※この作品はR-18です。

誘惑禁止条例 ※性犯罪被害は条例違反にあたらない   作:大中小太郎

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やくそく ~義妹はこちらの様子をうかがっている~(挿絵追加)

 

 

 

父の再婚によってできた義妹のリディア。

隆史が彼女を最初に見たときは、よく出来たお人形さんのようだと思った。

濡れ羽色の髪を伸ばした、長耳系魔人種の、小柄で華奢な美少女。

そのくせ胸や尻の発育は著しく、これでまだ○学生だと聞いたときは驚いた。

 

「今日からよろしくね、リディアちゃん」

「はい、隆史お兄様。本日より義妹として、兄様に誠心誠意尽くしてまいります。

 どうかリディアとお呼び捨てくださいませ」

 

同居することになったリディアは、随分と自然な笑顔でそう言い切った。

 

「そんな、お兄様なんて柄じゃないよ。それに尽くすなんて……」

「ふふっ、驚かれますよね。ですが、妖魔界だと目上の男性家族にはこのくらいが普通なのです」

 

リディアたち魔人種の故郷である妖魔界は、男性が100人に1人もいないらしい。

男が生まれれば領主に婿入りするか、生まれた家が領主の座を引き継ぐことになるという。

男性とはその地域の子孫繁栄、延いては人口維持のために必要な人的資源。

その貴重さを考えれば、軽んじて扱うことは許されないのだそうだ。

 

「いいんです、兄様。リディアは兄様の妹になれたことを天恵のように思っています。

 兄や弟と一緒に暮らせるなんて、まるで貴族になったかのようです。

 決して無理してこのようなことを言ってるわけではないんですよ?」

「まあ、リディアちゃ――リディアが辛くないなら、それが一番だけど」

 

結局『兄様』という呼び方は修正されなかった。

後でネットを使って調べたところ、魔人種は本当にそういう生活文化らしい。

男性=貴族なので、貴族に対する平民の姿勢が基本となりがちなのだそうだ。

あちらにとっての当たり前がそうなら、譲れないもの以外は合わせてやるべきだろう。

 

「――――」

 

などと考えていた隆史は、リディアがどこか薄い笑みで見ていることに気付いた。

目が合うと元通りだったけど……なんだかぞっとするほど、艶然とした笑みだったような……

 

「優しいお兄様でホッとしました。妖魔界の男性ときたら、女に奉仕されて当然と思っている節がありますので」

「はは、生活文化の違いには深く突っ込めないけど、まあ人間最後は誠意だよね」

 

男がどうたら女がうんたらというものは大抵、最初からそういう答えが出ているものだ。

だから自分も、リディアのため立派なお兄さんになるとしよう。

 

「それでは早速、夕飯の支度をいたしますね。

 妖魔界から取り寄せた精力――精進料理をたっぷり披露いたしますので」

 

まだ日本語が不慣れなんだろうか?

いや、翻訳魔法が掛かっているはずだから、その不具合かな?

 

「手伝うよ。これでも料理はちょっと出来るんだ」

「では、お願いいたします」

 

リディアは魅力的な笑みでエプロンを装着するのだった。

気立てがよくて器量よしの、長い黒髪の巨乳な義妹――

これが天使でなくてなんなのかという気分だが、このとき隆史は甘く見ていた。

蔑称なのであまり使われないのだが、魔人種の女性とはいわゆる『サキュバス』なのだと。

 

 

 

 

そもそも隆史の父は、妖魔界へ出張している間に、リディアの母と出会った。

籍を入れてもその仕事は変わらないようで、変わらず出張中である。

もはや出張というより、夫婦水入らずでの新婚生活と言うべきか。

 

(遠からず弟か妹ができるからそのつもりでって……息子に言うか普通?)

 

まあ新婚だし、相手の女性も魔人種なら……その、色々お盛んだと聞く。

そんな父と継母が同居していたら、こっちとしても困ることがあるだろう。

 

(だからって……人間界に留学してたリディアをこっちに寄越すか?)

