※この作品はR-18です。

新解釈!!真・女神転生!?〜世知辛えサマナー〜   作:グリーヴ

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世知辛名言

会社へは 来るなと上司 行けと妻

サラリーマン川柳から抜粋。


第一話 金がねぇ?だったら仕事だ仕事!!

 

   \カカカッ!!/

〔マダム銀子 Lv???〕

「持ち主は突然のことで意気消沈。救出対象は既に精神汚染が確認されてメンタルホスピス病棟へと入院。つまりどういうことかは分かるかしら?」

 

神楽坂にあるビルの一室。

部屋を一望できる真ん中の机にて腕を組み、並べられた資料を俺へと見せつけているようにしている妖麗な美女が座る。

被害総額の書かれた資料に辺り一帯のヤクザがどのようにしていたかと記されている報告書。

それらを直立し、肌の汗腺から冷や汗を流しつつ、目を通してその甚大さを突きつけられていた。

 

〔二宮〕

「……何の、言葉もありません」

〔銀子〕

「なら、次の仕事に取り掛かりなさい。失態は言葉ではなく成果で挽回するのがヤ(・)タ(・)ガ(・)ラ(・)ス(・)所(・)属(・)の(・)サ(・)マ(・)ナ(・)ー(・)よ(・)?」

〔二宮〕

「ハイ…!!失礼します!!」

 

これ以上蛇に睨まれた蛙にはなりたくはない。

訓練された軍人のように踵を返し、行進のごとく部屋から出ていくのだった。

 

 

 

〔???〕

「彼処まで追い詰めんでも良かったのではないのか?」

〔銀子〕

「少し位は締めないと駄目よ?調子に乗るような事は死を意味するから」

 

二宮が出ていってから、部屋の資料棚に寝ていた黒猫が流暢に話し、彼女が答える。

まるで長年連れ添ってきた相棒同士と言える空気が其処に流れていた。

 

〔業斗童子〕

「……まぁ、教育方針に口出しするべきで無いのは分かる。しかしそれでも此れだけの被害に収めた事は誉めるべきでは?」

〔銀子〕

「ええ、其処については充分理解してるわ。既(・)に(・)依(・)頼(・)時(・)に(・)精(・)神(・)汚(・)染(・)を(・)受(・)け(・)、(・)高(・)位(・)の(・)悪(・)魔(・)に(・)よ(・)る(・)被(・)害(・)を(・)最(・)小(・)限(・)に(・)抑(・)え(・)た(・)のは相当苦労してることとか」

〔業斗童子〕

「であれば…」

〔銀子〕

「……時に重ねてしまうことがあるのよ。あの頃が懐かしいと思いつつ、もう戻らないと感じる事をね?」

〔業斗童子〕

「……そうか」

 

傍に置かれている煙管にタバコ葉を入れ、マッチを擦って火を点ける。

其れを一吸いし、紫煙を上げては思い馳せるように目を細めた。

 

 

 

 


 

 

 

 

〔二宮〕

「金がねぇ」

 

別に吉幾○を意識してるわけじゃないけど、聴き慣れてるメロディに変わってしまう。

前回の依頼料は情報屋や金木とジャギの雇用、アイテムの買い溜めで生活費以外は素寒貧である。

何を悲しいことか、真っ昼間からBAR蜘蛛の巣でノンアルコールの炭酸飲料を飲んでは俯くしか出来ないのだ。

 

〔マスター〕

「だから仕事受けに来たんでしょ?」

〔二宮〕

「ご尤も」

 

容赦ない正論にメンタルダメージがとても響く。

考えてみても、一応中堅レベル位だよね?と思うレベルに居るけど全く楽にはならない。

どうして情け容赦無い高位の悪魔とかヘンテコカルトとかにぶち当たるんだろうなおいっ!!

 

〔マスター〕

「とりあえず、依頼人来たよ?」

〔二宮〕

「へいへい」

〔マスター〕

「お願いだから今度は流血沙汰にならないように頼むよ?」

〔二宮〕

「今日は知り合いにアンガーマネジメントを教わったから大丈夫だ」

〔マスター〕

(不安だなぁ…)

 

全く信じられてない顔してる。

何時も誰かの顔面に拳叩き込んでるイメージしか無いのか俺は?

