誘惑禁止条例 ※性犯罪被害は条例違反にあたらない 作:大中小太郎
「デキちゃいましたーっ☆」
シーアが可愛らしい声と笑顔で報告した相手は、同郷のニナとユスティネである。
「「デキちゃいましたぁ!?」」
飲み物を零しかけながら、思わず大声で鸚鵡返し。
シーア・ニナ・ユスティネが人間界に来てから、二度目の会合での妊娠報告だった。
場所はよく知られたファミレスのボックス席であり、他の利用者たちが度肝を抜かれている。
「うそっ、シーアそれって――やだ、泣きそうっ」
「おめでとう、シーアちゃん。ああ、私も……」
ニナは両手を口元に添えながら、ユスティネは思わずシーアを抱きしめながら、共に彼女の懐妊を喜んだ。
真実、我が事のようにだ。
現代日本の感覚と比べて、祝福の熱量が高い。
男が希少で、延いては子供が希少な妖女たちであれば、それも当然のことだった。
「えへへ、ありがとう。故郷にもいい報せができそう……」
シーアは微笑みながら、腹部に手を沿える。
妊娠検査で陽性が出たばかりなので、目に見える変化はまだ先だが、ニナとユスティネには彼女が聖母に見えた。
「「…………」」
それと同時に、祝福以外の感情も覚える。
羨ましい――と。
妖魔界において、妊婦とは英雄の如しだ。
昨日まで最底辺にいたような者でも、周辺の人々が手の平を返して、目上のように扱う。
ましてや生まれた子供が男の子だった日には、物乞いが女王になるかのような名声となる。
もし、自分とシーアの立場が逆だったら。
私にも、大人の男性に可愛がられて子を授かることができたのだろうか。
そんな、嫉妬寸前の強い羨望に、ニナとユスティネは心を一時だけ支配される。
「ただ、ちょっと困ったことがあって……」
というシーアの声で、二人は我に返る。
「困りごとって? まさか、あれ? 相手が『ニンチシナイ』とか? それとも『ヨーイクヒ』を払わないとか?」
「そんなのどっちも要らないよ」
ニナがまたネットの聞きかじりを披露するが、シーアはさらりと答えてみせた。
実際に妖魔界だと、孕ませた時点で男性の責務は全うされたと認識される。
正妻との間に設けた子でもない限り、子供は授かった女性とその一族のものであり、各種義務も無い代わりに、親権などの権利も主張できないのだ。
よって、やれ認知だとかやれ養育費だとかは、妖女たちからすれば異世界文化である。
「もしかして、ご実家の方に問題があったの?」
ユスティネが心配そうに尋ねる。
彼女たちの故郷は戦に敗れ、男児を奪われてしまい、出生を管理下に置かれている。
その抜け道として、若い女を人間界へ出稼ぎに送っているのだが、支配者がこれを見咎めると面倒なことになる。
「ううん、実家には報告の手紙を送って、まだ返事も来てないの」
シーアの返答からすると、困りごとはそちらでもないようだ。
「じゃあ、なに?」
ニナが促すと、シーアは……どこか嬉しそうでもある微苦笑で、事の次第を説明するのだった。
○
「ご両親に挨拶しなければ」
ピシッとしたスーツを着た藤次が、菓子折りを手に宣言していた。
「ですから旦那様っ、そのようなことは不要ですってば!」
シーアはそれを制止する。
「いやでも、こういうことになったわけだし、俺にも男として責任が……」
「責任なんて子を授かっただけで充分ですっ、私の実家もそれで納得しておりますっ」
確かに、藤次に届いたシーアの母からの手紙にも、そのような文言があった。
しかし、目出度く我が子ができたというのに、何もしないというわけにもいかない。
「旦那様の仰りたいことは、よく理解しております。
ですが、我が国は内戦が終わったばかりで治安がよくありません。
旦那様のような殿方が道を歩いていれば即日に誘拐されてしまいます」
溜息を吐くシーア。
