魔王サイドも欠陥だらけな世界観で、そろそろ真面目な感じでいきたいと思います。安心してください!ヒロインはセレナです!
という事でもう最終回目前なのですが、またお暇な時にでもお付き合いください。
「結婚……だと……」
魔王の娘の爆弾発言を受け、この場の空気は氷点下にまで下がっていた。それも無理はないだろう。魔王の溺愛していた娘が、たった数日前に出会った男に奪われるのだ。そりゃ納得行く筈が無い。あたしだって納得していない!
「はい!お父様の後任としても申し分ない知略を持ち、政治力、交渉力も並の冒険者とは思えません!そして、何より私の事を大切にしてくれると約束してくれまして……」
「いや、確かに大切に扱うとは言ったが、それは捕虜としてって意味で……」
「もう!ここで怖気付くなんて男らしくないですよ!お父様に結婚の許しを乞うと言ってたではないですか!」
スリスリ
カズマの胸に擦り寄る娘の顔は、もはや完全に恋する乙女だ。周りに人型の男がほとんど居ないコイツにとって、紳士的で甘やかしてくれるカズマはさぞいい男に見えるのだろう。誰かミツルギを連れてこい。顔だけならアイツのが良いはずだ。
「殺す……中立と和平を受け入れても貴様は殺す……うちの娘に手を出すとは……」ゴゴゴゴゴゴゴ
「いやいや!手なんて出してないから!俺はどんだけ手が早いと思われてんだよ?!」
「そうです!カズマ様は結婚するまで手を出さない紳士的な方ですよ!まぁ、今日中に結婚して明日には結ばれちゃうのですが……」
「そうかそうか……よし、今日中に殺す!」
「いやだから話を聞いて?!」
一応魔王と勇者の邂逅だと言うのに、なんだこの緊張感の無さ。と言っても、カズマに勇者の自覚なんてないんだろうけど……
「そうですよお父様!世継ぎが産まれたら、毎日高い高いするって親戚の子を見てしゃいでましたよね?」
「いっ、言ったかも知れんが、娘に手を出すコイツは他界他界させる!」
「いや2回繰り返す言葉じゃねぇよそれ?!」
はぁ……この馬鹿共は放って置いたら延々とこれを繰り返すのだろうか……どうせあたしの記憶はないんだし、素知らぬ顔で部屋に戻って……
「俺が結婚を認めて欲しいのは……そこにいるセレナとなんです!」
「………はっ?!」
えっ、カズマ今なんて言った?あたしの名前が出てこなかったか?!
「お願いします魔王さん!どうか、セレナさんを俺にください!」
「えぇ?!娘はいつか来ると思っていたが、部下の、しかもプリーストのセレナが欲しいってのは予想外だぞ!と言うか、この男の記憶は消したんじゃなかったのか?!」
そうだ。レジーナ様の力は間違いなく発動した。そしてカズマのやつに効果も現れた。それなのに、どうしてあたしの事を……
「なんで……なんであたしのこと覚えてんだよ……記憶は確かに消した筈だ!お前にあたしの記憶はないはずだ!!あたしを愛する理由なんて、もう何処にも残ってない筈だ!!」
「そんなもん。感情以外に何が要るんだよ?」
バサッ
「えっ、それ……あたしの報告書……」
カズマがあたしに向けて見せたのは、ウォルバクに手渡していた報告書の束。確かにそれを読めば、あたしとカズマの事は分かるだろう。でも、それはあくまで知るというだけ、他人の出演する喜劇を見ているのと同じで、当事者意識なんて生まれるはずがない。
「ウォルバクにこれを渡された時、何かが欠けている気がして仕方なくてさ。こいつを何度も読み返して、知ってるヤツから話を聞いて……それでもやっぱり他人事で、大切だなんて想いは湧いてこなかった。でも、さっさと迎えに行けって言うあいつらの顔を見て、何度も作り直したアクセサリーの残骸を見て、ついでにロリーサ渾身の再現を見たら、不思議と思い出せた気がしてさ……」
「な、何という愛の奇跡……まさか、本当にそんなことがあるなんて……」
いや違うんだよなぁ……魔王はスゲー感動してるけど、根本的に間違ってんだよ。途中まですげー良かったのに、なんで最後にサキュバスの再現見てんの?それやられたら割と誰にでもトキメクだろお前!
