誘惑禁止条例 ※性犯罪被害は条例違反にあたらない 作:大中小太郎
プロローグ
妖魔界と人間界は結ばれた。
男性が滅多に産まれない妖女たちと、男性が有り余っていた人間たち。
見目麗しく好色な妖女と、倫理に抑圧されていた男性は、風紀の乱れを巻き起こした。
【――〇〇県××校教員、生徒との不適切な関係で停職――】
生徒と校内でわいせつな行為に及んだとして、男性教員(27)が停職となっていたことが明らかになった。教員は妖魔界からの留学生である女子生徒と関係を持ち、不審に思った生徒が他の教員に相談したことで発覚。聞き取りが行われたところ、教員は「魔法で正気を奪われた」と供述しているという
【――都内の公衆トイレで『性交渉禁止』の張り紙、相次ぐ――】
都内の公衆トイレに「トイレでの性交渉はご遠慮ください」と書かれたポスターが一斉に張り出された。昨今、公衆トイレで男女が行為に及ぶ事案が多発しており、本来の使用目的を妨げていることが指摘されていた。ただ、行為に及んだ男性には性的暴行の被害を訴える者も多く、警察が対応に追われている
【――電車内で集団性交、留学生ら書類送検――】
〇〇線の車内で性交渉を行ったとして、妖魔界人の留学生ら12人が、わいせつ物陳列罪などの容疑で書類送検された。留学生らは終電の車内にいた乗客の男性ら3人とわいせつな行為に及び、一部の留学生がその様子を動画に撮影しSNSに投稿。動画を見たユーザーからの通報により場所や人物が特定され、事件が発覚した。留学生らは「酔っていた。一度試してみたかった」と供述しており、乗客の男性らは「誘惑された。顔見知りではなかった」と被害を訴えている。
こういったことを防ぐため、各自治体で施行されたのが――誘惑禁止条例。
骨子は、妖女が男性を発情させ意のままに操るために使う『誘惑』を禁じたものだ。
しかし魔力的な『誘惑』と、普通の意味での誘惑が混同されており、対象は妖女に限定されず人間女性も含む。
結果――『女は男を誘ってはならない』という、婚前交渉を禁じるような条例となってしまった。
【コラムニスト「誘惑禁止条例、個人の自由を侵害」】
【〇〇県知事「適用は慎重に判断」】
【弁護士「人間女性も対象になる」】
【入管「前科があれば参考に」】
【医師「魔力作用の痕跡、証拠としての確認は困難」】
【警察「合意の男女を第三者が嫌がらせで通報」「男女双方が被害を主張することも」】
議論は様々だったが、いずれにせよ、妖女たちには効果覿面だった。
下手をすれば人間界から追放されてしまうことを怖れ、誘惑禁止は妖女の鉄則となった。
【ボーナスタイム終了のお知らせ】
【やっと規制されたか】
【女性がセックスするのを禁じるとか宗教ガチ勢か?】
【「合意があれば違反じゃない」のに「合意したら誘惑なので違反」という矛盾】
【どんどん逮捕しろ】
【スカートの丈が短いから逮捕とかそんなレベル】
【これほど女性の自由を侵害する条例も無いのに、人間女性が歓喜してるのひどい】
【条例可決した奴らもヤってんだろ】
【夫婦でも恋人でも条例違反にできる恐怖政治レベルのクソ条例】
しかし、人は欲から解き放たれない生き物だ。
誘惑禁止条例に付記された、たった一文が、妖女たちの色情にとんだ免罪符を与えてしまう。
――性犯罪による被害は、条例違反にあたらない――
【急募、男性に襲ってもらう方法】
【当ててけ】
【はい誘惑】
【実家に媚薬を送ってもらえば】
【一緒に寝よう、でよくない?】
【誘惑です】
【夏なら正当な理由で露出できる】
【キスは?】
【それで通報されたカップルいるぞ】
【二人きりなのは最低限】
【暗黙の了解を作るんだよ。これしたら襲っていいのサインみたいな】
妖女たちは考えた。
男に対しては、縁談を結ぶか自分から迫るかしかなかった彼女らが、知恵を絞った。
皮肉にもその方向性は、人間女性が用いてきた「男を自分に迫らせるテクニック」だ。
条例によってセックスそれ自体を禁じられた妖女たちは、今日も「被害者」になる方法を探求している。
これは、そんな時代に生まれ育った少年少女たちが、若さ故に『過ちを犯す』日々を描いた物語である。
ご一読いただきありがとうございます。
新編スタートです。
ピンクハザード時代も見たいという声もあったので、
端的にですが挿絵と記事風に触れることにしました。
第一話も同日更新しております。