事実、妖女の悪人は『誘惑』を駆使して男を拐かし、逆レイプして行方をくらますという。
下手をすると人間界から妖魔界に連れ去られ、何人もの妖女に搾られ続けるのだそうだ。
「だったらなおさら、シーアを妖魔界に返すわけにはいかない」
故に、きっぱりと断言する。
「妖女の多くは出産と育児を妖魔界で行うらしいね。
より多くの親族に助けを得られることや、魔力の環境が関わっているから」
「はい」
「でも最近は、人間界でも周囲の助けは借りられるし、新生児の魔力症例に関しても医療が対応できるようになっているらしい」
シーアの妊娠が明らかになってから大急ぎで調べた。
妖女が妖魔界で出産したがる一番の理由は、人間界の魔力環境が理想的ではないからだ。
それが原因で魔力由来の症例が出ることもあり、長らく『妖女は妊娠したら妖魔界に帰る』が通例だった。
しかし、最近の医療はその問題を解決しているらしい。
「ですが、そういうのにはお金が……」
「心配ない。こういうときのために蓄えてきたんだ」
元妻が無駄にしたが、その後は仕事に逃げていたこともあり、余裕はある。
「自分は奴隷だから、なんてのは無しだぞ? もう君は、俺の妻だろう?」
「はぅ……っ♡」
先日のセックスでは勢いで頷いたが、素面で言われると恥ずかしいらしい。
妖魔界だと肉体関係があっても、一夜のことか妾がせいぜいであり、正式に『妻』と呼ばれると、お姫様のような気分になるそうだ。
それはさておき、大事なのは次の一点。
妊娠したシーアが、人間界に留まるか否かである。
「俺にとっても危険な妖魔界が、子供にとって安全ということもないはずだ。
無理強いはしないが、人間界で産むことも視野に入れて、ご家族と相談させてくれないか?」
シーアは、真剣そのものといった藤次に抗しきれず、
「……手紙で、家族に伝えます」
愛されていることをひしひしと感じて顔を赤くしながら、頷くのだった。
「じゃあ、夕飯にしようか。今日は俺が作るから、シーアは座っているように。ほら、膝掛けだ。身体を冷やさないように」
「だ、旦那様っ? まだ身動きに不自由するのは先ですからっ」
すっかり過保護になった主人から仕事を取り戻すべく、シーアは説得を試みるのだった。
○
「惚気か!」
ニナが思わずツッコミを入れた。
「いい旦那様でよかったわぁ」
ユスティネは安心したように手を合わせるが、シーアの悩みの本題はそちらではない。
「惚気かはともかく……二人は、どう思う? 故郷に戻るのか、人間界か」
問われた二人は顔を見合わせると、ニナの方から迷いなく答えた。
「どうって、帰郷した方がいいに決まってるでしょ?
人間界の、特に日本の育児環境とか頭おかしいし」
これはネットの聞きかじりではない。
子供は一族総出で育てる妖魔界からすれば、父母だけで子育てしようという核家族社会は愚の骨頂だ。親族のしがらみといった目先のものを面倒臭がり、より大きな苦労に自分を追い込んでいる気がしてならない。
母親の育児負担だの家計収入だのといった議論には、そもそも『一親等より遠い親族と助け合う』という発想が欠けている。
あくまで妖女の感性によるものだが、この国は出産育児に向いていない。
「確かにそこは気になるけど、私は人間界で産むのもありだと思うわ」
ニナとは逆の意見を出したのはユスティネだ。
シーアとニナが視線で理由を問う。
「シーアの旦那様の話にもあったけど、人間界の医療技術は捨てがたいわ。
私たちの故郷なんて、いまだに産婆や祈祷師よ?」
「う、確かに……」
故郷の文明が遅れていることは、ニナもユスティネもシーアも、日々感じている。
「なにより、私たちの実家はどこも新体制派に睨まれてるのよ?
そこに妊娠したシーアが帰郷して、見逃してもらえると思う?