 

リディアが須東家で暮らし始めたのはそういう経緯だ。

妖魔界にとっても、人間界という異世界との出会いは歴史的な出来事らしい。

今後の社会は異界との交易を前提にする。学ぶのは早い方がいいということで、人間界に留学していたそうだ。

そこに親の再婚が起きて、住居をこの家に移した運びである。

 

「お兄様っ、お風呂掃除くらい私がしますのにっ」

「いやいや、リディアには台所を任せきりだし、このくらい……」

「駄目ですっ、殿方にそんなことさせては女の面目が立ちませんっ」

「そんな、むしろ人間界的には女にばかり家事をさせると非難囂々で……」

 

改めて、リディアは家事万能だった。

子供の頃は貴族家にメイドとして奉公してたそうで、下手な専業主婦より効率的に仕事を回す。

正直、隆史が気を遣って手伝おうとしても、リディアほどいい仕上がりにならず、もはや足手纏いになる。

家事分担交渉で勝ち取れたのは、せいぜいトイレ掃除くらいだった。

 

そんな大和撫子のリディアだけど、服は意外と薄着だ。

 

「私の故郷は妖魔界でも寒い地域でしたから、日本はちょっと暑いくらいです」

 

というリディアは、学校から帰ると、袖無しのシャツや膝丈までのスカートに着替える。

 

(大きい、よなぁ……)

 

シャツは体の線が浮くもので、リディアのスタイルが如実に見て取れる。

そりゃ急速に胸が膨らむ年頃だけど、既に成人女性も顔負けの、たわわな半球だ。

日常生活の些細な仕草でも、隆史の視線に強い吸引力を発揮する。

 

(脚も綺麗だし、肌も真っ白で……)

 

スカートも左右非対称で、片足は太股までちらちらと見えてしまう。

ソックスを吊るガーターが見えたときなどは、目を剥くような色香だ。

リディアがそんな不躾な視線に気付いてないはずないのだが、気付かないふりをしてくれている。

 

(いい子だ……)

 

もはや感涙であった。

 

……最初は、そういうまともな同居生活だった。

年頃の美少女が義妹になってしまって、たまにドギマギしてしまうとか――そういう範疇だ。

意識してしまうことはあっても、不埒な真似をしようなんて気は、さらさらなかった。

でも、いまなら分かる。

リディアは楚々とした義妹として振る舞いつつ、入念に義兄を観察していたのだ。

甲斐甲斐しく家事をしつつ、服装や髪型、仕草や露出度などを通じて、反応を確かめていたのだ。

義兄の視線を感じるたび、静かに興奮して生唾を飲んでいる彼女に、隆史は気付いていなかった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

学校に登校するとき、リディアは必ず隆史と一緒だった。

 

「本当は、兄様の学校まで送り届けたいのですけど……」

「そこまでする必要ないって」

 

リディアが通うのは○学校、隆史が通う学校とは途中で登校路が別れる。

 

「いいえ、兄様は……というより人間界の男性は不用心すぎます!

 妖魔界では男性がお供も連れずに街を歩くなんてありえませんっ」

「え? なんで?」

「それは……その、邪なことを考える女性はたくさんいますから……」

 

男が希少な妖魔界では、いわゆる『貞操逆転』みたいなカルチャーギャップがあるという。

滅多に会えない男に対して、逆レイプしてでも子種を獲得しようと考える『不埒者』もいるとか。

 

「なんでも妖魔界では、男を争奪して紛争が起きることもあるとか……」

「こともあるどころか、数ある紛争の八割がそれですよ?」

 

なにそれ怖い。

まあでも、男性が領内にいるかいないかは、一族が途絶えるか否からしい。

魔人種の女性たちにとってそれは、剣と魔法で合戦してでも避けたいことなのだそうだ。

 

