誘惑禁止条例 ※性犯罪被害は条例違反にあたらない 作:大中小太郎
さて、西条藤次の職場は、広告会社だ。
人間界と妖魔界の開通以降に生まれ、急速に成長した、業界内のホープである。
藤次の仕事は『制作指示』――広告を『作らせる』のが仕事だ。
企画部やマーケティング部からCM案を受け取り、それを社内の制作部門や社外の制作会社と協力して形にする。
やっていることは上下左右の中間管理。
自分の都合ばかりギャンギャン喚く連中の間に立ってまあまあしながら、空中分解しないよう必死に繋ぎ止める仕事だ。
古代の拷問だか処刑法にある、両手両足を引っこ抜くあれの気分と言ったら、その大変さも伝わるだろうか。
とはいえ、こんな仕事にもいいところはある。
例えば――
「……最近は、ラブホが大々的にCMを打つ時代かぁ」
CMを通じて、世情を知れることだろうか。
場所は制作現場、ちょっとした撮影スタジオ。
CMの主役となる俳優たちを撮るところだ。
「西条さん、どうかしたんですか?」
と、出演女優が声を掛けてきた。
「ああ、クレアさん。おはようございます」
彼女は木城クレア――人間と妖女のハーフ女優だ。
派手さはないが整った容姿と、ドラマ・バラエティー・映画など各方面で助演をこなしている。
親しみやすく卒がなく、シングルマザーという特徴もあって、主婦層からの支持が厚い。
「おはようございます。溜息を吐いておられましたけど、体調が悪いとか?」
「いえ、特に問題はありません」
それで済ませようとしたが、理由を説明しなければ、トラブルかと不安がらせるかもしれない。
撮影監督ではないが、出演者には絶好調でいてほしいので、笑って説明する。
「私の感覚からすると、ラブホテルのCMを大っぴらに放送するというのが驚きでして」
今回のCMは、なんとラブホテルのCMだ。
もちろん濡れ場を流したりはせず、ここにいるクレアともう一人の男優が夫婦を演じ、見栄えのいいエントランスや室内を観覧するというだけのもの。普通の宿泊施設と同じようなCMになる。
「ああ、出演しといてなんですけど、実は私もです」
「もちろん、成長市場なのは理解しているのですがね」
当たり障りのない言葉を並べておく。
撮影の準備が整うまで数分、自分が彼女の話し相手をすることになりそうだ。
「最近は若い子だけでなく、お子様の目を盗みたいご夫婦にも需要があるそうですね」
「ええ。その点、夫婦人気の高い木城さんは、正に適任です」
クレアの支持層は主婦層だが、密かにその夫たちも含まれる。
容姿もそうだが、離婚した女性にありがちな、男性に対して角の立つ言動がないからだろう。
悪目立ちをせず、堅実に自分を売り込み、見る目のある人に評価されているタイプの芸能人だ。
こうして話していると、それが画面上だけのキャラでないことも分かる。
「っ」
ふと、クレアが藤次の左手に注目する。
何か持っていただろうか? と左手を確認するが、なにもない。
ああいや、むしろ『なにもないこと』が問題なのか。
「西条さん……記憶違いだったら申し訳ないのですが……以前は指輪を」
「ええ、お恥ずかしながら、離婚しまして」
クレアとは、同じCMの第一弾でも一緒だった。今回のCMは第二弾だ。
あのときは妻と離婚していなかったので、結婚指輪をしていた。
「それは、失礼しました。無遠慮なことを」
「お気遣いなく。こう言ってはなんですが、これでバツイチ仲間ですね」
つまらない冗談を言うと、クレアも「まあ」とクスクス笑う。
「西条さんのようないい人とお別れだなんて、元奥様は損をされましたね」
「そちらの旦那さんこそ」
社交辞令でも、売れている女優からの褒め言葉は、なんだか特別に聞こえるものだ。
「木城さん、お願いしまーす」
「あ、はーい。では、失礼します」
撮影準備が整ったらしく、スタッフに呼ばれたクレアは、カメラの前に向かう。
