俺は今、町の北端に来ている。買い物をする前にどうしても確かめたいことがあったのだ。
――目の前には立派な門が鎮座しており、その向こうには深い森が広がっている。
一応門番は立っているものの、行き交う人が多いためかチェックを怠っているように見受けられる。どうにも仕事熱心ではなさそうだ。少し息を整え、平常心を意識してゆっくりと近づく。
「ちょっと君!」
前に人に倣って門番の横を素知らぬ顔で通ろうとすると、俺に向かって鋭い声が飛んできた。
振り向くと、さっきまでのボーっとした顔はどこへやら、キツい視線で俺のことを睨んでいる。
「君、アリシアさんの所の子だよね? どうして一人で町を出ようとしたのか聞いていい? まさか逃げようってわけじゃないよね……」
「えっと……」
ヤバい! 今日は今後のために町を安全に出られるかどうか確かめに来ただけなのに。
なにか、うまい言い訳は……
「あ、あの、森林浴したいなあ、って思って……」
――言って後悔する。あまりにお粗末すぎやしないか。何だよ森林浴って! こんなん絶対信じてもらえないじゃないか……
「あー、ええ? …………いや、それは無理だよ」
門番は俺のその返答に呆気にとられた様子であったが、少しすると正気を取り戻し淡々と話し始めた。
「主人の許しがない限り、君みたいな奴隷は町から勝手に出ちゃいけないんだけど」
……それは聞いたことがある。――ああ、もうおしまいだ。このことがアリシアに知られたらどんな酷い目に遭うか。絶望に打ちひしがれ、自分の目が徐々に死んでいくのが分かる。そんな俺に構わずさらに話は続く。
「でも、君アホっぽそうだからなあ……。嘘をつくほどの頭もなさそうだし、多分ホントに森林浴がしたかったんだろうなあ……」
「え? ア、アホって……」
唐突に罵倒され唖然としてしまう俺に、門番は諭すような口調で話しかけてくる。
「だってそうでしょう? 仮に逃げようと思ったとしてよ。それがバレた時の言い訳が森林浴って、あまりに滑稽だと思わない? 言うとすれば、ご主人様に言いつけられて薬草摘みに行くんです、とかさ。まあ、もしそんなこと言った場合はアリシアさんに報告するけどね」
「……」
……どうやらあまりにも俺の言い訳の内容が酷すぎて、逆に疑われなかったようだ。意図したことではなかったが、ひとまずピンチは切り抜けたということだろう。
黙りこくる俺をよそに、さらに話は続く。
「あのねえ……門の外に出ちゃダメってことは、たとえ町のそばであろうと森林浴もダメだから。こんな子のお世話をするなんて、アリシアさんも大変だ……」
……落ち着け俺。ここは精神安定のため、それとこれ以上のボロを出さないためにも早く立ち去ったほうが良い。
「今回は特別に見逃してあげるけど……次はないから!」
「はい、すみません……」
アリシアに報告が行くと非常にまずいことになるので、ひたすら頭を下げて平謝りする。
「はあ、まったく……ほら行った行った!」
「すみません……」
とぼとぼとした足取りで門を後にする。見逃してあげるって言ってたし、多分アリシアにはバレないよな……? 悶々としつつ商店へ行こうと歩いていると、向こうから馬車がやってくるのが見えた。慌てて道の端に寄る。
――ふと何の気なしに振り返ると、さっきの門番が馬車を止めているのが見えた。後ろに回って幌をめくり、中を調べている。
荷台には奥が見えないほどの大量の物品が積まれており、確認には時間がかかると思われた。しかしさっきの門番はものの数秒で見るのをやめてしまい、運転手を解放してしまう。結局、馬車は特に物品を押収されることなく門の外へ走り出した。
……なるほど。荷物の中、か。
――作った料理を食卓に並べる。
調理器具も一通り揃っており、滞りなく準備を進めることができた。まあ例によってほとんど使われている形跡はなかったが。
「いやあ、なかなかおいしそうね! 愛を感じるわ!」
「はいはい。ボーっとしてると冷めちゃうから、早く食べよ」
「それもそうね」
向かい合って椅子に座る。さて、食べますかね……
「あ」
「どうしたのカエデ」