「誰に何を吹き込まれたか知らないけどよ。あたしらの関係はまやかしだ。それに、魔王軍の諜報員を奪うなんて、他ならぬ魔王が認めねぇよ……」
だからお前はさっさと帰れよ。話が平和的に済んでいるうちにさ……
「いや、別に構わないんだが……」
「「………えっ?」」
いや、えっと……あ、あれぇ?!
「おい待て!あたしが知ってる情報を漏らしたら、魔王軍の状況は不利になるだろ?!そこら辺わかってるのかよ!」
「そりゃそうだが……それ、セレスディナもなんで知ってるか聞かれるだろ?お前がそんな危険なことするか?」
「………しない」
そんなことをすれば、あたしだけでなくカズマ達にも危険が及ぶ。そして、何より魔王軍に狙われないあたしが、正義感なんかで魔王軍を攻撃するのは割に合わない。いや、そりゃそうなんだろうけど……
「い、いやいや!それでもあたしの存在がバレたら魔王軍は困るだろ!諜報戦があった事実だけでもヤバいだろ?!」
「そりゃヤバいが、潜入してるドッペルゲンガーとかもバレても同じだし……バレたらバレたで内部分裂を狙うように諜報戦を展開するだけだぞ?」
「えっと……すみません魔王さん。それじゃ、セレナは普通に嫁に貰っても……」
「あぁ、今回の貸しもあるし、本人が良いのなら構わん。お前と女神が敵対しないことと、偶にテレポート便で国の情報でも送ってくれれば御の字だ。どうだセレスディナ?」
えっ、今ここでこっちに振るのか?!それ余計なことまで答えなきゃ駄目じゃん!あたしの気持ち込みの答えじゃん!
「ちょっと待ておかしい!そんなあっさりなのは絶対におかしい!それにカズマもカズマだ!今まであたしがどんな事してきたか分かってんのかよ!それを分かっててあたしにそんなこと言ってんのかよ?!」
「いや、セレナに記憶を消されたから、それを戻してくれなきゃ分かっててとか言えないんだが……」
「全く、セレスディナは何を言ってるんだ?自分でやったことを忘れるなんて……そんな事で諜報員が務まると思っているのか?」
なんだろうコイツ殴りたい。カズマは良いけど魔王には言われたくない!さっきまで馬鹿丸出しだった癖に!
「分かった……傀儡化を解いたら、あたしに関する全ての記憶が戻る。それでも…全ての真相を知ってしまったとしても、あたしに同じ言葉を言う覚悟はあるんだな?」
「いや、ぶっちゃけそんなのないけど……」
「いやそこは嘘でもあるって言えよ!自信満々にそれでも好きだってちゃんと言えよ!今のそういう流れだったじゃん!」
そういうところだぞ本当に!
「俺はセレナが俺の記憶を消した理由を知らないし、俺達に何があったのかも分からない。だから、この気持ちが全く変わらないなんて無責任な約束は出来ない。でも、それでも俺はセレナとの思い出を取り戻したい。嫌な思い出にもちゃんと向き合って、その上でセレナに気持ちを伝えたい。今はこれしか言えないけど、それじゃ駄目か?」
「そ、それは恥ずかしげもなく言えるのかよ……そういうところだぞ……本当に……」
でも、お前のそんな所に、あたしは惹かれたんだけどさ……
「いや、これもう答えなんじゃないかな……もう結婚すれば良いんじゃないかな……」
「ちょっと魔王は黙ってろ!」
「えっ、酷くない?!」
酷くねぇよ!この状況がどれだけ凄いのか分かってんのか?お伽噺でも聞かないような奇跡の連発だぞ?!女子にとっては、魔王討伐より劇的な話が繰り広げられてんだぞ?!
