※この作品はR-18です。

誘惑禁止条例 ※性犯罪被害は条例違反にあたらない   作:大中小太郎

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第二話(前編)

 

 

シーアの職業は、奴隷以外から選ぶなら家政婦である。

人間界で奴隷と言うと極めて心証が悪いそうなので、表ではそう名乗っている。

今日も愛しの旦那様を仕事に見送り、家事に勤しむ。

 

「……もう終わっちゃった」

 

昼前には片付いた。

 

(どうしよう……人間界の家事、楽すぎる……っ!)

 

愕然と膝をつくメイドである。

洗濯・食器洗い・床掃除は、機械に任せるだけ。

汚れは洗剤で瞬く間に落ち、ちょっと歩けば高品質な品を扱う店がある。

細かな隙間まで掃除して、買い出しまで済ませても、まだ午前中だった。

 

(こんな条件でお給金をいただいてしまうなんて……なにかの詐欺じゃないですか?)

 

後は藤次が帰ってくるまで自由時間だ。

藤次からは古いノートPCが提供されており、家の設備も自由に使っていいらしい。

これから藤次が帰宅するまで、四半日以上という長い休憩が始まるのだ。

 

(うぅ、他の奴隷の子たちは今頃、どこかの農地や工場で汗を流してるはずなのに……)

 

そちらに比べれば、遊んでいるようなものだった。

 

(勉強……せめて、与えられた時間で勉強しないと……っ)

 

妙な罪悪感に駆られながら、シーアは本を手に取る。

 

シーアの故郷は、技術的な進歩に遅れをとった国だ。

封建的な社会や宗教観に固執した旧体制は、人間界という新世界を強く警戒し、断絶を選んだ。

結果、人間界の歴史や技術から学んだ新体制派に敗北、シーアの一族も没落した運びである。

 

だからシーアは学ばなければならない。

 

そして驚いたことに、この日本という国は、学ぶこと自体はどこでもできる。

市民図書館、町の本屋、テレビにインターネット、知識の教授に積極的な知識人たち。

だから学校は無用とまでは言わないが、勤勉であれば結果の出る環境が整っているのだ。

 

(先ずは日本語の筆記、礼儀作法と表計算に……)

 

同年代とはだいぶ異なるカリキュラムなのは、必要性を感じる順に学んでいるからだ。

翻訳魔法で日本語の会話と解読は問題ないが、記入は学ばなければならない。

礼儀はメイドとして恥ずかしくないように、表計算は収支管理のためだ。

 

(あと、旦那様が出してくださった『宿題』も……)

 

日本語に関しては、ネイティブである藤次が簡単な先生をしてくれている。

といっても、ビジネス例文を書かせたりする程度だが、実践的だ。

 

(あ、ここの表現……)

 

謝るときの言葉を『申し訳ありません』としているが、よりよいのは『申し訳ございません』だ。

回答欄を書き直すべきだが……

 

「…………」

 

あえて、シーアは間違いをそのままにしておいた。

 

 

最近の藤次は、仕事の終わりが待ち遠しかった。

家に帰れば、可憐で健気な奴隷が、帰りを待っているからだ。

 

「お帰りなさいませ、旦那様」

 

そう出迎えてもらって、上着と鞄を預ける。

一緒に夕食をとり、一日の出来事を共有して、それぞれの昔話をしたりもする。

なにより――

 

「シーア、今日は一緒にお風呂に入ろう」

「はうっ」

 

食器を洗っていた彼女の小柄を、こうして背後から抱きしめるとき、男として無上の幸福を感じるのだ。

 

「一日の疲れを、シーアに癒やしてほしいんだ。

 ああ、もちろん俺がシーアを洗ってあげてもいいんだぞ?」

「そ、そのようなことは……」

 

頬を染めてもじもじとしながら、シーアは遠慮がちにこちらを見上げて、

 

「……ご命令、ですか?」

 

奴隷の立場、誘惑禁止条例――自分から求められない妖女は、男からの『強要』を催促する。

 

「ああ、命令だ。お風呂で主人に奉仕するんだ」

「あ……っ♡」

 

