誘惑禁止条例 ※性犯罪被害は条例違反にあたらない 作:大中小太郎
クラスカースト。
見たい人間にだけ見えると噂の、教室内における生徒たちの格付け。
顔や成績や性格の良し悪し、体育会系か文系か、交際相手の有無、実家の太さや趣味の心証。
その集団を構成する人々が持つ物差しを掻き集めて、総合得点がどの程度かを問う概念だ。
では――妖女の多いこの学園では、どうだろうか?
もちろん、妖女の物差しによるランキングが発生する。
数少ない男性を争奪する妖魔界では、そういうカーストの高い者ほど子種を獲得してきた。
人間界に留学してきている妖女たちの間にも、それは厳然と存在する。
人間と同じ物差しで決まることもあるが、妖女らしい基準もある。
彼女――イーリスを教室の頂点たらしめるのは、『魔力』だった。
〇
妖魔界の競技に、魔剣術というものがある。
剣道やフェンシングと同じく、クリーンヒットを取る競技だ。
肉体を強化する魔法と、魔力で発光する剣による、SF映画風のチャンバラは、見応えも抜群だ。
雪代龍斗の通う学園には、そんな魔剣術で全国を連覇するほどの猛者がいる。
「遅い! 反応も! そして判断も遅い! 体だけを鍛えれば剣で勝てるとでも思ったか!」
その名はイーリス。
長い金髪と勇ましい声音に、起伏豊かな長身の獣人系の妖女。
正にファンタジー世界からやってきた女騎士そのものであり――
「集中力が短いぞ! 三合目から先の太刀筋がなまくらだ! バレればつけ込まれるぞ!」
「蹴り足が鈍い! 初動も露骨! カウンターを取ってくださいと言うようなものだ!」
「遠心力を乗りこなせていないぞ! 一度でも空振りしたら隙だらけだ!」
部員への指導が、手厳しい。
「うわぁ、部長ってば相変わらず鬼だなぁ」
「保護魔法が緩衝材になってるとはいえ、刃が無いだけでマジの剣だぜあれ」
男子部員から、イーリスの剣術への畏怖が口にされる。
叩き伏せられては悲鳴を上げる女子部員たちへの同情もあった。
魔剣術の剣が光るのは、熱で斬れるとかではなく、格闘技のグローブと同じ保護目的だ。
リアリティを追求して本物同然の剣を使い、保護魔法と薄手の防具で怪我を防ぐ。
それでも痛いもんは痛いので、剣道などと比べて殴り合いの要素が強い。
「はい、こっちも余所見しない。打ち込みもう1セットっ」
「「押忍っ!」」
さて、そんなイーリスから視線を外させたのが、副部長の雪代龍斗だ。
中肉中背で平凡な顔付きだが、魔剣術の戦績ではイーリスに次ぐ。
魔剣術部は男女混合、そのうち女子は部長のイーリス、男子は副部長の龍斗が指揮していた。
「朝練はここまで。地区大会も近い。悔いを残さぬよう精進せよ。解散っ」
「「「ありがとうございましたーっ!!」」」
部員たちが一斉に頭を下げて、その日の朝練は解散となった。
〇
学園最強の妖女――イーリスはそういう勲章を持つ生徒だ。
自然と教室内でも、彼女の存在感は大きなものになる。
「おはよー、イーリス」
「ああ、おはよう」
龍斗が朝練を終えて教室に入ると、自分ではなく隣のイーリスに注目が集まる。
練習着から制服に着替えた彼女は、颯爽とした金髪ポニテの美少女と化す。
制服は折り目正しく着ているが、シャツとブレザーの上からも分かる巨乳と、スカートを軽く持ち上げる豊満なヒップは隠せてない。
女体としても圧巻、鍛えられた手足は凛とした歩みを生み、モデルがショーを闊歩するかのよう。
「イーリス様、ご機嫌麗しゅう」
「ああ、おはよう。様付けは不要だ、妖魔界と違ってこっちに身分も貴族も無いのだから」
貴族系の妖女が挨拶をすると、そのように返答している。
彼女は妖魔界出身であり、その実家は古式ゆかしい騎士貴族。
ご先祖様は戦場で一騎当千したりしていたらしく、妖魔界の同国出身なら知らぬ者なしだそうだ。
「起立、礼、着席」
当たり前のように委員長なので、SHRでも号令を掛ける。
よく通る声は、教室に驚くほどの一体感を生み出していた。
こういう、無意識にでも従ってしまう人物なのだ。
だから、文句なしの、クラスカースト第一位。
この教室は、彼女を頂点にすることで成り立っている。
――考えすぎ? ならこう質問してみよう。
彼女のような人間に『勝てる』と言える学生が、どのくらいいる?
