アリーゼ・ローヴェルA-①
「今回の健診も、異常ありませんね。少し体温が高いですが、風邪でも引きましたか?」
清潔な白一色の石材で造られた建物。
光玉と薬草のエンブレムが飾られたそこは、【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院。
その建物の一室では、白銀の長髪の少女―アミッド―が、対面で座る白髪の少年―ベル―の定期健診を終えて話をしている最中だった。
「一昨日、大雨だったから……それ、かなあ?」
「急な大雨でしたね、そういえば」
「でも、ただの風邪だと思うし大丈夫ですよ」
「まあ、その通りではあるでしょうが」
最早腐れ縁ともとれる二人の会話に、私ことアリーゼ・ローヴェルは預かっていたベルのシャツを本人に渡しながら耳を傾けていた。アルフィアがまだ生きていた頃から行われている定期健診は、ベルの身を案ずるが故の遺言によって【
「アミッドさんこそちゃんと寝てるんですか?」
「……寝ていますよ」
「じー……」
「……ここ最近、睡眠時間が短くなっています」
「ダメですよ、女の子なんだから。アミッドさんは特に綺麗で美人さんなんですから。アミッドさんが倒れたらオラリオ滅びますよ」
「私に乗っている責任が重すぎませんか!?」
都市最高の治療師が倒れたとなれば確かに、やばい状況だけれど。
決して治療師や薬師が彼女しかいないわけではないのだから、大袈裟に言わないであげて欲しい……と、彼女の肩を揉むベルを見て思う。いや、距離よ距離。
「あ、枝毛」
「うえぇ!? ど、何処ですか!?」
「ほら、ここ」
「ああ、本当に……」
「気をつけないと。キューティクル?が死にかけですよ」
「うぐ……い、いえ、仕方ないことなのです! ディアンケヒト様が余計なことをしでかすせいで!」
「またアミッドさんの体液で商売しようとしてたんですか?」
「体液言わないで!?」
いったい、あの子達は何の話をしているのか。
体液で商売?
わけがわからないわ!
「はあ、ベルさん本日はもう終わりなので自由にしていただいて良いですよ」
「あ、うん……えと、今日もありがとうございました」
「いえいえ、もう腐れ縁みたいなものですので」
上着を羽織ってベルは椅子に座って微笑んで眺めていた私の元までやって来る。
付き添いは別に不要だけれど、暇だから一緒についてきたわけだけれど。
休日が重なった人が、「一緒についていくわ!」と付き添うようになったわけだけれど。
決して?
たまたま、そう、たまたま時間ができたから、じゃあどこか美味しいものでも食べに行きましょう。市場でも眺めに行きましょう、ということになるだけのことなのよ。そう、だからたまたまなのよ。
「アリーゼさん、デートするの?」
「!?」
【
え、何、なんでそんなビックリするのよ。
いいじゃない、可愛い弟と
【ファミリア】なんだから将来的には、ベルがフィアンセになることなんておかしくないことよ。というか、皆で取り合う醜いことしたくないので囲ったわ。アダマンタイト並みよ。
「はぁ……残念だけれどベル。アーディが外で待ってるから行っておいで」
「え、アーディさん?」
「うん、アーディ。今日はお休みなんだって。ベル君とデートする!って言ってたわ」
「ぼ、僕に予定があるとは考えないのかな?」
「ないでしょ」
「うぐ……な、ないです……」
ジトっとした目でベルを見つめると、しゅんっと
「アリーゼさんは……帰られないのですか?」
私が今日、ベルの付き添いで治療院に来たのには理由がある。
そう、重要な理由があるのだ。
彼女に相談するために、そして将来のために、今回はアーディにベルを譲る。
これも武器を手に入れるためなのだ。
不思議そうに首を傾ける彼女に、私はコホンと咳払いを一つ。
そして、背筋を正して開口一番、私は言うのだ。
「おっぱいってどうやったら大きくなるの?」
「…………………………………ナンテ?」
あら?
何か言い間違えたかしら。
コホン。
エッヘン。
仕方ないわ、もう一度言いなおしましょう。
そうしましょう。
「…………胸を大きくするには、何をすればいいの? 都市最高の治療師としての意見、いいえ、
「…………………………………」
あら?
今度は少し、引いたような顔をしたわ。
何がいけなかったの?
