※この作品はR-18です。

最強最悪のヴィラン   作:神帝国

3 / 3
完結

 

 

「……お断りだ」

 

 

 

 

 

 

 

出久が、震える拳を握り直す。

 

「誰かを駒にして成り立つ世界なんて、俺たちが守りたいものとは違う」

 

「そうだ……」

 

爆豪も、立ち上がる。個性が出ないままでも、拳を構える。

 

「舐めるなよ、化け物が」

 

 

くだらない。

 

最初から分かっていたことだ。

オール・フォー・ワンを倒したばかりの人間が、その場で膝を折るはずがない。だからこそ、最初から「説得」など本気で期待していなかった。

 

あの問いかけ自体、必要のない儀式だった。連中に「選択肢」を与えたという事実が、後々この世界を作り変える際の正当性として機能する――それだけの意味しかない。

 

返答を聞く前から、俺はすでに次の段階に移行していた。

 

上空に浮かぶ巨大な脳――それは、本体の「分体」、いわば遠隔操作用の端末に過ぎない。本体そのものは、この瞬間も、地球から遥か離れた月の裏側、深く掘り込まれた研究施設の最深部で、微動だにせず安置されている。

 

万が一を想定し、本体は常に絶対安全な場所に置く。これは俺が積み上げてきた力の、最も基本的な運用原則だ。神になろうとする者が、たかが人間どもの一撃で終わる――そんな滑稽な結末など、あってはならない。

 

故に、この戦場に立つのは、すべて「捨て駒」だ。

 

 

「分倍河原仁の個性、起動」

 

俺の号令一つで、上空の脳――いや、その内部で待機していたクローン体が、瞬時に二つに分かれる。

 

二つが、四つに。

四つが、八つに。

八つが、十六に。

 

「な――」

 

出久が言葉を失う間にも、増殖は止まらない。十六が三十二に、三十二が六十四に。分裂は加速度的に進み、わずか数秒の後には、戦場の上空が無数の「俺」によって埋め尽くされていた。

 

その一体一体が、生命操作の集合体であり、全身に幾百もの個性が織り込まれた怪物だ。

 

しかも――俺はそのすべてに、致死量を遥かに超えるイディオ・トリガーを投与済みだ。理性を鈍らせ、個性の出力を極限まで膨張させるドラッグ。本体であれば自殺行為だが、これらはただの「実行体」でしかない。壊れれば、また作ればいい。

 

理性も恐怖も持たぬ、災害そのものとなったクローンたちが、一斉に地上へ降下を始める。

 

 

「来るぞ……!」

 

轟が叫んだ瞬間、最初のクローンが地に降り立つと同時に、周囲一帯が爆発的に隆起した。

 

ビーム、火炎、酸、結晶化、重力歪曲――一体の「俺」が振るう個性だけで、ちょっとしたヴィラン数十人分の脅威に匹敵する。それが、今この瞬間、何百体と地上に降りてきているのだ。

 

「これは……っ!」

 

イレイザー・ヘッドが、咄嗟に生徒たちを庇いながら歯を食いしばる。だが、彼の腕に纏わせた巨大な力は、すでにガスの影響で発動しない。

 

生身のまま、その嵐の中に身を投げ出すしかなかった。

 

「先生……!」

 

轟が叫ぶ。だが、声が届く間もなく、オリジオンの巨体が、複数のビームに同時に貫かれて崩れ落ちた。

 

「やめろ……っ、やめろぉぉっ!!」

 

出久の絶叫が、戦場に響く。だが、応えるものは何もない。

理性なき災害の群れに、交渉の余地などあるはずがなかった。

 

 

良い。これでいい。

 

俺はクローンたちの視界――すなわち俺自身の視界を通して、戦場の崩壊を冷静に観察する。本体は今、月の静寂の中で、その光景をただのデータとして受け取っているに過ぎない。痛みもなければ、恐怖もない。あるのは、淘汰の過程を見る、純粋な観察者としての視点だけだ。

 

寄生虫に操られた裏切り者たちが、混乱の中で更に背後を突く。

 

戦闘ロボットの群れが、生き残った者たちを機械的に追い詰める。

 

そして、倍々に増え続ける「俺」たちが、戦場全体を埋め尽くしていく。

 

数の暴力、力の暴力、裏切りの暴力――三重に重なった災害が、もはや人間の理解の及ばない規模で、ヒーロー連合を押し潰していく。

 

「これが……これが、お前の理想なのか……っ!」

 

出久が、血を吐くように叫ぶ。残ったワン・フォー・オールの力を振り絞り、最後の抵抗を試みる。だが、その一撃は、増え続けるクローンの数に呑まれ、何の意味も成さずに消えていった。

