いくら音量を上げても、頭に内容の入ってこないラジオの声。
興味のない話題といえばそれまでだが、元々気を紛らわせるためのものだった。
それにしたって、全然わからない。ともすれば聞こえない。
ベッドの上に投げ出した体を揺するほどに、心臓がバクバクと音を立てている。
駅前の格安ビジホの一室で、もうこの鼓動をどれだけ持て余しているのだろうかと時計を見た。
チェックインから30分。約束の時間までもう30分。やっと半分。
どうにかなりそうになる。
その時、ドアがノックされた。
体が跳ね起きる。聞き間違えには思えないほどはっきりとした音。だけど体が動かない。
来た。ついに。とうとう。そんな期待の破裂にしばし痺れてしまった。
もう一度、同じノック。今度は弾かれたようにベッドを降り、ドアへ駆け寄り。
深呼吸を、ドアの向こうに悟られないようにして、返事をした。
「はい」
聞こえるように張った声は、ちょっとだけ裏返った。
開いた扉から入ってきたのは、2人。
まだ年若そうな母親と、小学生くらいの――間違いなく、小学生の――娘だった。
来るんじゃなかった。
僕は鼻につく空調の匂いに溜息を忍ばせて目を閉じた。
小さな講義室の前面には、プロジェクターで映し出された画面。
『セクシャルマイノリティの集い』という、この会合のテーマが張り付いていた。
何を期待していたというわけでもない。元々お門違いなのは承知していた。
けれど、それでも、どこかで何かを求めていたのは確かだ。
集まっているのは10人かそこら。それぞれがマイクを回しながら、穏やかな顔で話している。
「同じような悩みを抱いている人がいて」
「昔に比べたらずっと理解は進んだけれど」
「それでもやっぱり公にするのには勇気が要って」
「戦うとか認めさせるとかじゃなくて」
「まずは自分を自分で認めることから始めないと」
優等生的な発言だ。それもそうだ。それなりの大学だ。優等生しかいない。
その表情の理由もわかる。重荷を下ろせた人間の顔だ。居場所を見つけて安心している顔だ。
羨ましい。だから妬ましい。そして疎ましい。
自分は、そうじゃない。
そうしているうちに、マイクは僕へと渡ってきた。僕はどこかでとっくに用意した言葉を切り出した。
「すみません、僕は――ヒアリングというか、マイノリティの人たちがどんな風に思っているのかを知りたくて参加したもので……マイノリティではない、方の人間ではあるんですけど……」
嘘を吐いたつもりではないが、本当のことでもなかった。本当のことは知らないのだけど。
マイノリティ。果たして自分はそうなのだろうか。
重荷はまだ、自分の中にあった。
自販機で買ったコーラを呷って、深く息を吐いた。
会の解散と同時に、逃げるようにして近くの公園にまでやってきている。
大学という場所が今まで自分がいたところとは違うと感じることは何度もあった。
ここも自分の場所ではないと失望することも。
今回もそうだった。ひょっとしてここなら、自分と同じやつがいるのかもしれないと期待してこの様だ。
わかっている。自分のこれは、同性愛とか性同一性障害とは違うものだ。
どうしたって許容されないもの。社会から排除されるべきもの。
日曜日の公園は人に溢れていた。気温の高い日が続き、水場には多くの子供たちが遊んでいる。
裸足の子。スカートをたくし上げている子。もう下着姿の子――は、居ない。
昔はたくさんいた。らしい、ではなく、いた。そういう映像をよく見ている。
自分の、性欲を満たすものとして。
小児性愛。それが僕の抱えているものだ。
小学校に入ってすぐに、上級生――高学年ではなかったと思う――に初恋をして、結局卒業まで名前も知らなくて。
今でもその初恋が終わらない。思春期を迎え、中学に上がり、高校に入っても、小学生の女の子を見るとそこに彼女を探した。
いるはずがないのにどうして見ているのかは、6年生の時に覚えたオナニーが教えてくれた。
あのくらいの子を見ると、とてもエッチな気持ちになる。
そう自覚してもう10年近くになるというのに。
"昔"と違って、今の子たちは肌を晒さない。親も目を離さない。
この社会には、あの子たちに性欲を向ける自分のような変質者がいることを誰もが知っているから。
だから目を逸らしたふりをする。"昔"と違って誰もがカメラを持っているから、撮影なんてしようものなら即バレるだろう。
いや、もう警戒されているかもしれない。こんなところに男がひとり、何もせずにいるなんて。
場所を変えようか。なんならもう帰って、目に焼き付けたあの幼い太腿――最近の子は心配になるほど細いが――で、抜いてもいい。
まだ重たいコーラの缶をもうひと呷り。そこに、
「ちょっといいかな?」
と声を掛けられた。
まずい。いよいよ怪しまれたか。若い男の声。ひょっとしたらあそこにいる子供たちの父親か。
恐る恐る振り向いて、別の驚きを抱いた。
見知った顔ではなかったが、見覚えのある顔だった。
あの「集い」の出席者のひとり。確か"B"の……
「高藤だ。よろしく、木津」
「……どうも」
握手でも求めてきそうな気さくさだったが、人ふたり分は距離を開けて立っていた。
「ここ、いいかい」
「あ、ああ。全然大丈夫」
了承はしたが、内心ではまだ警戒を解けない。妙な話だ、さっきまで自分が警戒される話をしていたのに。