お人形さんみたいな顔で、美人さんで、胸が大きくて、背が低い。
言い寄って来る男がいないほうがおかしいくらい彼女はお美しい。
そんな彼女の、女としての武器……そう、胸だ。そのサイズアップを聞くことの何がいけないのか。
「私に、聞くことなのでしょうか」
「同じ女だし……」
「いえその、同性どうしでそのような会話がないとは言いませんが…………そんなことを聞くためだけにベルさんとの逢瀬を……諦めたのですか?」
「ええ、悔しいけれど……ベルは口にしないし考えたこともないと思うんだけれど、あの子は巨乳派だと思うの。アーディも大きいし」
「はぁ」
「女として負けた気がして、悔しいのよ。この間だって、寝てるあの子を起こしに行ったら、あの子リャーナに抱き枕にされてて、おっぱいに顔埋まってたのよ? なにそれ羨ましい。 こほんっ、だから大きくなって……ベルを振り向かせたいというか」
「はぁ」
「………ベルに言われたのよ」
そう、言われたのだ。
とても悔しいことを。
血を吐いてしまうほどの一撃を。
何気ない一言が、私の胸を抉ったのだ。
あ、物理的にではないわ。
精神的な意味よ?
「アリーゼさんのブラジャー、サイズ変わってないね」
悔しい!
負けた気がする!
洗濯物を一緒に畳んでいる時に言われたその一言が!
どのモンスターから受ける攻撃よりも、きつかった!
リャーナのブラを持ち上げながら、何気なく言ったベルの一言が、切れ味抜群すぎた!
私は言葉を失い、理性も失い、気が付けばベルを泣かせていた。
年下の男の子をギャン泣きさせていた。
ベルの泣き声を聞きつけてセルティが「どうしたんですか!?」とやってきたところで私はハッと現実に戻り、ベルに拳骨を落してしまっていたのだとダラダラと変な汗を流した。
でも、仕方ないじゃない!!
気にしていることを、指摘されたら!
好きで小さいわけじゃないのよ!?
まあ何が起きたのか事情を聞いて頭の中で整理したらしいセルティが「ベルが悪いですね。私のこともそんな風に思ってるんですか?」とちょっと冷たい目で見てたのは怖かったけれど。
「お願い【
「あの、切羽詰まったように助けを求められましても」
「アーディに輝夜やリャーナくらい……我儘、マリューくらいバインバインになりたいわ! 小さいと揉んでても楽しくないでしょう!? 【
「確かに近しいかもしれませんが…………待ってください、
私は知っている。
というか聞いた。
治療院で働く【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達が、アミッド・テアサナーレは【静寂】のアルフィアに認められた女性であり、ベルの
「息子を、よろしく頼む」
と。
はあ~?
よりにもよって他派閥ですかあ~?
まさかの知らないところでベルに許嫁ができている事態に私達【アストレア・ファミリア】は困惑! 今こうして彼女に問いただすも、
「妙に距離近いし……私達が遠征に行っているときは本拠に泊りに来てるみたいだし、いやそれはいいのよ? あの子も寂しがるだろうし……友達とお泊り会って楽しいでしょうから。にしても近くないかしら。一緒に昼寝してたり、背中にもたれかかったりしているって聞いたわ」
「はぁ……ええっと、ご迷惑でしたら」
「ううん、絶対泊りに来て。貴方の入った湯船に浸かると妙に疲れが取れるから」
「…………っっ」
話が脱線してしまったわ。
別にいいじゃない、弟の恋愛事情なんて。
あの子が【
「それで、乳房の……」
「上目遣いをしなくて結構ですし、名称を変えなくても結構です。 要はベルさんに相手にされなかったら怖いからということですよね」
「そう! 一緒にお風呂入ってても触りに来ないし、何で? 男ならそこに裸の女体があったら触りたいものじゃないの?」
「………友人が14にもなって一人で入浴でき……いえ違いますね、入浴させてもらえないという現実を知らされて私は大変ショックを受けています」
「好き同士なら入るでしょ普通。あと、一緒に入れないときだってあるから毎日ではないわ。タイミングがあったときだけよ」
「確かにそうかもしれませんが、いえ、タイミングがあった時とはそれは結局のところ毎日のことでは? さすがに彼のプライベートやプライバシーを考えてあげるべきでは?」
「え、一緒に入らないとか出生率下がらない!?」
「しゅ、出生率!?」
好きあっている男女が一緒にお風呂に入る。
相手の裸を目に焼き付け、興奮し、そして、夜戦に突入!