容姿端麗で武芸に通じ、実家は太くて性格は誇り高い、部長など高い地位から人を率いるのが上手くて、当人は努力を欠かさず結果を掴み取っている。
そんな完璧超人に、『自分は勝ってる』と言い張れる学生なんて、普通いない。
クラスカーストは常に他者からの評価で成り立つ。
故に、クラスの全員が『あれは自分より上だ』と認識する生徒がいたら、それはカースト一位に他ならないのだ。
そんな彼女に、肩を並べられる人間がいるとしたら、それは――
たった一つ、何か一つでも、彼女に勝てる要素を持っている人間だけだ。
「へぇ、妖魔界だとそんな人数で団体戦するのか……」
「そう、もう合戦なんだよ? しかもその勝敗で領地同士の揉め事に決着を付けたりするの」
「なんかそれ、実質戦争じゃないか?」
「実質もなにも競技化されただけの戦争だよ。
主に、どっちの領主がお婿さんを迎え入れるかで行われるの」
「男を巡って戦争するってそういうことかよ……」
一日の授業が終わった後、龍斗は少し教室に残って、クラスメイトと雑談していた。
話題は妖魔界で起きるという『男を巡った戦争』、話しているのは妖魔界からの留学生だ。
彼女も流石は妖女と言うべき容姿とスタイルだが、幸か不幸か彼氏がいる。
別に龍斗が狙われているわけでも、他の男子が標的になっているわけでもない、普通の雑談だ。
「雪代……」
しかし、イーリスの据わった声が聞こえた時、一同はビクゥっと震え上がった。
話していた妖女子などは、死神に肩を叩かれたような顔色だ。
「何をしている、部活の時間だ。地区大会を前にして余裕だな?」
「ああ、ごめんごめん、すぐ行くよ」
人を殺せそうな眼光にクラスメイトがチビりかけているので、龍斗は荷物をとる。
「じゃあ、また聞かせてくれ」
「あ、うん、生きてたらね……」
誰が死に瀕しているのかは聞かないことにした。
「練習試合だ! その弛んだ精神をたたき直してくれる!」
練習場につくなり、競技用の剣を突き付けて決闘を申し込まれた。
こいつは往年のライトノベルに出てくる武士道娘か何かなんだろうかと、たまに思う。
「部長と副部長がやるぞーっ!」
「ジュース一本からなっ! 賭けろ賭けろっ!」
「誰か戦績を覚えてないかっ?」
「だいたい五分だったはずだっ」
部員達が騒ぎ出し、俺が断る余地は失われた。
「まあ、いっか。俺も部長が相手だと気が引き締まるし」
男子用の練習着と練習剣を持って、舞台に上がる。
魔剣術はしっかり男子と女子で別なのだが、練習ならよくあることだ。
「雪代――」
両者ともに準備を整え、慣例としてお互いの剣の安全装置をチェックする。
この間、選手は間近で顔を見合わせることになり、そこを狙ったイーリスが、小声でこう言った。
「……本気で、いいですからね?」
練習着の中が別人になったかのように――淑やかで艶やかな声が聞こえた。
〇
妖女は、人間の女性よりも頑強だという。
ホルモンや筋繊維の違いによるもので、運動競技では人女よりも明確に高い勝率を叩き出す。
それでも同じ『女子』で競い合わせることに問題提起の声はあるが、今回はそこではない。
優れた肉体に加えて、魔力による肉体の強化が加わる。
これが入ると、持久力など一部のスペックで、強化無しの男性にも勝る。
人間界の一般競技では、妖女の魔力強化を禁止せざるを得なかったほどに。
魔剣術は妖魔界の競技だ。
よってイーリスは遠慮無く、ハイスペックな魔力と肉体を活用できる。
――しかし、魔力は妖女の特権ではない。
魔力は人間でも育つ。
その方法は魔力と密接な状態で運動することであり、例えば妖女と一緒にスポーツをするだけでも、男女問わず魔力が育つ。
蛇足ながら、人間男性と妖女がセックスする際にもこの条件を満たすため、『魔力を増やす方法は妖女とセックスすること』というデマまがいの情報が広がった。
話を戻して――男性でも魔力は得られるし、魔法は使えるのだ。
では、『魔法を使う妖女』VS『魔法を使う男性』の勝敗は?
