誘惑禁止条例 ※性犯罪被害は条例違反にあたらない 作:大中小太郎
シーアの職業は、奴隷以外から選ぶなら家政婦である。
人間界で奴隷と言うと極めて心証が悪いそうなので、表ではそう名乗っている。
今日も愛しの旦那様を仕事に見送り、家事に勤しむ。
「……もう終わっちゃった」
昼前には片付いた。
(どうしよう……人間界の家事、楽すぎる……っ!)
愕然と膝をつくメイドである。
洗濯・食器洗い・床掃除は、機械に任せるだけ。
汚れは洗剤で瞬く間に落ち、ちょっと歩けば高品質な品を扱う店がある。
細かな隙間まで掃除して、買い出しまで済ませても、まだ午前中だった。
(こんな条件でお給金をいただいてしまうなんて……なにかの詐欺じゃないですか?)
後は藤次が帰ってくるまで自由時間だ。
藤次からは古いノートPCが提供されており、家の設備も自由に使っていいらしい。
これから藤次が帰宅するまで、四半日以上という長い休憩が始まるのだ。
(うぅ、他の奴隷の子たちは今頃、どこかの農地や工場で汗を流してるはずなのに……)
そちらに比べれば、遊んでいるようなものだった。
(勉強……せめて、与えられた時間で勉強しないと……っ)
妙な罪悪感に駆られながら、シーアは本を手に取る。
シーアの故郷は、技術的な進歩に遅れをとった国だ。
封建的な社会や宗教観に固執した旧体制は、人間界という新世界を強く警戒し、断絶を選んだ。
結果、人間界の歴史や技術から学んだ新体制派に敗北、シーアの一族も没落した運びである。
だからシーアは学ばなければならない。
そして驚いたことに、この日本という国は、学ぶこと自体はどこでもできる。
市民図書館、町の本屋、テレビにインターネット、知識の教授に積極的な知識人たち。
だから学校は無用とまでは言わないが、勤勉であれば結果の出る環境が整っているのだ。
(先ずは日本語の筆記、礼儀作法と表計算に……)
同年代とはだいぶ異なるカリキュラムなのは、必要性を感じる順に学んでいるからだ。
翻訳魔法で日本語の会話と解読は問題ないが、記入は学ばなければならない。
礼儀はメイドとして恥ずかしくないように、表計算は収支管理のためだ。
(あと、旦那様が出してくださった『宿題』も……)
日本語に関しては、ネイティブである藤次が簡単な先生をしてくれている。
といっても、ビジネス例文を書かせたりする程度だが、実践的だ。
(あ、ここの表現……)
謝るときの言葉を『申し訳ありません』としているが、よりよいのは『申し訳ございません』だ。
回答欄を書き直すべきだが……
「…………」
あえて、シーアは間違いをそのままにしておいた。
○
最近の藤次は、仕事の終わりが待ち遠しかった。
家に帰れば、可憐で健気な奴隷が、帰りを待っているからだ。
「お帰りなさいませ、旦那様」
そう出迎えてもらって、上着と鞄を預ける。
一緒に夕食をとり、一日の出来事を共有して、それぞれの昔話をしたりもする。
なにより――
「シーア、今日は一緒にお風呂に入ろう」
「はうっ」
食器を洗っていた彼女の小柄を、こうして背後から抱きしめるとき、男として無上の幸福を感じるのだ。
「一日の疲れを、シーアに癒やしてほしいんだ。
ああ、もちろん俺がシーアを洗ってあげてもいいんだぞ?」
「そ、そのようなことは……」
頬を染めてもじもじとしながら、シーアは遠慮がちにこちらを見上げて、
「……ご命令、ですか?」
奴隷の立場、誘惑禁止条例――自分から求められない妖女は、男からの『強要』を催促する。