新たな命が育まれる。
これぞ下界の心理!
私はそう思うわ!
なのにベルは触ろうともしてこないし、おかしいのでは? と思うのは普通ではないかしら。
「ええっと……アリーゼさん、ベルさんは正常です。健全な男性ならむしろ、思春期でしょうし異性の身体に興味がないわけではありませんし、だからこそ見ないようにしているのでは」
「はあ? 美人で超絶優しいお姉さんが裸でいるのに見もしないとか失礼すぎるわよ。見るでしょ普通」
「見ませんよ、普通」
「私はむしろ見るわ、ベルの裸。あ、成長したのねって」
「その、いつかセクハラで訴えられかねないのでおやめください。可哀想ですベルさんが。いいですかアリーゼさん、ベルさん以外の男性が例えばダンジョン内で水浴びをしていて、それを偶然見てしまった場合」
「うんうん」
「アリーゼさんは、まじまじとその裸をご覧になられるのですか」
「見るわけないじゃない」
「でしょう? それに、毎日となると見慣れてしまうでしょうから……その、そうですねここはベルさんがリャーナさんから教えられた言葉だそうですが、それをお伝えいたしましょう」
何?
リャーナはベルに何を教えたの?
大人のお姉さんって感じのリャーナは、
「いいですかアリーゼさん」
【
「恥じらいのない裸は――――」
「恥じらいのない裸は?」
「ただの、景色です」
「ゴホァッ!?」
リャーナ!?
なんてことを教えたのよ!?
じゃあ何、ベルが反応してくれなかったのは、「わあ景色きれ~」とか思ってスルーしてたってこと!? 嘘でしょう!?
私は思わず、いや、もう何なら階層主に殴られたような衝撃を受けて後ろに倒れた。無残に巻き込まれて倒れた椅子からタイヤの音がカラカラと聞こえてくる。そして、あれ、視界が歪んでいるわ。おかしいわね。
「な、泣かないでくださいアリーゼさん」
「ううぅぅ、皆だってベルと入ってるくせに……押し倒したり、抱きしめたり、もふもふしたり、添い寝したりしてるくせに……」
「ベルさんは本当に無事なんでしょうか、色々と……」
「あんまりだぁあああああ~~~!!」
「嗚呼、アリーゼさん泣かないでください!? わ、わかりました、わかりましたから! 専門的な知識の中から、役立つかわかりませんがお教えいたしますから!?」
あまりにでかいダメージ。
【
きっとリャーナあたりがベルの何かしらの気持ちを察して処世術を教えたのかもしれないけれど。
こ、これが持つ者と持たざる者の力の差だというの!?
この後、嗚咽する私に【
所謂、『おっぱい体操』なるもの。
「乳房を持ち上げる運動をしたり、姿勢を正して大胸筋を鍛えたりするんです。遺伝や個人差があるので必ずしも効果があるとは一概には言えませんが……毎日続けることが、重要ですよ」
「ぐすっ……ベルに揉んでもらうのは?」
「ええっとそうですね……好いている異性に、ということであれば乳腺が刺激されるだけでなく、女性ホルモンが~~~」
あれやこれやと、彼女の話を聞き、私は深く深くお辞儀をして謝辞を述べた。
扉を閉めるとき、何か溜息めいたものが聞こえたきがしたけれどきっと気のせい。
目指せ、巨乳。
私は必ず成し遂げてみせる!
――正義の剣と翼に誓って!!
「というわけでベル、おっぱい揉んで?」
その日の夜。
風呂上り、団欒室の
皆がギョッとしていたけれど、知ったことじゃないわ。
ベルは私の方を見上げなあら、額に手を当てた。
「熱?」
「お風呂上りなんだから、多少体温は高くなるでしょ」
「うーん……アリーゼさん今日、僕が入ってるときに入ってこなかったから、体調が悪い?」
「ベル、その言い方だと団長が
「そういう輝夜だってベルと入るじゃない」
「私は浴室に入ったら既にベルがいた時の話だ。全裸で待機するなど、面倒だ」
「ふーん、ま、今回は
「リューさん、ありがとう!」
「貴方も年頃の少年なのだから当然だ、だから礼は不要だ」
ベルが入浴している時。
何故かリオンが風呂場の前で木刀を持って待機しているのだ。門番の如く。一度だけ面倒くさいからと輝夜の手もかりてひん剥いて入ってやったら悲鳴を上げられたけれどそれが原因かしら? まさか、ベルが一人で入りたい気持ちを汲んであげているってことはないわよね? 私のことを無視するかのようにベルはリオンにお礼を言っているけれど。リオンったらすました顔してるけど、風呂上がりのベルのだらけきった無防備なところを見て挙動不審になっているのを私は知っているんだからね?
