幾多のジャガンボード帝国の計画を砕いてきたサンバイザーだったが、とうとう女帝ヘラジーナは計画を最終段階へと移行させた。
その計画はジャガンボード帝国の宇宙要塞に搭載された兵器テラバンドラにより人類の文明をリセットし自分の都合のいいように作り直すというものだった。
テラバンドラ発動までの猶予は約一週間。そんなジャガンボード帝国の計画を知ったE.G.M.上層部の取った判断はそのジャガンボード帝国の最終計画に箝口令を敷く事であり、その事を長官はブリーフィングルームに三人を集め重い表情で伝えていた。
「何故です……? 俺たちサンバイザーこはれまで命をかけて戦ってきました!今回も何としてでもあの要塞を止めてみせます!ですからそれまでの間人々には一時的な避難を指示するべきではないでしょうか?それとも俺たちが失敗すると思われているのですか?俺たちはそれ程に信用されていないのですか・・・?」
刻一刻と迫りくる滅亡へのカウントダウン。
自分たちがその計画を食い止めれば全てが終わるというのに無辜の人々はそんな恐るべき計画を知ることすら許されないという事実に大和は声を震わせた。
「……いやそういう訳ではない。君たちの行動は上層部も高く評価している。大和くんの身体が女になった時は君の続任に否定的な者も多かったが今はその声も鳴りを潜めているからね。しかし今回の件に関しては君たちの信頼とはまた別の話なんだよ。世界が滅ぶかもしれない。そんな情報が世間に出てしまえば仮にテラバンドラを止められたとしても人々同士の衝突による二次的三次的な被害が出る可能性がある。それを危惧しての判断だ。分かって欲しい」
「……何も知らされない方が幸せという事か」
「長官の言うことも一理あるかもしれへんな……」
長官の言葉に虎太郎と風磨は重く頷く。
しかし大和はそんなE.G.M.の判断に納得することができなかった。
「しかし今この世界に迫る危機を知らずに人々に過ごせと……? それは組織としての傲慢ではありませんか?」
「……大和くん。人は皆君のように聡明で強い人間ばかりではないんだよ。それにこれはE.G.M.上層部による決定だ。私達が文句を言った所で覆る話ではない」
「……俺だってそんな聡明で強くなんて無いですよ……」
長官の言葉を理解はできていたが納得ができなかった大和はそう吐き捨て唇をぎゅっと噛んだ。
「ま、皆が知らんうちにパパーっと片付けて終わらせれば万事解決って事やろ? それが出来んのはワイらだけなんや。なあ風磨」
「……虎太郎の割には良いことを言うじゃないか。オレもそう思うぞ大和」
拳を震わせる大和に二人はそう優しく言葉をかけ、そんな様子を見た長官はひとまず大きく息を吐いた。
「三人とも済まない……それではテラバンドラ破壊作戦の概要を発表する」
長官は神妙な面持ちで作戦概要を説明し始めた。
テラバンドラは現在地球の衛星軌道上から少し外れた場所でエネルギーをチャージしており、現在のE.G.M.の科学力ではその場所までたどり着く頃には既にテラバンドラは放たれてしまう。
しかしテラバンドラを搭載した宇宙要塞はゆっくり地球に近づいているのだ。
そこでスカラベースで移動できるまでの距離に近づいたところで要塞の中に侵入しその機能を停止させてジャガンボード帝国を叩くというのが大雑把な作戦の内容だった。
しかしそう簡単には行かず潜入からテラバンドラを安全に機能を停止させられるまでのリミットは僅か約24時間しかなく、もし作戦が失敗するような事があればスカラベースに搭載された高性能爆弾がテラバンドラもろとも自爆するようになっていることも長官は三人に伝える。
その作戦を聞いた三人は複雑そうな顔をしたが長官も爆弾を片道で運ばせるような役割を彼らに担わせてしまう事が本意でない事を分かっていたためそれがE.G.Mの決定ならばと命を賭ける覚悟を決めるのだった。
そんな三人に下されたテラバンドラ破壊作戦の第一段階を命じるため口を開く。