「ったく、記憶が飛んでも追ってくるとか、流石に愛され過ぎだろ……『ありがとう』カズマ……こんなあたしの為にさ……」 モジモジ
「おぅ、どういたし……あっ……あぁ…」
あたしを見つめるカズマの顔が、少しづつ歪んでいくのが分かる。今の感謝で傀儡化は完全に解け、今のカズマはあたしを抱いた直後の記憶を取り戻していることになる。まぁ、つまりアレだ。ヤラセのようで悪いが、この後はもう涙か笑顔の再会シーンが待っている……
「こんのぉ……アホプリーストが!」
ガッ!
「「痛い!!」」
と言うあたしの予想を裏切り、何故かあたしの頭頂部に叩き込まれた手刀。復讐の加護により二人して悶えているが、流石にこれは予想してなかった。一体何でこうなった?さっきまでのラブロマンスはいったい何処へ?!
「おい!なんでこの流れで手刀なんだよ?!感動の再会シーンじゃねぇのかよ?!」
「ふざけんなアホプリーストが!お前が変に先走るからこんな面倒な事になってんだろうが!結婚は簡単に認められるし、俺の命の危機も全然訪れる気配もねぇし、魔王は人の上に立つものとして実に話が分かる上司じゃねぇか!」
ちょっと待て!それは確かにあたしの落ち度だが、それでも今怒るのは違うだろ!それと、取り敢えず魔王への認識は改めろ!
「ははは!そうだろうとも!もっとセレスディナに言ってやってくれ!」
「うっせぇぞ魔王!実際には大問題なんだよ!この魔王の知能指数が低いからこんな簡単に事が進んでるだけで、普通ならこの場で殺されてるわ!」
「…………(´・ω・`)」
いやその顔やめろ魔王!余計に腹立つ!!
「例えそうだとしても、魔王が良いと言うなら俺達の間を引き裂くものはないはずだ!さぁ、帰ろうセレナ!あまり遅くなると、ウィズの追加商品とめぐみんのマナタイトによる2時間に一発の爆裂が始まるぞ!」
「えっ、なにそれ困る!早く帰って挙式しろセレスディナ!お前に我々の安眠がかかっているのだぞ!」
「えっと…いや…その……」
そりゃ魔王とカズマが良いと言うなら、選ぶべき道は決まっている。カズマの手を取ってアクセルの街へ……もう一度日の当たる場所へ……許されるなら、いま唯一のあたしの居場所へ……
「帰ろう!セレナ!」
「さぁ行くんだセレスディナ!」
「も、もう……わかったよ……」
少し強引に突き出されたカズマの手に、あたしはそっと自分の手を重ねた。まったく、柄にもないことしてくれたよな。でも、そんな関係もあたしは……
「逝き晒せ!セレスディナぁ!!」
「「「へっ?!」」」
ガキィン!