僕が何を見ていたのかわかっていて説教でもしにきたのか、それとも僕を"対象"と見たのか。
そんな内心が表情に出ていたらしい。そいつ――高藤は取り出した煙草を咥えると、火を着けずに笑って、言った。
「つまんねー会だったな」
煙草を咥えているせいもあるのだろうが、およそ優等生とは言い難い声音。それこそ別人に思えるほどに。
「……そうだな、得るものはなかった」
そう返してから、まずいことを言ったかと少し後悔した。
「自分を曝け出したいが、見世物にはされたくない。そんな奴らなんか見てても面白くねえって」
そして遥かに随分な物言いに、思わず高藤の顔を見つめてしまう。
「……火か? ここは禁煙だからさ、咥えてるだけ」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ惚れたか? 別に俺はウェルカムだぞ?」
「こっちがノンウェルカムだ」
高藤は大笑いして、落ちた煙草を片手で受け止める。
「冗談だ、俺がバイってのもあの場に合わせた嘘だからな」
「マジかよ」
用意した嘘で取り繕った自分よりもずっと、あの場に馴染んでいたというのに。
「人に言えるようなものじゃないのは確かだけどな」
その言葉を発する高藤は、スイッチで切り替えたように真剣な顔だった。その目線は僕を向いていた。
促されるように、僕も視線を動かした。
水場で戯れる子供たちへと。
遊び終わった子のひとりが地面に座って靴下を履き直している。無防備に晒された白いパンツが眩しかった。
「――少し時間あるか?」
高藤の質問に、僕は振り向いて頷いた。
「俺の場合さ、なんて言ったらいいのかな」
店内BGMに隠すように抑えたトーン。もう3杯目のコーヒーを半分にして、高藤は煙を吐く。
「金を介したセックスしかできねえんだよな」
あまりに明け透けに話すものだから、それが法律や倫理に反するものだということなど考えもしなかった。
「んで、同意があったらそれ録画してさ、売るの。その金でまた買う。金が無くなったら撮らせてくれるヤツとだけヤってさ」
「……それ以外だと、興奮しない?」
遠慮がちに直接的なことを聞く。高藤はああ、と続けた。
「告られて付き合ったこともあるんだけどさ、初めてヤろうとした時に勃たなくってよ。一発でフられたね」
肩を震わせて笑う。釣られて笑っておくことにした。こんな話を聞かせるために喫茶店に連れてこられたと思うと、ここから怪しい話になるのは想像が付く。
「興味あるんならチャンネル登録を……なんてな。お前の好みじゃないだろ」
言葉こそからかいや冗談のように聞こえるが、表情や口調に茶化すような色合いはなかった。
だからこっちも軽口で聞いてみる。
「僕のストライクゾーンの子もいるんなら」
「悪いな、K以上だ。SはもちろんCもいない。俺の好みじゃない」
「残念だ」
これは冗談だったろうか。それとも本心だったろうか。
「ヤりたいって思うのか、JSと」
当然の質問だし、自問自答してきたことだ。
「体を好きにしたい、というのはある。でも……セックスは、違う――かな」
「へえ?」
煙草で灰皿を突いて、高藤が身を乗り出す。興味を隠そうとしない態度だが、それだけではないと思った。何よりも話したかった。
あの会では到底口にできないようなこと。それはずっと、行き場を探していたから。
「子供はさ、感じないんだよ。特に10歳かそこらだと。ただ痛いだけで」
「相手の方が、か」
「入るには入ると思うよ。それでこっちはイけるだろうけど……」
「そういうのは萎える、と」
「簡単に言っちゃえばね」
高藤はふぅん、とまた煙を吸い、吐く。どこかチョコレートのような香りのする煙草だ。
「あるのか、したこと」
「まさか。でもそうなった時のために色々調べたんだ。気持ち悪いだろ」
いいや、という否定は即答だった。
「好きなんだな、子供が」
それもまた、身も蓋もなく直截な質問だった。けれど、答えるべき質問だった。聞かれたいことだった。
そう、好きだ。その柔らかさを、温かさを、滑らかさを肌身全てで感じ取りたい。
「好きだよ、どうしようもなく。だけど、それは許されないことだ」
「もし相手の子の合意があれば?」
いや、と今度は僕が否定を打ち返す。
「子供に合意なんてできない。どんなに説明したって理解できないし、正しい判断にはならない」
子供はすぐに子供ではなくなる。大人になる。心も体も、そして価値観までもが変わり果てる。
その時、幼い時に自分にされた行為をどう思い返すのか。考えるまでもない。
「子供に性欲を向けることそれ自体が、全てレイプなんだよ」
だから僕は、何かを感じるだけで罪だ。
理解も許容もされない。ただただ縮こまって隠れているしかない。
「……いいよ、お前」
「え?」
高藤は煙草を深く吸う。たっぷり1センチは火が進んだ。
「言い値を払う、顔は出さない、こっちに連絡先は残さない――いくら律儀にしたところで、所詮は買春だ。自分にしか正当化できない」
けど、と火を揉み消して、残ったコーヒーを煽る。釣られて僕もカップを空けた。
「お前は自分を律してる。けれど、それじゃお前は永遠に救われない」
わかっていることだ。何度も考えて受け入れたことだ。
「僕は救われなくていい。救われるべきなのは子供の方だ」
ああ、嫌になる。自分の中にある情欲をどうにかしたくて仕方ないのに、その汚さを貼り付けたような道徳で塗り固めて。
