誘惑禁止条例 ※性犯罪被害は条例違反にあたらない 作:大中小太郎
改めて、修吾たちが住んでいるのは田舎町だ。
どのくらい田舎かというと、主要な買い物や娯楽が全てイ○ンで完結しているくらい田舎だ。
それゆえ日曜日のショッピングモールは、田舎町の住人を掻き集めたかのように、どことなく見知った顔で混雑していた。
「なにから買う? 軽いものからがいいよね」
「そうね、食品類は熱さで傷んじゃうから最後に……んっ♡」
修吾の運転する車から、平素な服装の修吾とヘラが降車する。
ヘラの装いはいつも通りだ。
ここ最近の『いつも』というと、修吾にOKサインを出すように胸元や足が出ていたり、先日のカーセックスや痴漢プレイのような露出過多なものだが、今日は普通だ。
どのくらい普通かというと、半袖の白いトップスにジーンズという、逆に新鮮なパンツスタイルである。
それでもスレンダー巨乳なスタイルは隠せないが、現代では『どこでも見かける』の範疇だ。
「じゃあ、本屋からでいいかな?」
「ええ、私もレシピ本が欲しかったから……はぁ♡」
修吾とヘラの距離感も、特に近くない。
手を繋いでもいないし、腕も組んでいない。
傍から見れば『ただのカップル』か『ただの夫婦』という程度だ。
「選ぶの、結構長くなるかもだけど、大丈夫?」
「ん……大丈夫よ」
ほんの少し、ヘラの言葉に悩ましい吐息が混ざること以外は、ごく普通の休日だった。
本屋で目当ての本を購入した後、主要目的である食品売り場に入る。
妖魔界からの輸入品が並んでいることと、客層に妖女が多いこと以外は、旧時代と大差ないスーパーの光景だ。
店内放送で一昔前の流行曲が奏でられていたり、生鮮食品の売り場で気風のいい売り込みがされていたりする。
「んっ♡」
その道中、不意にヘラが歩みを止めた。
修吾が振り向くと、彼女は顔を赤くして、口元に手を当てている。
彼女が視線を注ぐ先には、精肉コーナーがあった。
「どうかした?」
「……なんでも、ないわ。ああ、そこのウインナーとってくれる?」
本当に何事もなさそうに笑って、ヘラは修吾の近くにあった袋詰めウインナーを指さした。
「修吾
ヘラは『修吾さん』とは呼ばなかった。
いまはセックスを通じて上下関係を作られた男女ではなく、兄嫁と義弟の顔で言葉を交わす。
「んー、おでんかな?」
「おでん? 真夏なのに?」
「だからだよ、毎年この時期になると『久しぶりに食べたいなぁ』ってなるんだ。冷房を効かせた部屋ではふはふって」
「贅沢ねぇ。じゃあ厚揚げと、がんもと……」
くすくすと笑ったヘラは、購入する食品におでんの具材を追加していく。
「そういえば、妖魔界の食材でおでんに合うのってあるかな?」
修吾は買い物カゴを片手に持ちつつ、もう片方の手でスマホを一瞥する。
「そうねぇ、卵は問題なく茹でられるし、大根に似た根菜もあって――ぁ♡」
ヘラは指を口に沿えて思案していると、一瞬だけぴくっと体を震わせた。
騒々しい店内で行き来する客は、誰も気に留めていない。
ヘラくらいの美人でも、妖女だらけな現代では、すれ違っても振り返る理由にはならないのだ。
「……修吾くん、他に買いたい物はない?」
ヘラは少し頬を染めて、修吾に何かを促す。
「そうだなぁ、甘い物を少し買って行こうか」
「もう、さっき棚を通ったじゃない……」
軽く抗議するような目を向けられたが、修吾はどこか悪戯っぽい笑みで流す。
さりげなく、しかし意図的に、修吾は店内に留まる時間を長引かせていた。
「はぁ……んっ♡」
そうしていると、ヘラの吐息が徐々に荒くなっていく。
歩みがぎこちなくなり、体が小さく震える回数が増えていった。
「修吾、くん……もう、いいでしょう? 冷凍食品が、溶けちゃうから……♡」
「ああ、それで思い出した。アイスも買い足しておかないと」
「……っ、修吾
ヘラは修吾の袖を抓んで、少し涙目になっていた。
そんなヘラは可愛らしかったが、これ以上は怒られそうだったので、ようやくレジに足を向ける。
「ありがとうございました~」
会計を終えて店を出る頃には、ヘラの表情から険しさが取れた気がしていた。
車に乗り込み、エンジンを始動させる。
「ん……♡」
車が発進すると、ヘラは小さく身じろいだ。
シートベルトが胸に間に入り込んでいることもあり、妙に色っぽい。
妙に背筋を伸ばして、両手を膝に置いて座っている。まるで面接だ。
「修吾、さん……あまり、揺らさない、で……っ♡」
「んー、どうして?」
修吾は片手でハンドルを回しつつ、直線に入ったところでスマホを操作する。
すると、助手席に座るヘラの方から、ウィィィィンというモーター音が響く。
「ひぅ、あっ、ああああぁぁっ♡」
ヘラが艶めかしい声を上げながら、ビクンと腰を跳ねさせた。
「はは、イっちゃったねぇ。お店ではよく我慢してたね。何度も強弱を変えてたのに」
「修吾、さぁん……♡ こ、こんな、こんなのを着けて、お買い物なんて……っ♡」
ヘラが荒い呼吸と共にいう『こんなの』とは、ヘラのブラとショーツの中に仕込まれたローターのことだ。
「大丈夫だよ。誰も気付かなかったみたいだし」
「そ、そういう問題じゃ……ああっ♡」
修吾はヘラの抗弁を封じるように、スマホによる遠隔操作でローターの震動を強める。