産まれた子が女の子ならともかく、男の子だったら……」
「っ!」
シーアは反射的にお腹を押さえた。
男の子だったら? 決まっている。支配者は産まれた直後にぶんどって行くだろう。
下手をすると、もっと過激な手段に訴えてくるかもしれない。
「残念だけど、リスクの大きさで言うなら、妖魔界の方が危険だと思うの」
異論は出ない。
日本も日本だが、故郷も故郷だ。
二つを比較すれば、ダイレクトに命を危険に晒されない側が、断然いい。
「一度ご実家の方をお招きして、膝を突き付け合って話す必要はあると思うわ」
ユスティネの言うことももっともだ。
シーアも必要はあると感じていたが、藤次やユスティネも同意見だと分かり、気が固まった。
「なら、実家の代表者に来てもらって――」
シーアが計画を立て始めたとき、ユスティネの首輪から小さな音がする。
「ああ、ごめんなさい」
奴隷の首輪だが、音が鳴っているのは通信魔法の呼び出し音だった。
最近の通信機器は、魔法の技術が流用されたものだと、指輪サイズにまで小型化できる。
シーアたちの場合は、奴隷の首輪に最低限の連絡機能がついている形だ。
「ユスティネです」
ユスティネが首輪に軽く指を触れさせると、通話が始まる。
装着型の媒体は骨伝導であることも多く、相手側の声はシーアたちにも聞こえない。
「大家さんですか? ええ、ニナも一緒です。え?」
ユスティネが目を丸くする。
察するに、住んでいるアパートの大家からの連絡らしい。
ニナも一緒だというのは、二人がルームシェアをしているからだろう。
ユスティネの表情に不穏なものを感じて、ニナも注視している。
「――アパートが、全焼した?」
青ざめたユスティネの言葉に、シーアとニナも目を見開くのだった。
○
「それは、とんだ災難だったな……」
帰宅後、藤次はシーアから事の次第を聞いていた。
神妙な顔で「お話があります」と言うから何かと思ったら、親友が住まいを焼失したらしい。
原因は住人の失火。
妖魔界では魔法が発展しているため、電気やガスといったものに不慣れであり、人間界に来て日が浅い妖女はそういう事故を起こしやすい。
「はい、つきましては――」
シーアは座っている藤次の横に立ち、勢いよく頭を下げる。
「いいよ」
「彼女たちを、この家にっ――え?」
シーアが頼みの言葉を口にする前に、藤次は答えていた。
「次の住居が決まるまで、宿を貸してほしいってことだろう?」
「そ、そうですが……その、旦那様? よろしいのですか?
自分で言っておいてなんですが、これはあまりにも、奴隷として度を超えた頼み事で……」
そこは、普段から寛容な藤次も否定できない。
シーアは藤次が雇っている家政婦であり、その友人が住む場所に困っているからといって、家に上げてやる義理はない。常識的に考えて、ホテルに泊まれと言う。
「その様子だと、新居を得るまで時間が掛かりそうなんだろう? ホテルも高くつく」
「はい……」
昨今は、地球の十倍とよく言われる妖魔界から、膨大な妖女たちが訪れている。
集合住宅も宿泊施設も大抵が満室、事前の準備もなく雨風を凌ぐのは一苦労だ。出稼ぎ労働者であるシーアたちの懐事情にもよくない。
「それに……籍はまだだが、君はもう俺の妻だ。妻の親友なら助けるのが当たり前だ」
「っ♡ あ、ありがとうございます……っ!」
頬を染めて頭を下げるシーアだった。
「というか、外は雨じゃないか。その子たちはいまどこに?」
窓の外を見ると、夕方頃から振り始めた雨が、結構な雨量になっている。
「近くに待たせてあります」
準備がいいというか、本当に他の手段がなかったらしい。
シーアが首輪の通信機能で連絡すると、彼女の親友たちが姿を現した。
「ユスティネと申します」
「……ニナです」
かくして、藤次は二人の妖女と出会う。
「初めまして。大変だったね。どうぞ、椅子に座ってくれ」
どちらもシーアと同じ褐色。
長身で豊満で金髪な方がユスティネ、細身で黒髪な方がニナというらしい。
「このたびは、恥知らずなお願いを聞いていただき、ありがとうございます。西条様」
「……どうも」
ユスティネは鷹揚な態度で一礼するが、ニナは妙に硬い態度で目礼するだけ。
積極的に口を開いたのはユスティネだった。
「決してご迷惑はお掛けしません。
次の新居が整うまでの間だけでも、どうか宿をお貸しください。
それこそ、寝起きは台所の隅でも――」
懇願するユスティネの言葉を聞いて、藤次は小さく吹き出してしまった。
「ああ、ごめん。いつぞやのシーアと同じことを言うものだから」
「だ、旦那様っ!」
雇った当初のシーアも、部屋なんか使わず台所の隅で寝るとまで言っていた。
思い出したシーアも赤面している。
こうして他人がしているところを見ると、自分が何を口走っていたか分かるのだろう。
「楽にしていいよ。いきなり住んでる場所が火事になって、無理な相談かもしれないけどね」
彼女たちの経緯を考えれば、態度を責めるのも酷というもの。
こちらを探るように睨んでくるニナにしても、いきなり知らない男と同居することになった少女としては正当だ。
「恐れ入ります。シーアから聞いていた通りのお方ですね」
「へぇ、シーアはなんて?」
ユスティネが少し緊張を解いた様子で微笑むと、シーアが焦り始める。
「聞いたこともないほど立派な紳士だと」
「おや、本当かい? 悪口を言っていたとしても怒らないよ?」
「言ってませんっ、旦那様の悪口なんて脅されても言えませんからっ!