何を言ったところで、家に帰ればいつものオカズを使うだけのくせに。
「――来週さ。また"買い"があるんだ」
高藤が切り出す。
「金に困ってるっていうシングルマザーでさ。自分だけじゃなく小学生の娘まで買えってよ」
「……買うのか」
「子供が居たら撮影は無理だって言ったんだけどな。どうにもゴネて引かねえんだ」
「断らないのか?」
「あれは面倒なヤツだ。断ったら『娘にまで手を出した』って出るトコ出られかねない、そういうタイプだよ」
「それは……」
「言ってくれるなって、こんなことしてりゃ自業自得だ。その上でお前を見込んで頼みがある」
もう1本煙草を取り出す高藤。指に持ったまま、僕をじっと見据える。
期待と危惧と嫌悪と興奮とが、聞く前から既に競り合い始めていた。
「娘も買う。買った上で、お前に任せたい」
予想はしていた。
ふざけるな、そんなことができるか。という言葉を探した。
見つからなかった。
「任せる、って……」
代わりに、期待だらけの質問をした。
「娘の撮影のNGだけは呑ませたからな。別のホテルの部屋取るから、俺と母親のが終わるまで一緒にいてくれればいい」
ホテルの一室で、女子小学生と二人。
「一応"買った"わけだから、何もしなかったって話になったらまた面倒なことになる。口裏合わせられるような子ならいいけど、そうでなかったら」
「わかった」
了承の言葉ではなかった。ただ、それ以上言ってほしくなかった。
「……悪いな」
僕の内心を知ってか知らずか、高藤はそう言った。
「お前を"本物"と見込んでだ。まあ、うまくやってくれ。礼はする」
「別にいい」
「そう言うなって。ある種の口止め料みたいなもんだ」
ほら、と差し出される連絡先のQRコード。僕はスマホのカメラでそれを読み取る。
歪なドットの群れ。
鉄格子か金網のように見えたのは、気のせいだったのだろうか。
金に困っている、というのは納得した。
母子共々ひと目でわかるほど、洗いくたびれた服を着ている。
「コートーさんの言ってたキッズさんってあなたのこと?」
母親の方が口を開いた。
あいつと、自分の即席のハンドルネームに頷いた。
「莉緒子、このお兄ちゃんと遊んでてね。ママちょっと行ってくるから」
それだけ言い残して母親は踵を返す。
香水の匂いが鼻についた。生気のない目には、何もかもに疲れたような曇りしか見えなかった。
莉緒子、と呼ばれた子は黙って頷くと、繋いだ手を離す。そこに一切の逡巡はない。
信用している、というには一度も目を合わせなかった。これは失望だとわかる。
当然だ。あの母親は娘を売った。そして僕は、間接的にとはいえそれを買った。買い与えられた、というべきか。
莉緒子はじっと僕を見上げている。
セミロングの、ぱさついた艶のない髪を、左側だけサイドテールに結っている。
美少女とは言い難い。目は薄く、野暮ったいフレームの眼鏡の下で一層小さく見える。
輪郭は下膨れて唇は厚く、並びのよくない歯がちらりと見えるように開いていた。
サイズの合わない、黄色いTシャツ。襟首はよれて、プリントされたキャラクターも明らかに退色している。
白いデニム地のキュロットには薄い染みがいくつも見えたし、靴下の毛羽立ちは立ったままでもわかった。
それでもこれが精一杯のおめかしなのか、この子のお気に入りなのか。
「……とりあえず、座ろうか」
壁際の椅子を指すと、莉緒子はストンとそこに腰を下ろした。
だらんと力を抜いた座り方。リラックスしているのか、躾られていないのか。
確かなのは、肉付きのいい太い腿がキュロットの幅の限りに開いていること。
床に膝を就いて、目の高さを合わせた。莉緒子は相変わらずじっと僕から目を離さず、これといった表情も浮かべずにいる。
そっと手を伸ばして、頭を撫でる。思っていたのよりも高い体温が伝わってきた。
莉緒子の視線がその腕の方に滑る。わずかに体を傾けて逃れるような素振りだった。
緊張と恐怖。それを感じ取って、僕は慌てて手を離す。
「急にごめん。えっと……お名前は?」
取り繕うようにわかりきったことを聞く。
「りおこ」
想像よりもずっと高い、小さな女の子の声。
「……何歳?」
「9さい」
その数字を告げられるだけで、体の芯の何かが窄まるような感覚を抱く。
「小学校……」
「3ねんせい」
りおこ JS3 9yo
そんな文字列が株式市場の電光掲示のごとく、頭の中を猛スピードで回転した。
「――触っていい?」
絞り出した声に、莉緒子はちょっとだけ崩した顔で頷いた。
両手を伸ばす。頭はもう触った。顔は――まだ早い。
肩、二の腕。柔らかい。とても。成長期の子供が蓄える脂肪分そのままに。
いや、それにしても肥満気味ではある。炭水化物中心の食事がもたらす貧困性の肥満だろうか。
光の加減もあるのだろうけど、少しだけ浅黒く思える肌をなぞって、肘から先、お腹、腰へと手を滑らせていく。
帆布のようにぴんと張ったキュロットの裾を、密入国者のように意を決して膝小僧へと越える。
そのまま両手を軽く握って、更に身を屈めた。
むっちりと潰れた太腿の奥に純白の布。
理解が追いつかない。
こんなに。間近で。堂々と。
女子小学生の生パンツを拝んでいる。
ちらりと上げた視線は、莉緒子のそれとぶつかった。
小3ロリに見つめられながら小3ぱんつを見つめている。
