっているのに、顔と股間に熱が籠っていくのを抑えられなかった。
真っ赤な顔で股間を必死に押さえるベルを見て、ミィシャは自分の体が火照っていくのを感じていた。
この兎のような可愛らしい少年が、自分の言葉で追い詰められていく様にどうしようもなく興奮してしまうのだ。
もっとこの少年の恥ずかしがる姿が見たくなり、さらに言葉を続ける。
ミィシャは割とSだった。
「しかも、途中からいっぱい人が集まってきてね。
すっごい人数に見られちゃってたんだよね。」
「えぇっ!?」
「いやもう百人ぐらいに見られてたんじゃないかな。」
ベルはもうすで泣き出しかけていた。事実目尻には涙が浮かんでいる。
アスフィやエイナに見られてしまったのは分かっていたが、まさかそんなに大勢に見られてしまっていたなどと、夢にも思っていなかった。
ただでさえ、小さ目の股間にコンプレックスを持っていて、他人に見られるなど考えるだけで恐ろしいというのに、それが三桁近い人数に晒されてしまったというのだ。
ベルは自分の中の大切な何かに罅が入る音が聞こえた。
ショックを受けるベルに、ミィシャはトドメの一言を齎す。
「オラリオで一番有名なおちんちんになっちゃったね。」
ベルの目からとうとう一筋の涙が零れ落ちた。
それを見て、ゾクゾクとした快感がミィシャの体中を走り回る。
涙を堪えんと必死に目を瞑り、顔を真っ赤に染めながらも羞恥に耐えるベルを見ているだけで、下腹部が疼く。もうこの表情だけで、軽くイッてしまいそうだ。
このまま快楽の余韻に浸っていたかったが、涙を流すベルに、このまま何もしなければトラウマになりかねないと、僅かに罪悪感を感じる。
今さら何を言っているのかと思うだろうが、別にミィシャはベルを嫌っているわけではない。恋愛的な意味ではないが、好意を抱いてると言っていい。
同僚がこの少年に恋していることもあり、ミィシャとしてもベルに潰れてもらっては困るのだ。これからも定期的に
流石にフォローが必要かとミィシャが口を開いた瞬間、すぐそばに気配を感じた。
「ミィシャ?」
優しい声だった。
とても聞き慣れた声でもあった。
だというのに、凄まじい威圧感を感じる。
一瞬前の快感など一気に吹き飛ばす、背中に氷柱を突っ込まれたかのような悪寒が走る。
見ればベルも同じような恐怖を感じたようで、流れていた涙が引っ込み、顔を青くして身体を震わせていた。
振り向きたくない。
振り向くのが物凄く怖い。
得体の知れない恐怖に支配されながらも、ミィシャとベルは錆び付いた扉の様に、ギギギと緩慢な動きで声がした方向に顔を向ける。
そこに誰がいるのかは分かりきっていたが、それを確認するのが怖かった。
「ねぇ、何してるの、ミィシャ?」
当然のことながら、そこにいたのはエイナだった。
いつの間にかベル達のすぐそばに立って、二人を見つめていた。
眼鏡が明かりを反射して白く光っており、その表情は窺えない。
しかし、その声の様子から激怒していることは明白だった。
「エ、エイナ?どしたの?」
恐怖を押し殺し、恐る恐るエイナに声をかけるミィシャ。
平静を装っていたが、その声は震えていた。
ミィシャは何故エイナがここまで激怒しているのか分からなかった。
「なんでベル君が泣いてるの?ミィシャ?」
その言葉で、ようやくミィシャは理解した。
今の自分達の状況が、傍から見たらどう見えるのか。
いやらしく笑いながらベルに耳打ちするミィシャ、そしてそれを聞いて涙を流すベル。
どう見てもイジメです。本当にありがとうございました。
「いやっ、あのねっ!?」
それでもなお言い訳しようとするミィシャだったが、咄嗟のことで上手い言い訳など思い浮かぶはずもない。
口をもごもごと動かすが、意味のある言葉は出てこなかった。
「お待たせベル君。手続き完了したよ。これが控えね。」
「あ、はい。」
慌てるミィシャを無視して、優しい笑顔でベルに声をかけるエイナ。
唖然としながらも、書類を差し出されて思わず受け取るベル。
先程の声には反射的に怯えてしまったが、今自分に向けられている笑顔には威圧感など感じない。あまりのギャップにポカンとした表情を浮かべる。
「で?なんでベル君を泣かせてたの?」
「ひぃっ!」
再びミィシャに顔を向け、エイナは威圧感を感じさせる声色で質問を浴びせる。
先程と同じように、声には隠す気配のない激怒が乗せられていた。
小さく悲鳴を上げると同時に、ミィシャの背筋がピンと正される。
つい今しがたベルを涙目にさせていたミィシャだが、今度は彼女の目に涙が貯まっていく。
あなたの想い人の
そんなこと言える訳がなかった。
正直に答えた場合、エイナにどんな目に合わせられるか想像もつかない。
しどろもどろになりながら、必死に状況を打開しようと考えを巡らせる。
すると、ポカンとした表情のまま固まっていたベルと目が合った。
その瞬間、ミィシャの頭に微かな希望の光が灯る。溢れんばかりの優しさを持つこの少年であれば、この絶体絶命な美少女を助けてくれるのではないか、そんな都合のいい妄想が浮かび、ミィシャは藁にも縋る思いで口を開く。
「お、弟く――――」
「あ、次の用事があるのでそろそろ失礼しますね。」
あっさり見捨てられた。
まあ、当然だろう。
いくら慈愛に満ちたベルであろうとも、直前まで自分の
「待ってぇ!」
「ミィシャッ!!」
ミィシャの悲鳴と、エイナの怒声を背中で聞きながら、ベルは足早にその場を後にした。後ろは振り返らなかった。
「はあぁぁぁぁ…………。」
喧騒を聞き流しながらギルドの外へ出たベルは、思わず大きく溜息を吐いた。
自分の
顔がバレてはいなかったということだけが不幸中の幸いと、無理やり気持ちを切り替えて、ベルは足を動かしだした。
「っはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!」
が、すぐに立ち止まり、先程以上に大きな溜息を吐いた。
これは、
では、何故ベルは溜息を吐いたのか。
それは、これから向かう先で、ベルは再び女性に
4期のOVAではベルくんが脱いでくれるのを期待している。
次はアスフィさんのターン。