「ああ、命令だ。お風呂で主人に奉仕するんだ」
「あ……っ♡」
藤次が言うと、チョーカーのように見える奴隷の首輪が薄く発光する。
軽度の催眠がかかり、主人の命令に従わなければならないという意識への干渉が起きる。
「……仰せのままに♡」
シーアは淫靡な笑みを浮かべて、藤次の胸板に身を寄せるのだった。
琥珀色の肌が、白い泡に塗れる。
シーアはその裸身を、マットの上で仰向けになった藤次に擦り付けていった。
「んっ、ふぅっ♡」
柔らかすぎる乳房の感触が、胸板から腹にかけてを上下する。
シーアは藤次の両肩に手を添えながら、細い体をくねらせていた。
「いいぞシーア、気持ちいいよ」
「はい♡ もっと、頑張ります……んんっ♡」
長い銀髪を整えて、シーアは胸を藤次へ押し付け、頬ずりするように体を滑らせる。
石鹸にまみれた体は、女体の柔らかさと摩擦の少なさで、独特の心地よさを与えてくれた。
通販で買ったマットも寝心地がよく、体の前後がどちらも気持ちがいい。
「シーアのことも、洗ってやろうな」
「あんっ♡」
藤次の手がシーアの背中や尻を愛撫する。
逞しい手指がつるつると褐色肌を走り、尻肉や太股を掴もうとしては滑る。
普段とは異なるその感触に、シーアの口から甘い声が零れ出た。
「はぁっ、あ、あっ♡ 旦那様ぁ♡ 旦那様は、そんなこと、しなくても……ひゃうぅっ♡」
「ほら、シーアも頑張れ。太股で俺のを挟んでごらん?」
「は、はいっ♡ こう、でしょうか? あうぅ♡ こすれて……あんっ♡」
藤次はシーアの腰を掴み、前後に揺すりながら、自らもシーアの秘所を擦るようにして動く。
「はぅんっ♡ 旦那様ぁ♡ 動いちゃ駄目です♡ いまは、私が、旦那様の疲れた体を、癒やしてあげるんですっ♡」
シーアも負けじと体を動かし、藤次の上半身を両腕で愛撫しながら、胸をより強く擦り付ける。
しかし、敏感な乳首が擦れ、割れ目に肉棒が滑るほど、シーアの快感は蓄積されていった。
「ふあっ♡ 旦那様、わたしぃ……あ、あっ、ああっ♡ あぁぁっ♡」
シーアはビクンと背筋を伸ばし、全身を大きく痙攣させた。
「あ、あは……はあ……っ♡」
どうやらシーアは、体を擦り合うだけで達してしまったらしい。
「もうイってくれたのか。可愛いなぁ、シーアは」
「申し訳、ございません……っ♡ また、旦那様より、先にぃ……♡」
奴隷として、主人を慰めることが優先だと思っているのだろう。
快感に弱い妖女では不利な勝負だが、シーアは自分が先に達するほど、汚名返上とばかりに献身的になる。
「どうか、ご命令ください♡ この愚かな奴隷を、旦那様が操ってくださいませ♡」
もっと命令してほしいと言っていた。
奴隷として主人に命令されて奉仕する――それを免罪符に、より深い行為をしたいのだろう。
なんだかんだいって年頃の妖女であるシーアは、覚えてしまった性の悦びで頭がいっぱいなのだ。
それを満たすために、藤次に「女奴隷を弄ぶ好色な主人」の役を求めている。
「よしよし、お前はやっぱり可愛いな」
そんなシーアの内心を指摘するほど野暮ではない。
若い妖女が満足できるよう、全力でその役を担うだけだ。
「さあ、起き上がれ。騎乗位でハメるんだ。旦那様を待たせるな」
「はい……♡」
仰向けになる藤次の上で、シーアが腰を跨ぐように膝立ちとなる。
熱い吐息を零しながら肉棒を手に取り、感触を確かめるように撫でながら、己の秘所に沿えた。
「あ……あっ……ぅぅぅ……っ♡」
シーアの膣口が、藤次の亀頭を飲み込んでいく。