(アイツに爪の垢でも煎じて飲ましてやりたかったな)
元妻のことを思い出す。
そういえば元妻は木城クレアをあまり好んでいなかったようだが、理由はなぜだったか。
よく思い出せないし、どうでもよいことだった。
○
住み慣れた我が家の、リビングのソファー。
背もたれに体重を預け、酒の入ったグラスを手に、のんびりとテレビを眺める。
心地よい時間だ。
「あっ♡ あんっ♡ んぁぁっ♡ 旦那様ぁ♡」
腕の中に、対面座位で自ら腰を振るシーアがいれば、言うことはない。
「いいぞ、その調子だ。もっと腰をくねらせるんだ。命令だよ?」
「はいぃ♡ ああ、いいっ♡ 旦那様のっ、気持ち良いですぅ♡」
シーアはメイド服を着たまま、藤次とまぐわっていた。
藤次の首を抱き、胸板に顔を埋めて、スカートの中では挿入されている。
藤次はまったく動かず、シーアが必死に腰を振っていた。
「旦那様っ♡ やっぱり、こんなの駄目ですっ♡ こんな、女が上の体位っ♡ 奴隷の私が、していいことじゃ……っ♡」
快感に蕩けた顔で、涙目で見上げてくるシーアを、優しく撫でる。
「妖魔界だとそうなのかい?」
「はい……これ、男性が、妻に、自分を好きにさせるときの体位です……っ♡
こんな、こんなの……っ♡ 私が、旦那様の体を、貪るような……っ♡」
シーアの顔には罪悪感と、普段しない体位による興奮が見て取れた。
「嫌かい? 旦那様の逸物、実はお気に召さなかったのかな?」
「ひうっ♡ そんなわけないですっ♡ 入ってるだけでぇ♡ イキ、そう、なのにぃ……っ♡」
軽く力を込めて肉棒を動かすと、それだけでシーアの体がびくっと震える。
どうやらシーアにとってこの体位は、逆レイプしているような背徳感が強いようだ。
「なら、続けるんだ。命令だ、思う存分に腰を振るんだ」
命じると、奴隷の首輪が発光して、シーアを従わせる。
するとシーアは藤次にしがみつき、可愛らしいヒップを激しく上下させ始めた。
「ああぁぁ♡ そんなご命令、駄目ですぅっ♡ あひゅうっ♡ おっきぃ♡ おっきいのぉ♡ 奥にっ♡ 擦って、当たってっ♡ 自分でっ、なんてっ♡ ひぁぁぁぁっ♡♡♡」
自分の動きで子宮口を責めるなり、シーアは全身を痙攣させた。
奴隷の首輪の命令で動かされているため、加減することができないようだ。
「ほら、イったからといって腰を止めるな。命令に従え!」
ぱんっ! と片手でシーアの尻を叩く。
「ふぁいっ♡ 申し訳ありませんっ♡ 旦那様のおちんちんがぁ♡ 気持ち良すぎて、すぐイっちゃうんですっ♡ ああ、またイクッ♡ イったばかりのおまんこっ♡ 自分でいじめてっ、またイッちゃいますっ♡」
軽く叩いただけだというのに、シーアの膣内は音を立てるように引き絞られ、肉棒を搾る。
荒い呼吸を繰り返しながら、犬のように腰を振るシーアの顔は、普段よりずっと淫らに見えた。
「なんて顔だ、シーア。旦那様の上で、我が物顔で腰を振って、おちんぽ貪ってるじゃないか」
「ああぁぁ♡ 仰らないでっ♡ こんなっ♡ 許されないことっ♡ なのにぃっ♡」
「いつもよりイキやすくなってるぞ? 実はこっちの方が好きなんじゃないか?」
「ちがっ♡ 違いますっ♡ いつもと違うからっ、慣れてないだけでっ♡
んああぁっ♡ いくいくまたイクぅぅぅっ♡♡♡」
もはや何度目か、腕の中でシーアが絶頂を迎える。
「はひっ♡ だんな、さまぁ♡ わたひ、腰、抜けちゃって……う、動けない、でしゅ♡」
深い絶頂で、一時的に力が入らなくなったようだ。
「おいおい、俺はまだイってないんだぞ?」
言葉ほど怒っていないことは、髪を撫でる手付きからシーアに伝わった。
だからこそ、シーアは艶然とした笑みで、こう言うのだ。
「はひ♡ 不甲斐ない奴隷を、お許しください♡ どうか、お見捨てにならないでぇ♡」
自分がいかに弱い立場であるかを強調するように、懇願していた。