もうっ! 意地悪しないでくださいませっ!」
隣のシーアが藤次の肩を揺する。
ユスティネとニナが目を丸くしている。
奴隷として、というか妖女が男性に接するものとして、目を丸くするくらいには失礼なのだろう。
それが許容されるくらい親しい関係であることが、二人にも伝わったようだ。
結果的にそれが、二人の緊張を解くことにも繋がった。
「とりあえず、部屋は余っているから好きに使ってくれ。
シーア、俺のことはいいから、二人に必要なものを揃えてあげなさい」
「かしこまりました」
命じると、気を取り直したシーアも一礼する。
なにせ留守中に家が全焼したのだ。ユスティネとニナは、それこそ身ひとつの家なき子だろう。
だからシーアへの命令には、「俺の金で最低限のものを買ってもいい」という意味を含んでいる。
二人に気を遣わせないため明言しなかったが、シーアもそこは汲み取ってくれていた。
それは既に、息の合った夫婦、または主従の姿である。
「「…………」」
ユスティネとニナは、そんな二人を呆けた顔で見ていた。
驚いたような――それ以上に、羨ましそうな顔だった。
○
藤次の住むマンションは、それなりに立派だ。
元妻の強い希望で、それなりの階数と部屋数のあるマンションに住んでいる。
離婚後はすっかり閑散としていた間取りも、このたびユスティネとニナを住まわせることになり、空き部屋たちも存在意義を果たせる日が来た。
しかしユスティネもニナも、一人一部屋という待遇は流石に遠慮して、空き部屋のひとつを二人で使うことになった。
そうして夜になり、二人が部屋で休んだ頃――
「んっ……ちゅっ♡ ……んっ♡」
いつものように、シーアは藤次の寝室に裸身を晒していた。
ベッドの上に座った藤次の上で、同じ方を向く背面座位となったシーアが、ゆっくり腰を動かす。
首は後ろを振り返り、背後の藤次と舌を絡め合っていた。
「ぷぁ♡ 旦那様ぁ……私、大丈夫ですから。もっと、動いて、いいですからぁ♡」
「駄目だよ。子宮に負担を掛けるわけにはいかない。ポルチオの手前までで我慢しなさい」
いつもは子宮を押し潰す巨根が、今夜は寸前までで止められている。
シーアが自分から腰を落とさないよう、奴隷の首輪でそれを禁じられてさえいた。
「んぅぅぅっ♡ 優しい♡ 優しいの嬉しくてっ♡ ああぅぅぅっ♡」
奥まで届かなくても、膣道の性感帯だけで、小刻みに達している。
それでもシーアは物欲しそうに腰をくねらせ、より強い快感を得ようとしていた。
「旦那様、我慢してる。私、奴隷なのにぃ、我慢させちゃってるぅ……っ!」
「そんなことを気にするな。ほら、ここも好きだろう?」
藤次はシーアのスポットを擦りながら、乳首を軽く抓って苛めてやる。
「ひゃうっ♡ ああそんなっ♡ 私っ、旦那様にぃ♡ いいとこ、擦らせてっ♡
これじゃっ、逆ですっ♡ また立場が逆ですっ♡」
「ああ、今日は俺の方が奉仕してやるから、たっぷりイキなさい」
「だめっ♡ そんなのだめっ♡ 旦那様にそんなことさせちゃだめなのにぃぃぃっ♡」
シーアは奴隷の信念に反するセックスに、背徳感を覚えてしまっているようだ。
それが力強さの不足を補い、両頬を押さえたシーアは、緩いが長々とした絶頂に陥っていく。
「ああっ♡ すごいのぉ♡ こんなイキかた、初めてでしゅっ♡
ごめんなさひっ♡ 旦那様のお手を煩わせてっ、幸せイキしちゃいましゅぅっ♡
んあっ、あああ、あっあっあっあっあああぁぁぁっ♡♡♡」
せっかく負担を小さくしようとしていたのに、シーアは全身を激しく痙攣させいる。
「こら、声を殺すんだ。お友だちに聞こえるぞ?」