「あっ♡ あぁぁっ♡ だめ、これぇっ♡ ずっと、同じ、ところ……んああぁぁぁっ♡」
ヘラはシートの上で身をよじり、悩ましい声で喘ぐ。
うっかり見とれていた修吾は、道を逸れかけた車の軌道を修正する。
「修吾、さん……運転、危ないわ……♡」
「そうだな……ちょっと寄り道、していこっか?」
「……っ、はい……♡」
修吾は車の進路を、町の主要な道路から外す。
目的地に到着するまでの間、ローターの振動音は鳴りっぱなしだった。
修吾がヘラを連れてきたのは、周囲に建物もない小川の上流だ。
田舎町を通る地鉄の線路があり、それが川を跨ぐために作られた橋の下である。
橋のアーチを潜るコンクリートの通路は、周囲からの死角となっていた。
「修吾、さん? ここで? こんな……明るいうちから、外で……♡」
「誰も通らないし、近くを通っても見えないよ」
修吾はヘラを橋の下の壁際に立たせ、壁ドンするように詰める。
「ほら、見せて?」
「……っっっ♡」
修吾が再びスマホを操作すると、ヘラの双丘と股からモーター音が鳴り響く。
「ふぁ、んぁぁっ♡ はぁ……はぁ……♡」
ローターの動きが止まらず、ヘラは肩を上下させて息を切らす。
その顔は上気して赤くなり、瞳には情欲の色が宿っていた。
両手は修吾の命令に従い、片手はトップスをたくし上げて、片手はジーパンの前を開いていく。
青いブラとショーツが露になり、その生地に不自然な球体が浮かび上がっていた。
「んっ……♡」
ヘラは恥ずかしそうに唇を噛みながら、胸を覆っているカップと、臍の下のショーツをずらす。
現われるのは、桜色の乳首と陰核……ではなく、それを覆うような、黒い小さなお椀型のローターだった。
「これ、気に入った? 乳首とクリちゃんを包んでくれる吸着型ローター」
「初めてに、決まって、ます♡ こんなのを着けて、お外を、歩くなんてぇ……っ♡」
ヘラが抗議すると、ローターが激しく震え出す。
「んっ♡ あぁっ♡ うそっ♡ まだっ、強く……っ♡」
「ああ、流石に店内で震動を最大にはしないよ。聞いての通り、結構大きな音がするからね」
ヘラの両乳首と陰核を包むローターからは、遠くで回転のこぎりでも使っているような駆動音がしている。
ローターの震動を最大にされたことで、ヘラの体にも最大の刺激が生じていた。
「こら、勝手に外そうとしない!」
修吾はヘラの両手を掴んで壁に押し付ける。
「あっあっあああぁぁぁ♡♡♡」
屋外で、人気の無さが不安を煽る橋の下で、硬い壁に手首を押さえ込まれる。
野外レイプを思わせる状況と、性感帯を責め続ける機械に、ヘラは激しく身もだえた。
「ふぅぅぅっ♡ 修吾さぁんっ♡ もうっ♡ やめっ♡ おしまいに、してぇ♡」
ヘラのショーツは愛液まみれになっており、クロッチが色濃く変色していた。
修吾はヘラの懇願を聞かず、スマホ操作で震動の強弱を不定期に変えて、緩急でヘラを翻弄する。
「さっきの質問、まだ答えてないよ? 俺は『気に入ったか?』って聞いたんだよ?」
「ひゃうっ♡ ああっ♡ そんな……っ♡」
修吾はヘラの両手首を片手で掴んだまま、もう片方の手で顎を持ち上げる。
「正直に答えろよ? ローターで感じさせられながらお買い物するのどうだった?
同じ町に住む知り合いに、いつ見つかってもおかしくない状況でイったよな?
あんなお澄まし顔しながら、夫の弟にオモチャで感じさせられるの、どうだった!?」
「あぁっ♡ あはあぁっ♡ ごめんなさいっ♡ 私、気持ちよくなってましたぁっ♡
義弟にローター仕込まれてっ♡ なに食わぬ顔で、買い物しながらっ♡ イキましたっ♡」
淫らな半泣き顔が、修吾に白状する。
「そうかぁ。そんなに気に入ったなら、当分ヘラの相手はオモチャに任せようかな」
「え……?」
ヘラは信じられないといった表情を浮かべる。
「俺も疲れるし、課題も済ませないといけないし、ヘラの相手ばっかりしてられないからなぁ」
「そ、それは……」
ヘラは悲しげに眉を寄せる。
この夏のうちに、修吾の子を孕む。それがヘラの目的だ。
この夏を逃したら、次の機会があるとは限らない。
例えば、修吾は大学で恋人を作り、ヘラとの関係を終えるかもしれない。
少なくともヘラから見れば、若い男である修吾がそうする可能性は大きく見えた。
「修吾さん……お願い……そんな意地悪、言わないで……っ♡」
「んー? 本音だったらどうする? ヘラは俺にどうして欲しいの?」
「あっ♡ あああぁぁぁっ♡」
修吾がローターの震動を高めながら問い詰めると、ヘラはまた嬌声を上げた。
しかしその表情は、修吾がまだ自分に興味を失っていないと分かり、喜んでいるように見えた。
「おかし、てぇっ♡ 修吾さんのぉっ♡ ご立派なモノでっ♡ 種付けレイプしてくださいっ♡
夫以外の子種を欲しがってる不貞な体にっ♡ お仕置きレイプしてくださいっ♡
修吾さんになら乱暴されてもいいのぉっ♡ ううん、
ヘラは必死に懇願する。
犯されてるなら不倫でも浮気でもない。
夫への愛を貫きながら肉欲を満たして子を得るための、唯一の方法を、ヘラは修吾に願う。
「……っ」
自分がそう仕向けたこととはいえ、ここまで明確にレイプ願望を言葉にされると、こみ上げてくるものがあった。
この女は、いったいどこまで、自分をケダモノにしてくれるのだろう。
「後ろを向け、壁に手をつけよ」
修吾はヘラに命じる。