そんな幸せな成り行きを見ていた魔王の娘が、突然魔剣を抜いてあたしに斬り掛かってきた。随分と大人しいので忘れていたが、そう言えば恋のライバルを自称していたっけ。カズマが受け止めていなかったら、物語は危うく昼ドラ展開になるところだったぞ……
「いやおかしい!この流れで流血沙汰は流石におかしいって!先ずは落ち着こう!俺達は停戦協定を結びに来たんだぞ?!」
「もうそんなもの知りません!私はセレスディナを殺してでも貴方を手に入れるんです!さぁ、幸せになりましょうカズマ様!貴方となら最高の悪魔が産めそうです!」
「セレナは仲間じゃねぇのかよ?!というか子供が悪魔とか子育て出来る気がしないのでお断りします!そんなトンデモDNAは俺には重すぎるのでお断りします!」
いや、そこはセレナは俺が守る的なこと言おう?これでも一応女だし、そっちの方があたしは嬉しいぞ?まぁ、今はそれどころじゃないんだろうな。娘も復讐の加護を忘れてたみたいだし、やっぱりこいつらは色々と駄目だ。
「おい待てサトウカズマ!うちの娘をお断りするだと?!貴様の目は節穴か!どうみてもメッチャ可愛いだろうが!」
「話が紛らわしくなるから今は親バカ発揮しないでくれます?!そりゃ本人はとても可愛いと思いますが!それでも悪魔を育てるのは無理です!と言うか俺にはセレナが居るんで無理なんです!」
「それならば、子供は養子で子作りだけ頑張りましょう!大丈夫です!私は子供より夫の愛を優先したいタイプですから!」
「待ちなさい!それは父さん許しませんよ!初孫も見られないのに娘がただ汚されるだけなんて、父さん絶対に認めないぞ!」
「いや話がややこしくなるからちょっと全員黙れ!全員の要求を纏めるから黙って待て!!」
畜生!なんでクライマックスまでこれなんだよ!もう嫌だこんな職場!絶対に辞めてやるからな!
………………
「それで、お互いの要求の落とし所を探った結果が……これかよ……」
「ふっ!やはり魔王と勇者の決着とはこうなるのだな……」
あたしの厳正な審査の結果、カズマの処遇は魔王とカズマの決闘により決めることとなった。というか、魔王の娘はステータスがヤバく、しかも魔王の前にいるとその性能は跳ね上がる。つまり、この状況でお互いに譲れない場合、1番勝算が高いのがこの組み合わせということになる。いや、そもそも停戦に来たのになんで最後は力尽くなんだろう。やはり、魔王軍も血の気の多い馬鹿ってことなんだろうか……
「しかし、直接戦うのなら娘の方が強いと思うが、お前はそれで良いのか?」
「知らないのですかお父様!夫婦間に暴力などがあれば、それは致命的な離婚理由になるのです!私、カズマ様に殴りかかるなんてできません!」
「そうだぞ!娘の暴力性がカズマにバレたら、本気で結婚なんて夢のまた夢だからな!」
「えっと……つい数分前のあれは……」
「「1度目なので誤射だ(です)」」
「えぇ…うちの幹部って凄く雑……」
そりゃあたしだって、さっき斬り掛かった女が何を今更って思うところはある。だが勝率は少しでも高いほうが良いし、何より娘が参戦するとあたしの方が狙われて危険だ。カズマにはテレポートもあるし、何より娘がカズマを気に入っているから、そうそう死ぬような事には……
「まぁ良い。気になってはいたのだ。セレナの言う、ステータスを超えた実力とやらが……なっ!」
シュバッ!
「まずっ?!避けろカズマ!」
不気味な笑みを浮かべた直後、魔王の全力の一撃がカズマを襲う。よく考えればアイツは魔王!殺せば悪魔にでもリッチーにでもできる存在だ!そんな奴がいるこの状況なら、むしろカズマは殺したほうが好都合じゃねぇか!
「その速度なら……いなせる!」
パァン!
「……なっ?!」
「ま、魔剣の一撃を……あんな短剣で弾いた?!」
嘘だろ?!カズマのあの装備は職業が冒険者の時のモノ!全てが上級専門職レベルのステータスを誇る魔王相手に、カズマが対抗する手立てなんて、あたしからの支援を得るくらいしか……
「なるほど……女神の支援魔法の重ねがけとは、抜かりないなサトウカズマ!いや、勇者よ!」
「そりゃ相手が魔王じゃ警戒するに決まってるだろ?さて、どこぞの「特別じゃない貴方にこそ勝って欲しい」なんて言う無責任な女神様の思惑にハマるのは不本意だけど……セレナのために勝たせてもらうぜ!魔王!」
「「『パワースラッシュ』!」」
ガァン!
