誘惑禁止条例 ※性犯罪被害は条例違反にあたらない 作:大中小太郎
世間の一角に、こんな声がある。
『男が簡単に妖女を抱ける昨今、男は軟弱になった』
昔の男は女の関心を得るため格好を付けていて、男ぶりを磨いていたが、いまの時代にはその必要が無い。その分、男気を欠く男が増えた――ということらしい。
統計的にどうなのかは、たぶん言ってる人間も分かっていない。
ただ、自分がそれに当てはまるかと聞かれれば、否と言える男でありたい。
だから雪代龍斗は、今日も自分を鍛えることに余念が無い。
「はい、この姿勢で十秒。いち、にー、さん――」
科目・魔力実技Ⅱ――
既に到来している魔法技術の社会に必要な、魔力を養う授業だ。
魔力密度を高める専用部屋でフィットネスを行うような内容で、感覚的には『体育』だが運動神経は問わない。
「今日は『ボール』ね。まずは安定浮遊から」
講師となっている妖女教師の指示で、生徒たちがストレッチを終える。
魔力の流れを整えるための体操を済ませたら、魔力に反応する道具を用いて、魔力操作の実技に入る。
今回の道具は『ボール』――ソフトボールほどの球体で、魔力を通すと浮遊する。
これを空中で安定させたり、回転させたり旋回させたりすることで、魔力の精密な操作を学ぶのだ。
「い、意外と難しいね、これ」
「最初から浮遊をキープできてるだけで十分だよ」
近くには、時間割が重なった別クラスの顔見知り――望月隼樹と花房哲の姿があった。
同じ学生用アパートに住むご近所さんの縁で、話す機会が多い。
「手の平から魔力を風みたいに吹いて持ち上げるイメージだ。手は見ないでボールだけ見てる方が感覚を掴みやすいぞ」
本日から『魔力実技Ⅱ』に加わった望月に、龍斗は副部長の習性でアドバイスする。
なぜ本日からなのかというと、昨日までは『魔力実技Ⅰ』だったからだ。
『Ⅰ』と『Ⅱ』の違いは、魔力量の違いだ。
『Ⅰ』は魔力作りの段階。
妖魔界に育った妖女であれば、子供の頃に通過している段階だ。
十分に魔力が発達すると、魔力を操作してそれ関係の製品を動かす『Ⅱ』に進む。
「望月も魔力Ⅱかぁ。理由は察するよ」
「いや、別にそういうわけじゃ……」
哲にこっそり揶揄されて、隼樹が口ごもる。
魔力を伸ばす代表的な手段は、妖女との密接な関係だという。
そのため、魔力Ⅰを履修する生徒=童貞、魔力Ⅱの教室に来た生徒=非童貞という推測が成り立つ。
厳密には、一度の関係で急に魔力が増えるわけではないので、100%そうではないのだが、隼樹の場合は当てはまっているようだ。
「逆に雪代は『Ⅱ』のレベルじゃないね。ボールが微動だにしないよ?」
「まあ、俺は部活で魔力使ってるから」
哲が目を向けた龍斗の手元では、魔力で浮遊するボールが滞空している。
ワイヤーで張ったように安定しているのは、魔力操作が安定している証だ。
龍斗の場合、『魔力系スポーツをやっている』という理由でも、魔力が発達している。
「『Ⅰ』は人間女子ばかりだったけど、『Ⅱ』は男子ばっかりだね。『Ⅲ』は妖女?」
隼樹が見回した通り、魔力実技の授業では顔ぶれに偏りがある。
「まあ大抵そうなるね。ちなみに『Ⅲ』では魔力式のAIとか乗り物とかの扱いを学べるみたいだよ。逆に言うと、これを履修していないと正式な免許が取得できない」
哲は肯定するが、『人間女子は魔力育成で遅れを取る』という事実への言及は避けた。
最初から魔力を持っている妖女、妖女とのセックスで魔力を伸ばす男子、逆に成長機会が少ない人間女子――結果、魔力実技のⅠ~Ⅲで顔ぶれが分かれる。
「早ければ今学期に『Ⅱ』をマスターして、夏休み明けには『Ⅲ』に進める。そうすれば便利な魔力製品をおおっぴらに使えるようになって、人生変わるそうだ」
龍斗は手から出す魔力を調節して、魔力ボールを空中で上下させた。
あくまで仕事などでの使用許可を得るために履修が必要なだけで、使うだけなら『Ⅱ』の段階でもできる。
使える魔力製品は様々だ。
スマホやPCに魔力を通して扱う各種アプリやAI。
電動自転車ならぬ魔動自転車は、必要に応じた『浮遊』で坂道も段差も楽ちん。
お金ではなく魔力で支払うという『エネルギー決済』も浸透しており、諸経費も浮く。
いまや世界のどこにおいても、魔力を持つ人間の方が、社会の恩恵を享受できる――
「なるほど、魔力格差社会ってこうやって生まれるんだね」
隼樹が苦笑していた。
ちょうどこの授業のⅠ~Ⅲのような習熟差が、世の中にはある。
昨今、人間女性の側から解消を訴えられることが多い社会問題だが――
「環境と生活によるリードはあれど、地道にコツコツしてれば埋められる程度のものよ」
と、雑談を聞きつけた妖女教師がコメントした。
「その証拠に――」
妖女教師は、部屋の一角に目を向ける。
隼樹は『人間男子が多い』と言ったが、人間女子の一団もあった。
「しっかり魔力を伸ばして、『Ⅰ』から『Ⅱ』に上がって来る人間女子も、年々増えてるしね」
教師の立場からは、そういう変化も見えるらしい。
誤解されがちだが、人間女子は男子と比べて魔力が育ちにくい――ということは無い。