 

 

〔保険契約仲介業者(ブローカー)〕

「今回、クズノハから紹介を受けました、ロイズ保険組合の藁部と申します」

〔二宮〕

「はじめまして。二宮です」

 

蜘蛛の巣の個室は防音かつ完全な密室。

空調設備が整い、テーブルに設置されているベルを鳴らさないとバーテンダー含めた店員は入れないようになっている。

但し、此処で話すのはあくまでも善意からの秘匿情報という暗黙のルールがある。

 

ロイズ保険組合は恐らく一番古い保険契約を取り扱う所だろう。

ロンドンに居を構え、英国貴族のみならず、世界中のセレブ達が保険契約を行っている。

 

〔藁部〕

「実は数日前に来日しているアーティストが行方不明になっています。今はマスコミにも共同で報道規制をかけていますが…」

〔二宮〕

「時間の問題だと?」

〔藁部〕

「ええ、彼女のフリークから疑念の声が広がりつつあり、このままバレればツアーライブに支障がきたします」

〔二宮〕

「これって警察の案件では?木っ端な俺がやるには少々…」

〔藁部〕

「…悪(・)魔(・)が(・)関(・)わ(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)可(・)能(・)性(・)が(・)浮(・)上(・)し(・)て(・)ま(・)す(・)」

〔二宮〕

「なるほどぉ…」

 

お鉢が回ってきたのはこういうことだ。

今回の失踪は神隠しと考えられる。

であれば、この件を最小限に抑えられれば今度こそ依頼料を手に入れられる。

 

〔二宮〕

「分かりました。精一杯やらせていただきます!」

〔藁部〕

「ライブは3日後。其れまでに出来なければ我がロイズに支払われる額は億単位ですのでご容赦を」

〔二宮〕

「……ハイ…」

 

億単位の被害補填はキツイなぁ…。

 

 

 

 


 

 

 

 

とりあえず、スマホの位置情報が切れた地点に来て見る。

場所は都内某所、"平坂"と呼ばれるところだった。

 

〔二宮〕

「マジか…」

 

確かに警察に頼むのは難しい。

何故か?

 

此処は平坂。

 

近くのスクランブル交差点は《とおりゃんせ》のメロディが流れてくるが、稀に《かごめかごめ》に変わる時がある。

その時に後ろを振り向くと、何処かへと連れて行かれるとネットでは囁かれている。

 

正確に言うであるなら、この平坂は黄泉の国へと向かう《黄泉平坂》の一つ。

普段であれば《かごめかごめ》を流さなければ開くことはないのでヤタガラスでも一応封をしているらしいが…。

 

〔二宮〕

「誰が置いたんだろうなこれ…?」

 

平坂の中腹部にある電柱に括り付けられていた古いラジカセを見つけた。

中のデッキを開けるとこれまた昔懐かしいカセットテープが出てきて、曲タイトルを書く空欄には《かごめかごめ》と記載されている。

 

これは何者かの仕業だと確信し、カセットテープを戻して再生ボタンを押す。

 

かごめ歌が辺りを鳴らす。

 

後ろの正面は誰?と文法的におかしな歌詞を思い出しつつ、平坂を振り返った。

 

 

 

 

磯の臭いが鼻孔を駆け巡り、瞼を開く。

徐々に頭の中が覚醒し、意識が冴えてくると目の前の光景にため息を吐く。

 

〔二宮〕

「此処も相変わらずだな」

 

平たい石だらけの彼岸。

赤いリコリスが花を咲かせ、波が打ち押せる音を響かせる。

 

黄泉の国。

 

人によって認識が変わるらしい、俺の黄泉は潮の水とリコリスと平たい石の砂利が風景として認知してるとのこと。

 

〔???〕

「カッカッカ、また来たかバカモノ」

〔二宮〕

「笑わんでくれます?カロン爺さん」

〔カロン〕

「まだお主を橋渡すつもりはないからなぁ…」

 