「ですから兄様、サキュバスにはくれぐれも用心してください」

「せっかく蔑称として禁じられてるのに、自分から言っちゃうのはどうかと思うんだ」

「蔑称を受けて仕方の無い同性もいるということです。

 いいですか、兄様のように無防備な男性は、誘惑(チャーム)されてしまうかもしれませんからね?」

 

チャーム――魔人種の女性が用いるという魔法だ。

生まれつき備わった能力であるそうで、言葉通り男性を魅了してしまい、盛らせるのだとか。

 

「たしか、目を合わせて相手の瞳が赤く光ったら誘惑(チャーム)されてるんだっけ?」

「はい、もし魔人種の女性が五秒以上も目を合わせてきたら、捻りを加えた右ストレートで撃退してください」

「人間界ではやり難い対処法だなぁ」

「もう、そんなことだからお一人で外を歩かせるのが不安なんです……

 日本はいまだに『誘惑』への法整備が進んでいませんし、心配です」

 

唇を尖らせるリディアだった。

魔人種の女性による『誘惑』の危険については知っている。

 

「たしか、自治体の条例では禁じられてるって聞いたことがあるな。

 誘惑禁止条例だっけ?」

 

魔人種の『誘惑』が認知されていなかった頃、それを乱用した女性と男性により『ピンクハザード』が起きたという。

そこで国の法律よりは柔軟性がある自治体の条例により、『誘惑』の使用が禁じられた。

 

「……そんな条例があるのですか?」

「ああ、ちょっと前に話題になってね。条文で『誘惑』の定義が曖昧なせいで、女性は夫以外と肉体関係になってはならないみたいな条例になって、各方面から抗議があったらしい」

 

誘惑(チャーム)による男性への不当な要求を禁じる条文が、企図せぬ拡大解釈をされてしまったそうだ。

リディアを見ると、スマホでその条文を確認している。

 

「女性は『誘惑』を用いて男性の性的興奮を喚起させ肉体関係を結んではならない。

 女性は『誘惑』によって性的興奮を喚起された男性の要求を断らなければならない。

 相手が婚姻関係にあれば合意の上で、誘惑に起因しない性犯罪の被害には適用されない……」

 

リディアは条文を熟読している。

リディアのような清楚可憐な見た目の美少女が、こんな性的な話題に熱心なことに、隆史は少し驚いていた。

 

(そういうのに、興味あったりするのか? いやいや、うっかり性犯罪者(サキュバス)扱いされないよう、ルールをしっかり確認してるんだろう)

 

なぜか自分にそう言い聞かせる。

どこか、自分の中に構築されている、清くて繊細な義妹像を保とうとするように。

 

「人種で区別しないため人間女性も『女性』に含まれる。

 また誘惑の定義も曖昧であるため、魔力によらない誘惑行為にも適用されうる。

 結果、女性の服装や性の自由を過度に制限するため、現代の姦淫罪と批判されている……」

 

姦淫罪とは、明治から昭和中頃まであった、女性の浮気に対する刑罰だ。

男性の不倫には適用されなかったので、男女平等の観点から廃止された。まるでその復活だと。

 

「違反者が刑事罰を受ければ、在留資格剥奪の事由に足るため、妖魔界への国外退去もありうる。

 ……なるほどたしかに、『女性は男性を誘惑してはならない』という条例ですね」

「だろ? 問題のある条例だけど、まあ誘惑の被害はすっかり減ったらしいよ」

 

最近は『女性が児童にわいせつな行為をして逮捕』なんていう『おねショタ逮捕』もよく聞く。

法がしっかり機能しているなら、後はそれを信頼して生きればいい。

 

「ですが兄様? この条例、とんだ抜け道がありますよ?」

「抜け道?」

「はい、目敏いサキュバスならすぐに気付きます」

 

気付かない隆史に、リディアはどこか妖しげな目で、くすりと笑う。

 