「はい……仰せのままに♡」
ヘラは言われるままに壁に手をつき、尻を修吾に向けた。
修吾は背後からヘラの乳房を鷲掴みにする。
「ふぎゅぅぅっ♡」
ブラ越しに柔肉を握り込むと同時に、手の平でローターを乳首に強く擦りつける。
「下も脱げっ、ほら早く!」
「はいっ♡ はひぃっ♡」
ヘラはジーンズを下ろした後、指で引っ掛けたショーツをゆっくり捲る。
陰核にローターを貼り付けた秘所が、妖女のフェロモンをまき散らした。
「こんなにして、本当に淫乱だな、お前は……ッ」
「あひゃうっ♡」
べりっ! と、修吾の手がローターを陰核の上から乱暴に剥がす。
「ほら、これか? これが欲しいんだよな?」
「んあぁっ♡」
修吾はズボンから取り出した肉棒を割れ目にあてがい、焦らすように滑らせた。
「おねがいしますぅっ♡ 修吾さんのおっきなおちんぽでぇっ♡ 私のことめちゃくちゃにしてくださいっ♡ もう我慢できないのぉ♡ 修吾さんのものになったエッチな体っ♡ あなたのお精子が欲しくて泣いてるのぉっ♡」
「そんなに言うなら、くれてやるよ」
「あぁっ♡ あはあぁぁっ♡」
修吾は腰を前に突き出して、亀頭をヘラの膣口に挿入する。
「あぁっ♡ きたぁ♡ あっ? なんで、止めないでっ♡ 入口で止めて焦らすのだめぇっ♡」
「こら、自分からケツを押し付けるな。ったく、どんだけ欲しがってたんだ?」
わざと亀頭だけの挿入に留めた修吾は、ヘラの尻を押しとどめながら、あえて面倒臭そうに問う。
「はいぃっ♡ お待ちしてましたぁっ♡ 修吾さんのおちんちんで♡ 子宮口ぐりぐりされるの想像しながらぁっ♡ ずっと待ってましたぁっ♡」
ヘラは媚びるような口調で答え、自ら腰を振って修吾のペニスを求める。
「まったく、俺だっていつでもしたいわけじゃないってのに……」
修吾はヘラの乳首からローターを剥がすと、地面に捨てて乳首を抓る。
「んひっ♡ ちくびきもちいいっ♡ やっぱり、修吾さんのお手々がいいっ♡ むぐぅっ♡」
「声、出ちゃうだろうから、口を押さえるぞ?」
この様子では、根元まで入れれば獣のように喘ぐだろう。
だから予め彼女の口を片手で覆い、白昼の強姦魔のように女を黙らせる。
「ふぐっ♡ うぅぅっ♡」
そんな修吾の荒々しさに興奮して、ヘラはしきりに頷いた。
もはやヘラは淫らさを隠さない。
修吾に犯されるためなら、誇りも尊厳も投げ捨てる女になってしまった。
「いい子だ――なっ!」
修吾はヘラの強く塞いだまま、一気に腰を突き入れた。
「んぐぅぅぅぅぅっっっ♡♡♡」
ヘラの口から悲鳴にならない声が漏れる。
膣内は、こちらの方こそバイブ機能でも備わっているのかというほど、激しく痙攣していた。
「うわ、これ……入れられたらイったなんてもんじゃないだろ? 意識飛んだんじゃないか?」
「おぉぉっ♡ おふっ♡ ふぉぉぉっ♡」
修吾の手中に嬌声を押し潰されながら、ヘラは白目を剥きかけていた。
にもかかわらず腰は動き、ようやく訪れた修吾の巨根を子宮口で味わっている。
木々が茂る小川沿い、薄暗い橋の下で、未亡人の白い裸身が義弟の逸物にヒップを擦っていた。
「まったく……自分ばっかり気持ちよくなるんじゃない!」
ヘラの口を押さえ込んだまま、乱暴に腰を振り始める。
「んぶぅっ♡ んごぉっ♡ おぉぉぉっ♡」
「ははっ、押さえてもらってるからって下品な声ばっかりだな。
見なくても分かるぞ? すごい顔してるだろ? バックが好きなのはそのためなんだろ?」
修吾からは見えないが、ヘラの顔は美貌を台無しにするほど崩れていた。
目が白目を剥きかけた、恥も外聞もないアヘ顔だ。
「んおぉっ♡ おほおおおぉっ♡」
修吾の言葉など耳に入っていないのか、ヘラは獣のような声で叫ぶ。
口から零れた涎が修吾の手を汚し、手首にまで伝っていく。
「んおっ♡ あっ♡ おふっ♡ あ゙っ♡ あっあっあ゙あ゙あ゙っ♡」
「はぁ……はぁ……っ!」
川のせせらぎと蝉時雨、夏の薫風にざわめく木々、それに混じる男女の
ヘラの口には丸めたハンカチが詰め込まれ、地面に敷かれた修吾のシャツに仰向けとなっている。
青姦のせいで手足には土汚れがあり、結っていた髪は解け、汗まみれの顔に張り付いていた。
幾度となく絶頂したせいか眼は虚ろで、顔は涙と鼻水と涎、そして精液で汚れている。
両手が自由になった修吾はヘラの両脚を掴んでおり、何度目かの射精に至っていた。
誰かが目撃すれば、プレイではなく本当の性犯罪としか思わないだろう光景だ。
「ふぅ……たっぷり出したぁ。これ、いよいよ孕んだんじゃないか?」
「おっ、ふぅ……♡」
吐息をつく修吾の言葉に、意識のないヘラは答えられない。
答えはないが、小刻みに痙攣しながらも、無意識に下腹部を撫でていた。
――ヘラが無事に妊娠すれば、この関係も終わる。
妖魔界において不吉な『未亡人』から一転、跡継ぎを宿した『妊婦』になり、そのまま帰郷すれば一族から大歓迎を受けるだろう。
自分を犯して孕ませた義弟になど、もう二度と会う必要はなくなる。
交われば交わるほど、自分とヘラの関係は短くなっていくのだ。
それを惜しみながらも、引き延ばすために数を減らそうとか、外に出そうとはしない。
まるで転落していくように、妊娠というゴールを目指して、夢中でまぐわう。