視界に現れた年老いた船の船頭。

腰まで伸ばされた長いヒゲは真っ白に染まり、ボロ布で出来たローブを羽織る。

 

その人物はギリシャ神話における冥界への橋渡し。

日本で言うならば六文銭の様に金を渡すときちんと魂を運ぶ神様であるが、時には現世に帰す事もするとか。

 

〔二宮〕

「所で俺は死んでるのか、ただ迷い込んだだけなのかどっち?」

〔カロン〕

「うむ、まだ魂と肉体が離れきってないから死んどらんな。じゃが時間が経てば何時しか離れてこの地を彷徨う亡者へと変わり果てるかもしれんが…」

〔二宮〕

「ってことは、コッチに落っこってきた救助対象を探さないとヤバイって事か」

〔カロン〕

「生きとるなら良いが、生憎見掛けてないんじゃ…スマンの」

 

老人の申し訳無さそうな顔は正直あまり愉快ではない。

カロンとて其れは業務に含まれてないから致し方ないが…。

 

〔二宮〕

「とりあえず、此処で待機しててくれ。マッカはちゃんと払うからさ」

〔カロン〕

「相分かった。じゃが出来るだけ早くした方が良い。もしかしたら冥府に魂を取られてるかも知れんからな?」

〔二宮〕

「了解」

 

手を挙げて別れを交わし、兎に角向かうのは冥府の坂だ。

 

 

 

 


 

 

 

 

琴の名手オルペウスは毒蛇に噛まれた妻のエウリュディケーを取り戻すべく、冥府のハーデースへ嘆願した。

番犬のケルベロスや冥界の人々に琴の音色を聴かせ、皆から賞賛を受けたことで現世へ帰ることを赦された。

 

但し、現世へ帰るまでに決して妻の顔を見ないように振り返らないと念押しされる。

漸く愛しい妻を取り戻し、後は現世へと帰るのみと安心しきった所で振り返ってしまい、妻は再び冥界へと堕ちてしまった。

 

それがオルペウスの冥界下りの話だ。

 

言うであれば、神様でも死者を復活させるのはとてつもなく難しいという教訓だが、要は振り返らないことを念頭に置けば良い。

 

そう思っているのが多いだろうけど、残念なことに其れはとても浅はかな考えである。

 

 

冥界の人々に紛れるため、そこら辺の布で亡者っぽく振る舞いつつギリシャ風景漂う冥界の街並みを歩く。

何度かは此処へ訪れてきたが、大抵は直ぐに解決する。

しかし、今の問題は大抵に該当しない難易度の高い事柄であった。

 

〔受付〕

「来てないですねぇ…」

〔二宮〕

「そうか…」

 

役所みたいな建物に入ってから受付のスケルトンに聞いてみるものの、カタカタと骨を横に揺らすしか無い。

 

〔受付〕

「その方、本当に落ちてきたんですか?宗教的の違いとかあったりするんで別の場所かも知れないですよ?」

〔二宮〕

「……生まれはキプロス島だとさ」

〔受付〕

「ああ…。なら漏れは無いかも…」

 

基本的に生まれた地域や民族で行き先が決まる。

カトリックに信仰しているならその方面だし、日本人であれば仏教も神道も変わらないから地獄か極楽かだし、早々滅多なことは無い。

しかし、此処で滅多なことは無い異例は一つある。

 

〔二宮〕

「なぁ、生者が此処に来たらちゃんと保護されるんだよな普通?」

〔受付〕

「ええ、間違いなく……ただ…」

〔二宮〕

「邪な奴らにムシャムシャされるのもある」

〔受付〕

「すみません。其れも珍しくないんですよ…」

 

迷い込んできた生者を食い物にするのは亡者あるあるだ。

事故防止対策はしているものの、最終的には此処に生者が来て保護されなければ無理なのだ。

冥界の人々は其処まで冷たい訳で無いが、稀にマッカで取引する事もある。

こればかりは落胆するしかない。

 

ではこのままおめおめと引き下がるのか?