そのまま立ち上がらされてしまいそうなほど、僕は勃起した。
「……お洋服、脱げる?」
莉緒子の頷きはすぐに帰ってきた。膝から手を離すとすっくと立ち上がり、Tシャツを頭から抜くように脱ぐ。
そのままシャツの裾に手をかけるのを慌てて制する。
「シャツそのままでね、次スカート……パンツもまだね。あっ、靴下もいいよ!」
文字通り脱ぎ捨てるかのような躊躇いのなさに、旗揚げゲームのようなドタバタを演じてしまう。
けれどそのせいか、莉緒子の表情はようやく緩んで微かな笑みが浮かんでいた。
「えっと……そのままね」
僕はまた膝立ちになり、莉緒子の周りをゆっくりと巡る。
シャツもパンツも、やっぱりサイズが足りていない。
裾からは肩幅と変わらない胴回りと臍が覗いているし、胸のあたりはぴっちり布地が張り付いて乳頭が透けている。
肥満のせいなのか、それとも早熟なのか、少しだけ上を向いた乳房の形もはっきりと見えた。
パンツも柔肉に埋まるように、鼠径部のラインを盛大にはみ出させている。
デルタゾーンから見上げると、盛り上がるイカ腹で顔がほとんど見えないほどだった。
少なくとも、太い子が好みだという気持ちは無かった。今の今までは。
けれど今の今になっては、それこそ絶叫して転げ回りたいほどに莉緒子のカラダが魅惑的だった。
下着も靴下も全て剥ぎ取って全てを見たい。視線の比喩などではなく、舐り回したい。
その衝動を抑えるに足るものが部屋の隅にあった。
まさかこんな事に使うとは思ってもいなかったもの。だけど叶うことならそうしたいと思っていたもの。
持ってきたバッグからそれを取り出して、莉緒子に渡した。
「これに着替えてくれる? ……あっ、シャツは脱いでね」
半分だけ、衝動に屈した。
莉緒子は渡されたものを一旦ベッドに置くと、さっきやりかけた動きでさっとシャツを脱いだ。
「こっち向いて」
着替えろと言ったり脱げと言ったりこっちを向けと言ったり。
我ながら言うことが変わることに呆れるし、莉緒子の笑みも少し困ったような苦笑いに色合いを変えていた。
けれどそんなのは関係ない。
ぷるんぷるん、とか。むちむち、とか。ぽちゃぽちゃ、とか。
可能な限り可愛いオノマトペで表現したい、莉緒子の半裸。
肩、胸、腹にかけてのプライベートゾーンだけが抜かれたように真白い肌。
見せたり触らせてはいけません、と学校で教わっているであろう場所が見えていると克明に教えてくれる日焼け跡。
「……はい、着て」
逡巡たっぷりに続きを促す。
袖を通すのは白い体操服。そして足を通すのは――莉緒子が戸惑う様子を見せた。
「そっちが前だよ。うん、そうそう」
ぐい、ぐい、と引っ張り上げるように穿いてゆく、紺色のナイロン。
説明は要らないだろう。そう、ブルマーだ。
ネット通販で買った、女児用体操服とブルマー。ただそれだけでもズリネタだったのに、今日ここで一世一代の晴れ舞台というわけだ。
莉緒子の体には、やっぱり小さい。ものの見事にキツキツなフィットで、ヘソ出し、食い込み、浮き上がりと体操服に考えうる全てのエロスがそこにあった。
「ベッドに寝て。仰向け……天井向いてね」
とすん、と半ば身を投げ出すように横になる莉緒子。
僕もシャツとズボンを脱ぎ、その横へと上がる。僕が脱いだことに、莉緒子は戸惑ったような顔を見せる。
無反応とはいってもブルマー体操服姿のJSとベッドの上。それだけでむしゃぶりつきたくなる。
けれどまた、次に何があるのかわからなくて不安そうな莉緒子の顔を見ると、努めて優しくしようと思えた。
そっと手を伸ばし、撫ぜるように体のラインを探る。
たった一枚の布の向こうにある体温。両手でその胸をそっと揉む。
莉緒子は僕の手を見、次に僕の顔を見る。僕はなんとか微笑みのようなものを浮かべたけど、すぐに目を逸らされた。多分、碌な顔をしていない。
もうそれでいい。このカラダを堪能させてもらう。左手はそのままで、右手で両腿を撫で回す。外側から内側に、少しずつ。
内腿に届いた時、少しだけ莉緒子が身じろぎした。
「くすぐったかった?」
と問うと、ごそりとシーツに髪の擦れる音で頷いた。
「……ぎゅっとしていい?」
今度はちょっと時間があった。そして、莉緒子は僕の方に体を向ける。
僕は莉緒子をそっと抱き寄せた。ミルクと汗の混じったような、女児の匂い。
両腕を彼女の体に回し、そして両手を背中から下へと這わせていく。
突っ張ったブルマーからはみ出した尻肉を持ち上げるようにして撫で、揉む。
片手をむっちりと張り付いた太腿の間に割り入れ、そこにある柔らかさと形をまさぐった。
足と足の間。体の前にあるもの。パンツとブルマー、2枚の布を経てなお存在を感じるもの。
柔らかな、ワレメ。
僕は莉緒子の両脇に手を入れ、持ち上げるようにしてベッドの頭の方へとずらし、僕自身は足側へと身を滑らせた。
眼前にある、スパッツ式スク水の日焼け跡くっきりの太腿の上に緩やかなV字で食い込む紺色。
僕は遠慮なく顔を埋め、あらん限りに息を吸い込んだ。
抱きしめたときと同じ女児臭に加えて、ツンとしたアンモニア臭。
莉緒子のオシッコするところが、確かにそこにある――!
もう我慢が出来なかった。指を差し入れ、ブルマーとパンツをまとめてめくりあげる。
周囲を圧迫されてむっちりと盛り上がる恥丘。肉付きの良さで深く長く切れ込んだ、莉緒子の陰裂――ぷにぷにの、こどもまんこ!