もしかするとそのゴールは……この夏の終わりより、早く訪れるかもしれない。
○
魔法というものは、いまや人間界でも生活のあちこちに活用されている。
洗浄魔法もそのひとつ。
スマホのアプリ操作で使用可能で、体や服の汚れや濡れを素早く除去できる魔法だ。
大抵、情事の後始末に使われている。
おかげで、修吾とヘラは汚れや匂いも残すことなく帰路についた。
事後は流石に気まずく、ヘラは顔を赤くして伏せていたが、家に到着する頃には落ち着いていた。
「あ……」
「ん? どうかした?」
駐車場に車を入れている間、助手席から外を見たヘラが声を零した。
「いま、誰かが……」
ヘラの言葉に、修吾は思わず運転を止める。
「誰かって?」
「その、門のあたりに」
車が車庫に入る途中、ヘラは門前に人影を見たようだ。
「……宅配とかじゃなく?」
「いえ、そういう感じじゃ……」
修吾はひとまず車を停めて、ヘラの顔色を確認。
少し緊張した様子は、嘘を言っているようには見えない。
嘘と言えば……ストーカー被害は、修吾を家に呼ぶ口実だったはずだが。
修吾の視線からその疑問を察して、ヘラは口を開く。
「実は、たまに誰かが家を覗いていたのは本当なんです。
仕事や買い物から帰ると、家の前に誰かがいて、でも私を見ると隠れたり逃げたり……」
どうやら、ストーカーの話は、全てが嘘でもなかったようだ。
そうかも、と思っている間に、妖魔界の実家から修吾との関係を進められ、呼び出す口実に使ったというところだろう。
思い出せば、ヘラが修吾を誘惑しようとした夜も、外に不審者を見たと言っていた。
あのとき、誰なのか確認しようとした自分を必死になって止めていたが、あれは本当に不審者がいる可能性があったからだったのか。
「誰なのか分かる?」
「女の子だと思います……いま見かけたのと、同じ人です」
そのこともあり、ストーカーとまでは言わなかったが、不審には思っていたようだ。
火野家の立地的に、この家に用がなければ、人が訪れることはない。
そこで何度も見かけるということは、火野家に用がある不審者だ。
「……声、掛けてみよう」
どうやら、家に帰ったらすぐに先ほどの続きを……とはいかないようだった。
「すみません。なにかご用ですか?」
声を掛けるまで、その少女は待っていた。
妙に気まずそうで、もっと言えば怯えているようにすら見える。
なぜそんな顔でいるのか疑問は尽きないが、少なくとも危険は感じない。
「あ、あの……突然、すみません」
少女はぺこりと頭を下げた。
妖女ではない。素朴な印象の人間女子だ。制服は町内の中学校のもの。
親戚の子ではないし、友人の娘でもない、修吾の後輩ということもない。
隣のヘラを見ると、彼女も心当たりがないようで、怪訝な様子だった。
「実は、私――」
ヘラの表情が強張っていったのは、彼女が名乗り始めてからだった。
慎重に言葉を選びながら、彼女は語った。
その内容を結論から言うと――少女は、
溺死だった。
溺れていた子供を助けようとして、入れ替わるように溺れてしまった。
つまり……その子供は助かったのだ。
あれから月日が経った。
当時は小学生だった彼女が、中学に進級するくらいには。
「とても、ご迷惑だとは思ってます……でも、どうしても……自分で、言いたくて」
修吾とヘラの前で、少女は絞り出すように言葉を紡いでいる。
慎重にヘラの顔を見ると、ヘラは何かを堪えるように唇を震わせていた。
表情は喜怒哀楽のどれとも言えない。
修吾が彼女の手を握ると、ほんの少しだけ、顔の強張りが和らいだ。
「ごめんなさいっ!」
少女は勢いよく頭を下げた。
目尻からは涙が出ていたし、膝の前で揃えた手が震えている。
彼女がどんな思いで、修吾とヘラの前に顔を出したのかが、十分に伝わった。
修吾も経緯は知っている。
兄の死後、兄が助けた子供の両親は葬式に出た。
場を設けて、母やヘラや修吾に深く頭を下げたことは覚えている。
母もヘラも修吾も、その人たちを責めることはしなかった。
思えばそのとき、ヘラはいまと同じような顔で、淡々と相槌を打っていた気がする。
ふとした拍子で、恨み言を口にしそうな自分を、必死に堪えるように。
「旦那さんのこと……私の、不注意で……っ」
我慢できなかったのだろう。
自分を命懸けで救ってくれた大人が死んだこと。
その勇敢な男には妻がいて、遺族がいるということ。
子供の頃は想像が及ばず、少し大人になってから、その重みを知るに至った。
そうなったら――謝らずに居られなくなったのだろう。
親に謝らせてのうのうと過ごす自分が、許せなくなったのだろう。
だから謝るべきだと。事の重大さを理解したいま、自分から謝るべきだと考えたらしい。
しかし、いざ火野家を尋ねようとすると足が竦み、引き返しては、また足を運ぶ。
そういう、まごついた足踏みが、火野家の前に見え隠れしていた不審者の正体だったのだ。
「……ちょっと、待っててね」
修吾は彼女に言うと、少しの間だけ沈黙する。
あえて否定的な見方をすれば、身勝手な『お詫び』だ。
罪の意識から解放されたいからという動機で、相手の都合や心労も考えずにした行動だ。
あらかじめ連絡を入れるとか、作法を入念に守った手紙を送るといったこともしていない。
それだけに――子供なりの、未成熟ながらの誠心誠意であると分かる。