シーアのそれは、「藤次の方から襲ってほしい」という、彼女なりのおねだりだ。
「手の掛かる奴隷だ。ほら!」
シーアのヒップを両手で掴み、腰を突き上げる。
「んおっ♡ おおぉ~っ♡」
シーアは目を剥きながら、大きな絶頂を全身に轟かせた。
「はは、自分でポルチオをいじめすぎて、すっかりイキやすくなってるなっ」
シーアの小柄を上下に揺らしながら、何度も肉棒で突き上げる。
「あひっ♡ んぉぉぉっ♡ おおんっ♡ ふぉっ♡ ぁぁぁぁぁっ♡」
その度に、シーアの体には痙攣が走り、口からは獣めいた声が出る。
リビングの壁に反響するほどの喘ぎ声――彼女が藤次とのセックスで得る快感は、慣れるどころか日に日に新記録を更新していた。
「こら、聞いているのか? 突かれる度にイってばかりで、旦那様へのご奉仕はどうしたっ!?」
「はひっ♡ ごめんなしゃいっ♡ どうかっ♡ いっぱい、突いてぇ♡ 旦那様の、お好きなようにぃ♡ わたひっ、イキましゅっ♡ 旦那様が果てるまでっ♡ ずっと♡ 何度もぉ♡ あああぁぁぁイクイクイクぅぅぅっ♡♡♡」
意識を朦朧とさせながら、シーアは情欲と献身の入り交じった言葉を紡ぐ。
ほとんど、自分が何を言っているのかも理解していない様子だ。
長引かせて負担になるよりは、このまま最高潮まで行って、射精してやることにした。
「いいぞ、オナホにしてやるっ。お前はいま、旦那様を気持ちよくするためだけのものだっ!」
「はひぃっ♡ 嬉しいっ♡ 旦那様のっ♡ んぉぉっ♡ お役に、立てるっ♡ あひぃっ♡ なりゅっ♡ あなたのためのっ♡ んぁぁっ♡ オナホに、なりましゅっ♡ あっあっあぁぁぁっ♡ どうかっ♡ シーアを、使ってくらしゃいっ♡ ぉぉぉぉぉっ♡ だんな、しゃまをぉ♡ おぉぉぉぉ♡ きもちよく、しゅるのぉ♡」
ごちゅっ! と、子宮口を押し潰す勢いで、何度も肉棒を叩きつける。
シーアが背筋を大きく反らせ、床に落ちないよう藤次の腕に支えられながら、天井を仰いで髪を振り乱した。
連続絶頂で錯乱しかけている。しかし両手は藤次を離さず、いつしか自分からも腰を振り、オーガズムの嵐に恍惚の笑みを浮かべていた。
「出すぞ、シーア!」
「はい、出してくださいっ♡ シーアに、旦那様の大事な精子、注いでくださいましぃっ♡ あああぁぁぁ出てりゅっ♡ いっぱいにされてりゅっ♡ イクイクイクイクぅぅぅっ♡♡♡」
シーアは電流が流れたかのように震え、深く長い絶頂に意識を奪われていった。
「ふぁ……♡ ん、んくっ♡ んはぁっ♡」
目の光を失いながらも、唇を求めてきたため、それに応じてやる。
夜はまだ始まったばかり、少し休んだらもう一度やろう。
次はどんなプレイがいいか。また縛ってやるか、窓際でしてやろうか……
そんなことを考えながら、藤次は深く息を吐いて、ソファーに背中を沈めるのだった。
○
さて、奴隷にも休日はある。
日本では奴隷ではなく労働者なのだから当然だ。
シーアは「午後はほとんど休んでいるし、住み込みである以上は」と主張したが、藤次は「せめて週に一日くらいは」と譲らなかった。
最終的には「夜の相手だけは年中無休」という条件で、家事をしない日曜日を迎えている。
「久しぶりー、シーア。あ、その服かわいいっ」
「あらぁ、なんだか雰囲気が変わったわね」
シーアは同じ奴隷仲間の妖女たちと、街の一角で待ち合わせていた。
「ニナっ、それにユスティネもっ」
二人は同郷の少女たちだ。
待ち合わせた駅前に、三人の妖女たちが並び立つ。
「うんうん、元気そうでよかったー。
ひどい主人に買われてやせ細ってるんじゃないかと思ってたけど、取り越し苦労だったわね」
一人はニナ。
シーアと同じく褐色エルフの妖女である。
ショートの黒髪と、気の強そうな目付きが特徴的だ。
服装は会社支給のメイド服。