「ふぅ……勝ったぞ」
「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ!」
答えは――『魔力による強化率が同じなら、元の肉体で勝る男性が勝つ』。
つまり、単純な男女の体力差が戻ってくる。
妖女であっても女子は女子、男性に真っ向からは勝てないのである。
「部長が負けたかぁ」
「やっぱ男子と女子だもんね」
「いやでも凄い試合だった!」
「部長、かなり打たれてたけど、大丈夫か?」
「副部長も容赦ねーなー」
「試合なんだから当然だよ」
部員たちの盛り上がる声に囲まれる中、龍斗とイーリスはスポーツマンシップに従い、一礼して握手を交わす。
そのときも、龍斗にだけ、イーリスの声が聞こえた。
「……負けてしまいました♡」
まるで『あなたの方が上です』とでも言うように、甘い囁きを残していった。
〇
龍斗は学生寮に住んでいる。
正確には、学園生徒専門アパートといったところだ。
だから男子寮や女子寮といったものはなく、男女が隣部屋だったりもする。
(防音魔法の魔石は……よし、切れてないな)
龍斗は部屋の窓や壁に貼られている防音魔法具をチェックする。
魔石は電池のようなもので、これが『途中』で切れてしまうと大変だ。
ピンポーン――と、部屋の呼び鈴が鳴らされる。
龍斗は誰が来ているのか確信しながら、玄関を開いた。
「…………」
「よう」
訪ねてきたのは隣部屋に住んでいるイーリスだった。
学校から帰り、制服から着替えることもなく、その足でやってきたのだろう。
薄く微笑んだその頬は朱が指しており、首筋からフェロモンが漂ってくるように思えた。
「入れよ」
「……お邪魔します」
言葉少なに、イーリスは入室する。
いつも威風堂々としている彼女らしくない、淑やかな声だった。
龍斗はいまさらそれに驚かず、イーリスが靴を脱ぐ間に扉を閉めて、しっかり鍵も施錠する。
カチャン! という音を聞くと、イーリスの肩がぴくっと震えたように見えた。
男と部屋で二人きり、鍵を閉じられ、誰も来られないし逃げられない――
そんな状況を、施錠の音で強く認識してしまったのだろう。
龍斗はそんな彼女を可愛らしく思いながら、靴を脱いで廊下に上がった彼女の背後に立つ。
――ある一人の部員が、イーリスにこう問いかけたことがある。
『部長と副部長、同じ寮なのに、いつも別々に帰るんですね?』
――イーリスはこう答えた。
『ああ、決して不仲なわけではない。
ただ、まあ、噂が立つかもしれないだろう?
部内の空気が浮ついてしまうのは避けたいからな』
真面目なんですねぇ……と、部員は感心していた。
日頃の行いというべきか、それ以上の邪推をする者は居なかった。
――そんなことを言いながら、実は付き合っているのでは?
という真実に行き着く者は、いまのところ居なかった。
「んんっ♡ ちゅっ♡ ぢゅぅっ♡」
背後からイーリスを抱き寄せた龍斗は、首だけ振り返らせて唇を奪う。
舌をからませ、唇の内側を舐り上げる。
「んぐ♡ ちゅぅ……れろ♡ はむっ♡」
背後から襲われるように強引なキスを、イーリスは拒まない。
潤んだ半目で龍斗と見つめ合いながら、無抵抗に龍斗の唇と舌を受け入れている。
「あっ♡」
龍斗は腕の中で彼女の体を振り向かせ、正面から向き合うと同時に、壁際へ追い込む。
逃げられない――と強く感じさせる迫り方に、イーリスは背筋を震わせながら、龍斗の体を抱き返した。
「んっ♡ ふぅ……っ、はぁ♡ ちゅっ♡」
甘く漏れる吐息は熱っぽく湿り、両手は互いの感触を求めて背や腿を撫でる。
龍斗のキスは秒刻みで激しくなっていき、イーリスの首筋を掴んで唇を貪る。
イーリスはそんな強引さにも嫌がる素振りはなく、むしろ自ら進んで舌を絡めてくる。
「んむ♡ ちゅぅ♡ れるるっ♡ ぷぁ……っ」
ようやく、龍斗が息継ぎのために口を離すと、イーリスも呼吸を許された。
「はぁ……はぁ……もう……♡」
荒い呼吸を落ち着かせたイーリスは、唾液で汚れた唇をぺろりと舐めると、魅惑的な微笑を浮かべて――
「