「……テラバンドラがスカラベースの到達可能距離に入るまでこれから後3日の猶予が有る。その間に我々特殊防衛対策局員は総員全身全霊をかけて万全の準備をさせてもらうつもりだ」
「それまでワイらは何をすれば?」
「ああ。君たちには休暇を与えようと思う」
「休暇!? こんな一大事にですか?長官!今すぐにでもテラバンドラ破壊に動きましょう!地球の存亡がかかっているんですよ?そんな時なのに呑気に休暇を取っている場合では・・・」
大和は早る気持ちを抑えきれず声を荒げるがそんな彼の言葉を長官は遮る
「まあ最後まで聞いてくれ。先程まで言った通り現状こちらから手を打つことはできない。それに縁起でもないがこれが最後の休暇になってしまう可能性だって十分に考えられる。だから私は君たちをそんな危険な作戦に赴かせる前にやり残した事や心残りの無いようにして欲しいんだ。今日はこれで解散とする。また3日後にまたここで会おう。良いね?」
「「「了解!」」」
サンバイザーの三人と上層との板挟みになっている長官の心中を察した三人は彼の命にそう答えた。
そんな三人を見た長官は安心した様に部屋を後にし、三人も思い思いの最後の休暇に望むため部屋を後にした。
突如与えられた休暇とは言えこれから世界が7日後に滅ぶかもしれないという状況の中虎太郎は特にやることも思いつかなかったが自室でじっとしていても落ち着かないので寒空の下基地近くの商店街を歩いていた。
そこにはこれから数日の間に世界が滅ぶかもしれない事など全く感じさせないいつもと変わらないのどかな商店街の町並みがあり、そんなありきたりな景色を彼はぼんやりと眺めている。
(はぁ……あと7日で世界が滅ぶかもしれんっちゅーのに皆呑気やなぁ……まあ何も知らされてないからしゃーないねんけど…… ワイらだけでこの平穏を守らなアカンなんて責任重大やでホンマ……)
そんな事を思いながら街をぶらぶら歩いていると猫カフェの前でキョロキョロと辺りを見渡す可愛らしいコートを来たポニーテールの少女の後ろ姿が目についた。
(あの子かわいいな……世界終わる前にナンパってのも悪くないか……)
虎太郎は無目的な今を埋めるためそんな少女に声をかけることにした。
「ん”んっ!! あ〜ちょっとそこのお嬢さん? よかったらここでワイとお茶でもしません?」
「へっ!? あ……えーっと……おれ……じゃなかった私は……って虎太郎!? お前こんな所で何して……!!」
虎太郎の声に振り返った褐色の肌と赤い瞳の少女は彼の顔を見て目を丸くし顔を真っ赤にして彼を見つめる。
その顔に虎太郎は見覚えがあった。
「へっ!?お、お前・・・!!」
声をかけた少女はなんと大和だったのだ。
制服も戦闘服も女物を着せられるならせめて私服ぐらいはと極力男っぽい物をいつも選んでいた大和だったが今日はコートにスカートそれにブーツも全て可愛らしい女性ものを身に着けていて遠目で見た時は気が付かなかったのだ。
そんな今まで見たことのない全身女らしいファッションで身を包んだ彼の姿を見てしまった虎太郎は胸の鼓動をバクバクと高鳴らせる。
(大和……その格好は反則やて……!! タダでさえ女になってからそんな可愛なってもうてんのにそんな女の子みたいな格好されたらワイ……)
「大和!? どどどどないしたんそのカッコ! いつもの男っぽい私服ちゃうやん!!」
虎太郎は湧き上がる思いを必死に理性で抑え何事もなかったかのように振る舞おうとするがどうしても言葉がつまり目を泳がせてしまう。
「あ……これか……? いや断じて趣味とかじゃないんだ。一応こういう服もE.G.M.が支給してくれていてだな……せっかくあるものを着ないのも勿体ないしこの格好なら誰にも気付かれないかと思って……」
大和も可愛らしい服を着ている所を虎太郎に見られたことに動揺を隠せないのか目を泳がせていた。
しかし何故今まで頑なに女物の服を着ようともしなかった彼がこんな格好をしているのかを疑問に思った虎太郎は其の疑問を彼に投げかける。