第三者であれば、いまどき珍しい子だと褒めてやりたいくらいだ。
ただ、やはり第三者と当事者では、直面することの負担が大違いだった。
「…………」
気持ちを整えた修吾は、ヘラの様子を見る。
唇を硬く引き結び、修吾の手を強く握っている彼女は、話せそうにない。
一足先に気持ちを整えられた自分が、話をすべきだろう。
「うん、話は分かったよ。よく来てくれたね」
修吾は息を整え、少女に向き直った。
その行いについて嗜めるべきことはあるが、いまは彼女の気持ちに応えたい。
だからこれは、兄を失った弟として、兄が助けた女の子に向ける、誠心誠意の言葉だ。
「まず……兄のことで、君が自分を責めることなんてない」
言いながら、ヘラの手を握る。
ヘラはためらいがちに握り返して、何も言わず修吾の横顔を見ていた。
「兄貴のことは、残念だったけど……人を助けようとして、誇らしく死んだんだ。
不幸な事故だったけど、立派だと思いながら見送れた。
これからも、思い出す度に、誇らしい人だったと思える……きっと、人の死に様としては、贅沢なことだ」
思えばこういう話は、ヘラにもしたことがない。
妻であるヘラは違う所感を持っているかもしれないが、ひとまず少女のために言葉を続ける。
「兄貴はきっと……」
修吾はもう一度、ヘラの手を握る。
「
ヘラはハッとして、修吾の顔を見上げた。
少女も少し肩を震わせて、修吾の言葉を聞いている。
「生きていてほしいから、人生を終わらせてほしくなかったから、夢中で頑張ったんだ。
生きていればちゃんと訪れる幸せな未来を、失わせたくなかったから……」
ヘラの手を、より強く握る。
「だから――もう、
この家のことも、自分が罪深いかどうかも、忘れてしまってもいいんだ」
横目に見たヘラの顔は、衝撃を受けていた。
そう――これは、目の前の少女に対してだけではなく、彼女に向けた言葉でもある。
「
それが、
「…………っ」
ヘラの指先が震えていた。
それでもゆっくりと、修吾の手を握り返してくれた。
気付いてか否か、少女も息を呑んだ後、涙ぐんだ顔を上げる。
「っ、ありがとう、ございます……っ!」
少女は勢いよく腰を折って、感謝の言葉を口にした。
そして涙を拭うと、ヘラにも深々とお辞儀をして、その場を去って行く。
少なくとも……あの子の心の重荷を取り除くことには、成功したようだ。
願わくは、幸多い人生であってほしい。
「……ヘラさん」
そして、彼女にも。
目を向けたヘラは、その場に立ち尽くしたまま、目尻から涙を伝わせていた。
突如として現れた、夫の死を思い出させる人物。
激情を必死に堪える時間から解放されて、感情が決壊したのだろう。
「違う、の……」
ヘラが端的な言葉を零しながら、修吾の手を握る。
「わたし……あの子のこと、危うく、責めてしまうところで……っ」
「うん、よく我慢したね」
修吾が抱き寄せると、ヘラは胸にゆっくりと額を乗せた。
ヘラの気持ちも当然だ。夫の死因となった人間が不意に現れれば、何か吼えたくもなる。
それでも、彼女は悪くないのだと必死に自制して見送ったのだ。
「胸を張って、生きるだなんて……そんなこと、言ってもらう資格なんて……っ!」
「あるに決まってるだろ」
胸の中で、ヘラの嗚咽と自責の言葉が聞こえる。
どうやら、少女と同時にヘラにも向けた修吾の言葉は、ちゃんと届いたようだ。
兄のことも、自分のことも、なんなら忘れてしまって構わない。
ヘラが笑って生きていけること、一番の望みはそれなのだと。
「俺なんかが言っても、説得力がないかもしれないけど……本当だよ」
未亡人の兄嫁を弄んできた身だが、ヘラの幸福を祈る気持ちに偽りはない。
彼女が妖魔界に帰った後、二度とこの町に戻ってこなかったとしても、構わない。
新しい地で、新しい人生を送ってくれていいのだと――兄ならきっとそう言うはずだ。
「中に入ろう。今日は、なにもしないから」
修吾はヘラに屋敷へ入るよう促した。
頷いたヘラの肩を抱いて、門を潜る。
突然の愁嘆場だったので、とてもセックスをするような気分ではない。
ただ、これはこれで、ありがたい機会だった。
もし、死んだ兄がヘラに何か言葉を残したかったとしたら――
きっと、あの言葉以上の正解はなく、それを伝えられるのは、自分しかいなかっただろうから。
○
久しぶりの、兄嫁を抱かない夜だった。
部屋で一人、布団に入るだけで、妙な寂しさを感じる。
時刻は午前零時が近付いている。この時間帯で居ないなら、今日はヘラも来ないだろう。
(静か、だな……)
耳に聞こえる分には、むしろ静かではない。
田舎の特徴として、夏には田んぼの蛙が、秋には鈴虫が騒がしい。
それでも、慣れてしまえば無音と同じだ。
幽霊でも住み着いていそうな、この古くて広い屋敷に、たった一人。
そんな寂寥感が、どうしても胸に訪れる。
(ああ、そっか……ヘラさんはずっと、こんな気分で……)
夫や義母が他界した後、自分の呼吸と足音しか聞こえないような屋敷で、一人ぼっち。
性的なことを抜きにしても、人が恋しくなるのは頷ける。
肉体関係なんて考えず、ただ純粋に、一緒に暮らしてあげればよかった……と思うほど。
(いまさら、か……)
そんな清純な関係を築く機会は、とっくに逃している。
犯して孕ませてお別れ――そんな歪んだ関係に踏み出した時点で、もう手遅れだ。