「そこから、一気に腰を落とすんだ」
「はぅっ♡ そんなっ、だめ、怖いです……っ♡ 旦那様の、おっきいから……っ♡」
「命令だ」
シーアのクリトリスに手を伸ばし、軽く揉むように抓る。
「んあぁっ!? そのっ♡ やっ♡ ああぁぁぁっ♡」
びくっ、びくっ――と、軽い愛撫だというのに激しく震える。
亀頭から感じる膣内の濡れ具合も充分だ。むしろ吸い上げようとするように締めてきている。
藤次と肉体関係を持って以来、シーアの体は色を覚え、男の手指と肉棒に飢えてしまった。
ただ、シーアの精神が、まだ自分の体の淫らさを肯定しきれていないのだ。
「どうした? 旦那様の言うことが聞けないのか? ん? シーアはそんな子じゃないだろう?」
だからこうして、自分から淫らになれないシーアの背中を、命令という形で押してやる。
「はひっ♡ しま、しゅ♡ 旦那様の、言う通りに……んんっ、んんんん~っ♡」
シーアは身を抱くように自分の両腕を掴んで、腰を落としていく。
一気に、というには緩やかだったが、彼女が自発的にできる精一杯の速さなのだろう。
「はぁっ♡ はぁぁ♡ おっき♡ 旦那様、がぁ♡ 中を、いっぱいにぃ……っ♡」
もう何度も受け入れてきたというのに、シーアは挿入するたびに初々しい反応をする。
回を重ねるごとに性感帯が開発され、前よりも鋭敏に陰茎を感じてしまっているからだろう。
「まだだ、まだ一番奥まで届いてないぞ?」
「あうっ♡ お許しくださいっ♡ 奥は、届いちゃったら……私、おかしくなって、ご奉仕できなく……っ♡」
シーアの腰は、先端がポルチオに触れる直前で止まっている。
そこに肉棒が届いたら、どんなに乱れてしまうのかを、嫌というほど思い知っているからだ。
「命令だと――」
藤次は嗜虐的な笑みを浮かべて、シーアの腰を両手で掴むと、
「言っただろう!」
一気に引き落として、シーアの子宮口を突き上げた。
「ひあぁぁぁぁっ!♡」
ずちゅんっと音がして、二人の結合が深くなる。
「あっ、ぁぁぁっ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁっ♡♡♡」
シーアは目を見開き、背筋を反らせ、喉から嬌声を途切れさせていた。
膣内は絶頂の痙攣で肉棒を包み込み、豊かな乳房が震え、尖った乳首を揺らしている。
「はぁっ♡ あ、あぁ♡ だんな、しゃま♡ あぐっ♡ あっあああぁぁぁっ♡」
シーアは自分の痙攣によって、子宮口に肉棒を擦りつけてしまい、更なる快感に襲われている。
藤次は一切動いていないというのに、シーアはもう二度目の絶頂を迎えてしまった。
「すごいな、シーアは騎乗位に弱かったのか」
「はひゅっ♡ らって♡ 旦那様のがっ♡ 奥をぉ♡」
「落ち着きなさい。動かずに、慣れるのを待ってやるから」
涙目で震えているシーアが落ち着くように太股を撫でる。
しかし、それはかえってシーアに火を点けてしまったようだ。
「だい、じょうぶ、ですっ♡ でき、ますっ♡ 旦那様を、気持ちよくするんですぅ♡」
シーアはぎこちなく腰を前後させる。
「はぁ♡ んんぅ♡ 旦那様ぁ♡ どうですか? 私の中、きもちいい、です、か?」
「ああ、最高だよ」
総じて名器ばかりな妖女なので、気持ちよくはある。
それでも他の体位のときと比べて単調なセックスだ。
しかし、健気にこちらを気持ちよくしようとするシーアが愛しくて、意地悪は言えない。
「好きなように動いてごらん。いくらでもイっていいからな?」
「はいぃっ♡ あぁっ♡ らめっ♡ またっ♡ 旦那様に、お優しく、されてるっ♡」