何かの中毒患者のように震える指で、それをなぞる。
瑞々しく湿った肌が吸い付き、豊かな柔肉に埋もれて震えは収まった。
恐る恐る視線を上げると、莉緒子の視線は僕の指に注がれていた。
行為の意味を理解しているのかいないのか、ただの興味なのか。
「……気持ちいい?」
知っているはずなのに、馬鹿な質問をした。
莉緒子は黙って首を振った。
もっと触れば、という期待はしない。性感が未発達な膣前庭は痛みを強く感じるだけだ。
快楽を与え合うなんてことはできない。与えられるものなんてない。
自惚れるな。許されようなどと思うな。最低の行為に相応しい最低の人間であれ。
湿って張り付いた――僕の手汗だ――指を離す。痛まないようにそっと、と離れがたさに嘘を添えた。
「じゃあ……全部脱いで、これに着替えて」
バッグからもう一枚の持参品を取り出す。
莉緒子は体を起こして体操服を脱ぐ。仄暗い室内灯でもわかる、すべすべの肌。
どこにも痣や傷のようなものがないことに少し安心した。
もっとも、娘の体を売る母親だ。今この状況がどんな暴力よりも悍ましいものであることに違いはない。
そこに一番加担しているのが自分だということもわかっている。
わかっているが、今は忘れた。
眼の前で莉緒子がブルマーとパンツを同時に脱ぎ下ろして全裸になっているのだから。
「ちょっとそこで立ってみて」
思わずそうお願いしてしまう。柔らかなベッドの上で少しよろめきながら、だけど何も意に介した様子なく莉緒子は立ち上がる。
目の高さにワレメ。たるんだお腹越しに見上げる膨らみかけにも似た胸。
厚ぼったい唇や、低くて穴の大きい鼻が目立つ顔は余計に不細工に見えても、僕の言うがままにハダカになる女児に悪い感情を抱くはずもなかった。
「可愛いよ」
理由がどんなに浅ましいものであれ、その言葉に偽りはなかった。
ふしゅ、と空気の抜けるような莉緒子の笑い。
「可愛い」
もう一度、今度は打算を込めて。
目論見通りに莉緒子は僕にはにかむ笑顔を見せた。
「……はい、着てみて」
手渡された、ブルマーよりも少し明るい青色のそれを、莉緒子はまじまじと見つめた。
ああ、知らないんだ。そのことがまた僕を興奮させる。
「こことここに足を通すの。水着だよ」
促された通り――そして狙い通りに、遠慮なく片足を交互に上げてそれを履く。
太腿の間の長いワレメがむにむにと動き、そして青色に覆われる。
「それでそのヒモ、肩に掛けて……そうそう」
そう、これはスクール水着。いわゆる新スクの競泳タイプと呼ばれるもの。
案の定、これもサイズは合っていなかった。引き上げるほどに股布は鼠径部に沿って食い込み、豊満な大陰唇がはみ出している。
肉を浮かす肩紐が気になるのか、莉緒子の姿勢は少し前のめりだ。
同じスクール水着でありながら、スパッツ式とは比べ物にならない露出であることをありありと示す日焼け跡。
隠しているはずが締め上げられてより肉感とエロスを際立てている造形が、あまりに背徳的だった。
もうこれで伸び切ってしまうだろうが後悔はない。莉緒子のカラダを覚えたスク水になるのだ、これは。
僕は足を胡座に掻くと、莉緒子へそこに座るよう促した。
ベッドのスプリングを沈み込ませながら莉緒子が歩み寄ってくる。それでも僕よりずっと軽いのがわかる。
僕の前まで来た所で後ろを向く。眼前にはたった数歩ですっかり水着の食い込んだヒップが広がる。
顔を埋めたくなる間もなく、莉緒子が腰を下ろす。遠慮がちに、ゆっくり。沈むベッドにバランスを失って、僕に寄りかかった。
柔らかくて温かい感触。体臭というには甘い香り。
鋼鉄の硬さにまで至った剛直は、顔の代わりに莉緒子の尻肉をぐりぐりと押し上げている。その感触が気になるのか莉緒子が腰を動かす度に下着が擦れる。
その刺激でもなお足りず、下着から陰茎を露出させた。
既に先走りに塗れた亀頭が莉緒子の肌に直に触れる。今までとは違う感触と熱に驚いたのか、かすかに逃れるような力が入った。
それを抑え込むように抱き締めた。少しでも多く肌を密着させたくて。
そこに抵抗はなかった。
僕は手を這わせた。ポリエステルの滑らかさに任せて、その薄布一枚下にある幼い肉体へ欲望を擦り込むように。
生殖の可能な年齢に達していない子供への欲情は、性欲や愛情ではなく支配欲であり破壊欲であるという。
自分もそう信じて自らを諌めてきた。そのはずだったのに。
牡の本能が、今ここにある牝の体を求めている。
無理だ、やめろ、できっこない。理性がいくら命じたところで手が止まらない。
気を抜けばそれこそただの破壊欲となって、この小さなカラダを蹂躙しにかかるだろう。
自分から引き離すように、莉緒子の両肩を押した。逃げてくれ、という気持ちがあった。
けれど莉緒子はそのまま両手を前に就いた。
つまり、僕に臀部を突き出した四つん這いの姿勢になった。
もうそこに思考はなく、僕は何も言わずピチピチに張り詰めた股布をずらす。
そこにあるものなんてわかっている。好きにしていい女児の性器。
柔らかな陰唇を両の親指で押し広げる。
はあぁ、とガラスを曇らせるような息を吐く。
綺麗なサーモンピンクの膣前庭。
張りも弛みもなくぴっちりと伸びる陰核包皮。
成熟したソレをアワビと呼ぶなら、せいぜいがアサリといったところの小陰唇。
尿道口よりも小さな膣口。その周囲を蜜蝋のように覆っているのは、紛れもない処女膜。
口を半開きにした僕は今にも涎を垂らしそうなほどに惚けていた。
その涎を右手の人差し指で掬うと、包皮をなぞり上げた。
つるつる、すべすべ。少しずつ、少しずつ。まさしく新品の包装を解くがごとくに。
少し充血して桃色になった包みが捲れる。豆粒どころか芥子粒のような莉緒子のクリトリスが露わになった。