「ふぅっ♡ んんんっ♡」
シーアは涙目になりながら、片手で口を押さえる。
つい普段と同じように喘いでいたが、今日はすぐ近くの部屋にユスティネとニナがいるのだ。
「だんな、しゃまぁ♡ 声、我慢、できましゅから♡ もっと、いじめてぇ♡
いつもみたいにぃ♡ 旦那様の、逞しさ、感じたいんです♡
お尻でも、お口でも、いいですからぁ♡」
「わかったわかった、後でイラマチオしてやるからな」
藤次はまだ達していないが、妊婦に無理はさせたくない。
ここしばらくの夜は、こういった愛情重視のスローセックスばかりだった。
○
当然――別室のニナとユスティネは、情事に気付いていた。
「っ――ぁ――っ――♡」
という程度に、シーアの声が漏れ出ている。
扉を少し開けて覗き見、などという真似は流石にしていない。
二人で同じベッドに入り、耳をそばだてているだけだ。
「「…………」」
ニナもユスティネも、褐色の肌を赤くしながら、必死に息を殺している。
物音の一つも立てまいと、身動きすらしない。
お互いが起きているのかどうかも頭にない。
背中を合わせて横になり、寝たふりを決め込みながら、目を大きく見開いて耳をそばだてる。
((シーアが……『女』してる……っ!))
どちらも、こうして肌で感じるまで、実感がなかった。
ユスティネにとってもニナにとっても、シーアは妹分、真面目で純粋なところが心配になる子だ。
それが――あっという間に自分を追い越していった。
男性を獲得することを、その経験がない女性と比べて優れているとするのは暴論かもしれない。
しかし、他人と己を比較してそういう強い感情があったら、それは真実である。
(いま、シーアが……西条様と……)
ユスティネの頭を締めるのは、シーアというより、藤次のことだった。
いい匂い――だと思った。
妖女にとってそれは、相性がいいということ。
少なくとも肉体的には――セックスしたいと思っていた。
(あの、お優しそうな方に……抱いて、もらって……っ)
ユスティネは男を知らない。
妖魔界にいた頃には、約束した男がいた。
約束と言っても結婚ではなく、一夜妻となって子作りをする約束だ。
相手側からすれば、日替わりで相手することを義務づけられた『妊娠希望者』に過ぎない。
その事前顔合わせで、淡泊な対応をされたのが、唯一の男性経験である。
(声が、だんだん、大きく……荒々しく、されてるんだ……っ!
身体に、夢中になってもらって……逞しく、突かれて……っ♡)
約束した男とは、内戦の勃発で二度と会えなかった。
ユスティネの属していた旧体制派の家々は、途絶えさせられるか飼い殺しとなり、男は新体制派が連れて行った。
その男性とのたった一夜のため、作法や手管を学んできたことも、全て無駄になった。
妖魔界における『負けた女』の典型と言える。
(達するの? 殿方の手で上り詰めさせられるのは別次元だって言うけど……本当、なんだ……)
ユスティネは自慰しか知らない。
妖女は成長過程で処女膜を失い、ディルドでのオナニーも嗜むが、それだけだ。
男の手、分厚い身体、生きた逸物を知らない。
一度それに触れたが最後、妖女の本能が爆発するのだということだけ聞いている。
『いい匂い』がする男性ともなれば、人生が変わるのだとも……
(いい、なぁ……♡)
ユスティネは自分の嫉妬心を、微苦笑しながら受け止める。
手はいつの間にか、乳房と股間に伸びていた。
――そのすぐ隣では、
(だめ……だめ……だめっ!)
ニナが、ユスティネ同様、発情していた。
ただし、発情しているのは身体だけで、頭はもう少し複雑だ。
(シーアが……男に、弄ばれてる……っ!