藤次が言うと、チョーカーのように見える奴隷の首輪が薄く発光する。

軽度の催眠がかかり、主人の命令に従わなければならないという意識への干渉が起きる。

()()()()()()()――とでも思っているのか、

 

「……仰せのままに♡」

 

シーアは淫靡な笑みを浮かべて、藤次の胸板に身を寄せるのだった。

 

 

琥珀色の肌が、白い泡に塗れる。

シーアはその裸身を、マットの上で仰向けになった藤次に擦り付けていった。

 

「んっ、ふぅっ♡」

 

柔らかすぎる乳房の感触が、胸板から腹にかけてを上下する。

シーアは藤次の両肩に手を添えながら、細い体をくねらせていた。

 

「いいぞシーア、気持ちいいよ」

「はい♡ もっと、頑張ります……んんっ♡」

 

長い銀髪を整えて、シーアは胸を藤次へ押し付け、頬ずりするように体を滑らせる。

石鹸にまみれた体は、女体の柔らかさと摩擦の少なさで、独特の心地よさを与えてくれた。

通販で買ったマットも寝心地がよく、体の前後がどちらも気持ちがいい。

 

「シーアのことも、洗ってやろうな」

「あんっ♡」

 

藤次の手がシーアの背中や尻を愛撫する。

逞しい手指がつるつると褐色肌を走り、尻肉や太股を掴もうとしては滑る。

普段とは異なるその感触に、シーアの口から甘い声が零れ出た。

 

「はぁっ、あ、あっ♡ 旦那様ぁ♡ 旦那様は、そんなこと、しなくても……ひゃうぅっ♡」

「ほら、シーアも頑張れ。太股で俺のを挟んでごらん?」

「は、はいっ♡ こう、でしょうか? あうぅ♡ こすれて……あんっ♡」

 

藤次はシーアの腰を掴み、前後に揺すりながら、自らもシーアの秘所を擦るようにして動く。

 

「はぅんっ♡ 旦那様ぁ♡ 動いちゃ駄目です♡ いまは、私が、旦那様の疲れた体を、癒やしてあげるんですっ♡」

 

シーアも負けじと体を動かし、藤次の上半身を両腕で愛撫しながら、胸をより強く擦り付ける。

しかし、敏感な乳首が擦れ、割れ目に肉棒が滑るほど、シーアの快感は蓄積されていった。

 

「ふあっ♡ 旦那様、わたしぃ……あ、あっ、ああっ♡ あぁぁっ♡」

 

シーアはビクンと背筋を伸ばし、全身を大きく痙攣させた。

 

「あ、あは……はあ……っ♡」

 

どうやらシーアは、体を擦り合うだけで達してしまったらしい。

 

「もうイってくれたのか。可愛いなぁ、シーアは」

「申し訳、ございません……っ♡ また、旦那様より、先にぃ……♡」

 

奴隷として、主人を慰めることが優先だと思っているのだろう。

快感に弱い妖女では不利な勝負だが、シーアは自分が先に達するほど、汚名返上とばかりに献身的になる。

 

「どうか、ご命令ください♡ この愚かな奴隷を、旦那様が操ってくださいませ♡」

 

もっと命令してほしいと言っていた。

奴隷として主人に命令されて奉仕する――それを免罪符に、より深い行為をしたいのだろう。

なんだかんだいって年頃の妖女であるシーアは、覚えてしまった性の悦びで頭がいっぱいなのだ。

それを満たすために、藤次に「女奴隷を弄ぶ好色な主人」の役を求めている。

 

「よしよし、お前はやっぱり可愛いな」

 

そんなシーアの内心を指摘するほど野暮ではない。

若い妖女が満足できるよう、全力でその役を担うだけだ。

 

「さあ、起き上がれ。騎乗位でハメるんだ。旦那様を待たせるな」

「はい……♡」

 

仰向けになる藤次の上で、シーアが腰を跨ぐように膝立ちとなる。

熱い吐息を零しながら肉棒を手に取り、感触を確かめるように撫でながら、己の秘所に沿えた。

 