男子が妖女とのセックスで『自主練習』を積んでいるだけで、成長率の差は無いのだ。
よって、女子もセックス以外の手段で勤勉に鍛えれば、男子と同じくらい成長する。
(そういえば、佐野が居るな)
そんな人間女子の中から龍斗が見つけたのは、去年のクラスメイトである女子だった。
○
「次ぃー、ミットを使ってキャッチボール。念力作用を正確に操れるように意識してー」
妖女教師の指示で始まったのは、ミット型のスポーツ魔道具を用いたキャッチボール。
ボールに対して引力と斥力を働かせ、引き寄せることでキャッチし、押し出すことで放つという魔法球技の基礎だ。
これで魔力加減のコツを掴むと、魔力を動力とする様々な機械を使えるようになる。
「雪代、佐野と組んで教えてやって」
「はい」
龍斗が組まされたのは、先ほど見かけた人間女子の佐野だった。
「あ、雪代くん。久しぶり」
「ああ、ようこそ魔力実技Ⅱへ。こっからは楽しくなるぞ」
妙に照れくさそうな佐野を、龍斗は快く出迎えた。
魔力実技Ⅰで一定の魔力を得た生徒は、学期に関わらずⅡに編成される。
この成長度合いには個人差と努力差が顕著で、スタートラインが同じでも、Ⅱにランクアップするタイミングにはバラつきがある。
佐野は魔力Ⅰの地道なトレーニングを真面目にこなしたのだろう。同級生たちより早い段階でⅡの教室にやってきたようだ。
「こうやって、手で呼吸するように魔力を吐いたり吸ったりすると、ボールとミットがくっついたり離れたりするんだ」
「おー、磁石みたいっ」
体育会系の佐野は興味津々で、魔力球技の入り口を潜った。
キャッチボールを初めてからコツを掴むのも早い。
魔力で吸い寄せればボールの方からミットに来てくれるので、球技の苦手な生徒でもキャッチは容易。投げるときは魔力で送り出し、手首のスナップで遠くまで飛ぶ。
(過不足なく、正確に……っ)
手を通して魔力を操る技能は、基礎にして奥義。
魔剣部員としては試合の勝敗を左右する要素だ。龍斗は真剣にボールを操る。
重要なのはパワーではなくコントロール。
素人の佐野が捕球しやすいように、理想の加減を追及する。
(愛撫するときに魔力を意識すると、妖女も感じてくれるんだよな……)
などという雑念を抱いた龍斗は、捕球をミスって額でボールをキャッチするのだった。
「ごめん雪代くんっ、大丈夫だった?」
「ああ、大丈夫。あれは俺のミスだから気に病まないで」
授業の後、龍斗は謝ってくる佐野に、バツが悪い顔をしていた。
アポーツで加速された球のキャッチを仕損じると、なかなかの速球が直撃する。
パワーよりもコントロールが重要とはこういうことだ。
「本当? あのボール結構重かったし、すごい音してたよ?」
「鍛えてるから平気だって。魔剣部の試合だと防具越しでも額が切れることすらあるくらいだからな」
いまさら軽いたんこぶで重体ぶる龍斗ではなかった。
「へー……なんかすごいね」
気に病んでいた佐野がくすっと笑う。
男の頑丈さに対して、羨ましそうな、あるいは頼もしそうな顔をしていた。
意識されている? と感じたのは、龍斗の自信過剰だろうか。
「ねぇ雪代くん。お昼――」
「龍斗さん?」
と、佐野が何か言いかけたとき、体育館の別室から出てきた妖女子が声を掛けた。
「ああ、カトレイン。そっちも体育だったのか?」
カトレイン――イーリスやヘルハと同郷の、留学妖女。
茶髪と垂れ耳の犬系獣人は、均整の取れたスタイルを体操着に包んでいる。
彼女はことさら豊満ではなく、体操着もブルマなどと違って露出は無いのに、妙な色香が健康美に混ざっていた。
「はい。今日は体育館の天井から縄を下ろして、手袋型魔道具による登攀術でした。天井付近に引っかかっていたボールがたくさん回収されましたよ?」
「そんな一流のレスキューみたいなことするんだ、魔力Ⅲ……」
おっとりした口調でなかなか凄いことを言うカトレインである。
魔法のカリキュラムを全て履修したら、特殊部隊のようなスーパー高校生が出来上がるかもしれない。
「ところで、今日のお弁当はどこで召し上がられますか?」
「あー、いつもの空き教室でいいんじゃないかな」
ここ最近、カトレインは龍斗にお弁当を振舞ってくれている。
まるで尽くす恋人のようだが、表向き交際はしていない。
イーリスの従者ポジションである彼女が、イーリスのついでに龍斗にも振舞っているという――正直バレバレの体裁をとっている。
「では、汗が冷える前にお着替えを――」
そこでカトレインは言葉を切り、龍斗の額に注目する。
「龍斗さん、そこ……」
「ん? ああ、これは」
カトレインは龍斗の額にある薄い打撲痕を見つけたようだ。
失敗の証が恥ずかしくて、つい手で隠すと、穏やかだったカトレインの顔色が変わる。
「――誰にやられたのですか?」
目が怖かった。
獣人の牙が薄く剥かれ、体からは魔力の昂ぶりによる鬼気が立ち上っている。
「いや違うって! ボールトレーニングで手元を狂わせただけだって」
暴力沙汰ではないと主張する。