シーアは藤次の胸板に手を置き、腰を縦回転させるように動かす。
「旦那様っ♡ 突いてぇっ♡ どうか、お好きなようにっ♡
シーアに、奴隷の務めっ、果たさせてくださいっ♡」
シーアが懇願してくる。
藤次に気遣われていることを知って、悔しく思ったのだろう。
「いいのか? 無理しなくても……」
「無理なんかじゃ、ないですっ♡ ううん、無理、させてくださいっ♡
私の、臆病な体っ、旦那様の手で、変えてくださいっ♡
わたし、きっと、おかしくなるけど♡ 途中で、止めないでっ♡
旦那様を気持ちよくできるように、なりたいんですっ♡」
息を呑んだ。
なんて献身的で、健気で、淫らな子なんだろうか。
「分かった。後悔しても、知らないぞ……っ!」
藤次はシーアの腰を掴むと、腰を踊らせ始める。
じゅぱん! じゅぱっ! と、激しい水音が浴室に反響した。
「ああぁっ♡ はげひっ♡ すごっ♡ これっ♡ こんなのっ♡」
シーアの膣内を掻き回すように肉棒を動かす。
彼女の弱点など知り尽くしていたつもりだが、甘かったようだ。
日に日に、回を重ねるごとに、弱点が増えていく。
どこを突いてどこを掻いても、シーアの膣内は激しい快感に震えていた。
「ひぃっ♡ だめっ♡ らめれすっ♡ そんなにされたらっ♡ 私っ♡ すぐ、イっちゃって♡」
「イっていいんだ! いいや、イけっ! 旦那様のおちんぽで乱れ狂うんだっ!」
「あああぁぁぁっ♡ イクっ♡ もうイキますっ♡ あっあっあああぁぁぁっ♡」
びくんっとシーアの体が跳ね上がり、結合部から潮が噴き出す。
同時に、膣内の締め付けも強くなった。
「はぁ……ぁ……ぁ……ぁ……ぁぁ……♡」
シーアは絶頂後の余韻に浸りながら、またゆっくりと腰をくねらせた。
「まだぁ♡ まだなのぉ♡ 旦那様、もぉ♡ イって、くれないと♡」
半ば意識を失いかけているようにも見えるが、シーアは藤次を射精させようとしている。
妖女の情欲と、奴隷の献身、その二つが混ざり合ったような顔だ。
「なら……続きは湯船でな?」
「はぁい♡ 旦那様ぁ♡」
シーアを抱き上げると、彼女は幼子のように抱き付いて、湯船に運ばれる。
藤次が湯の中に腰を降ろすと、シーアは対面座位の姿勢で、藤次にしなだれかかった。
「あふっ♡ だんなさまっ♡ 好き♡ しゅきぃ♡」
意識が朦朧としているせいか、普段なら奴隷だからと口にしないようなことを言って、シーアは藤次の首筋にキスをする。
「俺もだよ、シーア。俺の奴隷になってくれて、ありがとうな」
そんなシーアの尻を掴み、湯船の中でゆっくり腰を動かす。
「あ♡ あふ♡ あぁ♡」
水中でのスローペースな挿入に、シーアも心地よさそうな喘ぎ声を響かせた。
湯の跳ねる音と、シーアの小刻みな甘い声。
しばらくその演奏に耳を傾けて、藤次は緩やかに精を解き放つのだった。
○
誘惑禁止条例。
人間界に多数の妖女が渡来して起きた性の退廃、この反動で生まれた条例。
解釈によっては『女性が男性を誘うこと』を禁じている、現代日本のルールだ。
この禁欲を最も守らなければならないのが、妖女である。
愚かな同胞が起こした『ピンクハザード』のせいで、人間界は妖女の『誘惑』に過敏だ。
条例違反で済むならまだいいが、そこから刑事事件になって性犯罪の前科がつけば、国外退去もありうる。
負うリスクの大きさゆえ、妖女はひときわ誘惑禁止条例を遵守しなければならないのだ。
だからシーアは、藤次を誘えない。