人が変わったような、貞淑な声音だった。
武士道娘が大和撫子になったような、男性を目上のものとして扱う態度だった。
「今日、痛かったか?」
龍斗はイーリスを優しく抱擁しながら、今日の練習試合で打った場所を撫でる。
「あ……♡ 大丈夫、です♡ そんなに、痛くは……」
「やっぱり痛いんじゃないか。痣になってないか?」
「ない、です……少し、その……触ると、ちょっとだけ……」
体を気遣われていることを感じているのか、イーリスは嬉しそうに微笑みながら、言葉を選ぶ。
「ちょっとだけ……敏感になってる、だけですから♡」
陶然とした顔と、敢えて『敏感』という言葉を選んだ唇。
間違いなく、目の前の男をその気にさせようとする、女の姿だった。
「敏感?」
「んんっ♡」
龍斗は、優しい抱擁から打って変わって、締め上げるように抱き寄せる。
イーリスは腰から背中をキツく抱かれ、龍斗の体との間に胸が潰れ、体が浮いてつま先立ちに。
「そうだよな? イーリスは、痛いことされると興奮しちゃう可愛いドMちゃんだもんな?」
「んぁっ♡ やぁ……そんな、言い方……なさらないで……あっ、あぁ♡」
愛情と侮辱を同時にするような言葉と、絞るような抱擁に、イーリスの総身が震える。
「今日の練習だって冷や冷やしたぞ? あんな声を出して。部員にバレたらどうするんだ?」
龍斗の手がイーリスのヒップをスカート越しにまさぐる。
リング状の金具を通して出ている獣人の尻尾が、どこか艶めかしく龍斗の腕に絡み付く。
「だ、だって……龍斗さん、が……女子と、楽しそうに……」
「教室のあれのこと? 妬いてくれたんだ」
教室で女子と雑談していたとき、イーリスは不機嫌そうだった。
その後、強引に練習試合をして、敗北した。
「ふあっ♡ 龍斗、さぁん♡ そこぉ……少し、痛い♡ 龍斗さんにぃ、叩かれた、ところぉ♡」
痛みと快感が直結している性癖と分かったいま、その試合の意味は変わってくる。
「焼き餅を焼いたから、練習試合にかこつけて……俺に打たれて発情しちゃったんだ?」
「ふぅぅぅっ♡ ちがう、ちがうんですっ♡ そんな……剣を、冒涜するようなことっ」
龍斗はイーリスを抱き寄せたまま、ワンルームの奥へと連れて行く。
「ほら、この太股のあたりなんて。打ったときいい音してたよなぁ?」
「んぁんっ♡ そこっ♡ だめっ♡ あぅっ♡」
試合で痛打が入った太股を撫でると、過敏に声を上げるイーリス。
龍斗の手から逃れようと太股を上げれば、その足が男の体へ艶めかしく絡む。
「まったく、俺の彼女は変態さんだな。ちょっと痛いくらいが燃えるっていうなら分かるよ? でも競技用の剣で殴られたときまで感じちゃうとか、ちょっと普通のMでも驚くんじゃないか?」
「やぁ♡ そんなんじゃ、ありません♡ 龍斗さんが……龍斗さんが、雄々しい太刀筋で、私を、負かそうとするから……っ♡」
片足立ちになったイーリスはバランスを崩し、龍斗は彼女の背中を支えながら、ベッドに導く。
イーリスの言葉は続く。
「殿方の、大きな体と、強い力で……私を、屈服させようとする姿が……雄々しくて♡ 体が、勝手に♡ あぁんっ♡」
ベッドに押し倒されたイーリスは、覆い被さった龍斗に首筋を吸われてびくっと震え上がった。
「犯されるみたいで、興奮しちゃった?」
「っっっ……♡」
色気のある声音でからかわれたイーリスは、犯すというワードに赤面すると……こくりと、小さく頷いた。
その手が、金糸の髪を結ぶ紐へと伸びていく――
〇
――龍斗とイーリスがこんな関係になったのは、彼女が練習試合で初黒星を喫した日だった。
『その……雪代、さん……?』
『っ!? 部長? どうした急に……』
突然、隣部屋から訪ねてきたイーリスに、二重人格を疑うほどの楚々とした態度を取られ、龍斗は唖然としたものだ。
『ご、ごめんなさい。普段は、こうなんです……学園では、騎士として、侮られまいと……』
『そう、なのか……上品で、いいと思うけどな』
隠していた自分を認められたイーリスは、花が咲いたように笑うと、龍斗に半生を語り出した。
