服飾文化研究会にようこそ!~僕が女装させられて先輩方にオモチャにされる日々~ 作:桃ノ木ネネコ
そして数日後・・・
圭太は
何故かグレンの車に乗っていた。
(どうしてこんなことに・・・)
その日の夕方、圭太は普通に家路についていた。
しかし突然現れたグレンに話しかけられ言葉巧みにあれよあれよという間に
車に乗せられ、本人が気が付いた頃にはすでに車は走り出してた。
なぜこうなったのかは本人にも理解できなかった。
「どう・・・して・・・?!」
「ユーチューバーたるものバスやタクシーよりも人を乗せるのが上手いのさ!」
グレンの意味不明な高笑いが響く。
「こんなわけのわからん理由でネット芸人に拉致られるのは嫌だー降ろせ!」
圭太が頭を抱える。
「誰がネット芸人だ!」
「じゃあなんなんだよお前は!?」
「ボクはグレン。ただのスーパー女装少年さ」
「だからそのスーパー女装少年が一介の高校生男子を拉致って何する気だ!」
「・・・キミ口が減らないねぇ。キミは黙ってボクに付いてくればいいの」
そう言うと車は加速する。
***
それからしばらくして、グレンはある建物の前で止まった。
そこは大きなマンションだった。
グレンが先に降りると、振り返って手を差し伸べてきたので
圭太はその手を掴まず自分で降りた。そして1室に案内される。
「ここがボクの部屋だよ。いやぁ久々に下心のない人間を
家に上げると気持ちいいなぁ!」
「・・・・・・」(いや、拉致だよこれは)
「まあまあそんな警戒しないでよ。
今日はちょっとキミに聞きたいことがあるんだから。」
「聞きたいことがあるだけの割にはずいぶん強引な手で来たね。」
するとグレンは目を細めて圭太を見つめる。
まるで獲物を見るかのような目つきで。
圭太は思わずゾクッとした。
本能的にこの男はヤバいと感じる。
(なんなんだこいつは・・・)
部屋に向かう途中に横切ったキッチンには、
おびただしいピザの箱があった。
どうやら毎日の食事がこれのようだ。
(うぇ・・・飽きそう)と圭太が若干引き気味になると
「エネルギーの摂取に時間をかける趣味はないからね」
と圭太の心を読んだようなことを言った。(太るぞ・・・)
部屋に通される「適当に座って」と言われる。
圭太が部屋の隅に腰を下ろし
「・・・それで、俺に何を聞きたいというんだ?」
「ズバリ聞くよ。これはキミだろう?」と言ってグレンが見せたのは
あの文化祭での圭太の写真だった。
「ああ、文化祭でクラスの性別入れ替えて
メイドカフェと執事カフェやったときのだね。」
と圭太が答える。(よく見つけたもんだ。)
それは圭太自身も忘れていた写真だった。
確かにその写真には女装した自分が写っている。
「だけどこのキミと今のキミはちょっと違う。この写真からは何かこう、
不思議な魅力を感じるけど、今のキミにはそれがない。」
「・・・・・・」
(言えない。まさかあの時沙由美先生からちょっと言えないような
ひどいイタズラを仕掛けられていたなんて・・・)
グレンからの問いに圭太は黙るしかなかった。
「ボクが知りたいのはそこなんだよ。この写真を見たときに
『ボクと同じ匂い』を感じた。そして確信したよ、キミには共通するものがあるってね」
「・・・俺には共通しない部分の方が多そうに思えるだけど?」
「・・・キミはなかなか強情だねぇ。いいかい?もう一度聞くよ。
この女装姿のキミと今のキミ、一体どこが違うというんだい?」
「知らないよ・・・そんなの」
「その答えじゃボクは納得できないなぁ。
この際だから実際にやってもらおうかな」
グレンが切れ長の目をさらに細める。
「何をするつもり?」
「女装して見せてほしい」
「えっ」
「ほら、早く着替えてきて」
そう言ってグレンはクローゼットを開ける。
(なんか楽しそうだなこの人)
「・・・わかったよ」とため息交じりに圭太が言う。
こうしてグレンの好奇心を満たすために、
再び女装することになった圭太であった。
「しかしどれもこれもサイズが合いそうなないな。
ここの服はどれもボクに合わせて作ってるしな。」
そんな様子を見ながら圭太は
(そういや部にある服ってこういう露出度が高かったり
もろに体の線が出る服ってないな。翠さんの趣味が
フリフリのドレス系だからかな?)