抱いて欲しいとは言えない、そういう態度もとれない、露出の多い服装も避けるべきだ。
藤次はきっと、そのくらいなら許してくれるだろうが、それでも駄目だ。
なぜなら――
(絶対、歯止めが利かなくなっちゃいます……っ♡)
際限の無い肉欲の日々が幕を開けるに違いないからだ。
妖女の性欲は人間の想像を超えている。
この人と結ばれたいという男にひとたび出会えば、もう猿だ。
数々のカップルが場所を問わず交わったという『ピンクハザード』は、概ね妖女の側が我慢できずに起きている。
シーアとて妖女、抑えのきかないメスオオカミ。
本音を言えば、時間の許す限り藤次とセックスしたい。
そういうわけにもいかないから、条例は破らないという枷を、自らに課している。
(でも……)
それでも、押さえ込んでも欲は消えない。
だから妖女は、誘惑禁止条例の『抜け穴』に、自然と気付く。
(旦那様に……乱暴、
性犯罪被害は、条例違反にあたらない。
被害者となってしまえば、条例を破ったことにはならない。
シンプルに押し倒されれば、電車のように痴漢されれば――
脅されれば、捕まれば、断れなくさせられれば――
この浅ましい体は、どこまでも昇天する。
なにせ――愛する人が、倫理道徳を踏みにじるほどの強い熱量で、自分を愛してくれるのだから。
(あの聖人みたいにお優しい方が……私を……っ♡)
ひとたびその瞬間を求めれば、どんな妖女も策を練る。
彼の欲望を掻き立てて、雄々しくなってくれるように。
素知らぬ顔で、しかし心臓に早鐘を打たせながら、そうなるように仕向けるのだ。
○
そんなシーアの思惑は、藤次にも伝わっていた。
「こらシーア、また同じ問題を間違えているじゃないか」
「はぅ……申し訳ございません……」
藤次が確認していたのは、シーアに出していた『宿題』だ。
学校には通っていないが、シーアが日本に来ている目的は就労だけではなく留学でもある。
それに協力するため、ビジネスで役立つ細々とした日本語表現を教えているのだが、
(言えてるじゃないか)
『申し訳ありません』より『申し訳ございません』の方がいいという、些細な間違いだ。
別に前者でも問題はないのだが、後者の方がより丁寧というだけのこと。
しかし、前にも同じ間違いをしていたとなれば、叱らねばならない。
「どうして間違えたりしたんだい?」
「それ、は……その……」
ソファーに腰掛ける藤次の隣で、シーアは頬を染める。
「だ、旦那様のことを……考えていたら……集中が、途切れて……」
それが、藤次とのセックスを指すことくらい、顔で分かった。
そう言われると責めきれない。
正直、藤次も仕事中にシーアとのことを思い出す。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、だからこそよくない。
私情で仕事を間違えてしまったら、それは言い訳の余地がないということだ」
「はい、仰る通りです……どうか、お許しください……♡」
シーアは藤次の腕を弱々しい力で掴むと、熱い吐息と共に見上げてくる。
発情している――まだ年若いシーアには、妖女の劣情を隠しきることができていない。
だから、彼女が同じ問題を間違えて、わざと藤次の不興を買った理由も、明白だった。
「旦那様……どうか、お見捨てにならないでぇ……」
「見捨てたりなんか……」
否定しようとして、シーアの艶然とした眼差しにより言葉を切る。
シーアの発言は本音でもあるだろうが、別の意図を含んでいた。
自分が、主人である藤次なしではいられない存在であること。