この世界で初めて、僕だけが目にしたもの。9才小3現役JSの陰核。
このオンナは、僕のモノだ。
原始的で暴力的な支配欲。
「――全部脱いで」
莉緒子にそう言いながら、僕は自分も裸になる。
下ろしたトランクスから飛び出たペニスはしたたかに腹を打った。
その間が抜けた音に興味を惹かれたのか、莉緒子が僕に向き直る。
生まれたままの姿で、何を隠すでもなく。
だから僕もそうした。彼女が見たこともないようなモノを目の前に突きつける。
未知のものに怯えるだろうか。どうすればいいかわからず戸惑うだろうか。年相応にチンコだと笑うだろうか。
どの予想――或いは期待――も外れた。莉緒子の表情は変わらない。
微かな苛立ちを隠して、言う。
「手で握って、動かしてみて」
反応は躊躇いなかった。手伝いでも頼まれたような気軽さで、莉緒子の小さな手、ふくよかで短い指が僕のモノに巻き付く。
その感触により一層硬さが増す。だが次の瞬間、莉緒子は何の指示もなく手のストロークを始めた。
ぐいぐい、というたどたどしい手付き。だけどそれは、どういうことをするかを知っている手付きでもあった。
驚きと刺激で情けなくも腰が抜けそうになる。
左手が莉緒子の頭を押さえ、引き寄せる。
不安と期待と、何よりも性衝動でもって言う――命じる。
「口に入れてみて」
知るはずもない行為。真っ当な感覚なら受け入れるはずもない要求。
差し出された飴を頬張るような気安さで、莉緒子は僕のモノを咥えた。
頬を窄めて唇を密着させ、なおかつ口腔内は歯の当たらないように縦長に開いて。
左手の力が抜ける。莉緒子の頭が少し引く。
なのに、また力を入れたわけじゃないのに。
また莉緒子は頭を寄せる。そして引く。繰り返す。
無垢なワレメと密封に近い処女膜を持つ、まだ年齢一桁の女児が、僕にフェラチオをしている。
ぷは、と莉緒子が口を開ける。桜色の舌が伸びて、亀頭の裏側を擦り上げるように舐め回した。
「……ごめんッ!」
僕は莉緒子の頭を押しのけ、握った手を抑え込む。
僕の先端から勢いよく白濁した粘液が飛び出した。
ぴしゃっ、と音が立つほどの勢いでそれは莉緒子の胸と腹を汚す。
口に出してはいけないと思ったのは、本当に咄嗟のことだった。
むしろここまで見て、触れて、嗅いで……よく発射せずにいたとも思う。
莉緒子は自分にかかった僕の精液をじっと見て、次に僕の目を見た。
次はなにをすればいいのか聞いてくるような「良い子」の目。
売られることも、見られることも、触られることも、この子は慣れているのだと理解した。
「……上手だね」
また空気の抜けるような音で、並びの悪い歯を見せて笑う。
「こういうの、誰かに教えてもらった?」
こくん、という頷き。
「お母さん?」
今度は横に振られる首。
「しらないおじさん。あたらしいおとうさんだよっていってた」
「……今もお父さんと、こういうことする?」
もう一度、首は横に振られた。
「おとうさん、いない」
「おじさんにこういうことされたって、お母さんに言った?」
「いった」
なるほど、とどこか安心している自分がどうしようもなく卑しく思えた。
娘の体目当ての再婚相手を拒絶する一方で、娘の体を売る母親。
考えたところで理解なんてできないだろうし、事情がどうあれ僕に何が出来ようか。何が言えようか。
僕はこの娘を買った男だ。何をどうしろと頼まれたわけでもない。
ただこの幼いカラダを好きにさせてもらう。それだけ。
「――じゃあまた上向いて寝て、足を広げて」
タトゥーのように僕の体液が付けた模様。桃色の輪が彩る両胸。ぷっくり盛り上がったイカ腹の下にまっすぐ伸びるスリット。
これをどうしようもなく淫猥に感じてしまう己を、たちまち硬さを取り戻す陰茎に自覚する。
改めてそのスリットを割り広げた。まだその役目を知らない桜色の未成熟な生殖器。
湿潤するということすらこの合わせ目はできていない。
男女の営みなどここに生まれるはずもないのだ。
「莉緒子ちゃん」
「はい」
名前を呼ばれて素直に返事をする。こんな状況ですら。
「さっき莉緒子ちゃんがお兄ちゃんのぺろぺろしてくれたから、お兄ちゃんもしていい?」
今度は返事がなかった。歯の間から息を漏らす苦笑いで目を逸らす莉緒子。
返事は最初から必要なかった。これはコミュニケーションじゃない。消費、使用、賞味。そういう一方的なものだから。
舌を伸ばし――思ったよりも自分の舌は短かった――顔を埋めるようにして、莉緒子のワレメに押し当てる。
汗とも尿ともつかない塩味と、お世辞にも香りとは呼べない臭気。考えてみればお互いシャワーも浴びていない。
「くすぐったい!」
一際大きな声がした。これまでで一番感情のこもった莉緒子の声。
身を捩って逃れようとする様は、あたかもレイプシーンのようでもあった。
事実としてそうなのだから当然だが、莉緒子はそんなことを知るはずもなく。
大人の力で押さえつけて、情欲のままにダラダラと溢れ出す涎を舌も唇も使って塗り込んでいく。
きゃあきゃあとした笑い声は、次第に低い声に変わっていく。
「ねえやだ、きもちわるい!」
もう自分の唾液の味しかしなくなった頃、はっきりとした拒絶の言葉が来た。
口を離したのは別にそれが理由なんかじゃない。
これだけ濡らせばいいだろう、というだけ。
大きく股を開いた莉緒子の、幼い、ぽっちゃりとした、ハダカの、カラダを、引き寄せる。
ぴたりと密着する、僕と莉緒子の生殖器官。
いや、それは正しくないか。
子を為す機能を保たないただの肉の隙間と、そんなものにしか機能しない肉の棒。
だから、それですることも正しくない。