 

「お前ら一人一人を見ているわけではない」

 

俺の声――いや、何百という「俺」の声が、同時に戦場に響く。

 

「お前らは、選別の対象でしかない。生き残れば駒。死ねば、それもまた、淘汰の結果でしかない」

 

戦場に、もはや反論の声は上がらなかった。

 

ただ、災害の数だけが、無慈悲に増え続けていく。「お前ら一人一人を見ているわけではない」

 

俺の声――いや、何百という「俺」の声が、同時に戦場に響く。

 

「お前らは、選別の対象でしかない。生き残れば駒。死ねば、それもまた、淘汰の結果でしかない」

 

戦場に、もはや反論の声は上がらなかった。

 

ただ、災害の数だけが、無慈悲に増え続けていく。

 

 

「緑谷……っ!」

 

爆豪が叫ぶ。だが、その声も、降り注ぐ熾烈な攻撃の中に呑まれていく。

個性を封じられたまま、人間としての限界の中で、それでも拳を振るい続ける生徒たち。プロヒーローたちは、最後の意地で生徒を背に庇いながら、次々と倒れていった。

 

轟焦凍が、最後の力を振り絞って氷の壁を作る。だが、それすら一体のクローンが放った熱波で、瞬時に蒸発した。

 

「ぐ……ッ」

 

「轟くん……!」

 

葦戸睦が、力の入らない足を動かして駆け寄ろうとする。だが、彼女の眼前にもう一体の「俺」が降り立ち、無造作に手を伸ばす。

 

それ以上のことは、語る必要もないだろう。

 

 

最後に残ったのは、緑谷出久、ただ一人だった。

 

ガスの影響が彼にも及び、ワン・フォー・オールの力は、もはや一欠片も発動しなかった。それでも彼は、瓦礫を背に、震える足で立ち続けていた。

 

「……どうして」

 

掠れた声で、出久が問う。

 

「どうして、こんなことを……みんな、ただ、誰かを守りたかっただけなんだ……」

 

「知っている」

 

俺は、淡々と答える。

 

「だが、守るという行為そのものが、もう必要のない世界を作る。それが俺の理想だ。誰も傷つかず、誰も争わず、誰も迷わない――そのために、まず、お前たちのような『抵抗する意志』を持つ者から、淘汰しなければならない」

 

「それは、ただの……支配じゃないか……」

 

「支配で構わない」

 

俺は、初めて僅かに「感情」に近いものを言葉に乗せる。

 

「ヒーローという概念自体が、結局は『誰かが誰かを守る』という、不安定な構造の上に成り立っていた。守る者が倒れれば、守られる者も終わる。お前たちが命をかけて積み上げてきたものは、所詮、脆い砂上の楼閣だ」

 

「俺は、その構造そのものを作り変える。すべての生命が、俺という一つの意志のもとに統一される。争いも、不安も、迷いも、存在しない世界だ」

 

出久が、何かを言おうと口を開く。だが、その声が出るより先に、無数のビームが、彼の全身を貫いた。

 

戦場に、静寂が訪れた。

 

 

すべてが終わった後、俺は分体を通して、瓦礫と化した街並みを見渡す。

 

A組、B組、士傑高校の生徒たち。

 

プロヒーローたち。誰一人として、生きてその場に立ってはいなかった。

 

代わりに残ったのは、寄生虫によって完全に従属した者たちの群れと、倍々に増え続けた数百万の「俺」、そして静かに鎮座する戦闘ロボットの残骸だけだった。

 

俺はこの光景を、本体が安置されている月の裏側から、ただのデータとして受信する。

痛みもなく、感慨もなく、ただ「淘汰が完了した」という事実だけが、俺の中に刻まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数年が経った。

 

世界は、表面上、何も変わらなかったように見えた。

 

俺が裏で経営する巨大企業は、依然として世界経済の中心にあり続けた。各国の要人、研究機関、軍、メディア――そのほとんどに、すでに俺の寄生虫が浸透していた。

 

雄英をはじめとするヒーロー養成機関は、表向きには「決戦の犠牲」として静かに歴史の中に埋葬された。新しいヒーローたちが現れることはなかった。

 

 

なぜなら、もう「ヒーロー」という概念自体が、必要とされる世界ではなかったからだ。

 

俺は、寄生虫によって従属させた人類の指導者たちを通じて、徐々に、しかし確実に、世界の在り方を作り変えていった。

 

新しい宗教が、各地で静かに広まっていく。

 

教義の中心にあるのは、唯一神への絶対的な信仰。表向きには古くからの伝統宗教の体系を装いながら、その実、すべての教義の根底には、俺という存在への崇拝が組み込まれていた。

