誘惑禁止条例 ※性犯罪被害は条例違反にあたらない 作:大中小太郎
誘惑禁止条例。
人間界に続々と渡ってきた
多くの妖女は、これを恨んでいる。
目の前に男という宝物が、ご自由にお取りくださいとばかりの無防備さで溢れているのに、誘うこともできないなんてと。
私……ヘラという名の妖女は、それに含まれなかった。
故郷では就労や留学で人間界に渡ることが支援されており、人間界もそれを歓迎している。
生国と日本の双方から各種支援を受ける形で、この町にやってきた。
人間界には妖魔界の魔法技術が続々と輸出されているが、それを使える人材はまだ不足している。
その好待遇に期待して、私は『渡界』してきた。
誘惑禁止条例を恨まないとはそういうこと――男目的ではなく仕事目的だったからだ。
彼――火野陽司さんと出会ったのは、就労先の田舎町。
出会った瞬間、仕事一筋だった私は崩壊した。
心と体が一目惚れしたとでも言おうか、対面した瞬間に、心身が魅了されてしまった。
妖女は自分と好相性の男を嗅ぎ分けるという。
妖魔界では男性それ自体が希少なので、その嗅覚が役立つ場面はあまり無いのだけど、男性がごろごろ居る人間界では、それが劇的に機能する。
『人間界に行けば、必ず運命の人と出会える』
人間界を知る妖女たちは口を揃えてそう語るが、てっきり誇張だと思っていた。
出会った瞬間……『彼の子が欲しい』と、心も体もそれ一色になるなんて……
『実は、僕も一目惚れでした』
彼が照れ臭そうに笑ってくれたときは、気絶するほど嬉しかった。
ここに来て、誘惑禁止条例が私たちを阻んだ。
実質的に男女の婚前交渉を禁じた、時代に逆行するかのようなルール。
私も彼も真面目だったから、それを守って節度ある交際をしようとした。
若い男女だ。当然のように限界を迎える。
だから――結婚した。
夫婦になれば、条例の対象外だ。
これも若さ故の勢いというか、挙式などいつでもできるとばかりに籍を入れた。
結婚するまでは清い体で、現代でそんなことをしたのは、私たちくらいだろう。
もちろんその後の結婚生活は……これまでの反動で、恥ずかしいくらい燃え上がった。
これが、私と夫の話。
夫と共にこの世を去った、私の青春時代。
恋して、交際して、結婚して、愛し合う――ごく普通の男女の人生だ。
それを、他の誰かともう一度なんて、思ってはいない。
再婚なんてしない、絶対にしない。
恋も交際も結婚も愛も、全ては夫とだけ。
私のそれらは、体だけを残して、夫と共に旅立った。
だから、命がそれを追いかけるまで、それはしない。
夫を忘れて誰かに恋したりしない、ごく普通の男女の関係になんて誰ともならない。
これだけが、夫を守れなかった私に許された、愛の証明だから。
なのに、多くの『優しい人』は言う――そこまでする必要はないんだよ、と。
いつか心が伴う日が来たら、新しい人生を送ってもいいんだよ、と。
病死した夫の母ですら、死期を悟ったように言い残していった。
夫ですら、自分が死ぬと知っていれば、そう遺書に書いただろう。
あくまでこれは、私の意地。
妻は夫の死後も貞淑に徹すべしなんていう、誰かの要求に従ったわけじゃない。
ただ、私がそうしたいから。
夫を愛し続けたいから、夫だけの女でいたいから。
そうすることで、私の心にまだ残っている彼を、薄れさせずに守れる気がしたから。
だからどうか、私の幸せを願う方々……
夫の死で生まれた私の傷を、埋めようとしないでください。
どんなに痛々しく見えても、抜け殻のようになったいまの姿でいさせてほしいのです。
この体はどうなってもいい、この先の人生が不幸でもいい。
せめて夫への愛だけは、欠落という形で、ずっと守り続けていたいから。
そんな負の祈りを捧げていた私は、いま――