最近は使用人を雇う家庭も多く、秋葉原以外でメイド服を見かける機会も多いので、周囲から奇異の目で見られてはいない。
「もう、旦那様はそんな人じゃないって、前にも言ったのに」
「ふふ、そうね。痩せるどころが柔らかくなってるし、なんだか大人っぽくなった気がするわ」
と言ってシーアを抱きしめるのは、褐色系エルフのユスティネ。
豊かな金髪と豊満な肢体に長身という外見が、小柄な銀髪少女のシーアとは好対照だ。
派手めの美人だが性格は母性的で、シーアへの態度も姉のように見える。
実際、この面子の中ではシーアが最も年下なので、扱いとしては二人の妹分だった。
「くんくん……シーア、なんかいい香りしない?」
「えっ!?」
ニナが急に鼻を利かせて、シーアを驚かせる。
「ああ、やっぱり? 私もそんな気がしたの。香水、じゃないわよね?」
ユスティネも小首を傾げながら、二人してシーアの髪が首筋に鼻を利かせた。
「な、なにもつけてないよっ!? 香水なんて買う余裕あるわけないでしょっ!?」
シーアは、年頃の少女としてはちょっと悲しいことを言って、二人の間を脱した。
(で、出かける前に……旦那様に、ちょっとだけ『して』いただいたから……?)
匂いの心当たりと言えばそれだけだ。
休日なので友人に会ってくると伝えたら、快く許してくれたが……「会えなくなるのが寂しい」などといって抱きしめるから、嬉しいやら愛しいやらで、そのまま口で……
もちろん歯磨きなどして、完全に匂いは消したはずなのだが。
「ふぅん……」
頬を染めて目を泳がすシーアに、ユスティネは何か察したような笑みを浮かべている。
ニナは察せておらず、小首を傾げていた。
――なにはともあれ、三人は街を巡る。
「治安がいい国って話は本当みたいねー。ほら見てよ、若い男が供回りもつけずに歩いてる」
「ええ、店構えも心配になるくらい不用心だし。
この国に来て以来、揉め事の声なんて一度も聞いてないのよ? 私」
奴隷として出稼ぎに来ているため、ショッピングなどという贅沢はできない。
しかし彼女らにとって、日本は異世界の異国だ。店を冷やかすだけでも、普段はできない観光旅行になる。
「私はいい待遇で迎えてもらったけど、二人は大丈夫?」
道すがら、シーアはニナとユスティネに問いかける。
彼女たちと最後に会ったのは、藤次と契約して以来だ。
三人の中では最初に主人を見つけた形であり、その後は最低限の連絡しか取れていない。
ともすれば、自分と違って冷酷な主人に働かされてはいないかと、気にはしていたのだ。
「私は全然平気よ。ご年配なお婆さまの手助けと家事だけ」
ニナはからりとした口調で言う。
どうやら彼女を雇ったのはお婆さんの息子夫婦らしく、仕事に専念するためニナを雇ったそうだ。
シーアに比べれば苦労も多いだろうが、そのお婆さんには快く接してもらっているらしい。
「私はシングルマザーの方と契約させていただいて、お子さんの面倒を見つつ家事をさせてもらってるわ」
ユスティネは働く女性と契約して、その家に家政婦として通っているという。
家事をしつつ、まだ小さいお子さんの相手をしたり、保育園に迎えに行ったりと、裏の無い意味で『アットホームな職場』だ。
実年齢より年上に見られがちなユスティネは、故郷でも子供に好かれていたので、適職だろう。
「シーアはどう? 意地悪されてない?」
「たしか、働いている男性の家で、住み込みの家事をしているのよね?」
「意地悪なんてとんでもないっ。信じられないくらいお優しい方ですよ?」
シーアが男性に雇われたことは、ニナもユスティネも聞いている。
妖女からすると、男性に仕えるというのは、貴族家に奉公するのと同義なので、名誉ではある。
だが――
「シーア、正直に言って? 嘘吐いてない?」
「嘘って……」
「だって話が美味すぎるもの!
いい年頃で独り身の男性ってだけで不自然なのに、仕事は住み込みで家事だけ!?
