「あの、ありがとうございました。あんなに豪華な料理をいただけるなんて」
「ううん、気にしないで。私がやりたくてやったことだから」
アリシアの家に向かって歩く。二個の月に照らされた道は、夜とはいえどそこそこ明るい。
ギルドを出た後、俺たちはレストランに入った。
異世界の食事がどんなものか見極めてやろうと若干傲慢な考えを抱いていた俺の考えは、料理を口にした瞬間霧散した。
特に魔物肉のステーキは格別で、今まで食べた肉の中で一番の味だった。異世界料理、恐るべし……
「さ、着いたよ。中に入って」
「お邪魔します」
料理に思いを馳せていると、いつの間にか家に着いていたようだ。
「やっぱ暗いな、ちょっと待って……光よ!」
「おおお!」
ぱっ、と部屋が明るくなる。
「そんなに驚く? これくらい珍しくもないけどなあ」
「いやあ、あはは……」
だって魔法だぜ? この世界の人にとっちゃあ当たり前のことかもしれないが、俺にしてみれば一大事だぞ!
「ふーん。まあいいや、付いてきて」
どんどんと家の中を進んでいくアリシアの後ろをついて歩く。
「結構広い家ですね。誰かから借りてるんですか?」
「いや、私が買った」
「ええっ! ……でもこの家、何に使うんですか?ほかに誰かいるような気配はないですけど」
右へ左へと廊下を曲がり、扉を開け、奥へ進むアリシアの背中に問いかける。
「いやあ、何といえばいいのか……まあ、すぐに分かるよ」
アリシアが目の前の扉を開けた。
……大き目のベッドが一つと、家具らしきものが少々。やや殺風景だが、寝室だろうか。
「汗かいてるでしょ? ちょっと待ってて」
アリシアはそう言うと、部屋の隅に置いてあった桶を取ってきた。
「……水よ」
呪文を唱えると、みるみるうちに桶が水で満たされる。
「さ、これで体を拭いて。私はまた後で来るから」
ぱたん、と扉が閉まり、タオルを持った俺だけが部屋に取り残される。
風呂は無いのかと少し残念に思うが、世話になっている身で我儘を言うわけにもいくまい。確かに先ほどから、そこはかとなく香ばしい香りが漂っている。
服を脱ごうとタオルを置いて、着ていたワンピースをつまみ、手が止まった。
目の前に立てかけられた姿見に、美しい少女が映っている。
自分が女になったということは認識していたが、まさかこれほどまでとは。
腰くらいまである宝石のような銀色の髪に、南国の海のように透き通った青色の眼。身長はそこまで高くはない。前より頭一つ分は小さくなった気がする。そして、服の上からでもその存在がはっきりとわかるくらい豊かなふくらみがある。その肌は穢れを知らず、シミ一つ見当たらない。
なんだかいけないものを見てしまったような気がして、顔が赤くなる。そうすると、鏡に映る少女も顔を赤らめる。かわいい。
「これ、オレなんだよな……」
ごくり、と唾を飲む。今から俺は体を拭かねばならない。……つまり服を脱がねばならないのだ。
いや、何も疚しいことはない。事情はよく分からないが、今この体は俺のものなのだと自分に言い聞かせながらゆっくりと服に手をかける。でもいくら自分の体とはいえ、やっぱり生着替えを直視するのは恥ずかしいと、目をつぶって手早く済ませることにした。
少し脱ぐのに苦労したが、いつの間にかつけていた下着も脱ぎ終わり、恐る恐る目を開ける。
「おおお……」
下着の締め付けから解放された肢体が、その美しさを余すことなくさらけ出している。
形のいい胸と安産形の尻。それらに似合わずきれいにくびれた腰回り。珠のような肌にはシミ一つ見受けられない。衝動を抑えきれずおっぱいを揉む。
もみもみもみもみ…………はっ!