「あ……あっ……ぅぅぅ……っ♡」

 

シーアの膣口が、藤次の亀頭を飲み込んでいく。

 

「そこから、一気に腰を落とすんだ」

「はぅっ♡ そんなっ、だめ、怖いです……っ♡ 旦那様の、おっきいから……っ♡」

「命令だ」

 

シーアのクリトリスに手を伸ばし、軽く揉むように抓る。

 

「んあぁっ!? そのっ♡ やっ♡ ああぁぁぁっ♡」

 

びくっ、びくっ――と、軽い愛撫だというのに激しく震える。

亀頭から感じる膣内の濡れ具合も充分だ。むしろ吸い上げようとするように締めてきている。

藤次と肉体関係を持って以来、シーアの体は色を覚え、男の手指と肉棒に飢えてしまった。

ただ、シーアの精神が、まだ自分の体の淫らさを肯定しきれていないのだ。

 

「どうした? 旦那様の言うことが聞けないのか? ん? シーアはそんな子じゃないだろう?」

 

だからこうして、自分から淫らになれないシーアの背中を、命令という形で押してやる。

 

「はひっ♡ しま、しゅ♡ 旦那様の、言う通りに……んんっ、んんんん~っ♡」

 

シーアは身を抱くように自分の両腕を掴んで、腰を落としていく。

一気に、というには緩やかだったが、彼女が自発的にできる精一杯の速さなのだろう。

 

「はぁっ♡ はぁぁ♡ おっき♡ 旦那様、がぁ♡ 中を、いっぱいにぃ……っ♡」

 

もう何度も受け入れてきたというのに、シーアは挿入するたびに初々しい反応をする。

回を重ねるごとに性感帯が開発され、前よりも鋭敏に陰茎を感じてしまっているからだろう。

 

「まだだ、まだ一番奥まで届いてないぞ?」

「あうっ♡ お許しくださいっ♡ 奥は、届いちゃったら……私、おかしくなって、ご奉仕できなく……っ♡」

 

シーアの腰は、先端がポルチオに触れる直前で止まっている。

そこに肉棒が届いたら、どんなに乱れてしまうのかを、嫌というほど思い知っているからだ。

 

「命令だと――」

 

藤次は嗜虐的な笑みを浮かべて、シーアの腰を両手で掴むと、

 

「言っただろう!」

 

一気に引き落として、シーアの子宮口を突き上げた。

 

「ひあぁぁぁぁっ!♡」

 

ずちゅんっと音がして、二人の結合が深くなる。

 

「あっ、ぁぁぁっ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁっ♡♡♡」

 

シーアは目を見開き、背筋を反らせ、喉から嬌声を途切れさせていた。

膣内は絶頂の痙攣で肉棒を包み込み、豊かな乳房が震え、尖った乳首を揺らしている。

 

「はぁっ♡ あ、あぁ♡ だんな、しゃま♡ あぐっ♡ あっあああぁぁぁっ♡」

 

シーアは自分の痙攣によって、子宮口に肉棒を擦りつけてしまい、更なる快感に襲われている。

藤次は一切動いていないというのに、シーアはもう二度目の絶頂を迎えてしまった。

 

「すごいな、シーアは騎乗位に弱かったのか」

「はひゅっ♡ らって♡ 旦那様のがっ♡ 奥をぉ♡」

「落ち着きなさい。動かずに、慣れるのを待ってやるから」

 

涙目で震えているシーアが落ち着くように太股を撫でる。

しかし、それはかえってシーアに火を点けてしまったようだ。

 

「だい、じょうぶ、ですっ♡ でき、ますっ♡ 旦那様を、気持ちよくするんですぅ♡」

 

シーアはぎこちなく腰を前後させる。

 

「はぁ♡ んんぅ♡ 旦那様ぁ♡ どうですか? 私の中、きもちいい、です、か?」

「ああ、最高だよ」

 

総じて名器ばかりな妖女なので、気持ちよくはある。

それでも他の体位のときと比べて単調なセックスだ。

しかし、健気にこちらを気持ちよくしようとするシーアが愛しくて、意地悪は言えない。

 

