リュー・リオンA
「……っ、ぁ」
一人の女のくぐもった嬌声がそこにはあった。
カーテンは閉め切られ、部屋の中は薄暗く、ベッドの上には体を丸めてできた毛布の膨らみが時折、ビクビクと震えていた。
「……うぅ、屈辱だ」
金の長髪はシーツの上で広がって、空色の瞳は妖しい光を持ちながらも屈辱的に歪められ、火照った体を自らの手で慰めていた。キャミソールに短パンという部屋着スタイルの寝間着は既に部屋着としての形など忘れ去られ、短パンは床に脱ぎ捨てられ、キャミソールは胸より上に捲り上げられ、媒体によってはサイズが違う形の良い胸が露わとなっている。
彼女の名は、リュー・リオン。
【疾風】の二つ名を賜り、その何相応しく目覚ましい成長、そして敵にトラウマを植え付けるレベルの並行詠唱の練度を持つ『正義』の女傑が一人である。彼女の故郷は『リュミルアの森』で、大聖樹を守る一族として生を受け、戦士としての教育を受けていた。そんな彼女は今、火照った体を慰めるために自慰行為に耽っていた。
「確か……こう、すれば……、ンッ」
左手で胸を揉み、右手の指で下着越しに秘裂をなぞる。ゆっくりと。
「……ンッ…ふっ」
身体がぶるっと震える。
熱い吐息を吐いて、唇を噤んで、被った毛布で外界に自分がしていることが見られないように隠して、もう一度今の震えを、快感を求めて少しずつ、両手を動かしていく。
「こんなのは私ではない……とても、あの子にはッ、見せられな……ぃっ」
事の発端は、些細な喧嘩だ。
輝夜とリューが例の如く言い合いをして、それが以前より嫌に思っていたベルの堪忍袋の緒が切れて「仲良くなるまで帰ってこないで!」と手錠に繋がれて二人、本拠を追い出された時のことだ。手錠のせいで二人は離れることもできず共に行動することになり、見回りや、本拠に帰れないからと夕食や宿探しをする。途中、動きが制限されている自分達を格好の獲物だとでも思ったのかゴロツキ達が喧嘩を売ってきたがそれも返り討ち。しかし、気が付けば都市南区。娼館ひしめき合うピンク色の怪しい世界に連れ込まれるリューは、潔癖種族としてのキャパを輝夜によって粉砕。羞恥に涙を浮かべながら、輝夜の陰に隠れるようにしてあっちに行ったりこっちに行ったり。男神連中に見つかっては輝夜が何やら「あら男神様方、景気がようございますねえ」とか「私共が利用できる宿などあるはずもございません。なにせ顔が知られておりますので」「え? 相手をしてほしいと? 御冗談を。 男神様の派閥の団員に派閥の金で女遊びをしているとバラされてないのですか?」「おほほ、ご機嫌あそばせ」などと話していたが、リューはそれどころではなかった。
――許して!