重く鋭い金属音が、二人の武器から響き渡る。魔王とまともに打ち合えるなんて、確かに女神の加護でもなきゃ無理だろう。だが、それでもまだ足りていない。武器が身体に届かないだけで、実力は明確に魔王のほうが上だ。この状況を逆転するなら、あたしの支援魔法が必要…だが……
「悪いけど、あんたの詠唱より私が喉を砕く方が早いわよ?優秀な諜報員なら、実力差は理解しているわよね?」
「考えてねぇよそんなもん。魔王と勇者の決戦に、あたしらが割って入る隙はねぇからな……」
「ふふっ、良く分かっているじゃない。魔王と勇者の決着に、そんな野暮は無しにしましょう?」
あぁ解ってるよ畜生!こいつらの前にあたしは凡人だ!魔王軍に蹂躙されたあの時から、あたしは何一つ進歩なんてしてない!でも、だからってそれで諦めるな!あたしは魔王軍幹部のセレスディナ!頭脳戦があたしの本領じゃねぇか!
「そう言えば、お前は冒険者だったな。つまり、私が魔法を使おうと、それを咎める理由はないと言うことだ!」
「ちっ!それなら、俺が何しても文句言うなよ!『煙幕』『潜伏』!」
「ほう!なかなか手広いではないか!だが、そんな小細工は見飽きたぞ!『トルネード』!」
カズマの得意な搦手の攻撃も、高いステータスの前にはあまりに無力。煙幕は風の上級魔法で魔王の元へ吸い込まれ、潜んでいたカズマは即座にあぶり出された。そして、更には付近の瓦礫や家財までもが吸い込まれ、魔剣と風の刃で両断されていく。こんなの、カズマのステータスでどうにか出来る筈が……
「おい魔王。お前、今までセレナの話をちゃんと聞いてたか?そんな大技を不用意に出すなんて、危ないって教わらなかったか?」
しゅっ
「はっ!そんなものをいちいち覚えている訳がないだろう!私には下らん小細工など効かぬ!その毒薬も、私の元には届かないぞ!」
パリンッ
いや違う。あの液体は毒薬じゃない。あれは、あたしが獣を燻し出す時に使う着火剤だ!
「そりゃ人間ってのは弱い生き物さ。でも、自分達の弱さを知ってるからこそ、学んで備える事が出来る。セレナの強さは……そういうところだぜ!『ティンダー』!」
「馬鹿め!初級魔法など簡単にかき消えて……なにっ?!」
シュボッ!
本来なら大した火力にならないあの着火剤も、潤沢な空気が送り込まれれば話は別だ。あれに使われている石炭やコークスは、環境さえ揃えば鉄をも溶かす温度になるのだから!
ゴー!
「がふっ!ば、馬鹿な……肺が…皮膚が焼ける……トルネードは解除したのに風が一向に収まらぬ………貴様…どこでこんな方法を…」
「この着火剤のレシピも、送風による炉の温度管理も、そして火炎旋風って災害も、全部セレナが教えてくれた事だ。あんたが負けるのは伝説の英雄でも、女神の奇跡なんかでもない。弱い人間の、その小さな積み重ねの力だ!」
「くっ!人間風情が……調子に乗るなよ!」
パァン!
炎の竜巻が一瞬でかき消え、同時に魔王の皮膚と血液が飛び散った。自らの魔力を爆発させ、炎を弾き飛ばしたようだ。あぁ、そりゃ簡単に行くはずがない。なにせ相手は魔王なんだ。でも、カズマはそれもちゃんと分かってて……
「…………魔王って、見た目と生態的な部分は人に近いんじゃなかったっけ?」
「ふんっ!だとしてもステータスは桁違いだ!これくらいで死ぬわけがないだろう!」
「えっと……これは決闘方式なので、いまので俺の勝ちって事には……」
「なるかぁ!貴様は最早無視出来ない脅威!この場で殺して眷属にせねば、いつかきっと魔王軍を滅ぼす!だから、どちらかが死ぬまで決着は着かん!」
あっ、なんかダメそうな顔してる!多分これがあいつの最大火力っぽい!これ、まさかもう決定打がなくなったんじゃないのか?!
