アストレアA-①
「ねえ、アストレア?」
迷宮都市オラリオ。
神々と人々が共に暮らし、神の眷族となった冒険者達が多く存在する世界の中心。
そんな都市のとある喫茶店の二階で、紅茶で喉を潤した美の女神が開口一番、ぶち込んだ。
「ベルとはどこまでヤッたの?」
生まれるのは当然、沈黙だ。
まだ日の明るいうちからこの女神様はなんというか、下ネタをかましてきたからだ。
丸い木製のテーブルを囲うのは、蠱惑的な笑みを浮かべて、揶揄っているようにも思えてならないフレイヤ様と、食べていた物を喉に詰まらせてしまったロキ様、そして柔和な微笑みのまま凍り付いたデメテル様とアストレア様だ。少し距離を開けて、派閥違いのそれぞれの神の眷族達が同じく木製のテーブルを囲っていて、僕は遅めの朝食『サンドイッチ』を食べていたけれど、その言葉の意味がイマイチ理解できずにサンドイッチに噛みついたまま固まって周囲を見渡した。
「…………」
ロキ様の護衛で一緒に来ていた、お姉さんエルフ。
アリシア・フォレストライトさんは、言葉の意味がわかっているのか俯いてその頬をわずかに赤く染めている。デメテル様の眷族は飲んでいた飲み物を器官にでも入ったのか、咳き込んでいて、それがはしたない行いだと恥じたのか涙を浮かべながら「申し訳ございません」と女神様達に対して叫び、謝罪をしていて、フレイヤ様の護衛でやってきたオッタルのおじ様は表情を何一つ変えることなく、固まっている。というか、この中で唯一、彼だけが違和感の塊でしかない。
「オッタルのおじ様が僕達とテーブルを囲っていると、子供用の椅子に座る大人みたいに見えますね」
「ベ、ベル・クラネル!? 今、その話題はどうでもよくないですか!? あなた、今の言葉わかっています!?」
「んー?」
「くっ……その、年上女性を殺しかねない首の傾げ方をやめなさい!」
そう、オッタルのおじ様は僕達と比べればその体格差はあまりにも違いすぎる。
そのせいで彼が座っている椅子が、サイズが合わないわけではないのにどうしてだか、子供用の椅子に座っているようにしか見えないのだ。不思議。そんな僕の物言いにアリシアさんは【フレイヤ・ファミリア】を刺激するようなことを言うなとばかりに突っかかるけれど、顔を赤くしながらフレイヤ様の言葉の意味がわかっているのかと問うてくるが、僕はまだ理解できていないので当然、小首を傾げる。
そもそもアリシアさんが護衛できているのは、ロキ様なりの僕に対する配慮らしい。
曰く、アイズさんを連れて行けば僕が怯えて逃げてしまうからだとか。今日はリヴェリアさん達とダンジョンに行っているらしい。
「………どういう意味、かしら?」
「あら、もう夜だったかしら?」
「ゴホッゲホッ、デメテル、まだ昼入ったばっかや……げほっ、ゴッホォッ、昼間っから何かましとんねんフレイヤ! アホか!? 万年発情期か!? 冗談は自分の恰好だけにせえや!?」
「あら、私の衣の何がいけないの?」
フレイヤ様は、絶世独立の美貌。いっそ寒気すら覚えるその艶麗さは下界の者を、同格の神々さえも惑わせる力を持っているのだという。ローブで身を隠しているにも関わらず、周囲の客の時を奪い魅了してしまう……そのために、二階は貸し切り状態となっているし、僕とオッタルのおじ様以外のアリシアさんとデメテル様の眷族の人はフレイヤ様を見ないようにしている。ロキ様も言っているけれど、美の女神様は簡単に言ってしまえば『
「私の恰好をどうのと言われる筋合いはないわ。私は今日これを着ようと思ったから、着た。貴方だって、なあにその腹巻のような衣は」
「じゃかあしいわ! ウチの一張羅馬鹿にすんなや!」