その一点である。
ベルの前で喧嘩したことについては申し訳ないと思うところだが、何も手錠で繋ぐ必要はなかったはずだ。そんなに怖かったのだろうか、怒れる私達が。と思考するも気が付けば今度は輝夜によって『大人の玩具屋さん』に連れ込まれていて、これがまたリュー・リオンの尊厳というか色々踏み越えて限界突破。もう今日一日乗り越えればランクアップできるんじゃないかとリュー自身思ったほどだ。
「見ろリオン」
「うぅ…ぐすっ、帰りたい」
「ダメだ、仲良くならないとこの手錠は外れん」
「嘘だ、そんなことがあるはずない」
「私の脇差…『首切り大蛇』でもダメだったのだ、特殊な細工がされていることに違いない」
「今とってつけたような名を出すな! こんな手錠、鍵がきっと本拠にあるはずだ!」
「よく見ろリオン。この手錠、おそらくアーディが忘れていった【ガネーシャ・ファミリア】のものだぞ?」
「アー……ディ……ッ!」
輝夜が手錠を指さして、そこを見てみれば可愛らしい象さんの絵が彫り込まれていて、さらには『アーディの』と名前まで書かれている。何派閥の道具にデコレーションしてんだとツッコミたくなるし、こういった道具を失くすということはすなわち、アーディは姉のシャクティに雷を落されるのではないだろうかと心配にもなる。しかし、彼女が『星屑の庭』に忘れていかなければリューはこんなことにはならなかったのではないだろうかと思い至って、「シャクティにチクる!」と決意したのだった。
「まあいいだろう、それよりほら、大人の女として勉強だ」
「こ、こんなところで学ぶことなど……ない!」
「いいや、ある」
見ろ、と言われて鎖を引っ張られ渋々俯いていた頭を上げる。
店内は照明が暗く設定されていて、レジは顧客がどこの誰かわからないようにするための配慮なのか店員の首から上が仕切りで隠れている。そして輝夜の言う所を向いたリューの瞳に映ったのは、まるで男性器を模したような黒々とした物体だ。
「………む、無理だ。こんなの、壊れる!」
「馬鹿か貴様は。生娘の
「あの顔でこのサイズだったら、わ、私は引く……!」
「碌に見たことも咥えたこともないくせによくもまあ……」
「く、咥え!?」
「まぁいい、これは女が使う用の物だ。自分の体内に入れて、疑似的な性行為をするというわけだ。名称は確か……『でぃるど』だったか? ふむ……どうやら私達が見ていたのは『尻』用らしい。ほらリオン、今度はこれだ。ここのスイッチを入れてみろ」
「さ、触りたくない……いやだ、怖い、お願いです輝夜、許してください」
「ベルの前で一日裸エプロンで過ごしたなら考えてやる」
「貴方は鬼畜か!?」
「いいから早く。言う通りにした方が、早く外に出られるぞ」
「うぅ……ここですか? ――――ひぃっ!?」
何か輝夜の口から「咥えた」とか聞こえちゃいけないワードが聞こえた気がするが、そのことを輝夜は答えてはくれなかった。それどころか近くにあったスイッチ付きの物を顔に近付けてきたのだ。恐る恐る、彼女の言うことを聞かなければ延々と終わらないことも理解できたリューはスイッチを押す。すると、最初に見たものよりも現実的なサイズのものが、ぐいんぐいんと円を描くように動き出したではないか。リューは悲鳴を上げた。輝夜は「こんなものも知らないのか」とクスクスと笑って遊んでいる。
「ベ、ベルのも回転するのでしょうか……」
「う゛ぁ~~~~かめぇ、そんなことがあってたまるか」
「あ、あの子のものも……こ、こんなイボが……お、男は皆、病気なのでしょうか……輝夜、わ、私はどうしたら」
「病気はお前の頭だ。一度、じっくりあいつのモノを観察してみろ、なんなら触ってみろ……あいや、咥えろ。そして味を覚えろ。いずれお前を貫くものなのだからな」
「…………」
「唯一触れられる相手なのでしょう? そんな運命のお相手がいながら、未だ接吻もしたことがないとは……私達とは大きく出遅れておりますねえ」
「うっ……い、いや、接吻なら……ある。む、昔、貴方のお酒を間違って飲んでしまった彼に……」
「あれはノーカンだ。本人が覚えていない」
「くっ」