「くそっ!それなら、次の薬品はこれだ!」
ブンッ!ガチャン、パリンッ
「ふん!舐めるな!もう同じ手は食わんぞ!」
カズマの投げた薬瓶を、魔王は剣の風圧だけで叩き落とす。あぁ、これは間違いなく警戒された。こうなってしまうと、カズマの本領は発揮できない……
「くそっ!『煙幕』『潜伏』!」
「愚かな!そんな同じ技を何度も許すと思うな!貴様に距離は取らせ……ごふっ!」
ツルッ!ゴチーン!
いや、こいつこの状況でもやりやがった!今の薬品ってただのローションじゃねぇか!魔王が顔からいったぞ!
「くそっ!本当につまらん小細工をしよって!次見つけたら確実に息の根を……」
「『狙撃』!」
「舐めるな!声で方向は丸わかりで……」
スカーン!
「いったぁ!!」
カズマの声を頼りに身構えた魔王だったが、その投擲武器はまさかのブーメラン。声のした位置から投げたとして、戻る時に狙えばその方向は真逆ということになる。いや、だがこんな方法では、魔王に致命打を与えるなんて到底無理なんじゃ……
「あぁ、私はお前のことを見下していたようだ……サトウカズマ、どうやらお前は……本気で殺さねばならない相手だったらしい!『エンシェント・ディスペル』!」
ブワッ!
「しまった!」
「そこかぁ!!」
相手と同じ条件で勝つという魔王の成約において、本来ならディスペルのような封じ手はその理念に反する。だから、きっとカズマはこの状況だけは想定していなかったのだろう。そうで無ければ、あいつが声を出すなんて安易なミスをするはずがない。にしても、魔王のやつマジギレじゃねぇか……
「あら?テレポートも使えない中でお父様と近接戦闘なんて、これは勝負あったかしら?」
「駄目だカズマ!もう逃走でもなんでも良いからこの場から逃げろ!肉弾戦でまともな勝負なんて出来る筈が無い!ステータスに差がありすぎる!」
「無駄だ!もう貴様を視界から外すことはない!私がお前から目を離すのは、その首を落とした後だぁ!!」
膝を付いてしまったカズマに向かって、思い切り魔剣が振り下ろされる。あぁ、もう声を出す時間もない。あたしが危険を省みずに支援をしていれば、こんな事には……
「待ってたぜ……回避不能な、この一瞬をなぁ!!」
「なっ!この状況で前に?!」
そうか!今のはクラウチングとか言うスタートダッシュの構え!カズマが本当に狙っていたのは、あの切り札を確実に当てられるこの瞬間!つまり、全てはこの一瞬のための布石だったのか!
「食らえ魔王!これが俺の切り札だ!『神罰の一撃』+『ルーンオブセイバー』!」
「はっ!やっと勇者らしくなったか!受けて立つ!『ダークオブセイバー』!」
ガァン!ビシッ!
カズマの放った渾身の一撃は、魔王の持つ魔剣にヒビを入れる。だが、それでも魔王には届かない。そして、神罰の一撃は、信仰の回復に時間を必要として連発はできない。この回避も防御も出来ない状況で、それの意味するところは……
「終わりだサトウカズマ!よく頑張ったが、貴様の命はここで尽きる!」
「ふぅ……やっぱり、あんな駄女神じゃ不足だったな!」
カッ!
「なっ!そのまばゆい光は?!」
「今のはアクアへの祈りを込めた一撃!さぁ、もう一度だ魔王!『神罰の一撃verエリス』!+『ルーンオブセイバー』!」
「くっ!まだ足掻くかサトウカズマ!『ダークオブセイバー』」
ガッ……パキーン!