「あら、ごめんなさい? それでアストレア、どうなの? ベルももう13歳でしょう? アストレアも含めれば12人の女の子に囲まれた生活……何もないはずがないじゃない? 気になるのよ、乙女の花園で暮らす男の子がどうなるのか」
「プライベートなことに踏み込むべきではないわ、フレイヤ」
「そうねえ、よくないと思うわフレイヤ。でも、気にはなるわね」
「でしょう、デメテル?」
まあ気にはなるな、とロキ様も混じり出して所謂、味の濃すぎる『恋バナ』をご所望な視線の集中攻撃がアストレア様へと向けられる。アストレア様は苦笑を浮かべたまま口角を痙攣させているが、テーブルの下、膝の上にある手はロングスカートを握り締めているのを僕は見逃さない。あれ、怒ってるのかな? アストレア様が怒ってるところってあんまり見たことないけど。
「アストレア様、大丈夫ですk―――むぎゅっ!?」
「ねえベル? 貴方、アストレアと普段どんなことをしているのか教えてもらえないかしら?」
「へ?」
「フ、フレイヤ!?」
アストレア様が心配になって、女神様達のいる方へ行ってみればフレイヤ様に勢いよく抱き寄せられ大きな胸へ僕の顔は軟着陸した。冒険者でもないのにいきなりのことに僕は反応できず、潰れた兎のような悲鳴をあげると同時にアストレア様の素っ頓狂な声が聞こえてくる。視線だけを上に向ければ、フレイヤ様は銀色の瞳で僕を微笑みながら見つめつつも、細腕で髪を梳くように頭を撫でてくる。
良い匂いがする……アストレア様とは別の……。
「ふふ、頭が弱点なのかしら? 撫でると大人しくなるのね」
「おいフレイヤ、ほどほどにせえや。ちょ、まっ、アストレア、剣を抜こうとすな!?」
「フレイヤ様、戯れもほどほどに」
「あらオッタル、いけないかしら? この子には私の魅了が効かないみたいだし……私としては、そうね、女の悦ばせ方くらいは教えてあげたいくらいなのだけれど?」
「フレイヤ、貴方酔ってる?」
「この程度の
「むぐぐぅ」
「あん、くすぐったい。ねえベル、アストレアと……キスとか、した?」
フレイヤ様は是が非でも聞きたいらしい。
ここでようやく僕は女神様達の話の内容が理解できた。エルフのアリシアさんが顔を真っ赤にするわけだ。要は、『男女の仲』として関係はどうなのかということなんだろう。綺麗なお姉さんとの生活に、優しい女神様との生活。何も起きない筈がない。起きない筈がない……のだけれど、それを言うのはダメなのでは?
「む……ベルは一般常識だとかに疎いと思っていたけれど、
アルフィアったら、どういう教育をしているのかしら。そんな小声の呟きは、しっかりと僕の耳に入りましたよフレイヤ様。お義母さんは言ってた、美の女神は碌でもない奴ばかりで欲しいものがあれば『魅了』で解決しようとするらしい。だからもし仮に美の女神に手を出されそうになったら消臭スプレーでもぶっかけてやれと。くそ、持ってきていなかった! アストレア様からフレイヤ様がいるって聞いてなかったし!
「ねえベル、良いことを教えてあげるわ」
僕の頭を撫でまわしながら、そっと僕の耳元でフレイヤ様は囁く。
深い深い沼に引きずりこむかのように。
「女神ってね……『名器』持ちばかりで、『
「め、めーき?」
フレイヤ様の囁きは僕にしか聞こえていない。
けれど、僕の声はどうやら二階にいる眷族達と女神様達には聞こえていたようで「ぶほぉっ!?」とか「ひゅっ―――」と呼吸の詰まるような音が聞こえた。というか、アストレア様の方から謎の圧力を感じる。怖い、珍しく怖い。
「その中でも美の女神は『名器』の中の『名器』。挿入しただけで果てちゃうくらい。オッタルも初体験は私の中に入っただけで……」
「聞きたくなかった!!」
何が楽しくて、あのゴリゴリの武人の性事情を聞かされなければいけないんだ!