もうそれ裏がありますって自己紹介してるようなもんじゃないっ!」
先ずはニナが疑うように、好条件すぎて疑わしい。
人間界からすると首を傾げることだが、彼女たち妖女の常識からすると、まるでおとぎ話だ。
「もう、前にも言ったでしょ? 裏なんてなかったし、旦那様は非の打ち所がない紳士だって」
「いやいやいや、いくら人間界でも、そんな天然記念物みたいな人がそうそう居るわけ……」
頬を膨らませるシーアだが、ニナはいまだに信じがたい。
例えば、いまや妖魔界のみならず人間界でも、未婚の男性とは希少だ。
ナイスミドルな独身男性なんて、よほどの事情が無ければ発生しない。
聞けば奥さんと離婚したというが、性格に難があるどころか、紳士だとシーアは保証する。
なにそれロマンス小説? である。
人間男性の視点で置き換えると、『妙齢の未亡人』くらいの、そこはかとないエロさを感じる。
妙齢の未亡人と同居して家事するだけの簡単なお仕事です。
しかもその未亡人は美人で気立てがよく、母性豊かで何かとあなたを甘やかしたがります。
おまけにあなたの性欲を感知すると、優しい「命令」でベッドに誘い、激しく乱れたりもします。
……などと紹介されれば、怪しさも伝わるだろうか。
「そうねぇ、私もシーアを疑うわけじゃないけど……」
ニナほど思い込みは激しくないが、ユスティネも遠慮がちに口を開く。
「そんなによい男性の元を、奥様はなぜ去ってしまったのかは、気になるわね。
一夫一妻の人間界なら、ことのほか」
ユスティネとしても、可愛いシーアがよくない男にこき使われていないかは、やはり気がかりだ。
「そうよっ! 三十歳を過ぎても独身な人は性格に問題があるって言うじゃない!
私『いんたーねっと』で知ってるんだから!」
ニナが天下の往来で暴論を吐くと、すれ違った人間女性のグループが、刃物で刺されたような顔をしていた。
「もう、ニナってば、そういうのに毒されちゃいけないって人間界研修で習ったでしょ?」
「じゃあなんで離婚したのよ?」
「それは……詳しくは聞いてないけど……」
西条藤次への嫌疑を収めないニナに、シーアはどうにか疑惑を晴らそうとするが、その言葉が途切れる。
シーアが藤次から離婚について聞いたのは、部屋をあてがわれたときのこと。
部屋の荷物に女性向けのものが多くあり、首を傾げたところ、
『離婚した元妻のものだ。処分し損ねていたな』
と、苦笑していた。
もちろん離婚の理由は詮索しなかったが、知りたがっている気配を察してか、藤次はこう続けた。
『私が至らないばかりにね』
何も分からないのと同じだった。
「ほらっ、やっぱり何かあるのよ!
なんかこう『でぃーぶい』とか『もらはら』とかっ!
一緒になってしばらくしてから本性を現すものだって『ねっと』で――」
「…………」
「あ、はい、すみません……」
シーアに無言で見詰められると、ニナは冷や汗を掻きながら撤回する。
「まあニナほどには言わないけど、何かあったらちゃんと相談してね?
雇い主にひどい扱いを受けた場合、会社がちゃんと対応してくれるそうだから」
「旦那様はそんな人じゃありません……っ!」
ユスティネの助言にも、ぷいと顔を背けるシーアであった。
ニナが「ごめんって」と謝る声を聞き流しつつ、頭の中では、あることが気になっていた。
(旦那様の、元奥様……)
シーアは真相を知らない。
聞いてしまえば大した内容ではなくとも、知らないということが、様々な不安を掻き立てる。
彼はいまでも、その人を想っているのだろうか……
その女性はどんな人で、自分よりも大人で魅力的なのだろうか……
やっぱり人間である彼には、同じ世界に生まれた女性がいいのだろうか……
胸の奥底に生じた感情は、しばらく消えることはなかった。
帰宅後――この買い物で選んだ私服を藤次に披露して、そのまま抱いてもらうまでは。
○
深夜――寝室で、藤次はシーアに腕枕をしていた。
「はぁ♡ はぁ……♡ 旦那様ぁ……♡」
事後である。
今日も激しいセックスに耽っていた。
精根尽き果てた藤次は仰向けになり、シーアはその片腕を枕に横たわって、藤次の胸板に頬ずりしている。