あえて加害者を挙げるなら、キャッチボールをしていた自分となりうる佐野は、カトレインの放つオーラに青褪めていた。
「あ、そうでしたか。申し訳ありません、早合点を」
カトレインから怒気が消えて、元の可愛らしい垂れ耳獣人の少女に戻る。
「いま、オーラが見えたような……視覚的に」
「魔力が多いとああなるらしいよ。僕もアニメ以外で初めて見た」
望月隼樹と花房哲が言葉を交わしていた。
「では、イーリス様とヘルハに伝えておきますね」
「ああ、よろしく」
昼食の約束をとりつけて、カトレインは女子更衣室へ向かう。
「ふぅ、驚いた。ああごめん、佐野。さっき何か言おうとしてたか?」
「え? あ、ううん。大したことじゃないから。じゃあねっ」
冷や汗を掻いていた佐野は、残念そうな笑みを浮かべて、その場を去った。
「モテモテだね、雪代」
「仲がいいだけだよ」
哲に揶揄されながら、龍斗たち男子も更衣室へ向かう。
「そっか、お昼はイーリスさんたちと食べるのか」
「ん? ああ悪い、誘ってくれる予定だったか?」
男友達とのランチも時には捨てがたい。
去年は同じクラスだった哲や隼樹と旧交を温めるのも歓迎だが――
「いや、お邪魔虫になる気は無いよ。放課後にメッセージだけ送るね」
「ん? ああ」
なにやら哲から相談事があったようだ。
この場で話さないなら、人の耳目を避けたい内容なのだろう。
哲は生徒会選挙に一枚噛むようだから、それに関することかもしれない。
「あれ?」
「どうした? 望月」
汗臭い男子たちが早々に着替える更衣室で、隼樹がスポーツバッグを覗きながら首を傾げている。
「いや、替えのインナーを持ってきたはずなんだけど……無いな」
鞄の中を確認した望月は、床に落としたのかと周囲を見回していた。
「まさか……」
「あー、こっちはこっちで隅に置けないねぇ」
更衣室に置かれていた肌着の不自然な紛失――龍斗と哲は同じ仮説を抱いた。
「え?」
隼樹だけが、意味が分からず首を傾げていた。
○
「下着泥棒っ!?」
校舎の一室。
空き教室の一席で、龍斗は昼食をとっていた。
声を上げたのはイーリスであり、同様に驚いているのはヘルハとカトレインだ。
「ああ、俺のじゃないけどね。イーリスは知ってるだろ? 去年同じクラスだった望月」
「ええ、もちろん。あの……少し内気で運動不足そうな」
今回の被害者である望月隼樹とは、イーリスも去年はクラスメイトだった。
接点はほとんど無く、イーリスの印象もその程度らしい。
「いま見たら驚くぞ? ガラリと印象変わったから。たぶん恋人ができたんだろうな」
「ええ、あの首輪の……いえ、それはさておき。下着泥棒とは不埒なっ」
昨今、男子がその被害になる例の方が多い。
「犯人は獣人系でしょうか?」
「ちょっと着古した肌着の匂いって堪らないですよねぇ」
などと、ヘルハとカトレインが言うように、妖女の中には匂いフェチが多い。
「ヘルハはともかく、カトレインは後で話がある」
「私じゃないですよっ!? 龍斗さんのものならともかくっ」
不穏なことを口走ったカトレインは、手を振って嫌疑を否定する。
龍斗もそこまでは言わず、彼女が作ってくれたお弁当に箸を進めた。
妖魔界食材を使った、精力増強に効果的とされるおかずが、重箱に詰められている。
「それで、犯人の目星は?」
「なんか魔法を使って痕跡を辿るって言ってたな」
盗難被害にあった隼樹は、級友の妖女に手を借りて捜査を始めるらしい。
ミーサと言ったか、最近よく隼樹の部屋に出入りしている妖女が、ちょっと怖い笑顔をしていたのが印象的だった。
「妖女の風上にも置けん。妖魔界なら耳をひとつ切り落とされているところだ」
イーリスは同胞の恥だとばかりに憤慨している。
不埒者なのは分かるが、耳を片方とは大仰な話だ。
「男の汗臭い肌着なんて欲しがるものかな……」
龍斗からすると、男が女の下着を盗む事件さえ共感しにくい。
イーリスたちの服であっても、生地や構造の違いにしか興味が湧かなかった。
「まあ、その……匂いのするものが傍にあると、落ち着くといいますか……」
「離れてるけど一緒に居られる気がすると申しますか……」
なにやらヘルハとカトレインが、ほんのり赤面しながら語っている。
「……ぬ、盗人にも三分の理ありだ! 酌量したい点はあっても情けは無用だっ」
イーリスまで、一瞬だけ揺れていた。
「君たち、妙に犯人に共感してないか?」
ぎくぅ! と、三人の獣人妖女が尻尾を逆立てた。
「そ、そのようなことはないぞっ! なんとなれば犯人をこの手でっ」
「一般論ですっ、あくまで一般論として理解できるという話でっ」
「獣人系としては好きな殿方の香りには抗えないと申しますかっ」
口々に特殊性癖を否定する妖女たちである。
「……当人の目の前で服とかクンクンしない限りは、まあいい」
龍斗の寛容に、イーリスたちは安堵の息を吐いた。
「ごちそうさま、美味しかった。この野菜、初めて食べたけど気に入ったよ」
「ふふ、お粗末様でした。最近、人間界でも栽培が始まった品種なんです」
料理についてカトレインに礼を言うと、嬉しそうに尻尾を振られる。