そんな僕の抗議など知ったことかとフレイヤ様は面白そうに語り続けた。というか、何と言うか変なスイッチが入っていた。
「昔、アルフリッグ達を手に入れるために、あの子達を働かせているドワーフの子に
「わ、わからない、です」
「つまりね? 美の女神は、相手をそれこそ興奮状態にすることもできる……それほどまでにね」
だからどう? 貴方さえよければ、私が貴方を大人にしてあげる。いつまでも生殺しでは貴方も苦しいのではないかしら? 頭を撫でて、太腿を細指で上へ下へと往復させるフレイヤ様は最早ターゲットをアストレア様ではなく僕に移している。僕はフレイヤ様から漂う谷間の匂い、指の感触から既に耳まで熱い。目はぐるぐるとして、何をどうしたらいいのかもわからない。アストレア様はどうして助けてくれないんだろう。
「じっくり、しっぽり……女の悦ばせ方を覚えれば、アストレアも、貴方の大好きなお姉さんだって……ああ、なんなら貴方を毎度泣かしに来る【剣姫】を逆に泣かせることもできるわ」
「ひぅっ、やっ」
「おいゴルァ!? アイズたんに手出したら流石に許さんぞ!?」
「あらロキ、母親を喪ったばかりのベルを傷付けて泣かせた【剣姫】の監督不行きがあるのに、そんなことが言えるの?」
「言うわ! おいアストレア……って、アストレア!? しっかりせえ!?」
「ア、アストレア!? 柄を握り締めたまま固まっているわ!? しっかりアストレア!? 貴方のベルが取られてしまうのよ!?」
どうやらアストレア様も処理限界を越えた出来事にフリーズしてしまっているらしい。しかも、『裁きの剣』、その柄を握り締めたまま。微笑んだまま。僕は頭の中がぐちゃぐちゃになって、藻掻くけれど不思議なことに抜け出せない。フレイヤ様の柔らかい胸がもにゅもにゅと形を歪めてはフレイヤ様がわざとらしく喘ぎ声をあげるだけだった。完全な悪ノリだ。
「お、おおお、【猛者】!? 貴方の主神、流石に戯れがすぎるのではないですか!? このままでは処女雪のようなまっさらな白い兎が帰ってこれない場所に行ってしまう! そんな、そんな……未だ満開に至っていない薔薇が散らされるようなことがあってはならない!」
「………フレイヤ様が奴に寵愛を与えると言うのであれば、我々に口出しする権利はない」
「派閥間に問題が発生します! このままでは第二の暗黒期が始まりますよ!?」
アリシアさんの抗議にデメテル様の眷族はうんうんと頷いているのがわかる。
アリシアさんの言っている意味がエルフチックすぎてわかりにくいというのがついてくるけれど。きっと、僕がこのままフレイヤ様にお持ち帰りされた場合、アリーゼさん達にその話が行きわたり、【フレイヤ・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】の抗争が勃発するに違いない。あとは、そう、リヴェリアさんが何かと僕に「ちゃんと食事はとっているか?」とか「ベル、
「フ、フフフフ、フレイヤしゃま!?」
「どうしたの、ベル?」
「あ、あの、その、こういうのは、オッタルのおじ様に……!」
「オッタル達は貴方みたいに
つまらないわ。その言葉に、オッタルのおじ様はどこか悲し気に小さな耳を折りたたんだ。「なぜ貴方が落ち込むのですか!? これはあれです、マンネリというやつでは!?」とアリシアさんは更にお怒りだ。アストレア様やお姉さん達に喜んでもらいたいけれど……たぶん、これは違う。うん、駄目なやつだよ、心の中のお爺ちゃんはいったれとばかりに親指を立ててサムズアップしてるけれど、やっぱり駄目だ。取り返しがつかないことになりかねない。僕はえいや、と力いっぱいの抵抗で何とかフレイヤ様の谷間から脱出し熱くなっている頭をぶんぶんと左右に振って、拒絶した。
「ぼ、ぼくっ、大きくなったらアストレア様と結婚するんです! だから、フレイヤ様は、駄目ですぅ!!」
ん…………あれ、僕はいったい何を。
しーん、と静まり返って、カラン、と何かが床に落ちる音がして、周囲を見渡した。
フレイヤ様の両手は僕の腰の位置、シャツを掴んでいるけれどフレイヤ様もまた、目を点にというか鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして……次の瞬間、爆発した。