「だってこれ――男性に自分を襲わせれば、いくらでも『できる』じゃないですか」

「あー、うん。たしかにそうだな」

 

――性犯罪による被害は条例違反にあたらない。

だから、男性側から襲うように仕向ければ、誘惑も合意も不倫もしていないことになる。

 

「でもまあ、男が襲わなければ済む話だろ? それ」

「ふふ、そうですね。兄様を口説く女性は、きっと大変ですね」

 

妙に魅力的な笑みを浮かべたリディアとは、そこで道を別れた。

その後、学校に行く間、先ほどの話を思い出した隆史は、ふと気付く。

目敏いサキュバスならすぐ気付くという、誘惑禁止条例の抜け道――

 

一目見ただけで見抜いたリディアも、実は結構『目敏い』部類なのだろうか?

 

 

 

 

深夜――隆史がトイレに起きたときのことだった。

リディアの部屋に明かりがついていることに気がついた。

 

(まだ起きてるのか?)

 

珍しいことだ。

リディアは就寝時間が早いし、朝も早く起きる方だ。

今日もいつも通り、10時にはベッドに入っていたはずだった。

 

「んっ♡ ぁ……♡」

 

漏れ聞こえる声は、間違いなくリディアのもの。

しかし普段の彼女からは想像できないほど、甘く艶めかしいその声は、明らかに性的興奮を覚えているものだった。

そんなリディアの吐息に重なって、何か機械のバイブレーションが動くような音がする。

いわゆる電動マッサージ機の駆動音だった。

 

「…………」

 

思わず立ち止まってしまった隆史は、すぐに察した。

リディアはきっと、自慰をしているのだと。

何かの聞き違いならそれでいいし、聞き違いでなかったとしても――別に悪いことではない。

自分だってリディアの目を盗んで致しているのだし、こちらもまた、気付いても気付かないふりをするべきだ。

 

(扉が……)

 

問題は、部屋の扉が半開きになって、部屋の明かりが暗い廊下に零れ出ていることだった。

ゴクリ――と、知らぬ間に生唾を飲む。

リディアの部屋は、隆史の部屋の隣にある。

隆史から見て手前が自分の部屋だ。このまま自室に戻ってベッドに入ればいい。

なのに……気がつけば隆史は足音を忍ばせて、自分の部屋を通り過ぎ、リディアの部屋に耳を近付けていた。

 

「んぁっ♡ はぁ、はぁ……っ♡ んんんっ♡」

 

ウィィィと、電動マッサージ機の音が聞こえる。

リディアの声も、よりはっきりと聞こえるようになった。

 

「…………」

 

耳をそばだてるだけで満足するべきだった。

なのに、見たい――と、隆史の本能が体を動かす。

思い留まるべきだったことに気付くのは、それをしてしまった後――本能や反射による行動とはそういうものだった。

 

「ふあっ♡ いい……んっ♡ くぁっ♡ んっ♡ はぁぁぁ♡」

 

扉の隙間から、リディアの部屋が見える。

カーテンはレース付きのピンク色、家具も小物も、どれもこれも女の子らしい可愛いもので統一されている。

妹のいない兄が妄想する『妹の部屋』としては、100点満点だろう。

そんな内装に唯一不釣り合いなのは――ベッドの上で自慰をするリディアの淫らさだった。

 

「あぅ♡ んっんっんっ♡ ん~~~っ♡」

 

シーツの上に寝そべったリディアは、股間部に手を伸ばし、その小さな指で割れ目を刺激する。

すでにそこは濡れており、くちゃくちゃといやらしく水っぽい音を立てながら、彼女の細い指を迎え入れていく。

もう片方の手にはマッサージ機があり、いまは乳房に当てられていた。

 

「っ」

 

初めて見るリディアの裸に、隆史は硬直した。

陶磁器のように白い肌、濡れ羽色の髪、豊かな半球を描く乳房に、桜色の突起。

一糸も纏わぬその姿で、リディアはベッドで仰向けになって膝を曲げ、脚の間で手を必死に動かしている。

白い肌を紅潮させたリディアの顔は、快感により苦悶めいた表情になっていた。

 