――妖魔界で騎士の家系に生まれ、女児たるもの強く気高く男を守れと鍛えられたこと。
――人間界へ留学したときも、いかなるときも家名に恥じるなと言いつけられたこと。
――生来の重責を果たすために強さを装い、剣では誰にも負けなかったこと。
『なのに私……あなたに、負けてしまいました……』
『それは、俺だって魔力が増えてきたし、男女の体格差が出てきたから』
人間界に育って魔力を知らなかった男子は、魔力競技で妖女に勝てない。
しかし男子が訓練を積んで魔力で並ぶと、体力差が現れてきて勝敗が逆転する。
この時代、スポーツの世界では毎日のように起きている現象のひとつに過ぎない。
『はい……衝撃的でした。ああ、やっぱり男の人には勝てないんだって……』
彼女にとっては初の実体験。
それは彼女の心に、当人が予想もしなかった感情をもたらした。
『あなたに敗北して……私、とても、ホッとしたんです……勝てなくてもいいんだって、男の人には、負けてもいいんだって……』
呼吸を洗えた彼女は、妖女の色香を部屋に充満させていた。
流石の龍斗も、そんな顔で男の部屋を訪ねてきた彼女の目的は、見誤らない。
『雪代さん……いえ、龍斗さん……もし、こんな女に、興味がおありでしたら……』
イーリスは、ポニーテールにしていた髪の紐を、しゅるりと抜いた。
長い金髪が広がって下ろされた姿は、口調のこともあって、一段と清楚可憐に見えた。
男の力で、いかようにもできそうな――
どれだけ嫌がっても、腕尽くで乱暴されてしまいそうな――
長年に渡ってひた隠しにしてきた
『いま一度……あなたの手で……』
自然と手を伸ばしたのは、どちらが先だったか。
龍斗の手はイーリスを抱き寄せ、イーリスの手は龍斗の顔を左右から包む。
そして、イーリスは目の前の男を、弱々しい笑みで見上げながら、こう言ったのだ。
『私を……屈服させてくださいませ♡』
しゅるり――と、イーリスの手が髪紐を解く。
それは合図だった。
龍斗とイーリスの間にある、暗黙の了解。
いつも結んでいる髪を降ろしたら、学園の女騎士然としたイーリスではなく、ただの小娘。
雪代龍斗によって負かされた、弱くて従順で淫らな恋人。
誘惑禁止条例によって、自分からはセックスに誘えない彼女が作った――襲ってほしいというメッセージだった。
「んあああぁぁぁっ♡ らめっ♡ 龍斗しゃんっ♡ あぎゅうっ♡ そんなっ♡ パンパン鳴らしながら突かないでぇっ♡」
早くも、イーリスの嬌声が部屋に響く。
ベッドの上で四つん這いになったイーリスは、ショーツ一枚の姿で龍斗の抽送を受けていた。
「しょうがないだろっ。お前の尻がでっかいから、こんなエロい音がするんだよっ!」
龍斗は敢えて粗暴に言いながら、サイズが大きいのに引き締まっているヒップを軽く叩く。
その瞬間、イーリスの全身がビクッと震え、尻尾が暴れ出す。
犬と同じように、嬉しそうに横振りされる尻尾が、龍斗の胸を悪戯するように叩いた。
「ああぅぅぅっ♡ そんなこと、ないでしゅっ♡ 私っ、エッチな体なんかじゃ――あぁんっ♡」
イーリスは顔をベッドに伏せ、両手でシーツを握り込みながら、龍斗のピストンに嬌声を発する。
ベッドの上には外されたブラが、床には脱ぎ散らかされた制服が落ちていた。
「いいや、ドスケベだ――ね!」
大きく腰を引いて、絡み付く内壁を味わいながら、逸物を抜く寸前まで下げる。
カリに弱点を擦られたイーリスがびくっと震えたところで、今度は助走を付けるように奥まで突き入れる。
「んぉぉほぉっ♡」
「ほーら見ろ。お間抜けな声で喘いでる」
「ふぐぅっ♡ んんんんっ♡」
イーリスは両手で口を押さえるが、龍斗の行為は決して拒まない。
かといって歓迎するようなことも言わないのは、いまだ頭に条例を考える余裕があるからだ。
その余裕を奪うため、龍斗は手を尽くす。
「剣で負けた途端、負けた相手の部屋まで、うきうきで犯されに来てっ!
いまも、こうやって――」
パン! と、尻を叩きながら、言葉も叩き付ける。
「あはぁんっ♡」
「俺に試合で打たれたところを、また叩かれて感じてるっ!