莉緒子のスリットに沿わせて僕をぴったりと押し付ける。
性感でもって女児の一番秘めた肉を感じ取る。脳髄まで痺れる。
そのまま腰をグラインドさせ、何度も何度も擦り付ける。
皮のすっかり戻ってしまった莉緒子の陰核に、僕の亀頭の裏側が甘く引っかかる。
その度に僕の鈴口は感涙のようにカウパーを垂れ流した。
舐め込んだ唾も塗り込む先走りも全て僕のもの。莉緒子のものは何もない。
そう、何もないならただのモノだ。僕はモノを使って自慰をしているに過ぎない。
これはセックスではない。
ここに合意はない。
僕と莉緒子は、なんでもない。
快感とは別の、もっと嫌な感情に突き動かされて終わりを目指す。
何もかもが間違いだったんだ。
全部終わらせて、都合のいいことだけ記憶したら、あとは全て忘れて――
そう思った時、莉緒子が体を揺らした。
左右ではなく上下。
逃れるのではなく、押し付けるように。
驚いて腰の動きを止める。
莉緒子はワレメを僕の裏筋に擦りつけていた。
その視線は結合部――もとい摺動部に注がれていて、口元は微かに緩んでいるかのように見えた。
ふとその動きを止めて僕を見る。僕は何かに応じるように二往復。合わせるように莉緒子も二度、行ったり来たりのグラインド。
幼稚園児の手遊びにも似たコールアンドレスポンス。
「……面白い?」
気持ちいい? とは聞かなかった。頷いてほしかったから。
莉緒子は頷いてくれた。
きっとこれは彼女にとって他愛もない、なんだかよくわからないことの中で見つけたほんの少しの遊びに過ぎない。
それでも僕は、即座に発火しそうなほどの快感とそれ以上の幸福、そして興奮を覚えていた。
莉緒子が動く度に、僕の陰茎は射精を促されてビクビクと震える。
莉緒子が僕に、快楽を与えてくれている。
莉緒子はそれで、笑ってくれている。
僕は、愚かになることにした。
何も知らない少女を犯すこの行為を、セックスだと錯覚することにした。
数を数えたり、速さを変えたり。一緒になって動いたり。
ベッドのスプリングが小さく音を立てる。スタンドの灯りが揺れる影を壁に映す。
男と女、牡と牝の営みだ。
下膨れの輪郭、薄い目、野暮ったい眼鏡、呆けたように開いた厚い唇、そこから見える並びの悪い前歯。
粘膜に生まれる幻想は、その全ての認識を狂わせていた。
「……大好きだよ」
幻想も口にすれば事実だった。
僕を気持ちよくしてくれる女の子。
好きになって何が悪い。
愛してしまって何が悪い。
擦り付けが止まらない。息が上がってくる。
照れと戸惑いが入り混じった苦笑いに顔を寄せ、額を合わせた。
傍目には、大人の男が小さな女の子に覆い被さっているだけの姿だろう。
それがどうした。僕は。今だけは。
この子を愛している。
僕は先端を莉緒子の中へと埋めた。
挿入と呼ぶにはあまりに浅く、亀頭の半分も陰唇に挟まっていないような形。
それで十分だった。
僕は莉緒子の唇に自分のそれを重ねた。
逃れるような動きはなかった。
これもされたことがあるだけなのか、それとも受け入れてくれたのか。
今は都合よく考えることにする。押し付けた唇を開き、舌を割り入れる。
今度は逃れるような動きがあった。ベッドに押し付けきっていたから、身じろぎにもならなかった。
唇の柔らかさ、舌の滑らかさ、そして何よりも――マンコの、気持ちよさ。
ヒトのオスとしてあるべき場所に僕は居た。
ヒトのオスとしてするべきことを僕はした。
射精。
射精。
止め処無い、大量の射精。
生まれてから9年しか経っていない女児の膣前庭に。陰核包皮に。成長期にも持て余した脂肪に膨れた腹に。
日焼け跡の対比で一際白く見える肌に、汚れた白をぶちまけた。
虚脱と充足が同時に僕を襲った。
輪郭ごと崩れ落ちてしまいそうな体は、悠然と起き上がる。莉緒子の頬を撫でる余裕まで見せて。
僕の欲情の全てを受け止めた莉緒子の方こそ呆然とした様子で、意味もわからず――彼女にとっては――体を離した僕と、僕がぶちまけたものを見比べていた。
お腹に飛び散る粘液を突っつき、摘み、塗り拡げる。無邪気な絵の具遊びみたいに。
それは自ら僕のマーキングを肯定してくれているようで。
もっと抱きたい。今度は貫きたい。泣こうが喚こうが、孕めなかろうが関係なく抱き潰したい。
でも、そうしなかった。そろそろ時間かもしれないというのもあったけど、何よりここが――自分勝手もいいところだが――僕の踏み止まるべきところだと思ったから。
「莉緒子ちゃん」
呼びかける声は、気持ち悪いほど穏やかで。
「お風呂入ろうか」
莉緒子の返事は、笑ってしまうほど素直な頷きだった。
狭いユニットバスの中で、僕は莉緒子の体を丹念に流した。
それは汚したものを洗い落とすためでもあったし、目と手に二度と触れることのないであろう女児の裸を焼き付けるためでもあった。
バスタブの縁に片足を乗せる形で足を開かせ、中に入った精液もボディソープを馴染ませた小指でそっと掻き出した。
ふやけて皺のできた大陰唇は充血してはいたものの、出血はなかった。
処女膜も破けることなく残っていたが、もうそれは純潔の証などではなかった。
この子の粘膜は、男の精液に触れた。その体を情欲のままに弄ばれた。
それをしたのが僕だ。
感じるべきは罪深さであろうに、浅ましい支配欲が充足すら覚えさせている。
「莉緒子ちゃん」
図々しく僕は呼びかけた。
「今日のこと、嫌だったら僕だけを恨んで欲しい」
そして図々しく願った。
莉緒子はよくわからない様子で立ち尽くす。
「君に何もしないことを選べたのは僕だけだ。でも僕は君にひどいことをした。僕が我慢すればよかったのに」
ああ、反吐が出る言い訳だ。
こんなこと、伝わりもしない相手に吐露したところで何になるのか。