「シーア、今日は何かあったのか?」
「えっ?」
不意に問いかけられたシーアは、目を丸くする。
藤次も半信半疑だったが、その反応で確信に変わった。
「今日は積極的だったからな。大したことじゃなければいいんだが」
「はぅ……お見通し、ですよね」
セックスの内容はいつも通りだった。
ただ、シーアの求め方は、いつもより強かった気がする。
手足を絡める力が強いとか、あそこの締まりがキツいとか、キスをせびる所作が多かったとか、そういう些細だが雄弁なものが根拠だ。
「その……身の程を弁えないことなのですが……」
前置きしつつも、それを言ってくれることに、藤次は嬉しさを覚えた。
最初の頃に比べれば、シーアも随分と『甘える』ようになってくれている。
それも大事だが、藤次はシーアが語り始めた悩み事を聞いて、少し驚くことになった。
「アイツのこと……元妻のことを気にして?」
「あぅぅ……申し訳ございませんっ。このような、恥ずべき感情に囚われて……っ」
シーアは恥ずかしそうに顔を覆う。
体中の全てを晒した仲だというのに、だ。
「そんな、恥じるようなことじゃないだろう。妬いてくれるのは嬉しいことだ」
「え?」
「え?」
ちょっと古くさいやりとりが起きた。
「わ、笑わないのですか? その、昔の女を理由に、失礼なことをしたのに……」
「失礼ってほどのことじゃないし、気になるのは普通……ああそっか、妖魔界は一夫多妻が普通だし、離婚と再婚による入れ替わりも激しいって聞いたな」
妖魔界では、数少ない男性との子作りを計画的に行う。
国や地域によって様々で、婚姻・宗教・風習などにより、一人の男性がなるべく多くの女性に子種を授けるようにしている。
一夫多妻の婚姻にしても、子供ができた順に妻の座を降りて、授かってない妾が妻に格上げする――といった風習があったりするらしい。
「はい。ですので、夫に前の妻がいるのは当たり前で……それに身勝手な妬心を燃やして夫を困らせるなど、女として未成熟なことの証と申しますか……」
シーアは、なにがどう恥なのかを語らされているせいか、更に顔を赤くする。
男はなぜナニの大きさを比べたがるのかと聞かれて説明させられる思春期男子のようだ。
「そんなことで嫌ったりしないし、不謹慎だけど愛されている気がして嬉しいものだよ」
「そういう、もの、ですか?」
おどおどと見上げるシーアが可愛らしくて、自然と額にキスをした。
「なぜ離婚したか、聞いてくれるか?」
シーアにはいつか話そうと思っていたので、そう切り出す。
聞かせてもらえると思っていなかったのか、シーアは少し目を丸くした後、真面目な顔で頷くのだった。
「最初は、細かいところの不一致だった。
掃除をどの程度するのかとか、そのくらいの……」
生まれた家が違えば異なって当然の、細々としたこと。
食器は食後にすぐ洗うのか、水に漬けておくのか。
掃除は毎日家の隅々までやるのか、ブロック分けしてローテーションを組むのか。
藤次の基準と元妻の基準は結構異なり、藤次からすれば元妻はかなり家事を雑にしていた。
それでも、その程度なら、すり合わせればよいこと。
「愛を疑ったのは……俺に黙って、子供を堕ろしていたことだ」
「――――っ」
シーアは目を限界まで見開いた後、懸命に口を閉ざした。
聡明な子だ。何を言っても栓の無いことだと理解したのだろう。
「そこから一気に関係が冷え込んで、騙し騙しやってきたが……
俺は仕事に逃げるようになって、アイツはまあ、不倫に近いことをして……それを機にきっぱりとな」
細々とした部分は省略したが、経緯はそんなところだ。
と言っても、藤次の場合が分かりやすかっただけで、夫婦が離婚に至る理由なんてものは大抵その『細々とした部分』が主役だろう。
「シーアは何も気にしなくていい。無いとは思うが、もし電話が掛かってきたりしたら、すぐ俺に繋げ」
あの女が、いま自分がシーアと同居していると聞いたら、面倒なことになりそうだ。
「私は……」
シーアは、藤次の胸の上に置いた手を握り込みながら、震える声を発する。
「私は、絶対に……そんなこと、しません……っ!