そんな訳には行かない。

 

〔受付〕

「あの…何をするんですか?」

〔二宮〕

「何って……カチコミ?」

 

俺の一言で、顎が外れたかのように口を開けっ放しにするのだった。

 

 

 


 

 

 

 

〔亡者A〕

「ギャッッハハハ!!」

〔亡者B〕

「イッヒヒッヒ!!」

〔亡者C〕

「イャァーー!!」

 

所々腐り果てる肉に纏った死体が辺りを回って踊りぐねる。

手にはカリブの海賊を思わせる木製ジョッキに酒が並々注がれ、久しぶりの酔いに狂瀾の宴が催されている。

 

回る者達の真ん中を一人の女性が縄で縛られ、打ち付けられた木の棒に括り付けられていた。

 

〔???〕

「ちょっと!!離して!!私を帰して下さい!!」

 

なんとか振りほどこうと身体を捩らせるものの、キツく縛られた縄の前にはどうすることも出来ない。

そんな必死の行動も、亡者達にとっては酒の肴になってしまう。

 

〔亡者A〕

「もう無駄だよ!お前はこの冥界に生っていたザクロを食べちまった!つまりもうお前さんは俺達の仲間入りってことだよ!!」

〔亡者B〕

「神々の掟は絶対!もう帰る所なんて存在しないんだぞ!ギャァハハハ!!」

 

亡者達の煽りに女性は顔を青ざめさせ、自身の立っている状況が取り返しのつかない事だと理解する。

彼女も、母や祖母に叔母からペルセポネーの神話を聞いており、冥界の食物を摂取する行為は不味いことも承知している。

しかし、自ら口にしたわけではない。

気絶している中で突然口内に押し込められた物を思わず呑み込んでしまったのだ。

其れですらカウントされる事に怒りよりも嘆きを感じるしか無かった。

 

〔ペコリーヌ〕

(ああ…そんなぁ…)

 

確かに食べることは大好きであった。

しかし無理矢理食べさせられるのは大嫌いであり、其れは許されざる行いだと理解している。

でも今は、そんな怒りを帯びていてもどうすることも出来ない。

 

ただ彼等の言うとおりに、この冥界で亡者の一人になることしか出来なかった。

 

唯(・)一(・)人(・)を(・)除(・)い(・)て(・)。

 

〔二宮〕

「亡者が寄ってたかって女の子を泣かせてんじゃねぇぞクソが」

 

ドスの利いた声と共に、振り撒かれたのは米粒。

まるで土俵に塩を撒くように見事な散らばり具合は等しく亡者達に降り掛かり。

 

〔亡者.s〕

「ギィヤァァァ゛ァ゛アア゛ア゛!!?」

 

その身を浄化させるのだった。

 

 

 


 

 

 

さて、この間の施餓鬼米持ってて良かった良かった。

レベルも低い亡者の群れを一発浄化出来た事も幸いだった。

 

〔二宮〕

「大丈夫?死んでない?」

〔ペコリーヌ〕

「生きてます!この通り五体満足ですよ!!」

〔二宮〕

「そりゃ良かった」

 

これだけ元気だったら安心する。

 

You Tubeにて再生数1000万を一月で打ち当てた動画サイト発アーティスト『ペコリーヌ』。

デビューシングルの枚数はこのサブスクサービスの中でも500万枚を突破、ヨーロッパやアメリカ大陸横断ツアーは勿論、東南アジア諸国や南米大陸にもその名を轟かせ、チャンネル登録者数一億人を突破したとか。

 

銀が大ファンで、今度のライブチケットが取れなかったことで落ち込んでいたな…。

(倍率が千倍だったのは驚いたけど)

 

先ず、薄緑で縄を切り、解けた所で彼女に手を差し伸べる。

 

〔二宮〕

「立てる?」

〔ペコリーヌ〕

「はい、有難う御座います」

〔二宮〕

「よっと」

 

長時間座りっぱなしだった場合、脚などの血流が滞る事がある。

正座をすると神経も折り曲げて滞らせるので立ち上がると急激な血の巡りと神経等の伝達で痺れて痛みを生じる。

 