ただ……もしそれが『達成』されたら。
つまり、ヘラが無事に懐妊して、故郷に帰っていったら。
ヘラも、兄も母も居ないこの屋敷で、自分は一人になるのだろうか――と、ふと思った。
ああ、それは……
「寂しい、な」
カタン――と、部屋の障子戸から音がした。
部屋の外、廊下側に、誰かいる。
いまこの家にいる人間を考えれば、誰であるかは明白だった。
「ヘラ?」
呼び掛けると、遠慮がちに戸が開かれる。
ネグリジェ姿のヘラが、少し気まずそうに立っていた。
最初に関係を持った日と同じネグリジェだな……と、修吾は何気なく思う。
「どうしたの? 今日は別に……」
セックスしなくていいんだぞ、と声音で伝える。
あんなことがあったばかりだ。気分じゃないのが普通だろう。
「もう……
ヘラが一瞥したのは、修吾の部屋にある壁掛けの時計だ。
確かに、午前零時を少し過ぎている。
今日はなにもしない――という修吾の言葉には、反していない。
「いや、でも……」
これまで強気にヘラを犯してきたことも忘れて、修吾は戸惑う。
ヘラはそんな修吾の隣に両膝をつくと、濡れた瞳で修吾の肩に手を沿えた。
「確かめたいの……あの言葉が、本当なのか……」
不安そうにも、期待しているようにも見える顔だった。
あの言葉とは、修吾は少女と同時にヘラにも向けた、彼女の幸いな未来を願う言葉。
言い換えれば、ヘラへの誠実な愛情を告げる言葉でもある。
それを、本当かどうか確かめたいのだと、ヘラは言う――
「ごめんなさい……他に、思いつかなくて……後で、何をされてもいいから……っ」
月明かりが差し込む暗い部屋の中で、ヘラの瞳だけが薄く光る。
見間違いではない――これは『魔力』の光、妖女である彼女が、その能力を使おうとしている。
「どうか……一度だけ、許して……」
――
「っ!?」
油断していた。
妖女は目から相手の脳に魔力を送り込み、一種の催眠状態にすることができる。
催眠状態になった人間は、しばらくの間、その妖女の命令に逆らえない。
誘惑禁止条例が作られた原因そのものだ。
だから、妖女が不自然にこちらの目を覗き込んでいるときは、すぐに払いのけなければいけない。
修吾はそれをし損ねた。
結果、ヘラの『誘惑』は効果を発揮した。
「修吾、さん……」
ヘラは、修吾の魅了状態を確認するように、目元を撫でる。
修吾の意識は明瞭だ。
ただ、ヘラの言葉が鼓膜を越えて脳に直接響くかのようだった。
なにか頼まれたり、命じられたりしたら、一切の反駁もなく従ってしまうと分かる。
「お願い……」
ヘラがネグリジェの胸元を、白魚のような指先でゆっくりと開く、
豊満な胸による谷間が見えて、桜色の乳首が露になった。
頬を染めたヘラは、魔法の呪文を唱えるように、こう告げる――
「――
○
魅了状態の修吾は、ヘラの命令に従う。
したいことをする――それは当然、ヘラを抱くことだった。
「ん……っ♡」
手を伸ばし、ヘラを抱き寄せて、キスをする。
「ちゅ……ぁ……んっ♡ ふぁ……?」
それ自体はいつものことだが、ヘラはすぐに、いつもとの違いに気付いた。
背中を抱き寄せる腕が、優しい。
唇を重ねる行為が、柔らかい。
舌先を絡める愛撫が、甘い。
なにより――ヘラを見つめる目が、驚くほど澄んでいた。
「ヘラさん……」
修吾は囁くように呼びながら、何度もキスをした。
まるで恋人のように、丁寧に優しく。
「んっ♡ ふぁ……♡ 修吾、さん……?」
驚いたような顔をするヘラをゆっくりと布団に寝かせる。
まるで幼子を扱うように、背中を支えながら、布団の上に安置した。
そうして、今度は首筋や鎖骨などに、キスの雨を降らせていく。
「あ……っ♡ 待って、修吾さ……あっ……♡ いつもと……違う……♡」
ヘラはどこか焦った様子で、無自覚に修吾の頭を抱き寄せた。
普段ならもっと乱暴に、手を押さえ込んでキスマークを刻むのに、いまの修吾はいつもと違う。
「ヘラさん……胸に、触りたい」
「っっっ♡」
まるで童貞が年上の女性へ甘えるような言葉に、ヘラの顔が赤くなる。
これまで何度も自分を犯して、力尽くで喘がせてきた男と、同一人物とは思えない。
そのギャップたるや、今日初めて彼に抱かれるかのようだ。
「…………」
ヘラは気恥ずかしそうに視線を外して、小さく頷く。
それを確認してから、修吾の手と口が胸へと触れた。
「あ……♡」
薄いネグリジェ越しに触れる大きな手に、ヘラが身をよじる。
修吾はそのまま両手で胸を揉み始めた。
「あ……はあ……あ……♡ ん……あ……っ……♡」
ヘラはもどかしそうに身をよじる。
いつもの粗忽さはどうしたというのか、壊れ物を扱うように優しい手付き。
それなのに、彼の指先が触れるたび、ぞくりと肌が粟立つ。
「ひうっ♡ どうして、そんな……優しく……っ♡」
好きなようにしていいと、確かに言った。
男にそう言ったのなら、さぞや激しく、身勝手な行為をされるだろうと思っていた。
いままでの過激なセックスを思えば、いつも通りと言ってよい。
それでよかった――今日までの修吾に偽りがなかったと分かるから。
未亡人の兄嫁に同情して、嫌々ながら種を仕込んでいたわけではないと知れれば、十分だった。
本当に怖れていたのは、したいようにしてと
「あっ♡ はぁぁ♡ 修吾、さん……♡ いつも、みたいで、いいのに……っ♡」