「気付かれない? 何しようとしてたんそんな格好でこんなとこで」
「ああいやその……長官が心残りの無いように。と言っていただろ?」
「え? ああうん……で、大和のやり残した事がこの猫カフェなんか?」
「あ、余り大きな声で言うな……! その……こんな所で……それにかわいい猫と戯れるなんて男の俺がそんな情けないこと出来る訳がなくて……それでこの格好ならもうどう見ても外見は女だし今まで男らしくないからとやらずにおいたことも今なら出来るかと思っていたんだが……やはりその……いざ目の前にすると気恥ずかしくてだな」
大和はこれまで任務外で女物の服を着ることすら忌避していた。
しかし長官にやり残したことがないようにと言われ自分が今まで男だからと入るのを我慢していた猫カフェに入るためいつもの格好で出歩いて知人にそんな所を見られるのが恥ずかしく、変装も兼ねて一度くらい支給された女物の服で出かけてみようと思い立ちこうして猫カフェまでやって来たまでは良かったのだがやはり店の前でその決意が揺らぎ店に入ることを躊躇ってしまっていたと虎太郎に話した。
そんな話を聞かされた彼は大和が相変わらずだと思い自然と笑みがこぼしていた。
「はぁ!? 何言っとんねん! 別に猫を可愛がるのに男も女も関係ないやろ! 可愛いもんは可愛いねんから!ほんま大和はそういうとこガンコなんはずっと変わらんよなぁ」
恥ずかしそうに猫カフェに入れないことを告げる大和に虎太郎は少し呆れたようにそう言った。
「わ、笑うなよ!……いやしかし世界を守る職に就く俺がそのような可愛いなどというものにうつつを抜かすなど……それに世界が終わるかどうかという瀬戸際だと言うのに……」
女の身体になる前もなった後も強大な敵を前にしても先人を切り続けていた大和がたかが猫カフェに入る事を何かと理由をつけて躊躇う姿を見て虎太郎は唖然としたが同時に可愛らしくも思え、気がつけばその手を引いて、カフェのドアを開いていた。
「ああもうじれったいなぁ! ほら! 行くで!! すんまへ〜ん2名なんですけど席開いてます?」
「ああちょっ……虎太郎!?」
「ええからええから! 入りたかったんやろ?」
半ば強引に大和を引き入れる形で虎太郎はカフェに足を踏み入れる。
その先では人々が猫と戯れながら思いも思いの時間を過ごしており、二人は店員に開いている席に通され座った席で大和は顔を赤くしてうつむいていた。
「うう……とうとう入ってしまった……」
「大げさやなぁ……店員さん? とりあえずホットコーヒー2つたのんます。っとなんで猫カフェに入るぐらいでそんな大げさなん?」
「いや……ほらその……」
大和は辺りをキョロキョロと見回し、まるで借りてきた猫のように落ち着かないような様子だった。
「まあ先にコート脱ぎや。熱いやろ?」
「あ、ああそうだな……」
そう言って大和はゆっくりと可愛らしいコートを脱ぐと彼が女物のワンピースを着ていたことがわかり虎太郎は驚きの表情を浮かべた。
「お、お前その服も……?」
「あ、ああ一応これも支給してもらったもので……せっかく女の格好をして街を出歩くならと思ってな……恥ずかしいから余りジロジロ見るなよ……?」
大和が自分のワンピース姿をみられて恥ずかしそうにしていると一匹の猫が近寄ってくる。
「う、うわぁ! ね、猫……」
「そりゃ猫カフェなんやからおるわなそんなビビらんでも……せっかく来たんやし撫でたったらええやん」
「あ、ああそうだな……」
大和は寄ってきた猫に恐る恐る手を伸ばす。
そしてその手が触れた瞬間彼の表情が緩み、猫が気持ちよさそうな顔をして手に顔を擦り寄せてくると更にその表情は綻んでいく
「はぁ……ふわふわだ…………かわいい……」
そんな彼の優しく呆けた表情を見たことがなかった虎太郎は胸を高鳴らせ彼のことをただただ(お前も負けず劣らず可愛いやんけ……!)とか心のなかで叫びながら見守った。
すると大和はそんな視線に気がついたのか表情を戻し猫から手を離した。
「……おい、何をニヤニヤして見てるんだ?」
