(ううん……)
体が重い。目が覚めたはいいものの、あちこちが筋肉痛で全然疲れが取れていない。
最近運動はしてないはずだけどなあと不思議に思ったが、目覚ましもまだのようだし、とりあえず二度寝しよう、と思って何の気なしに寝返りをうつ。
ぐちゅ。
(え? 何だ何だ?)
寝ぼけ眼で腕に付着したモノを見る。……白く、ねばねばした液体である。
「……あ、あああああ!!!」
瞬時に昨夜の出来事を思い出した。眠気が一気に吹き飛び、ベッドから跳ね起きる。
周りはひどい有様だ。ベッドの上のみならず、壁やら床やらにも精液が飛び散っている。それから部屋全体が臭い。
しかし、一番ひどいのは自分の体である。全身精液と愛液でベトベトしており、さらに跳ね起きた衝撃で、膣口からナカ出しされたモノがだらだらと零れてきている。
一晩中こんなひどい姿で眠りこけていたなんて、我ながら驚いてしまう。
とにかく体を清めたいと思って部屋の入り口に向かおうとした瞬間、ドアが軋むような音を立ててゆっくりと開いた。
「ひっ……」
無意識のうちにベッドの上を後ずさる。はたから見れば素っ裸で尻を滑らせて移動するという、いかにも間抜けそうな動きではあったが、そんなことを気にする余裕など存在しなかった。
「ふふふ、怖がっちゃって。昨日はあんなに愛してあげたのに、ひどいなあ……」
昨日散々俺をいたぶった悪魔、アリシアが近づいてくる。絶望的な表情を浮かべる俺とは対照的に、心底楽しそうな表情をしている。
「もう、そんな顔しなくても、今はヤらないからさ。私も久しぶりでちょっと疲れちゃったし」
「…………」
「それよりさ、ほらこれ」
そう言って、俺に水桶と濡れた布を渡す。
「さすがに臭すぎるから、これで体を清めなさい」
……いったいどういう風の吹き回しだ。あんなにひどいレイプみたいな性行為をしておいて、気遣いらしきものを見せてくるとは。
「……やっぱ没収するわ」
「え、ちょ」
状況が理解できず固まる俺の手から、桶と布が取り上げられる。
「せっかくご主人様が用意してくれたのに、お礼も言えないなんて。もうずっとそのままでいなさい!」
アリシアがいきなり俺をなじり始める。いや、こんな姿にしたのはいったいどこの誰だと憤るが、かといってずっとこんな状態でいるなんて、ゾッとする。
「……ありがとう、ございます」
甚だ不本意だが、大人しく言うことに従う。
「ご主人様、は?」
「……っ、ありがとうございます、ご主人様」
「うん、よろしい」
アリシアはしたり顔でさっき奪った物を俺に手渡す。
そのイラつく面をなるべく見ないようにしながら体を拭く。ベッドの上は特にひどい有様であり、少し動くだけでも体液が付着してしまうので、足のあたりを軽く拭いた後は立って部屋の反対側に移動し、念入りに体を清めた。
「っ……うぅ……」
膣口から拭けども拭けども精液が零れ落ちてくる。最悪の気分だ。
「あー、いい眺めね」
後ろから聞こえてくる声は努めて無視する。ぐちゃぐちゃになった布を水で洗って、絞っては拭き、絞っては拭きを繰り返す。何回目かにして、ようやく膣口から落ちてくる液がなくなって全身がきれいになった。
「さてと、終わったみたいね。じゃあ部屋もきれいにしますか…………清めたまえ」
俄かに、部屋に充満していた生臭い臭いが消える。慌ててアリシアのほうを振り向くと、あんなに汚れていたベッドとその周辺から、激しい行為をした痕跡がきれいさっぱり消失していた。
「うん、これでよし、と」
「おい」
何食わぬ顔で言うアリシアの顔を睨みつける。
「ん? 何、言いたいことがあるの?」
「……なあ、どうしてオレにその魔法を使わなかったんだ!」
「はあ……分かってないなあ……」
怒りに震える俺を、心底残念そうな目で見つめてくる。そんな便利なものがあるなら、あんなに必死になって体を拭かなくてもよかったのに。腸が煮えくり返りそうだ。
「もうナカにいっぱい出されてるから手遅れなのに、それでも必死になって体をきれいにしようとする無様な姿がそそるのよ! 特に、子宮から垂れてくる精液を一生懸命拭き取ってるのとか、最高だったわ!」