故に、いまの修吾は予想外だった。
人間の生娘でも扱うような、慎重な愛撫。
いつもの激しさが嘘のような丁寧な奉仕。
「うそ……これじゃ……っ」
これが、彼の『したいようにした結果』だと言うなら――
「私が、いままで……
乱暴になんかしたくなかった。
犯したくなんかなかった、欲しいのは体だけじゃなかった。
それが、彼の本心だったということになる。
「ヘラさん……好きだ……」
「っ!?」
再び唇を奪われる。
「ちゅ……ん……♡ ちゅる……♡」
情熱的なキスに頭がぼうっとする。
修吾は唇を重ねながら、片手で胸を撫でて、もう片方の手はヘラの手と指を絡めた。
完全に、恋人か夫婦の、愛情を最優先した前戯だった。
「だ、めぇ♡
しゅるり――と衣擦れの音を立てて、ヘラのネグリジェが脱がされていく。
ヘラはそのことに、犯されていたときよりも、危機感のようなものを覚えた。
これは駄目だ。こんなセックスをされたら、体よりも心に響く。
なぜならこれは――
「あの人と、同じように……しちゃ、だめぇ……っ♡」
いつも愛情たっぷりだった夫のセックスと、まったく同じだったからだ。
「嫌だよ。したいようにしていいって、言っただろ?」
修吾も服を脱いでいき、股間の逸物を露にすると、ヘラのショーツを足から引き抜く。
「
「あっ……ああっ……♡」
ヘラは胸を締め付けられるような顔で戸惑う。
優しさを保ちながら、結ばれたいという強い思いを感じる導入だ。
嫌だと言ったら、本当に叱られた犬のように引き下がってしまいそう。
いつものように、強引にされた方が、ずっと楽だった。
拒みたい気持ちがある一方で、それ以上に断れない。受け入れてあげたい。
そんな、純真な男女の想いが、自分と修吾との間にあると知ってしまった。
「あああぁぁぁっ♡」
ずぶずぶと肉棒が押し入ってくる感覚に、体が震える。
入れられただけで達してしまうのも、ここ最近は慣れたと思ったのに、今日のイキかたはいつもと違う。
「おか、しい……♡ これ……いつもと……違うのぉ♡」
ヘラは呆然としながら、自分の下腹部を見下ろした。
そこにはしっかりと、修吾のペニスが埋まっている。
これまで何度も見てきた光景なのに、初めて体験するかのよう。
「ヘラ、愛してる」
言葉と同時に、修吾が腰を動かし始めた。
目を剥いたヘラが喉を反らす。
「ひぁぁぁっ♡ 待ってっ♡ それは……言っちゃだめぇっ♡」
絶頂したばかりの膣内が、びくんと痙攣している。
そこに容赦なく突き込まれ、またすぐに上り詰めてしまう。
男の粗忽さが表れてきて、『いつも通り』に近付いたのに、やはり違う。
必死に自分を押さえ込んでいた男が、愛の深さ故に激しくなっていくという、恋人のセックスだ。
「嫌だ、言うよ。何度でもっ。愛してるんだっ!」
「やっ♡ お願いっ♡ それだけはっ♡ そういうの、だけはっ♡ あの人と、だけだからぁっ♡」
愛の言葉を伝えられる度、ヘラは首を振って抵抗する。
体は何度も抱かれてきた、卑猥な言葉も口にしてきた、人が変わったように淫らになってきた。
それでも、こういう愛に満ちたセックスだけは、してこなかった。
なぜならそれは、夫との間でするセックスだから。
修吾との間でそれをすることは、心の不貞行為だと、ヘラは思っていた。
修吾もそれを察して、意識して強姦魔のように責めてきた。
でも、本当は――
「こんな、にぃ……っ♡ 愛されてた……なんてぇっ♡」
目尻から涙を伝わせながら、ヘラは修吾の動きに腰を合わせる。
これまでに比べれば、ままごとのようにスローな行為なのに、快感は劣らなかった。
「んっ♡ はぁっ♡ ああぁぁっ♡ 修吾さんっ♡ お願い、待って♡」
修吾はヘラの制止を聞かず、より奥深くへと腰を沈めていく。
子宮を優しく押し潰すような挿入に、ヘラの背筋が反り返った。
「くぁぁぁっ♡ 奥にぃぃぃっ♡」
僅かな衣擦れの音だけを立てながら、ヘラと修吾が体を揺らしあう。
「止めてぇ♡ お願いだからぁっ♡」
体の挙動は大人しくても、ヘラの胸中は千々に乱れていた。
「あの人と、同じセックスで――あの人よりもっ、気持ちよくしないでぇっ♡」
上書きされてしまう。
自分の身体にまだ残っていた、夫だけのものだった部分が、塗り替えられる。
いま自分は、本当の意味で、夫から彼に奪われているのだと、ヘラは感じた。
「する。してやるっ! 兄貴に、負けないくらい、俺だって! ヘラが好きだから!」
痛切な愛の言葉を叫びながら、修吾の腰付きが本格化した。
「あっ♡ ああぁぁっ♡ すごいっ♡ これ……すごすぎるぅっ♡」
その動きは、いつものように、乱暴で荒々しい。
しかし、優しく解されていたせいか、感じ方がいつもより鋭敏だ。
獰猛さの中にも深い愛情を感じてしまい、女の心身が甘辛く締め付けられている。
「ぁぁぁぁぁっ♡ あっあっあっ♡ はぁぁぁぁっ♡ んっんっふぁぁぁっ♡」
ヘラの上げる嬌声は、いつもに比べれば大人しい。
しかし肉体に走る絶頂は、いつも以上だった。
稲妻のように打つのではなく、水のように満たしていくオーガズム。
気がつけば絶頂の一線を越えていて、いつまで立っても過ぎ去らない。
スローセックスの末に辿り着く、男女の境地の一つだった。
「行くな、ヘラ、どこにも行くなっ!」