「好きなように動いてごらん。いくらでもイっていいからな?」

「はいぃっ♡ あぁっ♡ らめっ♡ またっ♡ 旦那様に、お優しく、されてるっ♡」

 

シーアは藤次の胸板に手を置き、腰を縦回転させるように動かす。

 

「旦那様っ♡ 突いてぇっ♡ どうか、お好きなようにっ♡

 シーアに、奴隷の務めっ、果たさせてくださいっ♡」

 

シーアが懇願してくる。

藤次に気遣われていることを知って、悔しく思ったのだろう。

 

「いいのか? 無理しなくても……」

「無理なんかじゃ、ないですっ♡ ううん、無理、させてくださいっ♡

 私の、臆病な体っ、旦那様の手で、変えてくださいっ♡

 わたし、きっと、おかしくなるけど♡ 途中で、止めないでっ♡

 旦那様を気持ちよくできるように、なりたいんですっ♡」

 

息を呑んだ。

なんて献身的で、健気で、淫らな子なんだろうか。

 

「分かった。後悔しても、知らないぞ……っ!」

 

藤次はシーアの腰を掴むと、腰を踊らせ始める。

 

じゅぱん! じゅぱっ! と、激しい水音が浴室に反響した。

 

「ああぁっ♡ はげひっ♡ すごっ♡ これっ♡ こんなのっ♡」

 

シーアの膣内を掻き回すように肉棒を動かす。

彼女の弱点など知り尽くしていたつもりだが、甘かったようだ。

日に日に、回を重ねるごとに、弱点が増えていく。

どこを突いてどこを掻いても、シーアの膣内は激しい快感に震えていた。

 

「ひぃっ♡ だめっ♡ らめれすっ♡ そんなにされたらっ♡ 私っ♡ すぐ、イっちゃって♡」

「イっていいんだ! いいや、イけっ! 旦那様のおちんぽで乱れ狂うんだっ!」

「あああぁぁぁっ♡ イクっ♡ もうイキますっ♡ あっあっあああぁぁぁっ♡」

 

びくんっとシーアの体が跳ね上がり、結合部から潮が噴き出す。

同時に、膣内の締め付けも強くなった。

 

「はぁ……ぁ……ぁ……ぁ……ぁぁ……♡」

 

シーアは絶頂後の余韻に浸りながら、またゆっくりと腰をくねらせた。

 

「まだぁ♡ まだなのぉ♡ 旦那様、もぉ♡ イって、くれないと♡」

 

半ば意識を失いかけているようにも見えるが、シーアは藤次を射精させようとしている。

妖女の情欲と、奴隷の献身、その二つが混ざり合ったような顔だ。

 

「なら……続きは湯船でな?」

「はぁい♡ 旦那様ぁ♡」

 

シーアを抱き上げると、彼女は幼子のように抱き付いて、湯船に運ばれる。

藤次が湯の中に腰を降ろすと、シーアは対面座位の姿勢で、藤次にしなだれかかった。

 

「あふっ♡ だんなさまっ♡ 好き♡ しゅきぃ♡」

 

意識が朦朧としているせいか、普段なら奴隷だからと口にしないようなことを言って、シーアは藤次の首筋にキスをする。

 

「俺もだよ、シーア。俺の奴隷になってくれて、ありがとうな」

 

そんなシーアの尻を掴み、湯船の中でゆっくり腰を動かす。

 

「あ♡ あふ♡ あぁ♡」

 

水中でのスローペースな挿入に、シーアも心地よさそうな喘ぎ声を響かせた。

湯の跳ねる音と、シーアの小刻みな甘い声。

しばらくその演奏に耳を傾けて、藤次は緩やかに精を解き放つのだった。

 

 

 

 

誘惑禁止条例。

人間界に多数の妖女が渡来して起きた性の退廃、この反動で生まれた条例。

解釈によっては『女性が男性を誘うこと』を禁じている、現代日本のルールだ。

 