「「か~わ~い~いぃぃぃぃぃぃぃ!!」」
「うぉおおおおおおおおお!! ウチもアイズたんに言われたいぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
「な、なな、何という……いえ、ですが、神と眷族の恋愛がこの下界ではないとは言い切れない……それに、相手は彼の主神! 他派閥の私がどうのと言う権利はない……ですが、なんでしょうか、この胸に疼く、きゅんっ、という感覚は……!?」
「…………我が女神の寵愛を蹴るか、それもまた、貴様の道」
「ベ、ベベベベベ、ベル!? 貴方は、こんなところでなんてことを言うの!?」
「え、え……えぇっ!?」
僕の馬鹿になった頭はどうやら、余計なことを言ってしまったらしい。
爆弾が投下され、キノコ雲ができたような衝撃にデメテル様が、フレイヤ様が頬を染めて僕に詰め寄ってきて、きゃーきゃー言っているし、ロキ様は男神女神に関わらず、眷族に言われて嬉しい言葉No.1に入るとばかりに羨ましがっている。
「ベル、帰るわよ!」
「へ、アストレア様、ぼ、僕なにか失礼なことを……!?」
「い・い・か・ら、帰るわよ!」
「「あ~ん、アストレア、もっと話を聞かせてよぉー!」」
「もう……もう、もう、もう……っっ!」
耐えに耐えかねたアストレア様はついに椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がり、羞恥をそのままに僕をフレイヤ様から強引に奪い返し引きずるように退店。僕はにこやかに手を振るデメテル様と「あら、遊び過ぎたかしら?」と同じく手を振るフレイヤ様から目を反らして転ばないようにアストレア様に続いた。本拠まで寄り道することなく、一直線。僕の手を握るアストレア様の手は、とても熱くて、ドキドキしているのが伝わってきて、俯いてどうにかこうにか羞恥に染まった顔を隠そうとしていて、僕はそんな女神様にドキっとした。
× × ×
『星屑の庭』―神室―
ごくごく、と喉を鳴らす音が耳朶を叩く。
ぷはっと吐くは熱い吐息にして、酒気を帯びた吐息。
アストレア様は、自棄気味にお酒を流し込んでいた。
「ア、アストレア様……よくないですよ、お体に悪いです」
「ごくごく、フレイヤがそもそも悪いのよ。たまにはお茶会をしましょうなんて集まったのに、ベルがいるのを良いことにプライベートな話を……ごくごくごくごく、言えるわけがないでしょう、毎朝、毎晩、ベルを抱きしめて身体をこれでもかと密着してアピールしているだなんてっ」
タンッ! と空になったグラスがテーブルに置かれる。
彼女はそこにおかわりを注いでいく。もう既に、空になった
「ぼ、僕が余計なことを言ったかもしれないってのは謝りますからっ!? そんなに飲んだら、体調崩しますよ!?」
ロキ様だって吞み過ぎて二日酔いになると聞いたことがあるし、
「どうして、ベルと私にちょっかいを出すのかしらね? 私のベルに手を出さないで欲しいわ。 ぐびぐびぐび、けぷっ、こほんっ、女神はげっぷなんてしないわ。だって女神だもの。どうしてああも、ヤッただのヤッてないだのを聞いてくるのかしら? とても失礼だとは思わない? ねえ、ベル?」
「は、はひっ、とても失礼だと、思いますっ」
「ええ、良いでしょう教えてあげるわよ。毎日ベルを抱きしめて眠っているわ、それが何か? ぐっすり眠れるんだからいいじゃない、ベルも嫌がっていないのだし……でも最近、たまに固くなったモノが当たっている時があって、女として喜びを感じないわけではないと言うか……ごくごく」
「…………」
「ふふ、夜眠たそうにしているベルの唇に
「ア、アストレア様?」
「ほぉら、ベルぅ、そんなところに立っていないで隣に座りなさい。あと最近、どうして一緒にお風呂に入ってくれないの? 寂しいわ、反抗期なの?」
「ち、違いますよ!?」
だって僕もう13歳だし……リューさんが「さすがに一人で入るべきでは?」って言ってたし。いや、アリーゼさん達は「そうね! 誰だって一人になりたいときはあるものね!」とは言いつつもお構いなしに突入してくるけれど。僕でもアストレア様達を異性として意識しているのだから、昔と同じというわけにはいかないのでは?