旦那様から授かった、大事な御子を……絶対に……っ!」
目尻から涙を零して訴えるシーアに、藤次も胸を打たれる。
なにか、元妻との生活でずっと聞きたかったことを、いまになって聞けた気がした。
「ここに、おります……っ。
旦那様の血を、我が子に受け継がせたいと願っている女が、ここに……おりますから……っ!」
シーアの目に、藤次はどんな顔をしているように見えたのか。
藤次の追った心の傷を、自分の全身で埋め合わせてあげたいと、目が語っている。
「シーア」
不思議な気分だった。
胸は熱く、心は清澄。しかし――肉棒はかつてないほど勃起している。
愛と性欲の区別が消失して、混ざり合って新しい何かになったような気分だ。
「ありがとう。君を奴隷にしてよかった」
「何よりも、嬉しいお言葉です……っ♡」
藤次とシーアは自然と体を動かし、仰向けになったシーアに藤次が覆い被さる。
藤次が邪魔そうに放り捨てたシーツの下では、琥珀色の裸身を晒したシーアの割れ目に、藤次の逸物が添えられていた。
「どうぞ、旦那様♡ 思いのままに……いまだけは、私の負担なんて、何も考えないで♡
旦那様の、お心と、お体を、ありのまま全部――私の
藤次はシーアを固く抱きしめながら、無言で腰を前進させる。
これまで――藤次はシーアを激しく責め立ててきたし、高圧的な主人として苛めることもあった。
それでも、シーアが本気で嫌がっていないか、体に負担を掛けすぎていないかという一線を守っていた。
いまは違う。
小さな子供が、大人の女性に甘えるように。
何の思慮もなく、大人の余裕もへったくれもなく――
「ふぁぁぁぁんっ♡」
ただ本能が望むまま、シーアの入口から最奥部まで、一気に突き通した。
シーアの子宮口は柔らかく開き、亀頭を優しく迎え入れる。
「っ、シーア!」
それをいいことに、シーアに呼吸を合わせることもせず、ただ好き放題に腰を振る。
「あひゅうっ♡ ひあぁぁっ♡ 急にっ♡ んぁぁぁっ♡ 激しいっ♡ ああイクっ♡ わたしもうイってましゅっ♡ 旦那様ぁっ♡」
シーアの喘ぎが耳に心地よく響く。
手が勝手に動いて乳房を掴み、口は首筋に吸い付いてキスマークを刻む。
下半身はもちろん、シーアに向けて狂ったように暴れていた。
「はぎゅうっ♡ それっ♡ それでしゅっ♡ 旦那様のぉっ♡ 本気ぃ♡ あああぁぁぁっ♡ わたしっ、もうっ♡ イキっぱなしにぃっ♡」
シーアは、藤次から与えられる暴力的なまでの快感に悶えながら、その全てを受け入れている。
ベッドが過去一番の軋む音を立て、恨みでもあるかのように腰を打ち付ける音が響く。
「はひっ♡ 止めないでっ♡ 旦那様ぁっ♡ そのままっ♡ シーアのことっ♡ 犯し抜いてくだしゃいっ♡ 私が、合わせますからっ♡ 旦那様のっ♡ 一番気持ちよくなれるセックスにぃ♡ 私の体っ♡ あああぁぁぁっ♡ もう、従ってるっ♡ おまんこ悦んじゃってましゅからぁ♡」
シーアは藤次を制止する言葉を決して口にせず、より獰猛にするような、忠誠の言葉を紡ぐ。
実際、シーアの膣内は、これまでにない乱雑なリズムで出入りする藤次の肉棒に、収縮のタイミングを合わせていた。
藤次自身ですら把握していない体の動きを、シーアの方が予知しているかのようだ。
「ああ、従えっ! 俺に従え! この体っ、全部、俺のものにしてやるっ!!」
自分の口から、らしくない言葉が出ていることさえ、どこか遠くの出来事に感じる。
藤次の意識はいま、かつてない解放感と快感に染まっていた。
「あぁぁ♡ 素敵っ♡ もっとっ♡ 命じてくだしゃいっ♡ 旦那様のお心のままっ、命令してくださいっ♡ 私のっ、身も心もっ、従えてぇ♡ なりたいっ♡ 旦那様のための奴隷にっ♡ 旦那様に世界で一番ぴったりの女になるのぉぉぉっ♡」
ガクガクと痙攣しながら、シーアは爛々と光る目で、奴隷の愛を叫ぶ。