しかし、そんな心配も特に無く。

ペコリーヌは軽い足取りで立ち上がった。

 

〔ペコリーヌ〕

「はぁ…助かった…ですかね?」

〔二宮〕

「まだ折り返し地点って所だけどな?」

〔ペコリーヌ〕

「中々やばいですね☆」

〔二宮〕

「やばいを越してマジムリだけどな?」

 

この子結構メンタル強いな。

と思っていたら物凄い音が聞こえた。

 

〔二宮〕

「ん?」

〔ペコリーヌ〕

「……あ、アハハハ…お腹減っちゃいました☆」

 

考えてみればそりゃそうだ。

ここ2日程度この冥界を彷徨っていたら空腹にも襲われる。

ヨモヘツグイでもしていたらだいぶ厄介だが…。

 

〔ペコリーヌ〕

「思ったんですけど、ザクロの実を無理矢理口にされたら駄目ですかね?」

〔二宮〕

「ギリギリアウトラインに近いな…」

 

とはいえ、どうしようも無いので。

 

〔二宮〕

「昼飯代わりに持っておいた。どうぞ」

〔ペコリーヌ〕

「おにぎり…ですか?」

〔二宮〕

「ああ。魔を祓う施餓鬼米から作った鮭おにぎりです」

 

今朝、朝食当番であるので備蓄されてた施餓鬼米で炊いて作ったおにぎりをペコリーヌに手渡す。

コンビニおにぎりのパリパリ感も悪くないが、米に包まれてしっとりとなった海苔のほうが好きである。

 

〔ペコリーヌ〕

「鮭おにぎり…」

〔二宮〕

「鮭の遡上(サーモンラン)って川を上ってくだろう?冥界下りから上るのにあやかってさ?気休め程度であるが、あって良かったと思うほうが精神衛生上よろしいから」

 

遡上をあやかるなんて気休めになるかもと思って作った物だが、ペコリーヌは口を開き、頭頂部を齧っては咀嚼する。

 

〔ペコリーヌ〕

「………おい、しい…」

〔二宮〕

「良かった」

 

食卓に招いてご飯を供物する。

餓鬼道における施餓鬼供養の一つで、アフリカの貧困層の子供みたいな姿で口から火を吐き続ける餓鬼はどんなに物を食べても燃えてカスになってしまう。

だから、地域では米を洗って濡らし、その時期に取れた野菜を刻んで墓前に備える事をする。

 

ペコリーヌに行っているのも、この施餓鬼供養の一種。

彼女に憑こうとする亡者を祓い、現世へと帰るための儀式の真似事だ。

 

しかし、それ以前に。

 

〔ペコリーヌ〕

「…うっ…うぁぁ…」

 

張り詰めていた気が緩み、大粒の涙を流し始める。

よっぽど、怖い目に遭ってきたのだ。

段々と嗚咽が混じった泣き声を出しながらおにぎりを食べ、どうにも止まれない様子の中、もう一個彼女に渡す。

 

〔ペコリーヌ〕

「ぅ……うぁ……あ゛あんっ!!」

 

食べることは生きる事だ。

口にし、咀嚼し、呑み込み、血肉とする。

冥界に居た事で曖昧な存在になった彼女が漸く生きる事を実感出来た。

そんな涙を流す彼女の頭を撫でてやることが今の精一杯だな。

 

 

 


 

 

 

 

〔ペコリーヌ〕

「あっ…///ありがとう…ござい…ます///みんな…食べちゃって……///」

 

顔中を赤く染めて今の痴態を晒したことへの恥ずかしさと用意したおにぎりを全部食べてしまったことへの謝罪をする。

 

〔二宮〕

「いいえ、お気になさらず」

 

こういう為に用意しておいた物だから大丈夫。

(まぁ、俺の分も食べちゃったけど…そんなことは良いか)

 

〔ペコリーヌ〕

「あっ…あの…名前を…」

〔二宮〕

「ああ、俺は二宮燐之助。ロイズ保険組合から依頼で君を探しに来たんだ、"ペコリーヌ"さん」

〔ペコリーヌ〕

「そうだったんですか…すみません。ご迷惑をおかけしました…」

〔二宮〕

「こればかりは君に非は無い。まさか冥界に墜ちるなんて想定する方が極少数だわさ」

 