出遅れチキンクソザコ生娘妖精などと輝夜にぼろくそに言われ、酔っぱらった兎に唇を奪われたことを無かったことにされ、リューは悔しく唇を噛み締める。輝夜とリューの間で未だ、ウィンウィンと音を立てながら回る『ばいぶ』なる商品。輝夜はそれを「やれやれ」と溜息をついて一度だけリューの下腹部に触れさせてビクゥッ!と身体を震わせたリューの反応を見て、スイッチを切り、棚に戻す。
「そもそも商品に勝手に触っていいのですか? 不衛生では?」
「……お前、丸出しで置いてあるものを買うとでも思ったのか?」
「え?」
「私でもな、どこの誰が触ったかもわからんものを買って、使うつもりなど毛頭ない」
「で、では……さっきから梱包もなしに置いてあるものはいったい?」
「見本だ、馬鹿者。貴様の知能指数はどこまで落ちている?」
「うぐぅ……」
「どうせ貴様のことだ、昂ってしまった身体の慰め方も碌に知らんのだろう?」
「モンスターを倒せばいい」
「人はそれを、八つ当たりと言う」
「何がいけない」
「貴様、ベルの匂いがついたシャツを嗅いで、モンスターを殺しに行くのか?」
「そんなことは、しない! そもそも、私は嗅いだりなどしない!」
「もう全員にバレているから諦めろ」
「え」
「ベルも知っている。「リューさんが幸せなら僕は嬉しい」そう言っていた」
「やめて……! 私に憐みの目を向けないで……!」
「だから団長が、リオンの下着をプレゼントしていた」
「勝手なことをするな!」
「「女の子の恰好をするときは、リオンの下着を履きなさい♡」と言っていたな」
「やめろぉ!」
静かな店内で女二人が言い合っている光景が、もし知己にでも見られたらそれこそリューは耐えられなかっただろう。話を切り上げた二人は、やはりというか輝夜によって店内をぐるっと回る形で見て回っていた。男が使う道具を見せられ「乳房を吸わせながら、この穴で擦ってみるか……?」と勝手に思案する輝夜に、「お、オラリオの魔石が、こ、こんな卑猥な物にまで使われているなんて……こんな魔石製品、あっていいはずがない」と勝手にブツブツ言うリュー。一通り見て回って、満足したらしい輝夜。リューはすっかり疲れ果ててげんなりした顔をしている。無理もない、すでに1時間と30分は経過していたのだから。
「では――――」
「ええ、外に―――」
「一人、一つは何か買って帰りましょう」
「……………え?」
やっと解放されるという安堵からの、急転直下。絶望に凍り付く。
表情を凍らせたリューを嘲笑うように輝夜は、さも、それが道理であると言葉の羅列を叩き込む。
「小一時間も店内を騒ぎながら歩き回り、物色し、何も買わずに退店とは……あらあら、随分、商売を舐めていらっしゃいますねえ?」
「っ!?」
「これだけはしゃぎ回っていたのです、お店の方々はさぞ、何か商品を買ってくれると期待していることでございましょう」
「っ!?」
「まさか気高き潔癖種族たる妖精様が、冷やかしに店内を歩き回ったとあっては――――ねぇ?」
「……うぅうぅぅぅぅぅ!」
「高いのを買えというわけでもないのですから、何か一つ、お買い求めいただければ、店の売り上げにもプラスとなること間違いなしでしょうに。可哀想に」
「か、買えばいいのでしょう!?」
そして現在。
あの店を出た後も、宿をとることになって手錠が邪魔ですったもんだしながら服を脱ぎ、二人で湯を浴び、身を清め、ベッドで眠って朝を迎えるだけの時間も、隣の輝夜が自慰行為の仕方を囁き続けた結果。リューは一人、悶々と、ムラムラとする身体を慰めていた。
「ン…ふぅ……ふぅ……ん」
乳首がピンと立ち、興奮していることを主張する。
「こんな私を見たら、あの子は失望するでしょうか……」
派閥に入って来たばかりの頃のベルは、まるで御伽噺の中から出てきたような人物に向けるような視線をリューに向けていた。アルフィアが言うには故郷にエルフはいなかったとか、金髪とエルフはベルの性癖に刺さっているとか、母親が言っちゃいけないことを言っていたが「リューさんリューさん」と愛くるしく後ろをついてくる姿に何度も胸に今まで感じたこともない衝撃をリューは受けていた。ヴァレン何某に泣かされることが度々あったせいで、今ではそのなりは潜めてしまって寂しくもあるが―――
「まさか、私はあの子に避けられているせいで……こんなことを……?」