「奴隷だけじゃ、足りない!」
藤次はシーアの腰を掴んで浮かばせると、角度を変えて高速ピストンを開始する。
「はぎゅぅぅぅっ♡ いくいくいってりゅイキかた変わってましゅぅぅぅっ♡」
シーツを掴んで半狂乱になっているシーアに、藤次は叫ぶ。
「命令だ! 俺の妻になれ! シーア!」
「はひっ!?」
ガクン! と、一際の絶頂に震えながら、シーアは目を丸くした。
「俺の子を孕むんだろう!? だったらお前は、俺の妻だ!」
「ひゃ、あっ♡ らめっ♡ だんな、さまっ♡ わたし、奴隷――」
「黙れ! もう決めたことだ! 俺の妻になって、俺の子を産め! シーア!」
ドスンっ! と、脅しつけるように子宮を押し潰す。
「んぉぉぉぉぉっ♡」
全身を駆け巡る大絶頂は、どんな暴力よりもシーアの抵抗を奪った。
いや、元より彼女にも、抵抗する気などなかった。
「は――い――っ♡ なり、ましゅ♡ だんなさまのぉ♡ 妻に、なりましゅ♡」
朦朧とする意識のまま、シーアは藤次に手を伸ばし、抱き上げられる。
「シーアの『女』をぉ♡ 全て、旦那様に捧げますっ♡ 旦那様のことっ、私が守りますっ♡ 家のこともっ、子供のこともっ、全部私にお任せくださいっ♡ 旦那様のことぉ、いっぱい幸せにしましゅからっ♡ たくさん、赤ちゃんくださいっ♡ 旦那様の尊い血をっ、いっぱい残すのぉ♡」
藤次はシーアの誓いを聞きながら、ベッドの上で膝立ちになる。
シーアは結合を維持したまま持ち上げられ、駅弁に近い姿勢で突き上げられた。
「んひぃぃぃっ♡ おほっ♡ おおおぉぉぉっ♡」
この体位でするのは初めてだった。
情欲だけでなく、愛情も最高潮となったシーアの魂は、かつてない無上の悦楽に呑み込まれる。
「ああ、孕めっ! 俺の子を孕めっ! ずっとずっと、俺の傍にいろっ! 一生、こうやって、可愛がってやるから!!」
「おっおぉぉぉ♡ ふぉっ♡ しゅごいしゅごいのぉぉ♡ こんなイキしゅぎてるのっ、いままで一度もっ♡ これだめ♡ 幸せしゅぎて死んじゃうっ♡ 幸せイキすぎて全部溶けちゃうぅっ♡」
プロポーズと共に導かれる絶頂の天国。
シーアの心は喜びの許容値を超えて、既に正気を保てていない。
「おふっ♡ おっおっおっ♡ ふぉぉぉっ♡ んおっ♡」
正気でないのは、藤次も同じことだ。
可憐な顔立ちを淫らに崩すシーアを、白んだ視界で見続けながら、腰を振っている。
肉棒を起点に、体内が溶かされてしまったかのように、気持ちいい。
「もっろぉ♡ だんなしゃま♡ 種付け、ほしぃ♡ シーアの中、埋め尽くしてくだしゃい♡」
既に達して、膣内射精していた。
にも関わらず肉棒は萎えず、何かの箍が外れたように、更なる種付けをしようとしている。
いまどんな体位をしているのかさえ、認識しきれていない。
「はあっ、はあっ、はあっ!!」
犬のように荒ぶる呼吸。
ケダモノどころではない。
もはや性獣だ。
「っぐ、出る」
「きてっ♡ 旦那様ぁっ♡ 旦那様のせーえきでぇっ♡ シーアのこといっぱいにしてぇ♡」
シーアは両手両足で藤次にしがみつき、その体を抱きしめる。
何度目かも分からない射精が、肉体の限界を告げた。
どすっと、シーアもろとも、ベッドに崩れ落ちる。
両者とも放心状態で、髪は乱れ、汗に塗れ、悦楽に蕩けた顔は無様ですらある。
しかし、幸せだった。
人生を振り返っても、この夜に勝るものは滅多にないだろうというほど。
「シー、ア……」
意識を失う前に、藤次は大事な言葉を残す。
「愛している」
長い半生の末に出会えた、本当の妻に、藤次は万感の年を込めて囁く。
――――シーアの妊娠が明らかになったのは、しばらく後のことだった。
ご一読いただきありがとうございました。
新キャラの顔出しと、シーアのおめでたでした。
奴隷編は結構長くなるかもしれませんね。