(すご、い……)

 

隆史の呼吸が荒くなり、心臓が早鐘を打つ。

女のオナニーを覗きたがる趣味はないし、見たいと思うこともなかった。

でもリディアのそれは……

肢体はまるで芸術品のようなのに、心は淫らになっていて……

相反するものが同居しているかのような、そういう奇妙な興奮を覚えた。

 

「兄、様ぁ……っ♡」

 

呼ばれて、思わず跳び上がりそうになった。

覗いていることに気付かれたかと思ったが、そうではなかった。

リディアは胸に当てていたマッサージ機を、なにやら口元に寄せて舐め始める。

まるで、その棒状の物体を何かに見立てているかのように。

 

「ん……ちゅっ♡ れろ、はぁ、はむ、れる……」

 

懸命に、リディアは舌を這わせた。

それを見るほど、隆史の股間で勃起していたものが、ぴくぴくと脈動する。

リディアは義兄が見ていることにも気付かず、自慰の手を加速させていった。

 

「はぁ、兄様、素敵♡ んんっ♡ もっと、私に……っ♡ んっ♡ あっ♡ ぁぁぁ~~~っ♡」

 

腰が浮いて、体が痙攣する。

絶頂したのだ――と、隆史は察して息を呑んだ。

 

(リディアが……俺で……オナニー、してる……?)

 

衝撃的だった。

内心、リディアが自分に性的な興味を抱いていることは察していた。

でもそれは少し年上の男が近くにいるがゆえの、深い意味はない興味だと思っていた。

しかし、自慰のネタにするほどとなると、話は変わってくる。

 

「ふあっ♡ あっあっ♡ 兄様ぁ♡ 私、もうイって……はぁっ♡」

 

リディアがオナニーを継続する。

既に果てたというのに、今度は指では無くマッサージ機を陰核に押し付けて、自分で自分を苛めている。

彼女が妄想している隆史は、達したリディアを更に連続でイかせようとしているらしい。

 

(そんな、風に……されたい、のか?)

 

隆史が驚く間にも、リディアの声は昂ぶっていった。

 

「あっあっいいっ♡ にぃさまっ♡ くぁっ♡ イクっ♡ イキますっ♡ んっはぁぁっ♡」

 

やがてリディアの体が大きく跳ねたかと思うと、次の瞬間には脱力し、ベッドの上でぐったりとした様子になった。

 

(また、イったのか……こんなに、短い間隔で……)

 

耳にはしていた。

サキュバスと異名される魔人種女性は、性欲は強く、性感は過敏で、夜はとても乱れるのだと。

エロ動画で見たこともある。たしかに、人間の女優より大きな喘ぎ声と絶頂を披露していた。

でもそれは、あくまで誇張されたものだと思っていた。

現実のサキュバスは――動画よりもずっと淫らだった。

 

「っ!」

 

最後の理性が、隆史の身を引かせた。

静かに自室へ戻り、音で気付かれないよう慎重に扉を開閉して、ベッドに入る。

 

「――っ♡ ――っ♡」

 

壁の向こうからは、いまだ微かに、リディアの喘ぐ声が聞こえていた。

それが止むまで……隆史は張り詰めた逸物を持てあましながら、劣情を押さえ込むのだった。

 

 

 

 

翌朝――リディアは風邪を引いていた。

 

「まったく……日本の春は暖かくなったと思ったら急に冷え込むって言っただろ?」

「あぅ……申し訳ありません、兄様……」

 

ベッドの中で、リディアが顔を隠すように掛け布団を持ち上げる。

恥じらう表情が可愛らしい。

兄としてちゃんと叱るところは叱ったし、これ以上責めるのは隆史自身の気が乗らない。

 