こことっ、ここもっ、ここもそうだろっ!?」
ベシン! バシン! と、太股や脇腹といったところにもビンタを入れる。
「あひっ♡ やあぁっ♡ だめっ、でしゅっ♡ 思い、出しちゃうっ♡ 龍斗さんに負けたのっ♡ 思い出しちゃうっ♡」
「ああ思い出せっ! お前は、俺には、勝てないんだ! か弱くて、可愛い、女の子なんだよっ!」
「んあっ♡ あああぁぁぁっ♡ それだめぇぇぇっ♡ 言わないでぇぇぇっ♡」
ひとつまみの褒め言葉が、敗北感を甘美にする。
いま自分を犯している男は、自分よりずっと強いのだと。手も足も出ないのだと。
そう認識させることで、犯されることへの抵抗を諦めさせる。
妖女にとってそれは、淫らな本能を解放するためのステップだった。
「んおっ♡ おおおっ♡ あっあっあっふぁ♡ ぁぁぁぁぁっ♡」
「ほらもうイってる。お前って痛くされるとシームレスにイクよな」
龍斗は呆れ半分に責めながら、『∞』を描くように踊っていた尻尾を掴まえる。
「はひゅうっ♡ 尻尾っ♡ 尻尾らめぇっ♡」
「だめじゃねぇよ。さっきから嬉しそうにぶんぶん振り回しやがって。
ほら、もっと尻を上げろっ! イってるおまんこ突いてやるよっ!」
イーリスの尻尾を軽く掴んで、陰茎の竿でも擦るように、下から上へと擦る。
すると彼女は調教された犬のように、ベッドに膝を立ててヒップを持ち上げていった。
龍斗はそれを吊り上げるように尻尾を掴んだまま、腰を前後に踊らせる。
「んおっ♡ おおおぉぉぉぅっ♡ んおぉぉんっ♡」
イーリスの口から犬のような声が出た。
「うぅぅぅっ♡ ふぎゅぅぅぅっ♡」
「こら、なに声を我慢してるんだっ」
獣人系は喘ぎ声が動物的なのが悩みで、声を堪えたがる子も多い。
そんな獣人女子の余裕を奪うコツこそ、敏感な尻尾と獣耳を刺激すること。
例えば、尻尾を愛撫しながら後背位でパンパン鳴らす――イーリスが一番弱いプレイだった。
「んおっ♡ おぉうっ♡ あぉっ♡ んぁぁんっ♡」
「そうだ鳴けっ! 俺の部屋だから、安心して可愛いワンちゃんになれっ!」
防音が効いており、もし外へ漏れ聞こえても、イーリスの部屋ではないから特定は避けられる。
そんな安心材料をちょっと与えてやるだけで、彼女の喉は声を殺せなくなった。
「あっあっあっあっ♡ あんっあんっあんっ♡ んぁんっ♡ きゃうんっ♡ きゃぅぅぅっ♡」
「よしよしいい声だぞ。ほら、子宮もいい子いい子してやるよっ」
腰を深く押し込み、亀頭をポルチオにぴたりとセットしてから、子宮を揺らすような小刻みピストンを送る。
「んぉぉぉぉぉっ♡ おぉぉぉぉっ♡ ぉぉぉぉぉっん♡」
イーリスの背筋が反り返り、絶頂のせいか両手を張り詰め、天井を見上げるように激しく喘ぐ。
「どうしたワンちゃん、負け犬おまんこすっげー痙攣してるぞ?