妖魔界の食材は基本的に輸入品だが、近頃は人口減少が進んでいた田舎で妖魔界の野菜や果物などが盛んに栽培されて『国産』が流通している。
前時代は過疎高齢化だったド田舎が、いまでは多数の妖女を移住させ、活気付いているのだという。
もちろん、その『効能』も、妖魔界産に劣ることはない――
「昼休み……まだ時間ありますね」
イーリスの呟く声は、ひどく艶やかだった。
龍斗は生唾を飲んで視線を泳がせると、同じような顔をしたヘルハやカトレインと目が合う。
「おいおい……」
予想はしていた。
空き教室を自分たちの貸切にできたこと、精の付く献立、食事が進むに連れて彼女たちが放ち始めた妖女の香気――
誘われている。
この場で、自分たちに、何かしてもいいと――彼女たちの態度が言っている。
「が……学校では、ダメだろ」
理性を動員して、龍斗はそう搾り出した。
「あら、そのようなことを仰って。以前は――」
「こら、イーリス」
気がつけば淑女モードになっていたイーリスの発言を中断させる。
以前、口でだけでしてもらったことはあったが、いまは反省しているのだ。
「ちなみに、防音・洗浄・消臭、その他の魔道具の準備は万全ですよ?」
「ヘルハまで……」
悪戯っぽい笑みを浮かべるヘルハも、いつの間にか龍斗の隣に近付いていた。
イーリスとヘルハに両隣を押さえられ、ぴとりと身を寄せられて胸を押し当てられる。
龍斗の方も、いましがた妖魔界の精力食材を口にしたせいか、ズボンの中で逸物をいきり立たせてしまっていた。
「このような状態では、龍斗さんもお辛いでしょう?」
「このまま廊下に出ては、恥ずかしい思いをされてしまいます」
耳に息を吹きかけるように囁く二人。
指摘した龍斗の分身に触れることまではしないが、龍斗が一言「頼む」と言えば、手でも口でも胸でも駆使して奉仕してくれるだろう。
「あ、あの、龍斗様が、お嫌なら……」
と、一人だけおろおろしているカトレインが、自制の機会を与えてくれた。
しかし彼女も、教室では控えてもらっている「様付け」を始めており、ただのクラスメイトではなく、男と妖女の時間であると認識しているようだ。
「む、それはずるいぞカトレイン」
「そうそう、今夜はあなたの『番』だからって」
「いえっ、そのようなつもりは……っ」
イーリスとヘルハから抗議的な目を向けられて、カトレインが焦っている。
――イーリスのみならず、ヘルハとも関係を持ってから、数日が経っている。
その後、カトレインとも……まあ『そういう仲』になった。
龍斗はいま、贅沢なことに三人の妖女を囲う、
セックスに関しても、いまやイーリスたちの中で順番を決めて、放課後に龍斗の部屋へと訪れていた。
妖女の社会では当たり前で、現代日本でも珍しくない、『カップル』ではなく『グループ』としての交際である。
ただし――
「バレたら困るから」
龍斗とイーリスの関係は、表向き恋愛禁止としている部活のこともあり、秘密だ。
ヘルハとカトレインは部員ではないが、イーリスを差し置いておおっぴらにすることは、彼女たちの方から避けた。
だから、学校内で露骨にイチャつくわけにはいかない。
というか、職場や学校でのセックスなど、誘惑禁止条例があるこの時代でなくてもモラルに反する。見つかれば処分は免れ得ない。
「あと、その……三人や四人でっていうのは……まだ、ちょっと、早いと思う」
美少女三人の誘惑を断れたもうひとつの理由がそれだ。
彼女たちと個別にセックスはしているが、乱交……もとい、グループセックスはまだしていない。
理由は上手く言えないが、龍斗はそこに心理的なハードルを感じていた。
「くぅん……龍斗さんが、そう仰るなら……」
子犬のような声を零して露骨に落ち込んでしまうイーリス。
それがあまりに可愛くて、瞬時に前言撤回して押し倒したくなったが、必死に堪える。
「むぅ、おかしいですね? 聖典によればハーレムは殿方の憧れなはずですのに……」
「その聖典、ただのエロ漫画だろ?」
首を傾げるヘルハには、現実とフィクションの違いを再認識してほしい。
憧れが無いとは言わないが、いざ実際にやるとなると、色々と大変だったりするのだ。
ましてや昼間からそんなプレイをして、放課後の部活に響いても困る。
「ほら、教室に戻るぞ」
「「はい……」」
残念そうな顔をするイーリスたちに促すと、イーリスとヘルハが席を立つ。
お弁当箱を片付けていたカトレインは、どこかほっとしたような顔をしている。
「…………」
そんなカトレインは、一瞬だけ龍斗と目を合わせると――
くすっ――と、思わせぶりな笑みを浮かべるのだった。
○
放課後、魔剣部の部活動――
「っ!」
防具を着た龍斗は、コーチを相手に打ち込み練習をしていた。
コーチは細身の妖女であり、競技用の円形盾を構えている。
これに対し、ボクシングで言う「ミット打ち」のように剣を振るう。
「太刀筋が欲を掻いてるぞ、副部長」
「す、すみません」
龍斗の打ち込みを軽々と受けきったコーチは、荒さを指摘した。
龍斗もそれなりに鍛えた男だ。協議用の魔剣も普通に鈍器であり、剣道部の竹刀とはわけが違う。