「味見、してない……」
……とりあえず、まずは黒パンをいただく。普通においしい。それも当然だ、これはパン屋で買ってきたものだからな。さすがに自分では作れない。
問題は他の料理だ。……とりあえずスープから行くか。適当な青野菜を刻み、塩と少しの肉の脂を入れただけの簡素なものだ。
…………まあまあ、かな。肉の脂を加えたのが功を奏したようだ。味付けが塩だけだと、あまり良い味にはなっていなかっただろう。
最後はベーコンと芋、それから豆の炒め物だ。
…………うん。まあいいんじゃないか? ピリッとした香辛料が程よく舌を刺激する。
特に自炊が苦手というわけではなかったので、そこまで変なものはできないだろうとは思っていたが、ここは異世界である。名状しがたいものを作ることを避けるべく、商店では店の人に話を聞いて無難そうなものを食材として購入したものの、やはり不安は残っていた。
しかしフタを開けてみると、割とまともなものを作ることができた。食材が無駄にならずに済み、少しほっとする。
「うそ、おいしい……」
――いやに視線を感じたので顔を上げると、アリシアが驚いた様子で俺を見つめていた。
「なんだよ、そんなに意外かよ」
「いや、うんまあ正直。……味見忘れるくらいだし」
「そ、それは……」
確かにそれは俺が悪い。だが、そんなに驚かれるのも心外である。
「オレだってやればできるんだぞ!」
「うん、偉い偉い」
「ぐぐぐ、なんかムカつく」
おつかいを初めて成功させた子供を見るような眼差しで俺を見るんじゃない!
「ほら、次はちゃんと味見するから!」
「え、次? へえ、作ってくれるんだ」
「~~~っ、言葉の綾だ!」
「はいはい」
クソ、調子狂うなあ。絶対何か企んでるだろ。なんだよこの平和な会話は。
なんだかむしゃくしゃしたので、目線を逸らし食事に集中する。
――その一方、心の奥底ではある感情が湧き上がってきた。それは期待。ついにアリシアが改心し始めたという期待である。
もしかしたら、今までの行いを反省して奴隷として扱うのをやめてくれるかもしれない。そしたら、俺もここから逃げなくて済むかもしれない。やっぱり、毎日何回も犯されるのは辛いからな……
…………そう思っていた俺がバカでした。
食事が終わったので食器を下げ、さあ洗い場でこいつらを洗おうと意気込んでいた時である。
後ろに人が立つ気配を感じた次の瞬間、身動きが取れないようにがっちりと抱きすくめられた。
「おい、何するんだ!……は、んんっ!」
抗議の声は全く聞き入れられず、無遠慮に両方の乳房が揉みしだかれる。それだけでなく、股の間で硬いモノがゆっくりと運動するのを感じる。
「ふふっ、いつもただ裸に剥くだけじゃつまらないから、たまには趣向を変えてみようかと思ってさ」
「うぅ……はあんっ!」
「試しに今日は、家庭的で純粋な田舎娘を無理矢理犯すっていうシチュエーションにしてみたけど……結構ありね、これ」
「んんっ……は、離して…………」
また手の込んだことをする……! 身をよじり逃れようとするもののアリシアの力は強く、全く拘束を振り解けない。いいように体を貪られる。
「クソ……離れろ変態………んあっ!」
「今はちょっとくらい嫌がっても許してあげるよ。そのほうが滾るからね……」
「はあっ……はあっ……」
服の上から乳首を執拗に責められ、背中がぞわぞわしてくる。まずい、このままだと……
「あ……っ、んん~~~!!!」
「あれれ? もしかして乳首だけでイっちゃった?」
「~~~っ」
俺の痴態に満足したのか、アリシアは抱き着いていた手を離す。
もしやこれで終わりかと拍子抜けした気分の俺であったが、悲しいかな、これで許されるはずがない。
アリシアが俺の肩に手を置き、ねっとりとした声で囁く。
「洗い物が終わったら寝室に来なさい。今日は特別濃いのが出そうだから、たっぷり犯してあげる」
「……っ」
「返事は?」
「ぅ、はぃ……」
その返答に満足したのか、アリシアは鼻歌を歌いながらキッチンを後にした。
――やはり、アイツは頭がおかしい。
濁った眼で皿を洗いながら、俺はそう思った。