現におにぎりは昼飯用だったわけで、冥界向けに持ってた訳じゃないからな。

 

〔ペコリーヌ〕

「でも良かった。ニノミヤさんが来てくれて」

〔二宮〕

「そう言ってくれて助かる。さて…君が見つかったから此処に長居は無用。早く帰るか」

〔ペコリーヌ〕

「…はい!」

 

もう生きている内に死者の国に足を運ぶのは懲り懲りだ。

そんな風に彼女は思っているだろう。

先導して歩こうとしたら、彼女の方から俺の手を強く握り締める。

若干もどかしい顔をするので俺も彼女の手を握り、繋いだ状態にする。

 

〔二宮〕

「……気が済むまでしてていいよ?」

〔ペコリーヌ〕

「…!?」

 

安心を求めた行為であることはよく分かる。

そのまま、足早に歩き、この場を去ることにする。

 

ペコリーヌに先程のローブを被らせ、冥界の街を突っ切るように向かう。

また変な連中に突っかかれる前に彼岸に出なければカロンが何処かへと帰ってしまいかねない。

彼女が居ることをしっかり確認し、徐々に人も疎らになっていくことを確認。

そろそろ到着するな。

 

〔二宮〕

「……着いた」

 

眼前に広がる巨大な黒いモニュメント。

よく見ると、多数の男がモニュメントに組み込まれているように見える。

 

〔ペコリーヌ〕

「これっ…て?」

〔二宮〕

「地獄の門だ。ダンテ・アリギエーリの詩にあっただろう?『この門をくぐるもの、一切の希望を捨てよ』って?」

〔ペコリーヌ〕

「オーギュスト・ロダンの作品が何故此処に?」

〔二宮〕

「さてな?逆にロダンがモチーフにした可能性もあるけどね」

 

卵が先か鶏が先か。

そんな問答を頭に浮かばせつつ、此処からが問題なのだと思う。

 

〔二宮〕

「さて、ペコリーヌさん」

〔ペコリーヌ〕

「はい?」

 

彼女の顔を見る。

何せだいぶ難しいことを頼むからなぁ…。

少々言いづらいが、思い切って伝えようとしたとき。

 

〔???〕

「我に許可なく門へと近付くものは誰だぁ!!」

 

その叫び声は、例え死者であっても死を実感できる声色。

恐ろしさそのものを表す地獄の番犬が門を背に現れた。

 

      \カカカッ!!/

〔魔獣:ケルベロス Lv87(冥界補正)〕

「生者か!生者が紛れ込んだのか!?」

〔二宮〕

「ああ、そうだよ。だからとっとと地上へ帰りたい」

〔ケルベロス〕

「其れはならぬ!!その娘はこの地の食物を口にした!であるならばその娘は冥界の住人とならなければならん!!」

〔二宮〕

「重々承知の上だ。だから冥(・)界(・)下(・)り(・)の(・)試(・)練(・)を(・)さ(・)せ(・)て(・)く(・)れ(・)」

 

3つの頭がある巨大なイヌ科の魔獣に伝える。

オルペウスが妻を取り戻す為に行った奏でた音色を思わせるような腕が無ければくぐることは出来ない。

 

それが冥界下りの試練だ。

 

〔ペコリーヌ〕

「あ…あの…。どうするんですか?」

〔二宮〕

「簡単な話だ。君(・)が(・)歌(・)っ(・)て(・)く(・)れ(・)」

〔ペコリーヌ〕

「………へっ?」

〔二宮〕

「世界規模で歌を歌う君だったら通用する!あんまりよく聴いてないけど出来ると信じてる!!」

〔ペコリーヌ〕

(とんでもないことになってる!?)