「私は毎日のように貴方と入って洗いっこがしたいわ。貴方も私を女として見てくれるのなら、同意の上なのだし、良いのではないかしら?」
「う、んっ、でも……」
アストレア様は僕に寄りかかって太腿の上で細指を躍らせる。
口元からは
「もしかして、もう飽きてしまったの?」
ぐすん。
泣きそうな目で僕の瞳を見つめてくるアストレア様は、とても可愛い。ずるい、卑怯だ。
「女神である私は、思春期に入りかけの子の入浴に、ましてや初めて精を吐き出させてしまった私が突入するなんてはしたないこと、できるわけがないでしょう? そんなことをするのはヘスティアくらいよ」
そうね、彼女なら唯一の眷族との絆が深まったあたりで何か感極まるイベントが発生して突撃しかねないわとアストレア様は言うけれど、オラリオにその名の女神様っていたかなあ。
「ベル、正直に……私とは、いや?」
「いやじゃ……ない、です」
「じゃあ、昔のように一緒に入りましょう。毎日」
「まっ!?」
「アリーゼ達より私と一緒にいる時間の方が長いのだから、いいでしょう? そりゃあ用事があって無理な時もあるけれど、それはそれ。ベルの髪を洗ってあげたいし洗って欲しいわ」
「うぅ……」
「アリーゼ達とは入るのに、私はダメだなんておかしいでしょう?」
「わ、わかりました。わかりましたから、落ち着いてください!」
「入りたいの? 入りたくないの? はっきりしなさい! アルフィアも言っていたでしょう? はっきりしない男は犬に踏まれて死ぬべきだって」
「死因がソフト過ぎませんか!?」
「さあ、
「アストレア様の身体を毎日洗いたいです!!」
「じゃあ、着替えも手伝ってもらいましょうか」
「え」
完全に出来上がったアストレア様は……所謂『S』の属性が付与されるのかもしれない。僕はもうフレイヤ様に揶揄われていた時以上に、顔が熱いのを感じている。なんなら、無言で僕に抱きしめさせようと腕を動かすアストレア様に抵抗すらできない。酒気を帯びた女神様は、それでもなお良い匂いで、その体は柔らかく、腕の上に乗る悩ましい胸からは彼女の脈動を感じる。
「ふふ、ふふふふふ」
「ア、アストレア……様?」
「『大きくなったら女神様と結婚すりゅー!』うふふふ、こんなに嬉しい言葉はないわ! ええ、ええ!」
「僕そんなこと言ったんですか!?」
いつだったか、確かお義母さんがまだ存命だった時につい、言ってしまったことがある気がする。お義母さんは絶句していた気がする。お義母さんは眩暈を覚えて最後には「好きにしろ」と言っていた気がする。小さい頃の恥ずかしい女の子だったら「私、お父さんと結婚する!」レベルの発言を僕はあの時、あの喫茶店でぶちかましてしまったらしい。アストレア様は僕の膝に倒れ込み、仰向けになってはお腹に顔を埋めてくる。
「ふふふ、はぁー……大きくなったらとは、何歳なのかしらね?」
「…………っ」
「私も好きよ、ベルが好き。可愛くて優しい貴方がとっても……あんなことをゼロ距離で言われてしまえば、たとえ貞潔を司る『
「ご、ごめんなさい……」
「うーれーしーいー!」
「!?」
制御不能。
制御不能。
制御不能。
女神様は今まさに、酔いつぶれた美人なお姉さんに成り果てていた。
そこに『正義』の『正』なんて、ない。そこにいるのは、ただの惚れた異性に甘えまくる乙女だった。
「ベル、
「アストレア様、お水飲みましょ? 悪酔いしてますよ?」
「酔っていないわ、私はシラフよ」
「それは無理があります!」
「………ほろ酔いよ、ごめんなさい調子に乗りました。でも、あんなことを言われて恥ずかしくならないはずがないでしょう? ベルがいけないのよ、だから責任を取るべきでしょう?」
「せ、責任……」
「たまには男女の仲を深めなくてはいけないと思うの。何より、貴方がフレイヤにべたべた触られて、谷間に顔を埋めさせられているのを見て、私はとても嫌な気分。だから、それを私で上書きしたい」