それを全力で振り回されて平然としているコーチは、別に剣の天才というわけでもなく、ごく普通に競技で鍛えた妖女だ。
魔力を使える人間たちにとって、肉体の性差など誤差の範疇なのである。
「まあ、気合いのノリはいい。相手がビクついてる時を狙ってやれ」
「はいっ」
夏の全国大会はまだ先だ。
地区大会は既に突破、いまは来月の県大会に向けて練習している。
「副部長、なんか最近ちょっと怖いな……練習のときだけ」
「そうか? 県大会に向けて気合い入ってるだけじゃね?」
周囲の部員も、温厚で理知的な印象だった副部長への印象が変わっているようだ。
イーリスも同様で、なにやら気遣わしげな目で龍斗を見ている。
その疑問は、放課後の下校途中に言葉にされた。
「あの、龍斗さん?」
「ん? どうした」
これまで、龍斗とイーリスは交際疑惑を避けるため、登下校は別にしていた。
しかし部員の中では公然の秘密であり、龍斗やイーリスも部員たちの中にカップルらしき男女がいても、キスでもしていない限り気付かぬふりをしている。
そのこともあってか、最近イーリスは龍斗の隣をキープする時間が増えた。
龍斗が自分だけでなく、ヘルハやカトレインを抱くようになったのも一因だろう。
「最近、何か思い悩むことでもあるのでしょうか?」
「ああ、ごめん。なんか態度に出ちゃってるかな?」
「その、時々ですが……」
イーリスは少し頬を染めて、目を泳がせている。
その態度から、セックスの最中を思い出していることが窺えた。
「……この前は、やりすぎちゃった? 体、大丈夫?」
「っっっ♡」
イーリスの顔がシュボッと赤くなる。
現在、イーリスたちとのセックスは交代制。
二日ほど前はイーリスの番で、そのときも激しかった。
ヘルハやカトレインが龍斗と関係を持つようになって対抗意識が生まれたのか、イーリスの腰つきは熱心になり、龍斗も他の女と経験を積んだことでテクニックの幅が広がっている。
イーリスが迎えた絶頂は数え切れず、最後は精根尽き果てて気絶していた。
「そ、その話は……外では、だめです……」
乙女のように小さくなったイーリスの尻尾が振られ、龍斗の脚をぺちぺちと叩く。
ご満足はいただけているようだ。
となると、話はそれに関する抗議ではないらしい。
「単に、龍斗さんが、何かお悩みなのではと思っただけで……」
「ああ、ちょっと大会のこととか意識しちゃってね」
嘘は吐いていないが、本質への言及は避けていた。
大会でも勝ちたいが、そうしたいと思った動機は別にある。
「念のため、おうかがいするのですが……カトレインは、何か粗相をしてませんか?」
「え? カトレインが?」
急にカトレインの名前を出されて、龍斗は目を瞬いた。
「その、お気を悪くしないでほしいのですが……私たちの間でも、龍斗さんとの時間について話すことはあるんです。どんな風だった、とか……」
「そ、そうなんだ……」
愚痴大会になっていないか心配だった。
「ただ、カトレインだけは、詳しく話そうとしないんです。嘘は吐いていないようなのですが、どこか誤魔化しているような……」
「あー」
カトレインが、イーリスやヘルハに対して、龍斗との行為の詳細を語らない。
そこが、最近の龍斗の変化と繋がっているのではないかというのだ。
「それは、別問題だよ。あの子が何か失礼をしているとか、そんなんじゃない」
「では、カトレインはなぜ……まさかとは思いますが、な、何か特殊な……っ」
「いや、ノーマルなことしかしてないよ? たぶん」
妖女のノーマルは人女のアブノーマルなので、断言はしにくい。
少なくとも龍斗からすれば、口にするのも憚られるようなプレイはしていない。
「まあデリケートな話題だし、カトレインが内緒にしたいなら、俺からバラすのは控えさせてもらうよ」
「むぅ……」
イーリスが少し拗ねたような目で見上げてきた。
可愛らしくて、こんな子供っぽい顔をしてくれるようになったのも嬉しくて、つい笑ってしまう。
「ごめんごめん、その代わり……」
龍斗は彼女が臍を曲げる前に、イーリスの耳に囁く。
「次にするときは、イーリスの好きにしていいからね?」
「っっっ♡」
再び赤くなるイーリス。
妖魔界においてそれは、「男にとって最も特別な女」にしか言わない台詞らしい。
二人の足は、いつの間にかアパートに到着していた。
「……約束、ですよ♡」
そう言い残して、イーリスは自分の部屋へ帰っていく。
龍斗もまた、その隣にある自室の扉を開く。
「お帰りなさいませ♡ 龍斗様♡」
そこには、準備万端に整えた、カトレインが待っていた。
○
カトレインが、龍斗との行為の内容について、詳しく語りたがらない理由――
それは、龍斗自身にとっても意外なことだった。
答えは――騎乗位である。
「んあぁんっ♡ はいって、きましたぁ♡」
ベッドの上で仰向けになった龍斗は、自分の腰に跨って嬌声を上げるカトレインを下から見上げていた。
「あふっ♡ 龍斗様ぁ、うごいちゃ、だめですよぉ♡ 私が、いたします、からぁ♡」
龍斗の剛直は、カトレインに騎乗位でくわえ込まれていた。
カトレインの膣は柔らかい。