「【
「ふぅーん…………え、嘘っ、アリーゼさん好きな人いるの!?」
「「「「「おまえじゃい!!」」」」」
皆が口を揃えて盛大にツッコんだ。
すごいわ、賞取れるんじゃないかしら。
ベルも私も目を丸くしちゃった。
あ、セルティとリオンが自分の胸に目を向けて「くっ……」とか言いたげな顔してる。ふふ、同志ね。
「リオンはまだあるほうじゃねえか?」
「
「その言い方をやめろぉ!」
「お願いベル! 私だってリャーナ達くらいに……アルフィアくらいになりたいのよ! 器だけじゃない、おっぱいのサイズもランクアップしたいの!」
「しょ、しょーもねー話だなあ……」
「ネーゼちゃんは大きい方じゃない」
「いや、普通だろう? やっぱマリューには敵わないって」
「まあいいわ。とにかくベル、貴方には責任だってあるのよ?」
「責任?」
コテン、と首を傾げるベル。
仕草が一々可愛いのがずるい。
これで母親があのアルフィアなのだから世界って不思議。
いやアルフィアだって超絶美人だったけど。
「あんた、私に言ったこと忘れたの?」
「?」
「何々、ベルったらまた余計な事言ったの?」
「兎はたまにやらかすからなあ」
「皆聞いて、ベルったら洗濯物を一緒に畳んでいるときに『アリーゼさんのブラジャーサイズ変わらないね』って言ったのよ!」
「「「「有罪だわ、それは」」」」
「え、え、えぇ!?」
「ベル君、お洗濯物を畳んでくれるのはありがたいんだけどそういうことを言っちゃうのはダメよ」
「そうだぞベル。女相手に『年齢』や『体型』のことを言うのは失礼なんだぞ」
「ぼ、僕そんなこと言ったの!?」
「「「「まーたぼんやり言ったパターンか」」」」
「ふぐぅ!?」
年上のお姉さん達に若干冷たい視線を向けられて、ベルが竦んで後ろから抱きしめている私の手に縋りついた。ぷるぷると震えるあたり、完全に小動物だ。私はレベル差という反則をもってして、ベルを持ち上げ部屋に連行することにした。
「さあベル、レッツ・おっぱい体操よ! 大丈夫、気持ちよくしてくれたらベルも気持ちよくしてあげる! お姉ちゃん頑張るから!」
「僕、おっぱい揉まれたくないです!」
「男の胸揉んでどうするのよ!? ほら行くわよ、アリーゼお姉ちゃんとちょっとえっちなことしましょう!」
× × ×
「そ、それじゃあ……よろしく……」
そう言うと、アリーゼさんは差し出すように胸を突き出してきた。アリーゼさんから言ってきたことではあるけれど、彼女の顔はどこか赤く緊張と興奮をないまぜにしているように見えた。僕は生唾をごくり、と飲み込んで本当にするの?と視線を向けた。
「な、なによ」
「いや、その、どうぞって言われて……はいそうですかって……その触りづらいというか」
「…………ベルの思うように、触ってみればいいんじゃない?」
「思うように……」
「ベル、あれよ。『考えるな、感じろ』ってやつよ。それとも私の胸は触るに値しない?」
「そ、そんなことないです!」
「そ、そう」
「…………」
「…………」
「「えへへへへへ」」
アリーゼさんの胸は決してとても大きいというわけじゃない。
だけど、とても女性らしい曲線を描いている。美乳というやつだと、僕は思う。
「じゃあ、えっと……アリーゼさん」
「はい」
「お、おっぱいを……お揉みいたします」
「フフン、よきにはからえ」
「ははー!」
などと馬鹿なことを言っている僕達は、耳が赤くなっているのを互いに認識している。アリーゼさんの耳は赤いし、僕は顔が熱い。きっと耳は真っ赤だ。僕は大きく息を吸うと、アリーゼさんの胸に手を伸ばした。
「んっ……」
むに……っ、と柔らかい感触が手に伝わる。
その瞬間、アリーゼさんのかすかな吐息が聞こえてきた。
「痛くない?」
「ええ、平気。もうちょっと強めでもいいわ……こう鷲掴みする感じで」
「………こう?」
むんず。