 

 

 

 


 

 

 

 

ペコリーヌ、『ユースティアナ・フォン・アストライア』

 

其れが彼女の本名であり、かつては古代ギリシャに通ずる公国の一族であった。

しかし、東西冷戦が終息。

度重なる内戦が勃発していたボスニアやユーゴスラビアへとNATO加入を迫られ、ユーゴからは場合によって宣戦布告もじさないと突きつけられていた時代。

どうしようもなくなった公国は議会制民主主義を行い、野に降りた経緯から、貧乏生活が始まったとされる。

 

最初は、村人から褒められたことでYou Tubeに投稿したのがキッカケであった。

 

ちょっと位はお金が入ればいいと思ってスマートフォンの録音で歌ったのをアップしただけ。

最初から直ぐには再生数も伸びることは無いだろうと思っていたが、アフロディーテの微笑みが呼んだのだろうか。

翌日起きたら、某SNS社社長とハリウッド映画監督、各所著名人のフォローが入り、コメント欄が読み切るのに数年有する程に届いたとか。

 

瞬く間にファンサイトが作られ、国際事情に詳しい大手芸能事務所が全力バックアップに回った。

其れから息つく間もない日々が始まる。

 

You Tubeへ動画投稿から始まり、歌のレッスンやトレーニング。

主要外国語の取得に、お馬鹿では話にならないと一般教養と、毎日がハードスケジュールで構成されていた。

 

それでも、ユースティアナにとっては認められた才能を発揮できる機会に恵まれたことへ本心から喜び、楽しい毎日を送るようになる。

 

が。

 

突然、何かが見失った。

今まで歩いていた所がすっぽりと消えて無くなったように。

どんなに手を振って探しても見つからない。

どんなに目を凝らしても、どんなに耳を澄ませても。

 

彼(・)女(・)は(・)目(・)的(・)を(・)見(・)失(・)っ(・)た(・)の(・)だ(・)。

 

 

 

 

〔ペコリーヌ〕

「……無理です」

 

そう…無理なのです。

実は来日してからずっとこんな感じ。

照らされてた道が消えて無くなり、歩くことが出来ない。

恐る恐る足を踏み出したら底なし穴に落ちてしまいそうになりそう。

あれだけ好きだった歌が歌えなかったら、私にはなにもない。

そう…どうしようもないのです。

 

〔ペコリーヌ〕

「分かんないんです…どうやって歌ってたかとか……どうすれば声を出せたのかとか…。まるで……ポッカリと穴が空いたみたいになっちゃったんです」

〔二宮〕

「………」

〔ペコリーヌ〕

「…ごめんなさい。ご依頼が達成出来なくて…」

「そして、有難う御座います。おにぎり美味しかったです!」

 

本心から、彼へお礼を伝える。

二宮さんならば現世へと帰れる。

お仕事が失敗してしまうけれど、命には代えられないから仕方がない。

最後に会えた人がとても良い人で良かった。

 

〔二宮〕

「……じゃあ…俺(・)の(・)魂(・)を(・)賭(・)け(・)る(・)か(・)ら(・)楽(・)器(・)を(・)貸(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)」

 

何か妙なことを言い放つ。

どういう意味なのか知ろうとする前に、彼の前には何故か鍵盤ハーモニカが現れた。

 

〔二宮〕

「鍵盤ハーモニカかい」

〔ケルベロス〕

「冥界に電気が通っていないから地上の音楽機器は使えんのだ」

〔二宮〕

「……しゃあねぇな。鍵盤ハーモニカもご立派な楽器だしな!」

 

若干不服そうに言って、彼は口にリードを咥えて吹いて調整をし始める。

 

そして拭き始めたのは。

 

https://youtu.be/iGGPXw_nILg

 

〔ペコリーヌ〕

「ビリー・ジョエル!?」

 

少なくとも音楽家で知らない人のほうが少ない曲であろう。

アーティストの方を知らなくても聴いたことはある有名曲を歌えと言わんばかりに吹き続ける。

 

〔ペコリーヌ〕

「……スゥゥ…」

 

息を吸い、横隔膜を意識して声帯を震わせ、歌詞を綴る。

 

鍵盤ハーモニカも音が懐かしいと感じながら歌う。

そういえばお父さんも好きだった記憶を思い出す。

 