「あああぁぁぁっっっ♡ イクっ♡ ごめんなさいっ、またっ、イキますぅっ♡」
夫の居ないこの家で、義弟の慰み者になっていた。
○
パンパンパンッ――と、男と女の肉がぶつかる音がする。
私の家の、義弟の部屋の、布団の上で。
私のヒップと彼の下腹部の間から、何度も鳴り響いている。
「あっ、ああんっ、ひぃんっ♡ 修吾さんっ、もう終わりに――ひああぁぁっ♡」
私は背後からのピストンに喘ぎながら、必死に言葉を紡ごうとする。
彼――夫の弟である修吾くんは、私が拒否の言葉を口にすると、抽送を強める。
「まだだよ。ヘラさんが完全に屈服するまで、続けるからね!」
彼はそう言って、さらに激しく腰を打ち付けてくる。
パンパンと響く音に、グチュッグチャと粘っこい水音が混ざる。
両手首は掴み取られ、背後に引き寄せられており、私の上半身は布団から浮いていた。
「んあっ♡ だめぇ……こんな、乱暴なの、おおっ♡ 無理矢理、イかせて、ばっかり♡ あっあっあっあっあっ♡」
両手を後ろに引かれて、バックから突かれる。
まるで手綱で操られる馬のように、私の体が踊らされる。
髪を振り乱し、乳房を淫らに揺らし、背中と喉が逸れて、喘ぎ声が口をつく。
「なに? 愛情たっぷりなのがいいの?」
修吾くんは急に力を抜くと、私の体を優しく抱き寄せる。
しかしその声音は、手付きとは裏腹に怒ったような声音で、怖かった。
「
「っっっ!」
彼の言及が、夫を思い出させた。
女の悦楽に染まって忘れかけていた自分に、気付かされた。
「あ、ああぁぁ……っ」
なんて――卑しい女なんだろう。
夫を喪って以来、男を絶っていたこの体は、義弟の肉棒に容易く陥落した。
妖女の体が、亡き夫と同じ血を流すオスを、どうしても欲している。
意思とは無関係に走る性感、絡み付いてしまう膣、喉をつく女の声。
どんなに高尚を気取っても、所詮は人も動物の一種。
夫をどれだけ愛していても、私の体はオスを求めるメスだった。
「ごめんなさい……ごめん、なさい……っ」
でも、それ以上に許されざることは、夫への愛を忘れること。
体が修吾くんを求めることも、犯されて感じることも、肉体の本能的な働きに過ぎない。
けど、『忘れること』は別だ。
それだけは、体ではなく、心の裏切りだから。
それだけは、あってはならないのだと――彼が思い出させて
「ヘラさん、泣かないで。辛いなら、
修吾くんの声は、無理して嗜虐的にされていた。
止める気なんかないと見せかけて、本当は優しくしたいのだと、感じ取れる。
知っていた。
修吾くんが、女性に乱暴できるような男ではないと、知っていた。
それでも、私をレイプしているのは――
「……で」
――私の体が、男に飢え乾いていたから。
――私の心が、夫以外を拒んでいたから。
妖女としての私は男が欲しいと体で言って、妻の私は夫だけだと心で言う。
その矛盾を解決するために、彼は……似合いもしない悪人になろうとしている。
「優しく、なんて……しないで……っ」
首だけ振り返って、横目に彼と目を合わせる。
私はどんな顔をしていたのか、彼は驚いた顔をした後、生唾を飲んでいた。
ああ、きっと……さぞや淫らで、嗜虐嗜好を煽るような顔をしていたのだろう。
「そうだよね」
修吾くんは薄く笑うと、結合を維持したまま、私を膝に座らせる。
「んあっ♡」
後背座位の姿勢で足を広げさせられた私は、角度の変わった彼の剛直に声を零した。
背中が厚い胸板に寄りかからせられる。
夫と結婚したとき、まだ十代だった義弟は、いまや立派な男の体付きだった。
「ヘラさんは、兄貴を愛してるから。裏切るくらいなら、犯された方がマシだよなっ!」
彼は私の胸を掴みながら、子宮口を突き上げた。
「ひあぁぁぁっ♡」
下腹部から脳天へ、稲妻が登るように走る快感。