お前をボコボコにした悪い奴に犯されてるのに、こんなイキかたしちゃダメだろっ!」
「はひっ♡ はへぇ……っ♡」
意識が飛びかけたらしいイーリスに、答える余裕は無さそうだった。
(少し休ませてやるか……)
というか自分も小休止が欲しいので、腰を止めて息を吐くが……
「んっ♡ んんっ♡」
ちらりと、こちらを振り返ったイーリスが、膣圧を強めてきた。
きゅっきゅっ――と、催促するように、根元から亀頭を段階的に絞めてくる。
――もっと、して♡
穴と顔が、明らかにそう言っていた。
「このやろっ!」
「ぁはあんっ♡」
今度は背後から胸を揉み上げながら奥を擦ると、逸物に根元まで吸着した肉襞が痙攣する。
「あーやっぱりこのおっぱいは堪らねぇなー。こいつを揉みくちゃにできるのは勝者の特権だよなぁ?」
「ひあぁっ♡ らめっ♡ 指ぃ♡ 深いぃぃ♡ おっぱい痛いでしゅっ♡ 潰れちゃ、うっ♡ あひゅうっ♡」
「おまんこキュンキュンさせながらなに言ってんだ? 認めろよっ、お前の体はこういうの大好きなんだよ!」
龍斗はイーリスの上半身を持ち上げ、膝立ちにさせて斜め下から突き上げる。
「んおっ♡ ほぉっ♡ あああぁぁぁ♡ 好きぃ♡ じゃっ♡ ないぃぃ♡ 苛められるの、なんてぇっ♡」
「嘘つくなっ! 突っ込んでる俺が一番よく分かるんだよっ!」
いまだに認めようとしないイーリスだが、悦楽に蕩けた顔には薄い笑みがあり、初めから本心ではなさそうだ。
『誘惑』にならないよう、拒否している体裁を整えるために、バレバレの被虐嗜好を否定する。
「このパンパン鳴らして突かれるのが大好きなエロケツはなんのためだ?
この揉みくちゃにされるほど感じちゃうマゾパイはなんのためにあるんだ?
男を誘って孕んで赤ちゃん育てるためだろっ。お前は剣よりこっちの才能があるんだよ!」
「ふぎゅぅぅぅっ♡ しょんなことっ♡ ないっ、でっ、しゅうっ♡ んおぉぉっ♡ おふっ♡
わたし、私はぁっ♡ 騎士でっ♡ 家のっ♡ 誇り、を――」
「忘れろそんなもん」
かぷ――と、龍斗の口が、イーリスの首筋を甘噛みした。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ あ あ あ あ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ っ♡♡♡」
イーリスが一際に甲高い嬌声を上げて、大きく背筋を反り返らせる。
彼女の体に隠れて見えないが、愛液を撒き散らしていることが音と匂いで分かった。
「いま、お前はっ、そんなんじゃないだろっ?
お前は俺に負けたんだっ! だからいまは、俺の女だろっ!?」
全身を押し潰すような寝バックに持ち込み、放心しているイーリスに粗暴な理論を叩き付ける。
「誇りとかっ、家訓とかっ、強いとか一番だとかっ、いまは要らないんだよっ!
なにも考えずにっ、イってるかどうかだけ感じてっ、俺が満足するまで犯されてろっ!」
「あひっ♡ あひゅっ♡ んおっ♡ ほふっ♡ ぉぉぉぉぉっっっ♡」
これは、正真正銘のレイプかもしれなかった。
条例の抜け道を突くための「フリ」ではなく、相手の誇りや尊厳を無視しているという意味で。
妖女だって、そういう意味で犯されたいわけじゃない。
快感と引き替えになら多少は恥も外聞も無くなるが、セックスと関わりのない部分は別だ。
だが……イーリスに限って言えば、そこを貶めるのが正解だった。
「ほら出すぞっ、レイプで中出しされちゃうぞっ?」
「ああぁぁぁらめぇぇぇっ♡ なかはぁぁぁ♡ なかだしだめでしゅからぁぁぁっ♡」
避妊魔法の触媒は着けているが、それでもイーリスは妊娠を怖れる言葉を口にする。
そうすることで得られるものが、彼女にはあるからだ。
「いいから受け止めろっ、子宮まで敗北しろっ!」
「んおぉっ♡ きちゃうっ♡ あぁぁぁ龍斗さんのっ♡ 子種にっ♡ お腹、征服されちゃ――あっあぁぁあ~~~~~っ♡」
びゅくっ、びゅるる! ――っと、大量の白濁液が子宮を埋め尽くす。
「おっ♡ おっ♡ おおおぉぉぉっっっ♡」
みっともないアヘ顔を隠す気力もなく、イーリスは今日一番の大絶頂を迎える。
終始バックだったのは、その顔を見られたくない彼女のためだった。
「あふっ♡ はぁぁっ♡ はふっ♡」
龍斗の逸物が引き抜かれると、イーリスの膣口から精液が溢れ出る。
ほとんどカエルのような無様な姿勢で放心した彼女に、龍斗は改めて生唾を呑んだ。