「つ、つまり?」
「
「にゃ、なんで撫でるんですか!?」
酒気を帯びているのにそれでもなお頬を染めてアストレア様は僕の太腿ではなく、股間を優しく撫でた。思わず僕は体をビクリと震わし裏返った声で悲鳴をあげた。アストレア様は少し驚いていたけれど、すぐにニッコリと笑みを浮かべた。
「ちゃんと私を女として見てくれているのがわかるわ。 たまには、スキンシップ……いえ、
「うぐ……」
「否定しないということは、そういうことでしょう? 私が何もしていないのだから、流石に一線を越えないというか線引きをしているでしょうけれど……それでも、たとえばお風呂に入っている時に見てきたり、あるいは自分の胸を服の襟元からチラつかせたり……誘惑という形で悪戯してくるのではなくって?」
そうだ、それは否定できない。
アリーゼさんや、特に輝夜さんは悪戯が多い。輝夜さんはあえて僕の前では裸でいようとするし、アリーゼさんは胸元が見えるようにシャツをはだけさせたり、あるいは抱き着いてきて首筋を甘噛みしてくる。
「ろ、露出とかはまだ、いいんです……いえ、どうしてこう、恥ずかしいって思うようになっちゃったのかわからないんですけど」
「あの子達を異性として意識しているということ、正常な反応よ?」
「イスカさんは
「正常な反応ね」
「…………」
「ベル」
「…………はい?」
「じれったいわ。私は構わないと言っているの。だから、手を出してもいい。ダメだったらちゃんとストップはかけるつもりだし……」
さすがに貴方の歳では早い気もするし……線引きは重要よね。僕に聞こえないように呟いているけれど、聞こえてますよアストレア様。そんなことを思っていると、僕はアストレア様に押し倒されていた。
「ほら、恩恵を持っているのに抵抗しない。 貴方も、されたい、したいっていう気持ちが少なからずあるということ」
「………」
「誰にも言わない、これは私達だけの秘密」
ぷるんっと潤っているアストレア様の唇から目を離せない。
心臓の鼓動が五月蠅いほどになっている。
覆いかぶさっているアストレア様の大きな胸が僕の胸板の上に乗って形を変えている。
「怖がらないで、大丈夫だから」
「ど、どうしたら……?」
「一緒に、お勉強をしましょう」
そう言って、アストレア様は僕の唇に己の唇を落した。
ただ唇同士をくっつける『お子様』のするそれではなく、『大人』のそれ。
柔らかい唇と、甘い葡萄の味。
脳みそが蕩けそうなくらい、柔らかくて甘い接吻。頬を撫でるアストレア様に対して、僕は彼女の腰に腕を回して抱き着く。唇が一度離れて、それが寂しい。
「もう、終わりなんですか……?」
「……する?」
はい、と僕は頷いた。
好いている女神様は、僕を受け入れてくれているどころか待ってくれている。今度は僕の横に仰向けに寝転がった女神様に馬乗りになって唇を落す。
「んっ、ふっ……」
ゆっくりと葡萄酒の味が残る女神様の口内を味わいながら舌を進めると、アストレア様の舌が僕を優しく迎え入れてくれる。あやすように僕の舌の表面をなぞってきては、舌を絡ませて吸い付いてくる。背中に回されたアストレア様の手は、僕のシャツをきゅっと握り、頭に回された方の手は優しく撫でるように動いていて、僕の思考回路を破壊してくる。
「アストレア、様ぁ?」
「あら、お酒、回ってしまったかしら?」
「ふ、ぅ……」
「アリーゼ達はまだ帰ってこないけれど、もっと、する? 女の子の身体、触りたい?」
「……」
「遠慮しなくていいのよ? 私だって、あえて貴方に抱き着いて、密着して、眠っているわけだし」
気付けば僕の頭はぼぉーっとしていて、身体は熱くなっていた。