「ああいやその……可愛いなって……ああもちろん猫! 猫がやで!? ほーらよしよしよしよしん〜どないしたん?ここがええのんか?」
虎太郎は咄嗟にそう誤魔化しながらオーバーリアクション気味に猫の喉を撫でてみせた。
「そうか……さっき見たことは他人には内緒だからな……?」
「分かっとるって。軽い男ってよう言われるけどこれでも口は硬い方やって自覚しとるから安心し!」
胸を張った虎太郎を半信半疑の表情で大和は見つめ、そんなことをしていると頼んだコーヒーがテーブルに届けられる。
相当な店の前で躊躇していたのか大和はコーヒーカップに手を当て暖をとっていた。
そしてコーヒーを飲み始め虎太郎は再び先程の疑問を大和に投げかける。
「で、なんで猫カフェに入るぐらいであんな躊躇してたん? 指も赤なってるやん。結構店の外で立っとったんやろ?」
「ぐらいってお前……これでも結構覚悟が必要だったんだからな……!」
「やからなんでそこまでせなあかんかったん? ってのがめっちゃ気になるねんけど」
「あ、ああ……今更隠す必要もないしここで見られたことの秘密ついでにお前には話しておくか……」
そう言って大和は自分の身の上を話し始め、昔から厳格な家庭で育てられていた大和は父親から日本男児とは何たるか、そして男ならばこうでなければいけないという厳しい躾を受けてきた事を明かした。
その過程で子猫を拾おうとした時男が可愛いなどと言った甘ったれたものにうつつを抜かすなどあってはならないと相当父親からどやされたそうで、それ以来男とはそういうものだと信じて強く有るために可愛いものを愛でることや父親から男らしくないと言われたものは切り捨てて今まで生きてきたのだ。
そして男として強く有るため過酷な試験と訓練をくぐり抜け日輪特機への入隊し今まで戦ってきたのだが身体を女に変えられてからはそんな考えに迷いが生じ始めていて、長官の心残りの無いようにという言葉によく行く商店街で気にはなっては居たものの今まで入れなかった猫カフェに入ってみようかと思い立ち今に至る事を虎太郎に告げる。
「ふぅん……大和のお父さんが厳しいのは知ってたけどそこまでとはなぁ……」
「もうそんな父も亡くなって暫く経つんだがとうしても父の言葉がわすれられなかったんだ……でも……もう最後かもしれないと聞いてせっかく女の体になったんだし今までしてこなかった事をしておこうか……と」
「それでそんな可愛い服まで着てきたんや」
「ち、違うぞ!? これは断じて趣味とか着てみたかったとかではなくあくまで支給されたものだし変装というか……それに……」
「それに?」
「今までの生き方を否定してしまったら自分が自分でなくなるような気がして……ずっと父から男は強くあるべきだと教えられて居てたくさんのことを切り捨てて我慢してきた。……そんな中男ですら無くなってアカホークの任さえ降ろされかけて……もしそうなってしまったら自分には一体何が残るのかと思うと怖くて仕方がなかったんだ」
その言葉を聞いて極稀に大和が男だから……とか男たるもの……とムキになる理由が分かった気がして少し可哀想に思えてしまった。
しかしそれを含めて自分の知る飛鷹大和であることは間違いなく、そんな過去も含めて今の彼を虎太郎は受け入れる。
「何言っとんねん! 女になっても大和は大和やろ? こうしてワイも風磨もおるやんか。そんな怖がることあらへん! きっと今までしたいことを我慢してた大和も大和なんやからそこを否定するほうが良くないと思うで」
「……虎太郎」
「そんじゃあ大和がこれまで我慢してきた事今日一日かけてやろうや! 一人で勇気が出えへんねやったらワイも付き合ったるやん!」
「しかしせっかくの休暇なのにお前を巻き込む訳には……」
「かめへんかめへん。ワイは基本やりたいことはすぐやってまうタチやし今日も特にやること思いつかんくて暇してたとこやから」
彼の言葉に大和は揺れていた。