そう言ってもいい強さで僕はアリーゼさんの胸を掴んだ。
「んふうう……っ! あ、ああ……」
そして返ってきたのはちょっと艶めいた吐息。
「あ、いい……ベルの手、温かくって……ん、ふう……はう、んっく……ん、あっ! ああ……はあんっ!」
むにむに、と強めに、だけど痛くないようにアリーゼさんの顔色を窺いながら胸を揉んでいると、アリーゼさんが自分から胸を押し付けていることに気が付いた。
「んうう……んはあっ、あっ、ああ……あ、あふ、んあ……っ!」
びくんっとアリーゼさんが急に背を反らした。僕は思わず驚いた。痛かったのかと思ったけれど、違っていて、気が付くと、僕の手の平に何か硬く尖った感触が当たっていた。うん、これはきっと、そう、乳首だ。アリーゼさんの乳首はいつの間にか硬く勃起していた。ひょっとして僕の手の平が転がしたせいで強い刺激が加わった……?
「アリーゼさん……感じてるんだ」
「……っ」
アリーゼさんは見つかってはいけないものが見つかったかのような反応をして、ボフン!っと爆発していないのにしているような感じさえして、俯いてしまった。前髪のせいで表情は読み取りづらいけれど、口元がもごもごしているのだけはわかった。きっと妙なテンションで僕を誘っておいて、今頃になって何をしているんだろうなんて思ってたり、変な気分になってたりして恥ずかしくなってるんだ。かわいい、アリーゼさん
「かわいい」
「っ!?」
勢いよく顔を上げたアリーゼさんは口をパクパク。
いつもならきっと「フッフーン! 私が可愛いのは当然のことよ! よかったわねベル、あんたのお姉ちゃんが美人で綺麗で可愛くって!」とウインクまでかましてるところなのに、今は違った。
「……大丈夫?」
「も、揉みながら言わないでえ……。いや、私がやれって言ったことだけどお……」
改めて思うと私ほんっとうに何させてるんだろう……いやでも、ベルに押し付けたりするのと全然違う……なんでえ??? とブツブツ呟くアリーゼさん。頭から湯気があがっているようにすら見える。
「も、もうやめる?」
「だ、駄目よ! え、ええっと……そう!」
アリーゼさんは胸を揉んでいる僕の手が離れないように自らの手を重ねると壁に掛けてある時計を見て再び口を開いた。
「せ、せめて一時間はしてもらわないと!」
「い、いちじかん!?」
「も、もっと大胆に来て良いわ!」
大胆にやれ、なんて言われてしまった。
キャミソールの下から押し上げてくる乳首をもっと弄ってみたいという欲求が僕の中で大きくなってきていたから、言われるまま続けることに。
「んああ……っ! んく、ふ、は……はふうっ、あ、あっ、ん……んんっ!」
もはや隠しようもないほどに、アリーゼさんの乳首は自己主張している。僕はそれを手の平で押し揉むように、転がすように弄る。
「ん、んんっ、ふ、普段からこれくらい大胆に来てくれればいいのに」
「恥ずかしくないわけじゃないんだよ?」
「わ、わかってるわよ……でも、ベルにはもう少し強引さを持つべきだと思うのよ? 私達、ベルにならえっちなことされてもいいって満場一致よ?」
「だから僕がお風呂入ってる時に入ってきたり、押し倒してきたり、キスしたり?」
「た、たまたまタイミング重なっちゃった時もあるけど……いや、だって、寂しいじゃない。昔は入ってくれたのに。押し倒すのは仕方ないわ、ベルが可愛いんだから。キスはほら、スキンシップ? マーキング?的な?」
「うーん……」
「いやなの?」
「別にいやってわけじゃ……」
「今度、試しにリオンにキスでもしてみたら? 口では文句言うけど、顔は満更でもないって表情するはずだから。あの子、結構ムッツリ属性っぽいし」
「あんまり、リューさんイジメちゃだめですよ」
「何言ってんのよ、私のおっぱい揉んでる今だって、
「バレてた!?」
「当然☆」
むにむにむに。