どうしよう、止めなきゃ……ああでも、二人は恋人で、夫婦で……でも……っ)
ニナの家系は、禁欲的だった。
人間界でもそうだが、自分の欲を律せよという宗教や思想はあるものだ。
厳格な家に育ったニナもその一人。
妖魔界におけるスタンスの一つとして、家に複数の子がいた場合、『仕事を継ぐ者』と『子供を産む者』に分けられたりする。
ニナは『仕事を継ぐ者』であり、人生設計に男性との関係を予定していない。
約束された独身貴族、異性に関するストイックな姿勢は修道女にも近い。
しかし、それも人間界に渡るまでの話。
実家は衰退し、ニナは奴隷落ち。
あわよくば人間界で男の寵愛を受けて子を持ち帰れと、人間界に送り出された。
(そんなの、嫌……男なんて……私は、男になんて……っ!)
ニナも妖女だ。性欲はあるし、自慰もする。
西条藤次という人間も嫌いじゃない。感謝だってしている。
それでも――
(セックスなんて……しないっ)
これは藤次への拒否感というより、現実そのものへの抵抗である。
少し前まで、望んでも男を得られない『仕事用』の人生を送らされてきたのに、ある日から突然、奴隷に落ちて男に媚びを売ってこい――そんなものを突き付けてくる故郷に対する抵抗だ。
平たく言えば、意固地になっているのだ。
(聞いちゃだめ……想像しちゃだめ……あの男に、抱かれるなんて……っ)
それでも、本能は思考を支配しに来る。
追い詰められた状況で出会った、聖人のように慈しみある男性。
妖女の嗅覚はYESと言っており、シーアの妊娠を知って女の本能も刺激されている。
(私は……絶対、しないんだから……っ♡)
たった一つ、年相応のちっぽけな意地に、ニナはしがみつく。
思わず自慰をしそうになる手足を必死に押さえ込み、内股を擦りながら息を荒げる。
ニナを狂わせるシーアの艶やかな声は、まだ鳴り止まない――
○
「はぁ……はぁ……旦那様ぁ♡ ありがとうございます」
「こちらこそ。無理をさせて済まないな」
「無理だなんて……♡」
事後――シーアの膣内を楽しんだ藤次は、最後は口で抜いてもらい、息を吐いていた。
妊婦への膣内射精は感染症の可能性があるので、エロ漫画だけにすべきである。
「旦那様、ご不満ではないですか? あんなに、その……お優しいのは、嬉しいですけど……」
「まだ言うのか? それとも、シーアの方こそ物足りないんじゃないか?」
「そ、そういうわけでは……」
藤次の腕枕で横になりつつ、シーアはごにょごにょと口ごもる。
物足りないとは言わないが、もどかしさがあった。
(旦那様が、私に飽きてしまわれたら……)
シーアはそう思わずにいられない。
相手が妊娠した途端に興味を失い、次の女へ――というのは、妖魔界男性の特徴だ。
子作りノルマを課せられている彼らを責めるのも酷だが、正妻以外の扱いは淡泊である。
(旦那様に、ご不満なんて、抱かせたくないのに……っ)
同時に、シーアはこうも思うのだ。
自分は、この人に何をしてあげられるのだろう。
こちらは奴隷から妻にまでされたシンデレラだというのに、家事と夜伽しか返せていない。
いずれ身重になれば、それもできなくなる。
だからせめて、セックスだけは……何一つの不満足をさせたくないのだ。
「…………」
「シーア?」
押し黙って考え込むシーアに、藤次は声を掛ける。
シーアは思う。
決して、この人を逃してはならない。
女として、彼に置いて行かれたくない。
藤次はそういう不義理をしないと分かっているが、万に一つの不安さえ潰さなければ安心できない。
シーアにしては昏い、女としての執念のようなものが、彼女の目の色を変えさせる。
「旦那様……」
そしてシーアは、思えばすぐ傍にあった『妙案』に辿り着く。
自分一人が、献身的な奴隷になるだけでは足りない。
自分だけが、この身体を好きにさせるだけでも足りない。
この敬愛すべき主人に、全てを捧げても、まだ足りないなら――
「ユスティネとニナを――どう思われますか?」
親友たちを捧げるくらいのこと――なにも悩むことはなかった。
ご一読いただきありがとうございました。
ハーレムの下準備回でした。
エロシーンは後編でがっつり入れていきます。
※誤字報告くださいました方々、
作者でなければ気付かないようなとろこまでご指摘いただき、
いつも感謝です。