段々と、自分の調子が取り戻していく。

 

どうしてか、最初の時の楽しく歌っていた頃に戻れたかのようだった。

そして歌を歌い終わると、ケルベロスは顔を顰めつつ、口を開いて裁定を下した。

 

〔ケルベロス〕

「………オルペウスの音色とは程遠い」

 

結果は褒められるものじゃなかった。

 

〔ケルベロス〕

「…が、しかし…」

「今度は、整った場所で聴き遂げる必要がある。地(・)上(・)で(・)な(・)?」

 

でも、勿体ぶって笑みをこぼし、そう言った。

つまりは…。

 

〔ケルベロス〕

「門をくぐる許可を与える」

 

私達はこの門を通る事を赦されました。

 

 

 

 


 

 

 

 

遠くから《とおりゃんせ》のメロディが聴こえる。

どうやら平坂に帰ってこれたらしい。

 

あまり戦ってないが、冥界にいると生者は精神的に負担が来るということだろう。

昼間に入ったのだが、いつの間にかビルの合間に日暮れが見え隠れしていた。

 

〔ペコリーヌ〕

「……帰って…これた?」

〔二宮〕

「ああ。そうだね」

 

その場にへたり込むペコリーヌ。

負担を考えたら彼女の方が大きいと思う。

若干穢れの類を持ってきている可能性を考えて、浄める湯浴みをさせないと不味そうだ。

 

〔二宮〕

「…立てる?」

〔ペコリーヌ〕

「……無理っぽいです☆」

〔二宮〕

「だろうと思った」

 

腰が抜けて脚に力が入らない状態だ。

だが、このままでは埒が明かないので。

 

〔二宮〕

「お手を拝借」

〔ペコリーヌ〕

「はえっ?」

 

彼女の腕を首元へ回し、両手で抱える。

所謂お姫様抱っこというやつだ。

身体の軽さを考えると少々もう少し肉が付いたほうが良いのでは?と女性に悪そうな考えが浮かびつつ、跳躍した。

 

〔ペコリーヌ〕

「やっ、!?やばい…!ですっ!!ねぇ☆!!」

 

壁の出っ張りや通気孔等を足場に上り、屋上へと到達すれば、そのまま伝って走り、ビルの間を跳んで行く。

世界的アーティストだと気付かれない方法は今のところコレくらいしか無いので、彼女には我慢してもらうしかない。

 

しかし、何だか熱っぽいのか、体温上昇と顔中を紅潮し始めてるので風邪のひき始めから効く煎じ薬湯を飲ませよう。

 

〔ペコリーヌ〕

(男の人からこんな事して貰うの初めてですけど!?)

 

 

 

                  次回に続く…?







ライブ会場当日

〔銀〕
「イェエーー!!ヤッター!!」

銀の大はしゃぎする姿を見て、大正解だと感じた。
あの後、御礼にまさかのライブ関係者用席に案内すると言われ、驚いた。
そして家に着けば銀がひと目見てオーバーヒートし、浄めの湯浴みを手伝ってくれと言ったらまたオーバーヒートしたのでだいぶ時間が掛かった。

〔銀〕
「おっ!屋台が沢山あるー!」
〔二宮〕
「あんまり食べすぎるなよ?後が辛いからな?」
〔銀〕
「分かってるって!もう…」

テラス席があるとはいえ、若干重めの料理が立ち並ぶ屋台とフードトラックの並びを見つつ、小さなため息を吐くのだった。


ライブが終盤に差し掛かり、最高潮に達した際のラストの曲はまさかの《Piano Man》カバー。
明るいの曲を歌う彼女にしてはちょっとしたギャップ狙いかとざわめく会場。
そして歌い終わり、彼女の口からとんでもない発言が飛び出した。

〔ペコリーヌ〕
「私、ペコリーヌは歌い手を辞めます!!」

SNSトレンドトップに飾り、新聞各紙が翌日のトップに差し替えた衝撃的かつ想像されていなかった言葉の真意を知るのは、多分俺と銀の2人だけかも知れない。


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