これまで幾多の困難を乗り越えてきた大和だったがせっかくこうして女の格好までして出てきたというのにロクに入ろうとした店に入ることすらできない自分が情けなかったのだ。
しかしそんな自分の背中を虎太郎は押してくれた。
それがそんな情けないところも含めたあるがままの自分を肯定してくれているのだと大和は感じていた。
「そ、そうか……俺はお前のそういう所ずっと羨ましかったな……」
「え? ホンマ!? それもしかせんくてもワイ褒められとる?」
「……ああ」
「ほな今日はワイがエスコートしますやん!お手をどうぞ、お嬢さん?なんてな!」
虎太郎は声を作り大和に手を差し伸べる。
「バ、バカっ!そういうのは……やめろといつも言っているだろ!?」
そんな彼に大和はドキッとしてしまい顔を真赤にしてそんな彼の手を叩いた。
「へいへいすんまへん!いつも通りにやりますやん!ほんじゃ何する? 手頃なところから片付けていこか」
「あ、ああ……それじゃあこのパフェというのを食べてみたい……」
「食ったこと無いんかいな! こんなん好きなだけ食うたらええ!」
「そ、そうか……!」
「店員さんすんまへーん! このにゃんこパフェ2つください! あと楽しい猫のおやつも一本!」
虎太郎がオーダーしてしばらくしてパフェと細いチューブ状の猫の餌がテーブルに運ばれてくる。
それを見た大和はスプーンを恐る恐るパフェに近づけた。
「そんな怖がらんでも食えばええやん。ほら……うん美味いわこれ」
大和を見かねて虎太郎は先にパフェの上に載せられたアイスクリームを一口食べて見せると大和もゆっくりとパフェに乗っていたプリンにスプーンをくぐらせ口に運んだ。
「……あ、甘い……」
「パフェそんな噛み締めて食うやつ初めて見たで。もしかして甘いのあかんかった?そういやあんま食べてるとこ見たことあらへんかったけど」
「い、いや……嫌いではないんだが私生活では家が厳しくて余り進んで食べることはなかったな……ただ食堂の日替わり定食で出るカップのプリンは好きだぞ」
「それでいつもプリンが出る日は欠かさず食堂で飯食っとったんか……というか甘いもんすらマトモに食わしてもらわれへんとかどんな家庭環境で育っててんお前……」
「い、いや一応お菓子は食べてたぞ? 強さは歯からだ父から男たるもの歯を鍛えろと言われてせんべいとかスルメとか硬いものばかり食べていたが」
「なんやそれ……もうそんな親にとやかく言われてなんて歳やないんやしそんなん好きに食ったらええやんか」
「そうなんだが一度染み付いた習慣というのはそう簡単には変えられなくてな……」
「それはわからんでもないけど……ほら、はよ食わなアイス溶けてまうで」
「そ、そうだな……」
虎太郎に言われて大和はパフェを再び食べ始め、そのペースは徐々に早くなっていきあっという間に完食した。
「美味い……! こんなにパフェが美味いものだとは……」
「そんな大げさな……ほんじゃ次はこれやってみよか」
虎太郎はそう言うとパフェと一緒に運ばれてきたチューブ状の猫の餌の封を開けるとその匂いに誘われて猫が彼の元に数匹寄ってくる。
「な、なんだそれは?」
「知らんの? コマーシャルとかやってるやろ?」
「い、いや……基本テレビはN○Kのニュースと相撲以外見ないからな……」
「ええ……ま、まあとにかくめっちゃ猫が喜ぶおやつやねん。ほれ、やってみ?」
虎太郎から餌を受け取るとそれまで虎太郎の方に寄ってきていた猫たちが一斉に大和の方に近づいていく
「こ、虎太郎……なんかいっぱいこっちに来たぞ!?」
「そりゃその餌欲しさに寄ってきてんねんからそうなるやろ。ちょっと押して中身出して猫の顔に近づけてみ?」
「あ、ああ分かった……」
大和は言われた通り指で餌を押し出し、猫の顔に近づけると猫は美味しそうにそれを舐め始める。
「こ、虎太郎……食べてるぞ!! うわぁっこら! 袋を噛むな!! 分かった! わかったから……ほら先から食べろ」
異様な食いつきを見せる猫に悪戦苦闘する大和を虎太郎は微笑ましく見つめていた。
そして餌をやり終えると猫が大和の膝にひょいと乗り喉を鳴らす