あまりに感触が良くて、無意識のうちに触ってしまった。そうだよ、体だ、体を拭くんだった。
慌てて桶にタオルを突っ込んで水気を絞る。
「……んっ」
順調に体を拭いていくが、時々どうしても艶めかしい声が出てしまう。頭がピンク色に染まりにそうなるのを必死で抑える。
「ふぁ、やっと、終わった……」
局部を拭いたときは危なかったが、なんとか最後まで現世に意識を保つことができた。
さて着替えは……ってそうだよな。いきなり拾った俺の体のサイズに合う服があるわけないよな。
仕方なくさっきまで着ていた下着を手に取った瞬間、入り口のドアが開いた。
「どう? 体拭いた?」
「へっ……ひゃあああ!」
ノックもせずいきなり入ってきたので、意図せず悲鳴を上げてしまう。
「お、その様子だとちょうど拭き終わったところか……タイミングばっちりね」
「え……え……?」
「なーに百面相してるのよ、ほらこっち来て」
薄手のネグリジェを着たアリシアが、ベッドに座って手招きする。
「あの、でも服着ないと」
「いいからいいから」
「え、でも……」
「ほら早く」
若干の恥ずかしさを覚えつつも、言われるがままに隣に腰掛ける。
しばらく無言でいると、おもむろにアリシアが口を開いた。
「ねえ、もし良かったら、これからこの家で暮らさない?」
「えっ」
「さすがにここまでしておいて、放り出すのも気が引けるしね」
「……本当に、いいんですか?」
「うん、もちろん!」
何から何まで甘えてしまって申し訳ない。最初に会った人がこの人で助かったよ、ホント。
「本当に、ありがとうございます! アリシアさんが親切な人で良かったです!」
「親切、ね」
「あの、自分にできることがあれば、何でも言ってください!」
「……へぇ」
俺がその言葉を言った瞬間、空気が変わった気がした。
「今の言葉、嘘じゃないよね?」
「……えっ、はい。少しでも、アリシアさんに恩返しがしたいですし」
「言質は取ったよ……。ま、そうじゃなくてもどうせ運命は変わらなかっただろうけどね」
「えっと、何を……」
アリシアがスッ、とベッドから立ち上がる。そしていきなり服を脱ぎ始めた。
「ちょ、アリシアさん!?」
思わず顔を背ける。流石に女の人の裸を見るのは良くない気がする。……自分のは見たが、それはノーカンだノーカン。
――衣擦れの音がやむ。
「カエデ、こっち見なさい」
「……でも」
「見て」
少し低めの声で命令され、恐る恐る首を戻す。
流れるような栗色の髪と、焦げ茶色の瞳。目鼻立ちは恐ろしいほど整っている。それに、きれいな体だ。さっき見た俺のよりも胸が大きい。健康的な肌色をしており、腰つきはそこはかとなく煽情的だ。そして……
「…………は?」
鼠径部には、ここにはあるはずのない、立派な一物がそびえ立っていた。
「え? え?」
頭が回らない。混乱する俺に、アリシアが清々しそうな表情で言う。
「どうしてこの家には、こんなに部屋がいっぱいあると思う? この寝室はこんなに奥にあって、しかも窓がない。どうしてだと思う?」
はっとして辺りを見回す。確かに、窓がない。慌てて壁を叩くが、鈍い音しか返ってこない。
「それはねえ、カエデ。君みたいな子を連れ込んで、ここで私の玩具にするためよ」
――何を、言っているんだ……
「とりあえずそこに寝転がってよ。最近溜まってたんだよね」
アリシアが俺の座るベッドを指差す。
「……ふっっざけんな! 誰がそんなこと聞くか! 帰る!」
飛び跳ねるようにドアへ向かう。確かに何でもすると言ったが、これはいくらなんでもあんまりだ。
ドアノブを勢いよく捻る。……しかし、扉はビクともしなかった。
「あれれ、今まで猫かぶってたの? そっちがホントのカエデってこと?」
「っち、ああそうだよこのクソ女め」
「……ふっ、あはははは!」
アリシアはいきなり高笑いを始めた。異様な雰囲気に、少し怖気づいてしまう。
「私、さっきまでのあなたみたいなお淑やかな子をねちっこく苛めるのも好きよ。でもやっぱり、生意気なメスを躾けてひいこら言わせるのがこの世で一番大好きなのよ! ああ、あなたってなんて素敵なの。ふふ、たっぷり躾けてあげる!」
「なっ、やめろ離せ!」
がっ、と俺の首根っこが捕まれる。そのまま猫みたいにひょいと持ち上げられ、ベッドにぽいっと放り投げられた。
素っ裸の俺に、黒い影が覆い被さる。
「さあ、いい声で啼きなさい!」