決して『緩い』わけではないが、イーリスやヘルハと比べてキツさが無い。
締め付けるというより抱擁するかのような、包み込まれるおまんこだ。
「はふっ♡ はふぅっ♡ 乗ってるっ♡ わたしっ、男の人にっ♡ 龍斗様にぃ♡ 跨らせて、いただいてるっ♡ あぁんっ♡ しゅごいっ♡ こんなことっ、夢みたいっ♡」
カトレインは、龍斗の上に乗っている自分が信じられないようだった。
「大げさだな。騎乗位くらい、いくらでもさせてあげるのに」
「ああだめぇっ♡ そんなこと、言っちゃだめですよぉ♡ そういう、のはぁ♡ 一番、偉い、奥様にだけしかっ♡ 言っちゃだめなんですぅ♡」
妖魔界の多くの国では、女性が男性の上に乗っていいのは、正妻などに限られる。
男がそれの体位になったら『全て好きにしていい』ということであり、妖男も全幅の信頼を置く女性にしかさせないという。
そんな妖女にとって、騎乗位に抵抗が無い人間男性がどう見えるかといえば――
「えっちですっ♡ 女にっ、上に乗られてっ、大事なところ好きにさせちゃうなんてっ♡ 人間界の殿方っ♡ えっちすぎますっ♡ 私みたいな、
――まるで聖人のような扱いだ。
妖女の欲望に対して、自分の体を捧げてくれる、献身的な姿勢なのだ。
男性とまぐわうことならありえても、ここまでさせてくれることはありえない……普通の妖女はそう思って生きている。
「そんなに悦んでくれるなら、いいよ。いくらでも腰を振っていいからな」
「あぁぁぁっ♡ 言っちゃだめって、言ったのにぃ♡ んぁんっ♡ 止まらないっ♡ そんなこと言われたらぁ♡ おっ♡ 止まらないんですからぁっ♡」
だから、龍斗にとっては軽い気持ちの騎乗位も、カトレインにとっては夢の如しだ。
平民の、奴隷上がりの卑しい自分が、殿方の上で自由に腰を振らせてもらっている。
今日が初めてのことではないというのに、いまだこれが現実だとは思えない。
女に『好きにしていい』と許された男のように、歓喜の腰振りで悦に浸っている。
「あおっ♡ 気持ち、いいっ♡ ふおっ♡ 龍斗様のぉ、きもちひいでしゅっ♡ あっあっあっあっ♡ わたもぉっ♡ んおっ♡ お返しっ♡ あふんっ♡ しゅるっ♡ あひゅっ♡ いっぱい、きもちよくっ♡ してあげましゅっ♡ からぁ♡」
陶酔した顔で、カトレインは腰を前後させる。
その表情には、快感や興奮のみならず、僅かに嗜虐的な喜びが見えた。
酔っているのだ、男性を犯すような体位に。
喜んでいるのだ、男性の肉棒を自分の好きにしていることを。
カトレインはイーリスの従者であり、聞くところによると元奴隷であるという。
妖女社会では底辺寄りであり、そんな自分を厚遇してくれるイーリスには感謝しているという。それは本心なのだろう――
「あぁぁぁ♡ しちゃってるっ♡ んぁぅ♡ イーリス様のっ、恋人にっ♡ 私なんかがっ♡ 上からっ♡ おっおっおぉぉぉ♡ イクぅ♡ 殿方のっ、上でっ♡ ああぁぁイクぅぅ♡」
しかし、人の心である以上、そこに劣等感が無いとは考えにくい。
そんな自分がいま、主であるイーリスの彼氏に、跨っている。
イーリスやヘルハとはしていないという女性優位の体位で、セックスしている。
その体験が、彼女の胸の内に、下克上めいた甘美をもたらしていた。
(もうそろそろ、いいか……)
彼女が十分に愉しんでくれたのを確認して、龍斗は次の段階へ移る。
騎乗位で腰を躍らせるヘルハの姿はたまらない。ずっと見ていたい。
ただ――浅い。
彼女に任せたペニスが、根元まで包まれていない。
挿入が浅いのだ。
亀頭が彼女の最奥を撫でる程度にしか、呑み込まれていない。
カトレインが自分の体に対して手加減をしているからだ。
そうしないと、快感が激しくなりすぎて、騎乗位を愉しむ余裕など無くなるからだ。
その余裕を、これから奪う。
「おひゅっ!♡」
カトレインの腰を掴んで、引き落とす。
ごりゅっ――と、龍斗の分身が、カトレインの子宮口を不意に突き上げた。
「んおおおぉぉぉっ♡ あああぁぁぁっっっ♡」
嬌声を上げ、痙攣しながら仰け反るカトレイン。
子宮を軽く押し上げられただけで、快感が跳ね上がったようだ。
まるで家電製品のスイッチでも押したように、彼女の全身が性感という機能を最大限に発揮している。
「はひゅっ♡ りゅ、と、しゃまぁ♡ らめぇ♡ おくぅ♡ おくはぁ♡」
突然のことに混乱するカトレインに、龍斗は下から微笑みかける。
足の付け根を掴んだ腕はそのまま、腰を少しだけ上下させて、ポルチオを揉みほぐすように刺激してやると――
「ふぉぉぉっ♡ らめでしゅっ♡ んおっ♡ よわ、い♡ おおっ♡ おくっ♡ 弱いんでしゅっ♡ 子宮っ♡ ぐりぐりぃってされるのぉ♡ だめっ♡ だめなんでしゅっ♡ イクっ♡ すぐイっちゃうっ♡ ああだめ来ちゃうイってりゅのにまたすごいの来ちゃうのぉ!」
カトレインは甲高い嬌声を上げて、容易に絶頂を迎えた。
駄々っ子のように腕を上下させる姿は、自分の体を制御できないほどのオーガズムであることの証だ。
「はひゅ~、はひゅ~――龍斗様ぁ、許してぇ。お突き上げするのぉ、だめでしゅぅ♡」