「おいおいそんな甘えてももう餌はないんだぞ……?」
大和も緊張がほぐれてきたのか優しい笑みを浮かべて膝の上の猫を愛でる。
そんな彼を見た虎太郎は追加で猫の餌を2本オーダーして大和に渡した。
「い、いいのか?」
「やりたいんやろ?」
「あ、ああ……おいこら喧嘩するな! 順番でちゃんとやるから!」
餌を求めてやってきた猫たちに大和は優しく声をかけながら餌をあげ始める。
こうして猫と戯れる大和の表情はどれも今まで見たことがないものばかりで徐々に猫の魅力に当てられていったのか最後には一番懐いてきた猫を抱きしめ
「お前はかわいいなぁ〜お〜よしよしよし〜そうかぁ〜ここが気持ちいいんだな?」
猫なで声で話しかけながら頬ずりした。
「楽しんでるみたいでよかったわ」
「……ああいやこれはその……」
「無理に隠さんでええって。可愛いもんは可愛いねんから」
「そ、そうだな……この子達の為にも絶対にテラバンドラは止めなければ……ね〜お前もそう思うよなぁ〜?」
虎太郎の問いかけに大和は一瞬真面目なトーンになったが次の瞬間には表情を緩ませ猫を撫でていた。
(あの大和をあそこまで……猫の魔力恐るべしやな……でもええもん見れた)
虎太郎はそんな彼の姿を満足気に見つめていた。
そして猫カフェを後にした二人は大和の今まで気にはなっていたがやっていなかった事を探しながら回った。
水族館へ行ったりクレープを食べたりゲームセンターで二人でプリクラを撮ったりと行く先々で虎太郎は大和のこれまで見たことのない表情を見ながら彼のやりたい事に付き合った。
戦いや7日後に世界の終焉が迫っている事など忘れ二人で過ごした楽しい時間はあっという間に過ぎていき日は落ち辺りには街灯の光が灯り始めた頃、二人は街が一望できる小高い丘にやってきていた。
「今日はお前のおかげで楽しかった! これでもう思い残すことなく最後の任務に就けるな! ありがとう虎太郎」
「いえいえ大和が楽しんでくれたんならワイもよかったわ。それにお前が結構乙女チックなのも分かったしな」
「そ、それを言うな……!あくまでもただ気になっていただけだからな……?絶対誰にも言うなよ?」
「はいはい。ちゃんと今日のことはワイら二人だけの秘密にしときますって」
「それじゃあそろそろ戻るか」
「……せやな」
そう言って大和は少し名残惜しそうに基地の方に歩き始めた。
基地に戻ればこの楽しい時間は終わり、再び地球を護るために戦う戦士に戻ってしまう。
それが今の虎太郎にはとても名残惜しく思えて出来ることなら戦いも世界の終焉も忘れて二人で居たい。
そんな思いに支配された虎太郎は大和を追いかけられずその場で立ち尽くし、そんな彼のことが気になったのか大和は途中で振り向く。
「おい虎太郎? どうしたんだそんな所で突っ立って……?」
ポニーテールを揺らしてこちらを振り向いた彼を見て虎太郎は今の想いを伝えようと心に決めた。
「あ、あの……大和? ワイは特にやりたいこと無いって言うたよな?」
「ああ。言ったな」
「一個思い出してん……やりたいこと。キモいかもしれんけどちょっとだけ付き合うてくれへんか?」
「ああもちろん。これだけ一日付き合ってくれたんだからそれぐらいお安いご用だ」
虎太郎の真剣な表情を見た大和は一日付き合ってくれた恩もあるためその申し出を快く受け入れた。
そんな大和を見て虎太郎は彼に近づき大きく深呼吸をして……
「わかった。もしほんまに嫌やったら任務に支障が出ん範囲で一発ぶん殴ってふざけんなーて怒鳴り散らしてくれてもええで」
虎太郎はそう言うとおもむろに大和を抱きしめる。
以前よりも小さくなった彼の身体は簡単に虎太郎の腕の中に収まり、シャンプーの匂いだろうか? 彼の髪からは女性の匂いがほんのりとして虎太郎の鼻をくすぐった。
「なっ……!? 虎太郎!? 何をして……」
突然のことに大和は驚きを隠せない。
それと同時に虎太郎に包まれた自分も大きく胸を高鳴らせている事に気づいた。
「大和、好きや」