さっきより眩い光を纏った一撃が、そのまま魔王の魔剣を両断する。あぁ、あとほんの数センチ、カズマの一撃が魔王に届く……
「ぬんっ!」
ズシャッ!
「嘘…だろ…」
遂に決着かと思ったその時、カズマの刃が魔王の目の前で止まった。いや、正確には止めたのだ。魔王が、その右腕を犠牲にして……
「くそっ!剣が抜けねぇ!まさか、これを狙って……」
「貴様にこれ以上の機会は与えない!私の理念を曲げようと、お前は確実にここで殺す!サトウカズマ、お前は……間違いなく我らの脅威だ!」
縦に裂けた右腕をカズマに押し付け、左手で折れた魔剣を振りかざす魔王。その太刀筋はまっすぐにカズマの首を狙い、その命を奪おうとしている。駄目だ。あんなの回避も防御も出来るはずがない!
「さらばだ英雄……貴様は、良く戦った!」
ズダン!
「くぅっ!」
「カズマ!」
咄嗟にガードしようとして切断されたカズマの左腕が、血を撒き散らしながら魔王の後ろに落ちる。あぁ、やっぱり魔王に挑むなんて無謀だったんだ。あたし達みたいな凡人に、最初から勝ち目なんてあるはずが……
「き、貴様!まさかここまでぇ!」
「えっ?なんで……お父様の腕が?!」
カズマの腕を切り落としたのは魔王のはずなのに、何故か床に転がる魔王の左腕。あぁ、本当にこいつは抜け目ない!カズマにかけた女神っていうのは、あの二人だけじゃなかったのかよ!
「くっ!それはレジーナの加護か!」
「あぁ、でも卑怯だなんて言うなよ。ネタが先にバレれば、俺を火口にテレポートする事も出来た。身動きを封じることに徹底することも、洗脳魔法で支配することも、敗北する理由なんていくらでもあった。でも、その選択肢を全部潰して、戦況を自分の有利に変える……お前は最後の最後まで、セレナのやり方に負けたんだ!」
「決定打はお前にだって残っていないでは無いか!そちらも満身創痍なら、まだ決着は………」
「はっ?!お父様、うし……」
「おっと、口を挟むなよ娘!レジーナ教徒が二人ってことは、どっちかが自害するだけでこの近隣は全滅するぜ?それとも、あたしら二人を即座に無効化出来るのか?魔王の加護が切れたその身でな!」
「くっ!セレスディナ貴様!」
悪いな魔王!別にお前に恨みはねぇよ。でも、決闘に水を差すなってのはお前の娘のご意見だ。悪いが、そりゃ自力でなんとかしな!折れた魔剣を掴んだ、カズマの切断された片腕はな!
「ったく、あんたは本当にセレナの話を聞いてねぇんだな。決着なら、もうとっくに着いてんだよ!『傀儡化』+『神罰の一撃verレジーナ』!」
ドシュッ!
「ごふっ!馬鹿な……切断された腕で……後ろから心臓を……」
「あぁ、弱っちい俺に出来ることなんて、搦手と小細工ぐらいしかないからな。でもちゃんと届いたぜ。セレナが積み重ねてきたもんはな!」
「ふっ…何が積み重ねだ……そんな話の詳細まで覚えているなど、そんなのもはや…愛でしかない…」
ドサッ
「お父様!」
魔王の背に刺さる折れた魔剣は、確実に魔王の命を刈り取った。世界の望んだ魔王の最期は、驚くほどにあっけなく、そして静かに訪れた。そう、この借り物の力しか持たない。ただの弱虫な男によって……
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
決着はちゃんと真面目にやりました!(私なりのですが!)
という事で、長かったセレナのサブストーリーも次回で終わりです。次はウォルバクですが、ちょっと投稿は先になるかもです。
また不定期ですが、お暇な時にでもお付き合いください。