何秒か飛んでいた意識が戻ってくると、カトレインは涙目で龍斗を見下ろす。
先ほどまでの強気はどこへやら、弱々しく初々しい口調で、懇願してくる。
「あぁ♡ らめ♡ 腰、抜けちゃ、った♡ うご、けない♡ 動けなく、なっちゃったぁ♡」
カトレインも、やはり妖女だった。
一番の弱点は子宮口。自慰の際はディルドでそこを責めてきたのだろう。
おかげで非常に敏感なそこを、重点的に責めてやる。
「んおおおぉぉぉ♡♡♡」
カトレインの腰を掴んで、前後に動かす。
彼女の体の動きそのものは、先ほどまでと同じだ。
龍斗に跨ったカトレインが前後に腰を振っている。
違うのは、ほんの1センチか2センチほど、深く結合していること。
たったそれだけで、立場は逆転していた。
「龍斗様ぁっ♡ らめっ♡ んおぉぉぉ♡ おくらめぇっ♡ ごりごりぃってしながらっ♡ 突き上げるのぉっ♡ ああぁぁぁっ♡ イキっぱなしぃ♡ なっちゃぅぅぅ♡ ゆるひてっ♡ おゆるしっ、くだしゃいっ♡ あひゅっ♡ おおおぉぉぉっっっ♡」
許しを請うカトレインをからかいながら、龍斗は小刻みに突き上げる。
小さな連打は小さな絶頂を招き、機関銃のような軽イキに襲われたカトレインは、全身をガクガクを震えさせながら、柔らかい膣壁をきゅんきゅんと締めてくる。
「むりっ♡ やっぱりむりぃ♡ 敵わないっ♡ わたしなんかじゃっ♡ 龍斗様のぉ♡ お腰にっ♡ かてにゃいのぉぉぉ♡」
体はもちろん、意識の方も掻き乱されているようだ。
男が無抵抗でいるうちは主導権を握れても、ちょっと力強くされれば瞬く間に奪い取られてしまい、快感に対して非力な体を狂わされる。
「ごめんなしゃいっ♡ 身の程っ、弁えないことしてぇ♡ ごめんなしゃいっ♡ 負けでしゅっ♡ わたしの負けでしゅっ♡ 上、なんてっ♡ おこがましいことっ♡ 言って♡ ごめんなさいっ♡」
そんな『敗北』すらも、彼女は愉しんでいるようだった。
乗せて落とされるようなプロセスを、歓迎しているように見える。
「あああぁぁぁおおおぉぉぉっっっ♡ イってりゅぅぅぅっっっ♡ おっきいのもっ♡ ちいさいのもぉ♡ いっぱいぃぃぃ♡ ずっとぉぉぉ♡ しゅごいしゅごいしゅごいのぉぉ♡」
龍斗の腰つきが激しくなるにつれて、カトレインの声と動きも派手になる。
下から突き上げられるほど、振り子のように頭を揺らし、髪を振り乱して涎を零す。
自分が上にいるのに、お手玉のように軽々と体を弄ばれ、されどそれが格別の悦楽。
痛感する――女とは、自分とは、どうしようもなく、男性の逞しさに翻弄されることが、一番気持ちいいのだと。
「はふっ♡ はふぅ♡ あふっ♡ はぁっはぁっはぁっ♡ あはぁぁぁ♡」
気がつけば龍斗の胸に倒れこみ、降伏していた。
龍斗は胸板に潰れる乳房の感触を味わいながら、宥めるように背中を撫でる。
「あふっ♡ 龍斗、様ぁ♡」
ゆっくりと体を返し、カトレインを仰向けにして、上から覆いかぶさる。
文字通りの立場逆転。
上から下へと降ろされたカトレインは――
「……仕返し、してぇ♡」
より強く責められ、屈服させられる瞬間を、涎を垂らして待っていた。
○
「はぁ、はぁっ、はああ♡」
隣の部屋で、イーリスはその声を聞いていた。
防音魔法は機能している。
しかし隣の部屋で、獣人が壁際で耳をそばだてれば、微かに聞き取ることができる。
もちろんそれは、イーリスが恥も外聞もなく、壁に耳を押し付けているからだが。
「んんっ♡ 龍斗、さぁん♡ ずるい♡ カトレイア、ばっかり……っ」
あろうことか、イーリスは自慰をしていた。
壁に半身を寄りかからせ、膝を折った女座りで、乳房と秘所を手で責める。
龍斗の手付きを少しでも再現しようとするように、荒々しく深々と指を食い込ませる。
「私、だって♡ 龍斗さんの、上で……っ♡ ふぅぅぅっ♡」
誇りを捨てた盗み聞きのおかげで、龍斗とカトレインの情事については把握した。
カトレインが内容を明かさなかったのも、無理の無いことだ。
しかし、彼女がそれを好むなら、龍斗がそういうのを好むなら――口は挟まない。
(龍斗さん、私だけのものじゃ、なくなっちゃった……)
龍斗が自分以外の女とシていることへの嫉妬心は、もちろんある。
しかし妖女社会では、それも醍醐味だと語られる。
(でも……前よりも、あの方のご寵愛が欲しくなって、嬉しくなって♡)
夫が自分以外の相手を抱いている時間に募らせた想いを、次に抱かれる時に爆発させるのは、他に類を見ない快感なのだと。
(他の女を抱くほど、お上手になって……っ♡)
他の女で培った技量を自分の体に駆使してくれるのも、新たなる快感の幕開けなのだと。
つまり妖女とは――寝取られもイケる。
「んあっ♡ あっあっあっあっ♡ 次はぁ♡ 私が……私、ですからぁ……っ♡」
イーリスはそうして、隣室が静かになるまでずっと、自分をイかせ続けるのだった。
○
「おっおっおおおぉぉぉっっっ♡」
床に伏したカトレインを、背後から突く。
わざわざベッドから降りて、床を舐めるような姿勢にしたのは、カトレインの希望だ。