この禁欲を最も守らなければならないのが、妖女である。

愚かな同胞が起こした『ピンクハザード』のせいで、人間界は妖女の『誘惑』に過敏だ。

条例違反で済むならまだいいが、そこから刑事事件になって性犯罪の前科がつけば、国外退去もありうる。

 

負うリスクの大きさゆえ、妖女はひときわ誘惑禁止条例を遵守しなければならないのだ。

 

だからシーアは、藤次を誘えない。

抱いて欲しいとは言えない、そういう態度もとれない、露出の多い服装も避けるべきだ。

藤次はきっと、そのくらいなら許してくれるだろうが、それでも駄目だ。

なぜなら――

 

(絶対、歯止めが利かなくなっちゃいます……っ♡)

 

際限の無い肉欲の日々が幕を開けるに違いないからだ。

 

妖女の性欲は人間の想像を超えている。

この人と結ばれたいという男にひとたび出会えば、もう猿だ。

数々のカップルが場所を問わず交わったという『ピンクハザード』は、概ね妖女の側が我慢できずに起きている。

 

シーアとて妖女、抑えのきかないメスオオカミ。

本音を言えば、時間の許す限り藤次とセックスしたい。

そういうわけにもいかないから、条例は破らないという枷を、自らに課している。

 

(でも……)

 

それでも、押さえ込んでも欲は消えない。

だから妖女は、誘惑禁止条例の『抜け穴』に、自然と気付く。

 

(旦那様に……乱暴、()()()()()()()()……♡)

 

性犯罪被害は、条例違反にあたらない。

被害者となってしまえば、条例を破ったことにはならない。

 

シンプルに押し倒されれば、電車のように痴漢されれば――

脅されれば、捕まれば、断れなくさせられれば――

 

この浅ましい体は、どこまでも昇天する。

 

なにせ――愛する人が、倫理道徳を踏みにじるほどの強い熱量で、自分を愛してくれるのだから。

 

(あの聖人みたいにお優しい方が……私を……っ♡)

 

ひとたびその瞬間を求めれば、どんな妖女も策を練る。

 

彼の欲望を掻き立てて、雄々しくなってくれるように。

素知らぬ顔で、しかし心臓に早鐘を打たせながら、そうなるように仕向けるのだ。

 

 

 

 

そんなシーアの思惑は、藤次にも伝わっていた。

 

「こらシーア、また同じ問題を間違えているじゃないか」

「はぅ……申し訳ございません……」

 

藤次が確認していたのは、シーアに出していた『宿題』だ。

学校には通っていないが、シーアが日本に来ている目的は就労だけではなく留学でもある。

それに協力するため、ビジネスで役立つ細々とした日本語表現を教えているのだが、

 

(言えてるじゃないか)

 

『申し訳ありません』より『申し訳ございません』の方がいいという、些細な間違いだ。

別に前者でも問題はないのだが、後者の方がより丁寧というだけのこと。

しかし、前にも同じ間違いをしていたとなれば、叱らねばならない。

 

「どうして間違えたりしたんだい?」

「それ、は……その……」

 

ソファーに腰掛ける藤次の隣で、シーアは頬を染める。

 

「だ、旦那様のことを……考えていたら……集中が、途切れて……」

 

それが、藤次とのセックスを指すことくらい、顔で分かった。

そう言われると責めきれない。

正直、藤次も仕事中にシーアとのことを思い出す。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、だからこそよくない。

 私情で仕事を間違えてしまったら、それは言い訳の余地がないということだ」

「はい、仰る通りです……どうか、お許しください……♡」

 

シーアは藤次の腕を弱々しい力で掴むと、熱い吐息と共に見上げてくる。

発情している――まだ年若いシーアには、妖女の劣情を隠しきることができていない。

だから、彼女が同じ問題を間違えて、わざと藤次の不興を買った理由も、明白だった。

 

「旦那様……どうか、お見捨てにならないでぇ……」

「見捨てたりなんか……」

 

否定しようとして、シーアの艶然とした眼差しにより言葉を切る。

シーアの発言は本音でもあるだろうが、別の意図を含んでいた。

 

