①
ドルマ&マリー
ドルマは商会の所有する高級宿の一室でアリーヤと話をしていた。
アリーヤは非常にいかがわしい格好をしているが、それを眺めるドルマの表情は真剣そのものであった。
「本当ですの?ドルマ…。どうみても肌着にしか見えないのですけど…」
ドルマは重々しく頷いた。
その眼は真剣だ。
気迫のこもった力強い視線に、アリーヤは暫し呆けてしまった。
一瞬だけだが惚れ直したのだ。
現時点で100惚れているとして、102程に惚れが増加した。
「本当だ。それは肌着に見えるが、俺が商会のツテを使って仕入れた一品だ。赤い布地は紅玉竜の皮膚をなめしたものだ。素材自体に強い抗炎の魔力が篭められていて、例え爆炎弾の直撃を受けても傷1つつかねえだろうな」
ドルマは自信ありげに言った。
「ふうん、でもそれなら外套とかそういう形で仕立ててくださればよかったのでは?」
ドルマはその質問には何も答えなかった。
答えるに値しない愚問だと思ったからだ。
②
ヨハン&ヨルシカ
「あの、ヨハン…。この赤い紐はなにかな…」
ヨルシカが頬を染めつつ尋ねた。
ヨハンは自身の腕が義手となった日から、術具に強い興味を持つようになり、特に極東の妖しげな(しかし効果のある)術具を集めていた。
極東の術具というのは西域や東域のそれとは違い、魔力とはまた違う“気”というエネルギーを利用した道具が多い。
今回ヨハンが仕入れたものは閼伽紐と呼ばれる呪詛の類に強い反発力を持つ術具であった。
「それは閼伽紐という。ヨルシカ、君は血を力と為すが、血液というものは本来は危険なものだ。これは衛生面もそうなのだが、今回はそういう話ではない。俺がいいたいのは呪いというものは血に宿りやすいと言う事だ。魔族の中には呪術の類を使う者もいるかもしれない。魔眼なども呪いの範疇ではある。その閼伽紐はそういった呪いに対して、極めて強い耐性を持つ。なぜならその紐自体がある意味で強力な1つの呪物であるからだ。…閼伽紐には1つ逸話があってな…」
それからヨハンは閼伽紐についての逸話を語った。
曰く、極東では運命の紅い糸とよばれているその紐は本来は極東の恋愛成就のおまじないに使われていたとの事。
だが、まじなうと書いて呪いと読む。
要するに呪いである。
血に浸した紐を結ばれたい相手の小指に結びつけ、もう片方を自身の小指に結ぶ。
そして唱えるのだ。
ちよ、ちよ、むすびたまへ
いのちといのちをむすびたまへ
たまとたまとをゆわいたまへ
いざやいわえや、ちのちかい
やぶれしときはくさりちに
いわいはのろいへいざかわらん
簡単にいうと不倫や浮気をしたら呪詛が起動し、全身の血を腐れさせて男も女も死ぬ、そういう呪いである。
「え!じゃああれかい?私にはそんな心配はないけど、もし君が浮気とかをしたら2人とも死ぬってこと…?」
ヨルシカが尋ねるとヨハンは首を振って否定した。
「あくまでも先端と先端を結ぶことでしか起動はしないよ。ただし、呪物というものはただ持っているだけでも他の呪詛を寄せ付けないものだ。特にこういった死を齎すほどの強力な呪物は、他の呪詛を強く拒絶するだろう」
なるほど、とヨルシカは頷く。
だが、と彼女は自身の胸を見た。
所持と言うなら、懐にも忍ばせればいいではないか、と…。
そんなヨルシカの疑問にヨハンは“趣味だ”とだけ答えた。