「きてっ♡ 龍斗しゃまっ♡ 突いてぇっ♡ やっぱりっ♡ いいっ♡ こっちがいいっ♡ 殿方のっ♡ 下でっ♡ 征服ぅ♡ しゃれるのぉ♡ 好きっ♡ 気持ちいいんでしゅうっ♡」
当人が言うように、これは彼女なりの儀式なのだろう。
当初は、身分卑しい自分が男性の上になることを愉しみ――
その後は男性に逆転されて下になり、元の卑しい奴隷に堕ちることを愉しむ。
上から下への急転直下、彼女はそこに興奮を見出しているのだ。
「なんだどうしたっ!? さっきまで俺に跨ってたカトレインはどこ行ったんだっ!?」
だから龍斗も、あえて高圧的な言葉と共に彼女を責める。
腰つきに手加減は無く、己の快感のために女体を使う、普通なら褒められたものではないセックスを叩きつける。
「んおぉぉんっ♡ ごめ、なしゃいっ♡ わたひが、生意気、だったんでしゅっ♡ いいっ♡ こっちがいいっ♡ 龍斗様にぃ♡ 屈服しゅるのっ♡ 従わされるのがぁ♡ ああぁぁぁいいのイクのぉぉぉっ♡」
カトレインの声と、より強く絡み付いてくる膣が、これで正解だと教えてくれる。
「っ、お前らは、そうやって! 俺を!」
龍斗は恨むようなことを言いながら、カトレインの尻を叩いては腰を打ち付ける。
「いつも、ケダモノにしてっ、襲わせやがって! ほらっ、こうか!? マゾメスおまんこ苛められて満足かっ!?」
「あひぁぁぁっっっ♡ ドスドスくるぅぅぅっ♡ 怒ったおちんぽ暴れてりゅのぉぉぉ♡」
甲高い嬌声を上げたカトレインは、被虐の悦びに酔うばかりだ。
それをいいことに、龍斗は胸中の淀みを吐き出すように、彼女を犯す。
「お前のせいだっ! こんなエッチな体してっ、いつも犯されたがってる! お前たちが悪いんだぞっ! 男を、獣にしたっ、責任取れ!」
「おふっ♡ んぉぉぉっ♡ とり、ましゅっ♡ わたひの、おまんこぉ♡ お詫びに、好きにしてぇ、くだしゃいっ♡ あっあっあっまたイクイクごめんなしゃいイキましゅぅ♡」
ストレス解消のために女の子宮をサンドバックにするような、許されざる行為。
それを快感だと叫ぶ彼女に、また一段と興奮を覚え、猛獣と化していく。
「はぁっ、ははっ!」
不徳な開放感だった。
イーリスにも、ヘルハにもしていない、八つ当たりめいたピストン。
女の尊厳を無視して性処理道具にする、そんなクズ男めいたことをする時間に、いましか味わえない悦楽を感じてしまっていた。
「ぐ、ぁ!」
とうとう堪えきれなくなった射精。
背筋を逸らして、カトレインの最奥に亀頭を突き刺しながら、腰を震わせ射精する。
「――――っっっ♡♡♡ 出て、りゅぅぅぅっ♡ あちゅいのっ♡ 中でぇっ♡♡♡」
予告なしの膣内射精に襲われたカトレインは、子宮内を埋め尽くす男の熱に不意打ちされ、白眼さえ剥いて絶頂していた。
「はっ、はっ、はぁっ」
「あひっ♡ はふぅ♡ あっ♡ ふぁぁぁ……っ♡♡♡
荒い呼吸を部屋に響かせながら、天井を仰ぐ。
イーリスに次ぎ、ヘルハにカトレイン――新しい女を抱く度に、自分が愚かで自由な獣に変わっていくような気がした。
獣人の妖女を抱いていくうちに、人間だった自分さえ、獣になってしまったのか。
「…………」
放心状態のカトレインはそのままにして、逸物を引き抜き、床に腰を落とす。
カトレインは十分に満足してくれた。
明日はイーリス、その次はヘルハ――彼女らも満足させられる自身がある。
なんなら、彼女らの希望通り、一度に全員をベッドに連れ込んでもいい。
しかし――
(俺に、そんな資格なんて……)
龍斗はいまだ、そこに躊躇いを覚える。
一夫一妻の人間界で育ったから……というのは、原因の本質ではない。
資格。そう資格だ。
一度に複数の女をモノにするのなら、男にも器量やら度量やらが求められる。
自分に、それはあるのか?
自分は、そんなご大層な男だったか?
そういうことをするのは、もっと英雄色を好む的な、優れた男の特権ではないのか。
三人の女性を囲うなら、常人の三倍はいい男でいなければならないのではないか?
龍斗がもう少し軽薄だったり、割り切りがよかったりすれば、生じない悩みだった。
(あ、スマホに着信? そういえば、花房がメッセージ送るって……)
行為に夢中で気付かなかったが、マナーモードにしていたスマホが、メッセージを受信していた。
カトレインはしばらく目覚めないだろう。その間に内容を確認しておく。
「…………」
メッセージを読んだ龍斗は、先ずは目を丸くすると、次に真剣な表情になる。
考え、悩む時間を十分に取った後、龍斗は送り主に電話をかけた。
「ああ、俺だけど、いまいいか? ああ、読んだよ」
通話の相手は花房哲。
彼からの打診は予想外のものであり、しかし龍斗の悩みには合致するものだった。
「――生徒会副会長選、立候補するよ」
複数の女を抱くなら、それ相応の男に。
生徒会副会長の肩書きは、正に打ってつけだった。
ご一読いただきありがとうございました。
犬娘たちの三人目でした。
別クラスの『豚』や『牛』たちも執筆中です。
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