虎太郎がその言葉を言った瞬間まるで時が止またかのような静寂が二人を包み、辺りを冬の冷たい風が吹き抜ける音とお互いの鼓動だけが聞こえていた。
「……へっ!?」
「ごめん大和……ワイ……いつからかはちゃんと覚えてへんけど……大和がその身体になってからいつの間にか異性として見とった。お前がその身体にしてしもたのはワイの責任や……憎まれてても文句は言えへん……やからこんなん絶対おかしいって思って今までずっと内緒にしとったんやけど……今日のお前見てたらもうワイ……この気持ちを我慢できへんくて……!! ほんまごめん……! 帰ったらワイらはまた正義と平和のために戦う戦士サンバイザーや……やからサンバイザーに戻る前に……最後に想いだけ……想いだけでも伝えたくて……!!」
これでもう後戻りはできないと虎太郎は覚悟し思いの丈を大和にぶつける。
自分で自分を姑息だと思いながらもしこれで拒絶されれば冗談だといつもの感じで誤魔化して基地に戻ろう。
そんな予防線を自分に張った。
それからはまるで一瞬が永遠に感じられる程の時間を虎太郎は感じていたがふと背中に温かい物が触れる。
「大……和?」
大和は彼を抱きしめ返していたのだ。
「虎太郎……全くお前はいつも冗談ばかりで本心では何を考えているか全くわからん奴だからな……」
大和の目には涙が伝っていた。
「大和!? ご、ごめん……もしかして泣いてまうほどキモかった……?」
「いや……今のお前の気持ちはみんな伝わったよ。まずは言わせてくれ。俺はお前のことを憎んでなんかいない。この身体になって確かに大変なことも有ったが悪いことばかりではなかった。今日もこうして今まで俺が諦めてきたものをこんなにも沢山体験できたんだからな。今はこの身体になったことも……女の身体も悪いものじゃないとそう思えるよ。それとお前に言われて俺も一つだけやり残した事を思い出した。付き合ってくれるか虎太郎?」
「え? う、うん! もちろん……!」
大和から予想外の反応を返された虎太郎はあっけにとられて声を裏返して頷く。
「ありがとう……お前は優しいな。 俺も大好きだ。虎太郎」
「へぇっ!? ほ、ほんまに言うてる……?」
大和に受け入れられた虎太郎は情けない声で確認をする。
「これがチームメイトとして信頼しているという事なのか異性としてお前を愛しているのか俺にはわからん……しかしこの身体になってからも幻滅することなくずっと俺のそばに付き添ってくれて……お前の気持ちを聞いた時とても胸の奥から熱くなったんだ。それに出来ることならずっとこの時間がずっと続けばいいなんてこれから死地に赴かなければいけない戦士が思ってはいけないことを思ってしまっていたんだ。俺はリーダー失格だな」
「そんな事あらへん! ワイも……ワイも出来ることならサンバイザーの事なんか忘れて今のお前とずっと一緒におりたいって思ってもうてた……」
「お前もか……ふふっ。お互いサンバイザー失格だな……」
「ほんまやで……こんなとこ風磨に見られたらどやされるわ」
「……ああ。そうだな。しかし俺のことを異性として好きだと言ったのなら男としてしっかり責任……とってくれよ?」
そう言った大和はどこか嬉しそうだった。
そんな彼の表情を見た虎太郎も少し顔を赤くする。
「……当たり前や! 世界の平和を守るサンバイザーが好きになった人一人守れへんでどないすんねん!」
「そうか……それなら今夜は俺をE.G.M.の基地に帰さないでくれ。今だけは……まだこうして自由でいられるうちはサンバイザーのチームメイトとしてじゃない……今のお前と二人で居たいんだ……」
大和はそう言うと虎太郎の上着をぎゅっと掴んだ。
「……それって………………」
「これ以上俺から言わせるな…………恥ずかしいから」
虎太郎はその言葉が何を意味するか容易に理解できたが思わず聞き返すと大和は小さな声でそう言った。
そんな大和を見て虎太郎はただ静かに頷くと彼の手を引いて基地のある方向とは真逆の方向へと歩き始めた。