くだらない会話を挟みながらも、手の動きは止まらない。
アリーゼさんの速くて熱い吐息を感じて、乳首を強く押し潰すように胸を掴むと、はっきりとした嬌声がこぼれた。
「あ、あふ……ふあっ、あ、あああ……んんんっ、く、っふう……!」
「♪」
その反応に気を良くした僕は、更に胸を揉む。
「んあっ、あっ、あふっ、た、楽しそう……ねっ、ふううんっ、ん、んっくっ、はっ、はっ、あっ、あう……あ……!」
少し強めにすると反応が良い。
アリーゼさんは強いのがいいんだ。
「いいわ、ベルっ、あっ、んっ! はっ、ふう、ああ……! ん、ね……も、もっとしていいわよ? あ、あふうっ、はっ、はっ、はうう……!」
「……物足りない?」
「…………」
十分、刺激していると思う。
その証拠に揉みこむ度に僕の手に合わせてアリーゼさんの胸の形はむにっと形を歪ませているし。でもアリーゼさんはもっとなんて言うし、押し付けてきているし。
「……ちょびっと」
「強く?」
「う、うん……」
頷いて僕を見返すアリーゼさんの表情は完全に悦楽に染まっている。瞳はトロン、としているし潤んでいた。これ以上強くして大丈夫なんだろうか、なんて心配してしまうけれど本人がそう望んでいるのなら、僕はそれに応えるしかない。
むぎゅっ。
「あああんっ! あっ、あああーっ!」
「!!」
更に強く胸を揉む。
するとアリーゼさんの口からは最早隠し切れないほどの淫らな喘ぎ声が漏れた。反応してくれてる。その事実が嬉しくて、大好きな姉の胸を好きに触っていいと許されていて、僕は更に強く彼女の胸を求めてしまう。
「あっ、あっ! んううっ! くはっ、あっ、あふう、あはああっ、あっ、あっ!」
「アリーゼさん、気持ちいい?」
「んっ、気持ちいい……だから、もっとして……んくっ、大丈夫だからっ……」
「うん、わかった」
「あっ、ああっ! い、いいっ、ベルの手、熱くて……んううっ、ふう……っ!」
僕の手が熱いというのは、きっと僕がそれほど激しく興奮しているからだ。だけど同時に、アリーゼさんの胸も熱く火照り、乳首は更にツンと尖って物欲しげにしている。だからだろうか、さっきからアリーゼさんが近付いてきていて、今や彼女の熱い吐息が僕の唇にかかった。そのせいで、手が動かしにくくなってきている。
「ア、アリーゼ……さん?」
「………ダメ?」
「ダメ、じゃない……けど」
体温すら感じられそうな距離。
目の前にはアリーゼさんの切なげな、うっとりとした表情。
アリーゼさんに指摘されてしまった
「ん…………」
アリーゼさんは僕に覆いかぶさるように僕ごと倒れ込み、僕の唇に自分の唇を合わせてきた。滑らかで優しい感触。僕の頬に手を添えて口の中に舌を入れて蠢かし、舐ってくる。熱く濃厚な接吻に、頭が碌に働かなくなってきて僕の手はアリーゼさんの胸から離れて背中に回って抱きしめる形に。
「ちゅ、んっ…………ふぁ……」
満足したか、唾液の糸を垂らしながらアリーゼさんが唇を離した。彼女の目も熱を帯びてトロン、としていて動物的に言ってしまえば発情しているような、そんな気がした。そのままアリーゼさんは僕のことを見つめていたかと思うと横にコテンっと倒れた。
「え……ア、アリーゼさん!? どうしたの!?」
「…………すぅ、すぅ」
寝ていた。
寝てしまっていた。
散々、人に「おっぱいを揉みなさい」と言っておきながら、一通り満足したのか、寝てしまわれた。壁に掛けられた時計を見てみれば、ちょうど一時間経っていた。普段は一本に束ねている赤い髪も解かれていて、扇のようにベッドの上で広がっている。彼女は、それはもう安らかな顔をして夢の世界に旅立っていた。
「え、えぇー…………」
なんなんだろう、このやるせなさというか形容しがたい気持ちは。
僕はこの後、睡魔に負けるその時まで、とっても悶々としたまま夜を過ごすこととなった。