「…………死ね」
「あれれ、今とっても無礼なことを言われたような気がしたんだけど……。躾が足りないのかなあ?」
思わず本音を口走ってしまったが、正直仕方ないだろう。あまりにも発想がクズ過ぎるのが悪いのだ。どうせこの後散々いたぶられるんだろうが、もうそんなことどうでも良かった。
「ま、躾は夜にまたみっちりするとして……今から出かけるから、ついてきなさい」
……出かけるからついてこい?すぐに凌辱されるもんだと思っていた俺は、訝し気に眉を顰める。
「それとも、今からのほうがいい?」
ブンブンと首を振る。半ば諦めの境地にはあるが、さすがに自分から地雷原に突っ込むようなことはしない。
「それなら、一緒に出かけるってことでいいね」
こくり、と頷く。
「じゃあこれ着たら出発しましょう」
「…………ん?」
そうして差し出された服は、外に出るには全くふさわしくない代物だった。
……いや、もはや下着だろうこれは。まずもって、胸から上には肩紐を除き一切の布がない。そこから下は布に覆われているため、多少露出度は低くなる。しかし垂れ下がった布はとても薄く、頼りない。長さも短く、下を隠せるとは到底思えない。
背中側は、前から垂れた布がお尻の上あたりで交差しているため、そこから下は辛うじて隠せているものの、交差しているところから上側は被覆率がほぼゼロだ。
あと渡されたものといえば、ほぼ紐と言っていいショーツだけだ。
「いや、あの……え?」
「いやあ、わざわざ服を用意してあげるなんて、なんて優しいんだろう私!」
こんな破廉恥なブツを用意しておいて、何を言っているのか。思考回路が謎すぎて、もはやツッコむ気すら失せてきた。
「さあ、あんまり時間もないからさっさと着なさい」
「ええ……」
花街の客引きでももうちょっとマシな恰好をしているだろうに。真っ昼間からこんな格好で外を出歩くなんて、どうかしている。
……待てよ?
「ああ、そうだ! 昨日着てたワンピース、あれ着るからさ。今どこにあるんだ?」
ざっと周囲を見たが、部屋の中にはないようなので、違う部屋にでも置いてあるのだろうか。
別に好き好んで女物の服を着たいわけではないが、目の前にあるモノを着るよりは百倍マシだ。
「……どうしてそんなこと聞くの? せっかく私が手ずから準備してあげたものを拒否するなんて……。もういい、今日は一日中裸でいなさい!」
「え、ちょ、待って待って!」
一気に不機嫌になったアリシアが、俺の手を強く引っ張る。いや、さすがに裸はヤバすぎるだろ!
「あの服、お気に入りだったから、今日も着たかっただけで……。別に渡してもらった服が嫌ってわけじゃないけど……」
たどたどしい口調でそれっぽい言い訳を並べると、強く握られ拘束されていた手がぱっと解放された。
「なあんだ。なら最初からそう言ってよ~。でもごめんね。私のコレクションにするから、あの服は返せないの」
「……はい」
「さあ、じゃあ早く準備して。出発するよ!」
何だよコレクションって。そう言いたい気持ちを抑えつつ、覚悟を決めて渡された服を着る。
「っ……」
姿見に映った自分の姿を見る。
最初から薄々分かっちゃいたが、実際着てみると明らかに卑猥すぎる。胸のところは乳房が過度に揺れないように少し硬い素材でできているため、そこまで透けてはいない。
しかしその他のところは、よく目を凝らすと下の肌が透けて見える。あの紐みたいなショーツもくっきりと浮かんでいる。
ただ遠目なら、この透け具合は分からないかもしれない。最大の問題はこの服の丈の短さである。ちょっと足を大きく広げただけで、ショーツが見えてしまいそうだ。
「んん~、絶景ね」
アリシアが満足そうに頷く。セリフが絶妙に気持ち悪い。変態が過ぎて、最早救いようがない。
「さて、それじゃあ行こっか!」
「ちょ、早いって!」
そそくさと部屋を出ていくアリシアの後を追う。
……あ、ヤバイ。下着が見えてしまう。
「遅いよ~、早くしなさい!」
「……クソ、こっちの気も知らないで……」
服の裾を強く抑え、俺は歩みを早くした。