「まあ、人間界に来たばかりで環境の変化もあったし、家事なんか任せきりだったもんな」

「いえ、そんなことは。その……ちょっと薄着で眠ってしまっただけで……」

 

リディアは気まずそうに目を逸らした。

 

(薄着って……()()()()で寝たのか……)

 

昨夜のことを思い出した隆史も、急に気まずくなる。

つい数時間前、いま自分がいるこの部屋、目の前にあるベッドで、リディアが……

 

「と、とにかく! 学校への連絡とか家のことは俺がやるから、今日はちゃんと休んでいること。いいね?」

 

隆史は頭に浮かんだ光景を追い払うように、リディアに言いつける。

 

「そんな、風邪くらいなんてことありません。兄様の手を患わせるだなんて……」

 

リディアはそう言ってベッドに上半身を起こす。

パジャマを着たリディアの額や首筋は少し汗ばんでいて、こんなときでも色香を感じてしまう。

 

「駄目だ」

「大丈夫です。魔人種の体って、人間の女性と比べて頑丈なんですよ?」

「リディア」

「はぅ……ごめんなさい……」

 

しゅんとして再び横になるリディアだった。

隆史が強い口調で物を言うのは初めてのことだ。そのことへの驚きもあるらしい。

 

「普段から頼り切りな俺が言えた義理じゃないけど……もうちょっと甘えてくれよ」

「甘え、る?」

 

男性にそのようなことをするという発想そのものがなかった、という顔だった。

隆史はそのことに、少し義憤めいた感情を抱いた。

生活文化どころか、地球人とは生態レベルで違った社会を築いているので、妖魔界の男女間がそうなっているのも仕方ないことだ。

でも、こんな可憐な義妹が、年上の男に甘えることも知らないというのは、不幸なことに感じた。

だから決めた――お兄ちゃんである自分は、この子に甘えることを覚えさせよう。

 

「そうだ。お兄さんっていうのは、妹にちょっと甘えられてるくらいが嬉しいもんなんだ」

「そんな……妹である私は、兄様に尽くしているのが嬉しいのに……」

 

妖魔界の女性はみんなこうなのだろうか?

 

「……よし、じゃあこうしよう。一日一回だ」

 

人差し指を立てると、リディアが小首を傾げる。

 

「一日、一回?」

「ああ、普段から頑張ってもらってる代わりに、一日一回だけ、リディアは俺に甘えること」

 

切り口を変えた。

リディアの中ではどうしても、兄とは献身的に尽くすべき目上の存在らしい。

だったらそれを逆手にとって、目上の存在として、こちらを頼るように命じればいい。

 

「でも、甘えるなんて、どうしたらいいか……」

「リディアがしたいと思ったり、されたいと思ってることを、おねだりすればいいんだよ」

「そんな……だ、駄目ですっ! そんなことしたら、大変なことになりますっ!」

 

リディアはいったいどんな『おねだり』を想像したのかと思っていると……昨夜のことがフラッシュバックした。

 

「じょ、常識の範囲内で、だぞ? 妹が兄にして不思議じゃない範疇のおねだりだからな?」

「は、はい……おねだり……兄様に……おねだり……えへへ♡」

 

なにやらだらしない顔で笑うリディアだけど、その顔はいままでで一番、年相応に見えた。

 

「暇ならそれを考えておくといいよ。じゃあ、俺はちょっと買い出しに行くから」

「はい……あのっ、兄様っ」

 

ん? と振り返ると、リディアは控えめな笑みで、

 

「約束、ですよ?」

「ああ、約束だよ」

 

喜んでくれたのが嬉しくて、隆史はそう確約するのだった。

その『約束』が、自分とリディアの関係を大きく動かすことになるとは、このときは思ってもいなかった。

 

 

 




ご一読いただきありがとうございます。

本番までの前置きが長くなったので、二話に分けて同時更新です。

タグに貞操逆転と付けるべきか迷う……
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