それがお酒のせいなのか、アストレア様との接吻のせいかはわからない。ただ、女神様の口の中は美味しくて、女神様に口の中を舐めまわされるのが、気持ちよくて何も考えられなくなる。今していたのは普段してくるのとは全然、違っていた。その証拠にアストレア様の星海のごとき深い藍色を帯びた双眸は熱を孕んでいて、僕はそれに見惚れてしまっていて、だから、僕は、アストレア様に馬乗りになったままなのも忘れて、コクリ、と頷いた。アストレア様は「よろしい」と微笑んで衣の脇あたりから首へと支えるように伸びている紐を解いた。
「ずり下げてもらってもいいかしら?」
「……はいっ」
「あの子達には、内緒にしておくから。ベルも内緒にしてね?」
揶揄われると、お互いに困るでしょう? そういう女神様に僕はまた頷いた。
言われるまま、女神様の穢れを知らない純白の衣を下へ下へとずらしていき、衣に納められていた深い谷間を作る悩ましい胸を露出させた。
「ごくり」
大きくて、仰向けになっていても整った形が崩れることなく保たれていて衣から解放されたことで、ぷるんっと揺れた。それどころか、葡萄酒の雫が谷間を通ったことでアストレア様の胸は湿っていた。
「見てるだけでいいの?」
ふるふる、と首を横に振る。
「……さすがに恥ずかしいけれど、私から誘ったわけだし、どうぞ?」
露わになった大きな胸を鷲掴む。「んんっ」と声を漏らすアストレア様は少し身体を震わせるけれどそれだけで僕の好きなようにさせてくれている。
「アストレア様」
「ん?」
「その、下着って……」
「『
「必要ない……」
「そう、だって『不変』なのだから垂れたりすることもないし、その、下品な話になってしまうけれど、
「?」
「とは言っても、血も涙も通っていないわけではないわ。貴方達のステイタスを更新するのに血を流しもするし、悲しめば泣きもする。貴方と接吻したときに、唾液の交換だってできる。つまり、出てくるものは基本的に綺麗なの」
「…………」
もみゅもみゅ、とアストレア様の胸を揉みながら僕は不敬にも「女神様のおしっこはつまり、聖水?」なんてことを考えた。そんな考えは当然のように見抜かれて、頬を抓られた。
「私の胸の感触はどう?」
「しっとりしてて、吸い付いてくるみたいです……」
その原因は、谷間に流れた葡萄酒だ。
シャワーだって浴びていなくて、ひょっとしたら汗ばんでいるのかもしれないけれど、アストレア様の言うようにきっと汚いものではないんだろう。
「アストレア様の胸、好き、です」
「そう……それなら良かった…ン、あ」
張りのある感触を楽しむように揉んでいく。
「気持ちいいですか、アストレア様?」
「……えぇ……いい、わ…指、気持ちいい」
「あとで、お尻も……」
「ええ、お好きなように……ンンッ……ん」
胸をいじられるたびに、アストレア様が甘い声を出す。
痛くないだろうか? 力の入れ方はこれであっているんだろうか。
「ん、あ、大丈夫…そのまま、続けて…」
やっぱり、見抜かれてる。
問題ないなら、今度はアストレア様の胸をぶるんぶるんと揺さぶってみた。
「はうン。あぁ……っあ」
「………っ」
女の人の、えっちな声にゾクゾクする。
アストレア様は下半身をもじもじさせ始めたけれど、次はむにむにとこね回してみる。
「んあ、ぁ」
揉まれるたびにプルプルと弾む乳房。
熱を帯び、目が潤んだアストレア様を見ながら、くたくたになるまで胸を揉み抜いていく。
「これが、毎日僕の顔や体に……」
「はぁ…はぁ……んん……胸、熱い…」
女神様達に抱き枕にされて、いつもおしつけられる柔らかい塊が今、僕は好きなように触っている。アストレア様は僕を拒絶することなく全てを受け入れてくれていて、目が合えば微笑んでくれた。僕は何度目ともわからないほどに唾を飲み込んで、きゅっ、と勃起してきた桜色の乳首をつまんだ。
「あぁっ!」
「アストレア様、今の声、可愛い」
「そ、それは……敏感なところだからっ」
「ふふっ」
「楽しそうね」
「ドキドキします」
「そう、私もよ」
乳首を指の腹でこすって好きなように弄り回す。
「ンンン……あ……あぁ、あぁっ」
僕は自然とその胸に顔を寄せていた。
「アストレア様」
「いいわ、おいで」
