「はぁ……はぁ……やっと、着いたか……」
ようやくギルドの前に到着した。
家を出た後にアリシアからギルドに行くと告げられた時は、昨日歩いた時間からしてそこまで遠くはないだろうと高を括っていた。しかしいざ出発するとその道のりは想像以上に過酷なものであった。
……風が強いのだ。昨日はそよ風すら吹いておらず全くの無風だったが、今日は時折音が立つほどの強い風が吹いている。胸のあたりまで舞い上がりそうになる服を必死に抑えて進んだが、いつあられもない姿を晒すことになるかとずっとヒヤヒヤしていたため、歩みを進めるたびにどんどん精神的な疲労が蓄積していった。
今朝からの筋肉痛も相まって既にクタクタである。一刻も早くふかふかのベッドで休みたい。
「……何でそんなに疲れてるの? 体力ないなあ……」
「……クソ、誰の……せいだと……」
こっちの気も考えずにこんな卑猥な服を着せて連れまわした張本人が何を言うか!息を切らしながら悪態をつく。
「顔、赤いね……。もしかして、感じちゃった?」
「うるっっっさい!!!」
「ああもう、そんな大声出さないで。みんな見てるから」
「っ……」
確かにあちこちから視線を感じる。昨日訪れたとき、このギルドの入り口付近に人はほとんどいなかったはずだ。ところが今朝は多くの人が出入りし混雑している。
……いや、それにしてもジロジロ見すぎじゃないか!? そりゃまあこんな格好してる人がいたらつい見ちゃうかもしれないけどさ……っておい、誰だ今嘗め回すような目で見たヤツは!!!
「うがあああ!!! 散れ、散れ! 見せもんじゃねーぞ!!!」
俺が怒鳴り声をあげて威嚇すると、さーっと人波が引いていって辺りには俺たち二人だけが取り残された。
「ふう、やれやれ…………ん“あっ!」
事が終わったことに安心し一息ついていると、いきなり膣に指を突っ込まれてぐりぐりとこねくり回された。意図せずして下品な喘ぎ声を上げてしまう。
こんなことするヤツなど一人しかいない。隣に立つアリシアを睨みつける。
「おい、何するんだ……っつ、ん“ん”っ!」
「ねえ、私言ったよね。大声出さないでねって。今からここでカエデのこと犯してもいいんだよ?」
目がマジだ。口答えするなら本当にここで行為に及ぶぞ、という顔をしている。
「な…………うぅ、すいませんでした、ご主人様……」
「……はあ、昨日あれだけ私の言うことに従いなさいって言い聞かせたのに、起きたらもう忘れてるなんて。体に教え込むしかないのかなあ…………」
アリシアはあきれたような口調でそう言った後、俺の膣内から指を抜いた。ぐちゅり、と淫靡な音が鳴る。
「はぁっ……はぁっ……」
「ほら、喘いでないでついて来なさい」
「あぅ……はい」
周りに誰もいないからいいものの、白昼堂々外でこんなことやるか? 疲れた体に鞭打ち、よたよたと歩きながらギルドに入るアリシアの後を追った。
「ん~、どれがいいかな~」
アリシアが依頼書を吟味している。ファンタジーモノによくあるギルドっぽい場所は、この建物の二階に存在していた。壁には所狭しと依頼書が貼り付けられ、各人が思い思いに見て回っている。
昨日手続き(アリシア談)を行った一階は、どうやら役所のような機能を有する階だったらしい。確かにさっき窓口を通り過ぎるとき聞いた会話は、税金がどうしたやら届け出がしたいやらといったいかにもな内容であった。
ちらっと辺りを見渡す。
奥のほうには、剣やよくわからん置物が並べられていた。昨日の時点でここに来ていればきっと心からこの空間を満喫できただろう。だが今の俺に周りを楽しむ余裕など存在しない。朝から散々な目に遭うし、正直それどころじゃない。
「よし、これにするか」
アリシアが紙をボードから剥ぎ取る。ぼーっと突っ立って眺めていると、手が強く引っ張られた。
「ほら、そんなとこにずっといたら邪魔だから、一緒に来なさい」
意識ここにあらず、といった状態の俺はそのままずるずると引きずられて受付に到着する。
「おやアリシアさん、昨日ぶりですね」
「ああ、手続きありがとうね! 助かったよ~」
「いえいえ、こちらも仕事ですので」
聞き覚えのある声がしたので顔を上げてカウンターのほうを見る。――昨日アリシアと話してた人じゃないか。今日は二階担当なのか。
「これは……薬草採集、ですか。またなんでこんなものを……」
「いやあ、私にもたまにはそういう気分の時もあるってことよ」
「……そうですか。まあ薬草はいくらあっても困ることはないですし、お願いします」
「はいよ~」
二人の会話を上の空で聞く。
アリシアの隣にいると、さっきの路上での蛮行が思い出されて気が滅入る。下の役所っぽいところに避難しててもいいかな……
――そこで、はたと気づく。そうだ、そうだよ! 今まで何で思いつかなかったんだ!