 

逆らう者は、異端者として静かに排除されていく。

公には「事故」「失踪」「病死」として処理され、誰もその裏に隠された真実に気づくことはない。

 

人々は、知らず知らずのうちに、俺という存在の庇護のもとで生きるようになった。

争いは減った。犯罪は減った。貧困も、徐々に解消されていった。すべては俺の個性によって生み出される無尽蔵の資源と、寄生虫による完璧な管理体制のもとで、実現されたことだった。

 

それは、確かに「平和」と呼べるものだったのかもしれない。

 

だが、その平和の根底にあるのは、自由のない、選択のない、ただ一つの意志に従うことを強制された、完全なる管理社会だった。

 

 

俺は今、月の裏側、静寂の中で、地球を見下ろしている。

 

この惑星のすべての生命が、いつか俺という一つの意志のもとに統一される日を、俺は確信している。

 

人間という種は、争いと迷いの中でしか生きられない、不完全な存在だった。

だからこそ、俺が――神となった俺が、その不完全さを正してやる必要がある。

 

それが、俺の理想とする世界。

 

すべての生命が、俺を崇め、俺に従い、俺のもとで安らかに生きる世界。

 

その完成まで、あと、どれほどの時間が必要だろうか。

 

俺は、静かに、次の段階への計画を練り始める。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【R18】性ホルモンを弄ってヒロアカ無双(作者:おろしポン酢)(原作:僕のヒーローアカデミア)

ヒロアカの世界に転生したオリ主が、チート転生して好き勝手にする話。▼※この作品のテーマが途中で変わったので、それを含めてまた構成を変えています。


総合評価:3870/評価:8.81/連載:10話/更新日時:2026年10月03日(土) 18:00 小説情報

個性『異生獣(スペースビースト)』~僕とトガちゃんの共犯者物語~(作者:復活のB)(原作:僕のヒーローアカデミア)

『連続失血死事件』▼世間を騒がせるヴィラン───トガヒミコ▼その傍らには、もう一人の‘‘怪物,,がいた▼ヴィラン名『スペースビースト』▼本名『綾瀬黒斗』▼無数の‘‘異生獣(スペースビースト),,を操り、自らもビーストへと変貌する少年▼だが彼は、生まれながらの怪物でありながら誰よりも人間を理解していた▼そして誰よりも、一人の少女を理解していた▼これはヒーローの…


総合評価:631/評価:7.12/連載:16話/更新日時:2026年09月08日(火) 19:14 小説情報

第四魔法使いのヒーローアカデミア(作者:ネル)(原作:僕のヒーローアカデミア)

魔法使いは、人を救う英雄ではない。▼ヒーローは、全てを救える英雄ではない。▼ならば誰が、誰なら全てを救えるのか。▼個性事故で個性社会に放り出された魔法使い、箱内狭。▼矛盾を抱えたまま生きる魔法使いと、彼を巻き込んでいく個性社会の面々による、僕のヒーローアカデミアIF。▼これが俺の考えた第四魔法の答えだ!▼皆も型月魔法考察沼に入ろうぜ!


総合評価:330/評価:7/連載:15話/更新日時:2026年10月04日(日) 20:30 小説情報

なんかしらんけど原作壊れてたので、ヴィランデクにして王にします。(作者:ライジール)(原作:僕のヒーローアカデミア)

TS転生してヴィラン『ジョーカー』が、見守っていたら何故か原作が壊れたので、デクを拾って『ヴィランデク』を作ろうと思います。▼ジョーカーの立ち絵が完成しました▼【挿絵表示】▼トガヒミコの立ち絵▼【挿絵表示】▼トゥワイスの立ち絵▼【挿絵表示】▼ロワ・ザ・ワールド▼【挿絵表示】▼R18▼https://syosetu.org/?mode=write_novel_…


総合評価:2888/評価:7.53/連載:10話/更新日時:2026年10月09日(金) 01:00 小説情報

【R18】ながされて性乱島(作者:星屑の騎士)(原作:色々)

普通の男子高校生、神凪 悠二はある日、気がつくと見知らぬ場所にいた。▼そこは、二次元の女の子たちが流れ着く夢のような島だった。▼悠二は、そこで二次元美少女たちと仲良くなり(意味深)、その果てに何を為すのか。▼【注意事項※確認必須】▼※該当キャラが登場するようになってから作品名タグを追加させていただきます。▼※タグを確認のうえでの閲覧をお願いします。苦手な場合…


総合評価:2070/評価:8.88/連載:16話/更新日時:2026年10月17日(土) 19:17 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>