欲求不満の正体を。
ムラムラの正体を。
昔のように接してくれないことが原因なのではないかと悟る。
「ベル……ンッ……ベルっ、触って……私を……」
昔のように抱き着いてきてほしい。
手を握って欲しい。
尖った耳に触れてほしい。
そんな思いがぽつりぽつりと零れて、さらにその先、男女の中としての延長戦。性的に触れて欲しいと口にしながら、手を動かす。乳首を摘まみ、秘裂をなぞって体を震わせる。
「っ……!」
物足りない。
欲求を口にしても、ベルにされていると思って手を動かしても、どこか物足りない。
迫りくる大きな波が、リューを押し流してくれそうで、やってこない。
目尻に涙を溜めて、悔しく唇を噤んで、ベッドから顔を出し、手を伸ばす。
「……物足りなくなったら……彼女の言いなりになるのは癪だが」
物足りなくなったら、使ってみろ。と選べなくて輝夜に半ば強引に買わされた道具を使う。
下着越しに秘裂の上に押し当て、スイッチを入れる。
「…ひゃんっ! こ、これ…は…あ、あ」
自分でも今まで出したことがないんじゃないかと思うような声が漏れて、思わず口を塞ぐ。けれど震動は決して止まらずリューの身体を震わせ続けた。
「あっ…あっ…こんな、刺激…知らない…! ん…ンン」
少しずつローターを動かして、その度に声を漏らし身体を痙攣させる。
「ふぁあ…あ…ア、当ってるぅ」
邪魔な下着を脱ぎ捨ててみれば、しっかり濡れていて、ヒクヒクと動いている。
「……ン、あっ、くっ、うっ」
直接触れることでまた違う刺激がやってくる。
「ンンッ! あっ、あぁっ…くぅっ! こ、これ、凄い…あ、あぁ、あ! だ、だめだ、これは、なにか、キてしまう…!」
止まらない身体の震え。
最早抑えることも忘れた嬌声。
何度も何度も、「ベル」と口にして自慰の相手にしてしまっている罪悪感と羞恥心で頭が馬鹿になっていく。一際、大きな快楽の波が近くなって、今度はローターを下から押し当てた。
「ふぁあ! ベルっ…べる、あぁぁ、あ!! やっ、だめ、イッ、あ、あ!!」
大きく、ビクンッと身体が跳ねる。
「ふぁああああーーーーーー!!!!」
経験したことのないような大きな快楽のうねりがリューを飲みこみ、頭を真っ白に塗りつぶす。股を濡らし、シーツまで濡らして、ガクガクと身体を震わせて、リューはようやく絶頂を迎えたのだ。
「あ…あ、あぁ、はぁっ、はぁっ…」
リューの身体はびくびくと痙攣している。
荒い呼吸を何とか整えようとしても、モンスターと戦った時よりも難しく、困難。
指に付着した自分の愛液を眺めて、何か達成感のようなものを感じて、本物はもっと凄いのだろうかと好奇心が湧いてくる。
「……はぁ、ぁ…」
ベルが格好いいと言っていたエルフの戦士が、何をしているのだろうか……と冷めていく頭でそんなことを考えてしまう。大丈夫、相手は私がこんなことをしていたなんて知るわけがないのだから。普段通りに……。まずは汚してしまったシーツを洗って証拠隠滅をしなくては。そう考えて、全身を隠すように被っていた毛布を跳ねのけ、身体を起き上がらせたとき、リューの心臓は止まってしまったのではないかという錯覚を覚えた。
「――――ぇ」
なぜなら、そこには。
「リューさん……? あの、大丈夫?」
扉を少し開けて、ベルが顔を覗かせていたからだ。
「…………いつから?」
「えと、ついさっきです。ぶぅぅぅんって音がして、だけどリューさんが僕の名前呼んでるから、どうしたのかなって」
「あ……あぁあああああああああっ!」
「リュ、リューさん!? リューさんしっかり!? あ、あれ、なんでパンツ履いてないんですか!? それに何だろうこの匂い……いったい、何があったんですか!? リューさん!」
「……き」
「き?」
「き、きき……」
リュー・リオンの頭は完全にフリーズした。
もうベルの意識を刈り取るとか、それどころじゃなかった。
ノーパン姿どころか、生乳まで見られ、あろうことか濡れているところまで見られてしまっていた。格好いいと言ってくれていたエルフのお姉さん像は今ここに、ムッツリすけべなエルフのお姉さんへとジョブチェンジ。リューは、悲鳴を上げた。
「きゃあああああああ―――――ッッ!!!!」