自分で自分を許そうとしている自分が許せない。
「――でも、君が欲しかった。一度でいいから、この気持ちが満たされたかった」
小さな女の子を抱く。許されるはずのないことを、それでもしたかった。
心の底から欲しいと感じる誰かを、体の全てで感じたかった。
そうすれば満たされるかもしれないと思っていたから。
「いつか意味がわかる時が来る。悪いのは、僕だ」
満たされやしない。この思いは、精を浴びたこの子にだって伝わらない。
小児性愛者は満たされない。満たされていけないのではなく、満たす方法が無い。
性欲も精も想いも、ただ吐き捨てていくしかない。
莉緒子は何も言わない。項垂れる僕をただただ見つめるだけ。
理解できないものは、許すことも軽蔑することもできないから。
僕は受難者を気取りながら、その無垢な裸身を前に蹲り続けた。
莉緒子の母親が迎えに来たのは、23時を前にした頃だった。
さっきとはまた別の影が差したような顔は、時間のせいばかりでもないだろう。
この人は高藤に抱かれている間、どれだけ莉緒子のことを思ったのだろうか。
それとも全てを忘れて、ただ一人の女になっていたのか。
考えても仕方がない。僕は莉緒子を促す。
母親は莉緒子の手を握る。
「――痛かった?」
母親が娘にする質問としては、あまりにグロテスクなもの。
僕の前でそれをするというのは、せめてもの復讐なのだろうか。
売ったのはお前だろう。そう言いたくもなる。
だけど。
「いたくなかった」
莉緒子はそう答えた。
母親は僕を見る。抱かなかったのか。そう聞いているようだった。
「……子供が泣くのは、見たくないんで」
どうとでも取れるような返事をした。
もし処女膜の有無を確かめたとしても、正しい理解がされるとも思えないがどうでもいい。
「あなたなら大丈夫ってコートーさんが言ってたけど、そういうこと?」
「ご想像にお任せします」
せいぜい気に病むといい。僕の半分くらいは。いや、もっとかな。
これは僕と莉緒子だけの関係だ。聞きたいのなら莉緒子から聞くといい。
程よく気を悪くしてくれたらしく、母親は何も言わずに振り返ると、莉緒子の手を引いて部屋を出ていく。
ドアを潜る時、莉緒子が僕を見た。
莉緒子は並びの悪い歯を見せて笑うと、僕に手を振った。
手を振り返した僕は、どんな顔をしていたのだろう。
「悪かったな」
高藤はチョコレートのような香りの紫煙と共に謝罪の言葉を吐いた。
「別にいい。得難い経験だった」
冗談にしては固い返事だったし、まあ見下げ果てた言葉には違いなかった。
日付の変わった深夜のファミレスは席もまばらで、僕らもどこか小声で話している。もとより大声でできる話ではない。
「まあな、そうそうある話でもない。二度目は期待せず待ってくれ」
「多分、二度といい」
席代のように注文したポテトをひとつ摘む。塩味は物足りなかった。
「……最後までしたのか」
こいつには答えておこうと思った。
「ある意味ではね。でも、膜は破かなかった」
下世話な質問をされても構わないと思っていた。
「生々しいな」
「説明はしたくない」
わかってるよ、と高藤は煙を振った。
「生々しいついでにこっちの話だけどな。事の最中に旦那や彼氏に謝る女はよく居るんだ。娘に謝ってるのは初めて聞いた」
聞きたくない、と言うほど僕は高尚ではなかった。テーブルに肘を就き直して続きを促す。
「娘に貞淑を詫びるってことはないだろ。自分と同じことされてるって思ったんだろうな」
高藤はまた深く煙草を吸う。赤さを増す火が質問のように見えた。
僕は吐き出される煙が消えるまで考えてから、答えた。
「何もわかってないから、良いんだ。だから何も教えなかった。痛いってこともね」
本当に、他愛のないことのように。
小学生を犯した男の、最低の持論を説いた。
「難儀だな」
「ああ、難儀だ」
セクシャルマイノリティ? いいや、ただの性癖倒錯者だ。
社会がどんな変容をしても受け入れてはならないもの。
良心と法と道徳において戒められるべきもの。
「――本気で好きにはなるなよ。正しさを錯覚する」
「わかってる」
3杯目のコーヒーはブラックで。
あの時の感情を洗い流すために。
正しさの錯覚。正当化とは違う、もっと利己的なもの。意図的な忘却。
「間違わなきゃ救われない。そういうものなんだ、僕たちは」
その複数形に含むのは高藤ではなかった。
この世界中に隠れて生きるしかない僕の同類たち。
「今日、お前は"救われた"か?」
美しい否定はどこにもなかった。
何をどう言い訳しようと、今日の僕は9歳の女の子を犯して満たされた。
隠すべきじゃない。僕は頷いた。
「そして救ったんだよ、あの子をな。少なくとも平気で膜を破るような奴からは、な」
「詭弁だよ」
「それでも事実だ」
「やめてくれ、それこそ正しいことに思える」
「正しさが救えないものを救ったんだ。誇れなくても覚えておけよ」
まだ熱い残りのコーヒーを呷る。口の中も喉も焼かれるように熱い。
それでも、それが裁きの代わりならば。
身勝手にそう思うことにした。
店を出て高藤と別れた。
終電の近い街にまだ残る人の群れ。
僕のしたことなど知る由もなく「当たり前」が過ぎてゆく。
息をひとつ吸って、吐く。鼻腔の奥に残る莉緒子の匂いを探して。
僕は過った。そして救われた。救われてしまった。もうこれでなければ救われない。
莉緒子は今日のことをいつ理解するだろうか。
そして僕を見つけて償わせようとするだろうか。
それはもう取り消しようのないこと。ギロチンの刃は降り始めた。
だから。
僕だって救いを求めよう。
いつか裁きを受ける時が来るまで。
その時が来たのなら、また君に逢えるから。