見捨てられないためなら、どんなことでもするということ。
そういう権力勾配を再認識させ、優越感を煽るためだ。
「……見捨てはしないけど、お仕置きが必要だな」
だから藤次は、シーアの
隣にいるシーアの肩を馴れ馴れしく抱き寄せ、顔を寄せて耳元で囁く。
まるで好色な中年男性が少女にセクハラをするような図だが、シーアの反応は、
「はぅっ♡ おし、おき……」
期待していた通りの言葉をもらえたという喜びが、隠せていなかった。
「はいっ♡ おしおき、してください♡ 愚かなシーアに、教え込んでください……っ♡」
シーアは抱き寄せる藤次に抵抗せず、胸にしなだれかかる。
「旦那様の、威厳あるお手で、シーアが奴隷だっていうこと、思い出させてくださいませ♡」
胸にすっぽり納まる小柄な少女が、欲情に輝く眼差しで見上げてくる。
「どんな仕打ちでも、耐えてみせます♡
旦那様の信頼を取り戻すためなら、どのような辱めも、甘んじて受けます……♡」
言葉と共に出る吐息すら、媚薬のようだ。
シーアの全身から立ち上る妖女のフェロモンだけで、自分の中の男が騒ぐ。
まるで『誘惑』を掛けられたように、自分の心が彼女の思惑通りに変化していくのを感じた。
「旦那様になら……何をされても、平気ですから……ね?」
この女は俺の思い通りになる――
俺にはこの女を自由にする資格がある――
そんな、傲慢で好色な悪人に向けて、自分の心が転がっていく。
「――悪い子だな」
「ひゃうっ♡」
肩を抱いていた腕を下ろして、メイド服越しに尻を掴む。
シーアは甘い声を上げて、一切の抵抗をせず、よりこちらに体重を預けてきた。
「そうやって男を挑発するなんて、どこで覚えたんだ?
俺が君のためを思って与えた勉強の時間に、そんなことを学んでいたのか?」
「あっ♡ 申し訳、ございませんっ♡ 旦那様を、悦ばせたくて……っ♡」
どうやら、悪女や小悪魔のテクニックを聞きかじってきたらしい。
それを正直に白状してしまうあたりは、可愛い子だ。
しかし、いま彼女が望んでいるのは、そういう意味での『可愛がり』ではない。
「悦ばせたくて? 嘘つきめ」
「ひぁうっ♡ 耳っ、やっ♡ 噛んじゃ、あぅぅっ♡」
カリッとエルフ耳を甘噛みすると、シーアの全身が大きく震えて、藤次の腕の中で縮こまる。
「もっと激しいセックスに興味が湧いたんだろう?
いままで『人間向け』のセックスしかしてこなかったからなぁ」
「だ、旦那様ぁ……っ♡」
藤次はいままで、人間女性だった妻を基準にセックスをしていた。
それでもシーアは燃え上がっていたが、それは彼女が不慣れな乙女だったからだ。
一般的な妖女が求める、広く深い性感帯を満足させるような手付きは、控えめだった。
「ご命令……ご命令、してくださいっ♡ シーアにぃ、なんなりと、命令してくださいっ♡」
シーアはひたすら訴えて、藤次の首を抱く。
誘惑と取れる発言を最後まで堪えた、シーアなりの『おねだり』だった。
おもわず口角を釣り上げた藤次の顔は――好色な悪代官か何かのようで、
シーアの期待した通りの、『雄々しい男』の顔だった。
「なら、命令してやる――」
かくして藤次は、シーアの期待に応えるため、『命令』を口にするのだった。
ご一読いただきありがとうございます。
元妻の苦悩を露知らず、エロくなっていく主従でした。
やっぱり主従といったらおしおきプレイだよね。
主従でなくてもよく「おしおきだ!」って言わせてるけど…
後編、なるべく急ぎますが、もうしばらくお待ちください。