何をしたいのかが伝わって、許可が下りて、そのまま僕は片方にむしゃぶりついた。
「…あ」
唾液を塗り込むように、女神様の肌に染み付いた葡萄酒を味わうような愛撫で、巨乳を味わう。
「ベル、赤ちゃんみたい…」
かわいい、そう言ってまた、僕の頭は優しく撫でてくる。
僕は瞼を細めて撫でられる快感に震えながら、乳頭を口に含んで舌先でれろれろと転がした。
「ふぁ、あ、あぁ……」
軽く歯をあてるように甘噛みをすれば一際大きく、悩ましい嬌声があがった。
「んっ…あ、ン! ベル…」
お互いを見つめ合う。
「アストレア様…」
片方で胸を揉み、片方で乳首を摘まんだまま。
僕はアストレア様が無言で求めてくる接吻に応える。離れた口、舌の先からは透明な唾液の橋が出来上がっていて、それがたらりと胸に落ちた。
「アストレア様、熱いです」
「そうね……時間は……?」
「えと……17時……」
「もう、そんな時間なの?」
いつの間にか昼だったはずが夕方に。
アストレア様がそれだけ自棄酒していたというのもあるけれど、どれくらいの時間、僕は女神様の胸で遊んでいたんだろう。でもさすがにもうすぐお姉さん達の誰かが帰ってくるかもしれなくってこれ以上はできそうになかった。
「「…………」」
互いに無言になって、僕はアストレア様の胸に顔を埋めるようにゆっくりと倒れ込んだ。
大きな胸を枕代わりに、けれどしっとりとした肌を舐めて葡萄の匂いで肺を埋め尽くすように息を吸って、たまに乳首に吸い付く。アストレア様は怒ることなく僕の頭を撫でては、時々体をピクっ、と震わせる。この時間がもう終わってしまうのが名残惜しい。
「ん、ふ、ぁ……お風呂、入りましょうかベル」
「………ふぇ?」
「このままお預けなのも、嫌でしょう? 本番……その、まだ早い気がするけれど、ここ、すっごく苦しそう」
僕の股間を膝を立ててぐりぐりと摩って来る。
僕は思わずビクッ、と腰を浮かせるとアストレア様は「痛かった?」と心配そうに謝ってきて、僕は大丈夫ですと首を横に振る。
「だから、お風呂で……処理、しましょうか」
「で、でも、アリーゼさん達の誰か、お風呂入ると思います」
「………それもそうね、もししている最中にあの子達が入って来たら、それこそ一晩中話をしろと言われかねないわ」
困ったわね、とアストレア様は胸を隠すことなく下唇に人差し指を当てて考え込む。
きっと、【ファミリア】の中で唯一の獣人であるネーゼさんがお風呂に入って来たら、たとえ何かをしていなくとも、痕跡……匂いが残っていれば気づくはず。ネーゼさんはまだ揶揄ってはこないだろうし、それとなく「何かあった?」と聞いてくる側のお姉さんだろうから大丈夫とは思うけれど、器を昇華させている他のお姉さんが気付かないとも限らない。
「神室……ちょうど葡萄酒の匂い充満しているわね」
「………?」
「ここで、しちゃいましょうか」
恥ずかしそうに目を合わせずにアストレア様は言い放った。
神室で、既に葡萄酒の匂いがするこの部屋で。
今度は女神様から僕に、する、と。
「毎日はダメだけれど、たまにはこういうことも……」
「ほ、本当にいいんですか?」
「女神に二言はないわ。伴侶になる子の相手もできないんじゃ、女が廃るし」
「は、はんりょ」
「いや?」
「い、嫌じゃないです」
「よろしい」
退いてもらえるかしら? そう言われて、僕は馬乗りになっていたことを思いだして女神様の上から降りた。女神様は露出した胸をしまうことなく、神室に鍵が閉まっているかどうかを確認して、扉を開けて首だけを出して誰も近くにいないかを確認すると扉を閉め、鍵をかけた。僕は女神様に言われてカーテンを隙間なく閉じる。
「カーテン開きっぱなしでしたっけ」
「隙間から光は差していたわ」
でも流石に、男女の情事を見られるのは嫌でしょう? その言葉に僕は何度も首を縦に振る。
「……じゃあ、ベル。脱がせるわね」
女神様は僕の前で膝をつくと、ズボンのベルトに手をかけた。