たった一突きで、声を堪えきれないほどに達せられていた。
「ははっ! いい声だよ。もっと喘いでっ。喘げっ!」
無理して絞り出したような高圧的な命令が、私の胸を甘辛く締め付ける。
従わなきゃいけない、従ってあげたい――似て非なる感情が同時に巻き起こった。
「ああぁぁぁっ♡ 奥っ、だめっ♡ あっあっあっあっ♡ 子宮っ、んおっ♡ おっおっおっ♡」
「ほら、体はこんなに悦んでる。いいんだよ、心は兄貴のものでもっ。
その代わり、体は好きにさせてもらうからなっ!」
修吾くんは、動機が肉欲だけであることを強調する。
心には触れず、体は犯す。これはそういうセックスなのだと。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ♡♡♡ だめだめイっちゃうっ♡ またすごいの来ちゃうぅぅっ♡」
男が女に接する方法としては最低なはずのそれが――最高だった。
「ははっ、すごいイキっぷり。おまんこ大喜びしてるじゃないか。
心は兄貴のものでも、体は俺が欲しくて堪らないんだなっ」
夫を愛する私の心を尊重しながら、浅ましい体を満たしてくれる。
「いいんだよ。イっていいんだよ。ヘラさんだって妖女なんだから、仕方ないんだっ!」
犯されてるから仕方ないんだと、感じさせてくれる。
「こんなにイキまくってたら、兄貴より俺を好きになっちゃうんじゃない?」
「ひぁぁぁっ♡ なり、ませんっ♡ あああっ♡ なら、ないっ♡
あの人っ、だけっ♡ 愛してるのはぁ、あの人だけっ、だからっ♡」
どんなに犯されても心は明け渡さない――という姿勢で、夫への愛を証明させてくれる。
「偉いね、ヘラさんは妻の鑑だよ。
そういう、貞淑な未亡人を快楽に乱れさせるのが、堪らないんだよっ!」
悪いのは自分なのだと、自分が兄嫁に劣情を抱いただけなのだと、罪を背負ってくれる。
「出すぞ、兄貴と同じ血を引いた男の子種だっ、ちゃんと受け取れ!」
「あ゙あ゙あ゙っ、出てるっ♡ またっ、中にぃ♡」
嫌がっているように叫びながら、心も体も拒んでいなかった。
夫の遺伝子を引き継いだ子供を作るために、夫の弟の精子を受け入れる。
そんな罪深い自分の目的が、いま果たされていた。
「はひっ♡ あぁぁぁ♡ ゆる、して……」
謝る。
夫に、そして修吾くんに。
こんなに卑怯で、浅ましく淫らな自分を、どうか許して。
女の劣情と妻の意地、それを同時に満たすため、自分以外を悪人にする私を。
「ヘラさん……」
膣内射精と同時に大きく絶頂した私を、修吾くんは布団に寝かせた。
意識がほとんど落ちている私に、何かを言う余力はない。
「ごめんよ……」
イキ狂った末に気絶する私の顔を見て、彼が謝っている。
(ああ、やっぱり……優しい……)
暴力の後に優しくされたからとか、そういう心理じゃない。
未亡人になった私に優しくしてくれた人は、たくさん居た。
再婚してもいい、辛かったら無理しなくていい、実家に帰ってもいい。
私の夫への愛を蔑ろにする『優しさ』が、この町には溢れていた。
彼だけが――自分を汚してまで、夫を尊重して、体を慰めてくれた。
脅して、犯して、屈服させて、身勝手に体を貪る。
行為の卑劣さとは裏腹に、その選択は、他の誰よりも優しかった。
だから、目が覚めたら……全部忘れてあげよう。
何事も無かったかのようにしてあげよう。
朝ご飯を作って、笑顔で挨拶して。
彼が、罪悪感で困らないように。
一夜の過ちくらい気にしない、寛容な女になってあげよう。
もし、それで彼が図に乗って、また私を求めてきたら?
そのときはまた、夫への愛を貫けるように……
嫌がる私を、怖れることなく、屈服させてくれますように。
ご一読いただきありがとうございます。
兄嫁視点でした。
堕ちる未亡人のエロさは内面描写あってこそですので。