自分が、主人である藤次なしではいられない存在であること。

見捨てられないためなら、どんなことでもするということ。

そういう権力勾配を再認識させ、優越感を煽るためだ。

 

「……見捨てはしないけど、お仕置きが必要だな」

 

だから藤次は、シーアの挑発(おねだり)に乗る。

隣にいるシーアの肩を馴れ馴れしく抱き寄せ、顔を寄せて耳元で囁く。

まるで好色な中年男性が少女にセクハラをするような図だが、シーアの反応は、

 

「はぅっ♡ おし、おき……」

 

期待していた通りの言葉をもらえたという喜びが、隠せていなかった。

 

「はいっ♡ おしおき、してください♡ 愚かなシーアに、教え込んでください……っ♡」

 

シーアは抱き寄せる藤次に抵抗せず、胸にしなだれかかる。

 

「旦那様の、威厳あるお手で、シーアが奴隷だっていうこと、思い出させてくださいませ♡」

 

胸にすっぽり納まる小柄な少女が、欲情に輝く眼差しで見上げてくる。

 

「どんな仕打ちでも、耐えてみせます♡

 旦那様の信頼を取り戻すためなら、どのような辱めも、甘んじて受けます……♡」

 

言葉と共に出る吐息すら、媚薬のようだ。

シーアの全身から立ち上る妖女のフェロモンだけで、自分の中の男が騒ぐ。

まるで『誘惑』を掛けられたように、自分の心が彼女の思惑通りに変化していくのを感じた。

 

「旦那様になら……何をされても、平気ですから……ね?」

 

この女は俺の思い通りになる――

俺にはこの女を自由にする資格がある――

そんな、傲慢で好色な悪人に向けて、自分の心が転がっていく。

 

「――悪い子だな」

「ひゃうっ♡」

 

肩を抱いていた腕を下ろして、メイド服越しに尻を掴む。

シーアは甘い声を上げて、一切の抵抗をせず、よりこちらに体重を預けてきた。

 

「そうやって男を挑発するなんて、どこで覚えたんだ?

 俺が君のためを思って与えた勉強の時間に、そんなことを学んでいたのか?」

「あっ♡ 申し訳、ございませんっ♡ 旦那様を、悦ばせたくて……っ♡」

 

どうやら、悪女や小悪魔のテクニックを聞きかじってきたらしい。

それを正直に白状してしまうあたりは、可愛い子だ。

しかし、いま彼女が望んでいるのは、そういう意味での『可愛がり』ではない。

 

「悦ばせたくて? 嘘つきめ」

「ひぁうっ♡ 耳っ、やっ♡ 噛んじゃ、あぅぅっ♡」

 

カリッとエルフ耳を甘噛みすると、シーアの全身が大きく震えて、藤次の腕の中で縮こまる。

 

「もっと激しいセックスに興味が湧いたんだろう?

 いままで『人間向け』のセックスしかしてこなかったからなぁ」

「だ、旦那様ぁ……っ♡」

 

藤次はいままで、人間女性だった妻を基準にセックスをしていた。

それでもシーアは燃え上がっていたが、それは彼女が不慣れな乙女だったからだ。

一般的な妖女が求める、広く深い性感帯を満足させるような手付きは、控えめだった。

 

「ご命令……ご命令、してくださいっ♡ シーアにぃ、なんなりと、命令してくださいっ♡」

 

シーアはひたすら訴えて、藤次の首を抱く。

誘惑と取れる発言を最後まで堪えた、シーアなりの『おねだり』だった。

おもわず口角を釣り上げた藤次の顔は――好色な悪代官か何かのようで、

シーアの期待した通りの、『雄々しい男』の顔だった。

 

「なら、命令してやる――」

 

かくして藤次は、シーアの期待に応えるため、『命令』を口にするのだった。

 

 

 




ご一読いただきありがとうございます。

元妻の苦悩を露知らず、エロくなっていく主従でした。
やっぱり主従といったらおしおきプレイだよね。
主従でなくてもよく「おしおきだ!」って言わせてるけど…

後編、なるべく急ぎますが、もうしばらくお待ちください。
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