「あの、すいません!」
「……えっと、アリシアさん……返答してもいいんでしょうか?」
「ふーむ。なんか面白そうだから相手してあげてよ」
「そうですか……。あの、どうしたんですか?」
俺のほうを向いて受付の人が話しかけてきたので、アリシアをびしっと指差し声高らかに宣言する。
「聞いてください! この人からひどい扱いを受けているんです!」
いくらお役所仕事とはいえ、さすがに昨晩から俺にしてきた蛮行を訴えれば何かしらの対応はしてくれるだろう。ついに溜まった鬱憤を吐き出す時が来たのだ。
「昨日の夜、このアリシアの家に連れて行かれてレ……レイプされたんです!」
「……は、はあ」
「それに見てくださいこの格好! 今朝無理矢理着せられたんですけど、どう考えてもおかしいですよね!? それにさっきもこのギルドの前で大事なところを弄られるし……もう嫌なんです、助けてください!」
「あー、えっと……」
視線が俺とアリシアを交互に行き来する。確かにいきなりこんなこと言われても対応に困るだろう。でも、俺の今後がかかってるんだ。どうか話を信じてほしい。
「あの、確かにこちらでは身に危険が迫っている方を一時的に保護して、そのあと警邏隊に引き継ぐことはあります。……でもその対象は、市民権を有する方だけです」
「は……市民権……?」
はて、どこかで聞いたような…………って、そうだ! 初日に草原でアリシアと会った時に、市民権証があるかどうか聞かれた覚えがあるぞ!
「じゃあその市民権をください! そうすれば保護してもらえるんですよね!?」
「ええぇ…………もしかしてこの子、頭弱いんですかね……」
唐突に罵倒される。俺そんな変なこと聞いたか?
「お願いします! 早くこのレイプ魔から離れたいんです!」
「いや……それは無理です。それにあなたは今、アリシアさんの所有物として登録されていますし」
「――いやいや、確かに市民権は持ってないですけど! だからといってそんな、所有物扱いを受けるいわれはないでしょう!?」
異世界に人道とかいう概念が存在するかは怪しいが、さすがにあんまりではないか? これじゃあ俺がアリシアの奴隷か何かみたいじゃないか!
「えっと……普通の人はみんな市民権を持っています。しかし重大な罪を犯したり借金で首が回らなくなったりした場合は、各事例に応じた期間を定めた上で市民権が剝奪される……知ってますよね?」
いや何それ初耳なんだが?
「昨日水晶玉に触りましたよね? あれで市民権の有無の判定をしたんですけど、あなたには反応しなかった。つまり、あなたは何かやらかして市民権を剥奪されたってことです」
「…………」
「まあ普通は市民権を失うと同時に所有者が名乗りを上げるのですが、調べてみたところなぜかあなたは誰のものでもなかったんです。そこで第一発見者であるアリシアさんのものになった、というわけです。分かりましたか?」
「いや、待って、待ってください!」
「…………まだ何か?」
いかにもめんどくさそうな口調で対応される。そりゃあいきなり異世界に飛ばされたんだから、身分を証明するものなんぞあるわけがない。でも、何も悪いことはしてないのに来て早々こんな立場になるなんてあんまりじゃないか……
「あの、信じてください! 自分は悪いことしてないですから!」
「はあ…………。水晶玉の判定は絶対です。嘘をつくのはやめてください」
「でも」
俺はなおも言い募ろうとするが、突然頭を掴まれてしまい言葉が途切れてしまう。
「ねえカエデ、これで分かったでしょ? 要は、あなたは私のペット……もっと言えば、奴隷なのよ」
さっきから薄々分かっちゃいたが、いざ言葉にされると衝撃が大きい。そうか、奴隷、か……。
「うぅ…………」
「ふふふ、さっきまであんなに元気だったのに、どうしちゃったのかな~?」
アリシアが嘲るような声で俺を煽ってくる。だめだ、感情が制御できない。
「あぁ……もうやだあ!!! 離せよ変態!」
俺が自分の手を振り回して暴れると、頭を押さえつけていたアリシアの手に当たり、ぱしっと乾いた音が鳴った。
「――おい」
底冷えするような声に恐怖し、暴れていた俺は硬直してしまった。次の瞬間、万力のような力で頭が強く締め付けられる。
「ご主人様を叩くなんて……夜までやらないつもりだったけど、さすがにもう我慢できないわ……。あの、悪いんだけど、地下って今空いてる?」
「えーと…………はい、大丈夫です」
「ごめん、料金は後で払うから。それからこの薬草採集の依頼書をちょっと預かっといて欲しいんだけど、大丈夫?」
「はい、分かりました。……あの、あんまりうるさくしないでくださいね。一応防音仕様にはなってますけど」
「…………色付けて払うから」
「はあ、仕方ないですね……どうぞ、鍵です」
「ありがとう。ほら、来なさい!」
頭から手を離したアリシアは、レイプ目で呆然と立つ俺を小脇に抱え、二階を後にした。