「お前。いま自分がどんな姿か分かる? ボコボコに犯されましたって顔してるぞ?」
「あっ、はぅっ♡」
軽く尻肉を掴みながら伝えてやると、我に返ったイーリスは、気恥ずかしそうに起き上がる。
足を閉じて胸を片手で隠しながら、なだらかな背中越しに振り返る顔は――恨めしげでもなんでもない。
「もう……龍斗さんったら……すぐ、私のこと、犯すんですから……♡」
恋人とのエッチを終えた女の顔だった。
しかし、妖女はそれだけに留まらない。
「傷付けちゃった?」
「ふふ……そんなこと、ありません。他の女とは、鍛え方が違うんですから」
抱き寄せた龍斗に身を預け、蟲惑的な笑みで男を見上げる。
「私は、騎士ですもの……
何度、犯されたってぇ♡ 何度、辱められてもぉ♡ 心は決して、屈しませんから♡」
さわさわと龍斗の胸板を撫でながら、上気した頬で誇りを語るイーリス。
それは、日本でいう女騎士の定型句とは、かなり意味が違っていた。
「龍斗さんに、どれだけ負けちゃっても……何度だって、立ち上がってみせます♡
ですから……ね?」
もっとして――と、その妖しげな瞳は語っていた。
「そうかよ……っ! なら、もう一回ぶち犯してやろうかっ?」
再びイーリスを押し倒す。
「やぁっ♡ 龍斗さぁん♡ そういう意味じゃ、ないですよぉ♡
レイプだめ♡ レイプだめです♡ 恋人同士でも、レイプなんですからぁ♡」
これが彼氏による性的暴行であることを強調しながら、抵抗なく仰向けになるイーリス。
妖女がこれを言い始めたということは、ここからが本番ということだった。
「なら、振り解いてみせろよ」
イーリスの両手を頭上で組ませて、ベッドに押し付ける。
「あんっ♡ 無理ぃ♡ こんな力強い殿方に、組み伏せられたら……勝てません♡
負けちゃう♡ わたしまた龍斗さんに負けちゃう♡ 負け犬おまんこ犯されちゃうっ♡
こんな、エッチなことしか能の無い体、慰み者にされたらっ♡ 完敗しちゃいますよぉ♡」
イーリスは抵抗するふりをして体をくねらせ、ぷるぷると豊乳を揺らしてみせる。
日に日にこういうテクニックを身に付けていく彼女は、本当に剣よりこっちの才能があるのかもしれない。
その才能を開花させるために、龍斗は再び、彼女の乳房に手を伸ばすのだった。
〇
まだ、彼女と出会ったばかりの頃――
彼女が落ち込んでいる顔を見たことがある。
放課後、部屋の扉を開こうとしているイーリスの顔には、昏い影が差していた。
原因は分からなかったけど、想像は付いた。
――彼女は、重荷に感じているのではないか。
貴族で騎士で、容姿端麗で頭脳明晰で品行方正で、その発言力が大勢の人を左右する、クラスカーストの第一位。
そんな日々を、彼女自身は歓迎しているのかどうか……そのとき初めて考えた。
「雪代――副部長?」
「ん? ああ、なにかな?」
イーリスに呼ばれて、龍斗は少し前の記憶から戻ってくる。
「なにを呆けている。もうすぐ試合だぞ?」
イーリスは部長モードだった。
龍斗もまた、彼女に対してのみ見せる荒々しい側面を隠し、知的な副部長をしている。
「そうだった。部長は大丈夫か?」
「これから試合をするのに他人の心配か?」
たしかに。
いまは夏の全国に向けた地区予選、その会場となっている体育館の間際だ。
「まあ、部長以外に負ける気はしないよ」
「余裕だな。恨めしい」
小さく笑った彼女は、少し緊張しているように見えた。
その緊張を解すため、龍斗は小声で囁きかける。
「どっちが全国制覇するか、勝負しよっか?」
「っ」
自分とイーリスが『勝負』をする――それに伴う意味は、どちらも忘れていない。
「……龍斗さん、不謹慎ですよ?」
彼女は頬を赤らめながら、小声で言い返してくるのだった。
「まったくもう……」
小さく溜息を吐いた後、周囲に耳目が無いことを確認して、イーリスが耳元に口を寄せてくる。
あの日――落ち込んでる彼女を見た後、龍斗は剣を磨いた。
魔力を鍛え、彼女の技を学び、あるときついに白星をもぎ取った。
その結果が、いまだ。
「あなた以外には、負けませんから……ね♡」
彼女はきっと、惨めに敗北したそのときだけ――長年の重荷から解放されるのだろう。
ご一読いただきありがとうございます。
往年のラノベとかに出てきそうな騎士道娘がドMな話でした。
級友編は一話につき1カップルにするか、
他のクラスメイトを混ぜたハーレム系にするか迷いどころです。