絶頂に溺れているヘラに、修吾の切実な声が届く。
「ずっと、ここに居てくれ……っ!」
泣き出しそうな顔の修吾を、ヘラは呆然とした目で見上げていた。
ずっと傍に居てほしいと、縋るような眼差し。
「んっ♡」
ヘラの返答は、自分からのキスだった。
無理矢理される形でなら何度もしたが、自分から求めたのは、これが初めてのことだった。
修吾もそれ以上は何も言わず、唇を合わせたまま結合部を激しくしていく。
腰と腰をぶつけ合い、互いの粘膜を擦り合わせ、絶頂への階段を駆け上がっていく。
「んむっ♡ ちゅぷっ♡ れるっ♡」
絶頂間際の激しいピストン運動の最中、ヘラは舌を絡ませてきた。
「んっ♡ あっ♡ ああっ♡ あぁっ♡ はっ♡ はぁぁっ♡」
お互いがお互いを求め合い、すれ違うことなく快感を与え合う。
「修吾、さんっ♡ もっと――ううん、このままでっ♡」
犯されるくらいが快感な妖女としては、刺激の不足すら感じる。
それでも、激しさや狂おしさでは満たされないものが、満たされる。
「ヘラ、そろそろ、出る……っ!」
「来てぇ♡ 私の中にぃ♡ 修吾さんの想いっ、全部、伝えてぇっ♡」
二人は強く抱き合ったまま、同時に果てた。
「く……っ!」
「~~~っ♡」
膣内に注ぎ込まれる精液の熱さに、ヘラは喉を反らして悶える。
射精は長く続き、ヘラの子宮をいっぱいに満たしていった。
甲高い嬌声もなく、悲鳴や懇願の声もない、完全に合意したセックス。
お互いの機微をよく知っている男女が、自然と静かにまぐわって終わる行為。
どこからどう見ても――愛し合う
○
その後、ヘラは無事に妊娠した。
どの日のことかは分からないが、二人ともなんとなく、あの夜のことだろうと確信している。
妊娠した妖女は、妖魔界に帰郷する。
家族への報告や、故郷で出産する安心という面もあるが、人間界と妖魔界では魔力の環境が異なり、妖女から産まれる子の発達には妖魔界の環境が望ましいからだ。
普通の夫婦でも、妻が妖魔界出身の場合、『奥さんはいま産休で妖魔界に』というのが通常だ。
夫が妖魔界へ渡航するのが難しいときは、妻子の健康を人間界から祈るということも多々ある。
そうした事情で、修吾とヘラも、しばしの別れは避けられなかった。
「ヘラ、忘れ物ないか? 後で必要なものがあったら送るから――」
「もう、さっきも確認したでしょう?」
場所は日本の各地にある転移港――人間界から妖魔界へ渡るゲートを管理する『空港』だ。
飛行機などの乗り物はなく、小綺麗なエントランスを多くの人が行き交っている。
その中に、スーツケースを引いたヘラと、見送りに来た修吾の姿があった。
心配そうな修吾に、ヘラがくすくすと笑っている。
見ている利用者の誰もが、『出産のため帰郷する妻と、心配そうに見送る夫』と思っただろう。
「そう、か……えっと、他には……」
修吾は頻繁にヘラのお腹を見ながら、何かすべきことは無いかと思考を巡らせる。
ヘラがさりげなく撫でた下腹部には、修吾との子が宿っていた。
不徳な関係ではあったものの、ヘラは無事に夫の血を引く子供を得られたのだ。
その表情に、当初の未亡人らしい陰は、もう見当たらない。
とはいえ、父となった修吾の不安は絶えない。
なにより、ヘラにはこのまま修吾との縁を終えるという選択肢がある。
火野家との関係を円満に絶ち、家族の待つ妖魔界で、安心できる環境で出産して母となれる。
子供にとっても、兄嫁と義弟の子などという複雑な生い立ちを人間界で強いるよりは、幸いかもしれない。
「大丈夫よ、修吾さん」
今生の別れを予感している修吾の手が、ヘラの両手に包まれる。
安心させるように微笑むヘラの顔は……修吾の知る限り、兄が生きていた頃と同じものだった。
「ちゃんと、帰ってくるから」
はっきりと、ヘラは言った。
いつごろ、どういう形かは明言しなかったが、帰ってくると確かに言ってくれた。
愛する人たちが待っている、あの家に――
○
火野修吾が生まれ育った町は、かつては人口減少に悩まされていた。
出て行くばかりの若者、シャッターが多くなる商店街、ありもしない観光資源――
いまは昔だ。
人間界と妖魔界が容易に行き来できるようになると、町も変わった。
妖魔界から来た妖女たちと、それと結ばれた男たち、その間に産まれた子供たち。
商店街の人と店舗は増えていき、妖魔界果実アンブロシアの日本有数生産地という資源もできた。
それでも、商店街から少し山へ近付くと、ノスタルジックな田舎の景色がある。
家より多い田畑、野菜の無人販売所に精米器。
錆びたバス停の看板、夜はカエルや鈴虫の大合唱。
そんな片田舎の高台に、火野家の屋敷はあった。
寺と見間違いそうな古風な屋敷は、普段は静かだが、夏になると賑やかになる。
普段は都心で働いている家主や、いまは妖魔界に帰郷しているお嫁さんが、戻ってくるからだ。
屋敷の一室には、いくつかの写真が飾られている。
仲の良さそうな兄弟の写真――
成長した兄弟のうち、兄とその妻の写真――
そして最近、新しい写真が加わった。
成長した弟と、兄の妻――
そして、二人の間で笑っている、元気そうな子供の写真である。
ご一読いただきありがとうございました。
兄嫁編、完結です。
最後は愛の勝利な感じになりました。
あーシリアスは疲れたー。
次は頭空っぽなハッピースケベな話にするぞー。