翠の作る服のセンスの良さに圭太はちょっとだけホッとする。
「仕方ない、これしかないか」
グレンが取り出したのは和服のようなワンピースだった。
「ゴスロリ浴衣。和とも洋ともつかない中途半端さがボク好みじゃあないけど。」
「・・・」
(俺は別にどっちでもいいんだけどな。
翠さんならもう少し可愛く作りそうだけど)
「さあて、それじゃあ着替えてもらおうか」
「ん。ここで?」
「もちろんだよ。」
「・・・いや、あんまりじろじろ見られるのは・・・」
「どうしてだい?」
「どうしても何も恥ずかしいだろ普通に」
「ふーむ。そういうものなのかな。ボクは気にしないよ。
むしろ興奮する。」
「変態かよ」
「なんてね!いいよ部屋の外出て」
ニヤニヤしながら冗談とも本気ともつかないようなことを言う。
「はぁ・・・」
グレンが部屋を出ていくと、圭太はしぶしぶ服を着替え始める。
(なんか例によって例の展開になってきた気が・・・)
着替えながらちょっと嫌な予感がしてくる。
「お待たせ」と言って部屋に入る。
「うん。いいね。やっぱりボクの目に狂いはなかったようだ」
満足げに微笑みかけるグレン。
その視線が圭太の顔から胸、腰へと降りていく。
「へぇ、足の毛の処理もちゃんとやってるんだね、関心関心」
圭太にとっては嬉しくない褒め方をされる。
「あのさぁ、あんまりジロジロ見ないでほしいんだけど・・・」
「いやぁ中途半端な奴ってこの辺り適当だから、
きっちりやってるのはマジで感心してるんだけど?」
「そりゃどうも」
と言いながら圭太は座り込む。
(一応プロだからこういうところきちんと見るのかね?)
しかしその座り込み方を見て、グレンはちょっとだけ真顔になる。
「その座り方、意識してやってる?」「え?」突然の質問に圭太は戸惑う。
そんな様子をじっと見つめながらグレンは言葉を続ける。
「キミ、着替える前はずっとあぐらかいてたよ。」
指摘されて気が付いたが、圭太は
今女の子がやるような内股座りをしている。
「これは・・・スカートだから・・・」
言い訳をしながらすぐに足を閉じる。
するとグレンは圭太の目の前にしゃがみこんで言う。
「女装し慣れてない奴は、こういう時スカートでも平気であぐらかくもんなんだよ」
「・・・!」
(確かに言われてみるとそうだ。今まで気にしたことなかったけど・・・)
「ま、無意識にそれが出来るってことは、相当し慣れてるってことだよね」
「・・・」
女装に慣れてると言われ、圭太は少し黙ってしまう。
それはあながち間違いではないからだ。
「まぁ皆にせがまれてやってますから」
冗談めかして言ってみてるが、こっちも嘘偽りがない。
「せがまれて?」またもグレンが首をかしげる。
「事情は複雑だけど、僕の女装姿を必要としてる人が
少なからずいてですね・・・」と照れ笑いをして見せる。
しかも照れ臭さすぎてちょっと敬語になっていた。
「!」
この瞬間、それまで笑っていたグレンの表情が固まる。
(今・・・ものすごくかわいく見えた・・・)
ちょっと困ったように話すその姿にグレンは一瞬だがキュンとしたのだ。
(これは・・・予想以上だ。あの写真は奇跡の一枚なんかじゃなかったんだ。
間違いなく彼は・・・逸材だ!)
「ええと、僕の顔に何か?」
「ああ、ごめん。別に何でもない。ただちょっと驚いただけだから」
圭太の言葉に冷静さを取り戻すグレン。
「もう一度聞いてもいいかい?君は誰かのために女装してるの?」
「最初はほぼ無理矢理だったし、いまだに抵抗はあるけどね。
でも、今のこの『僕』がいなくなることを望まない人はいる。
それだけだよ。」
そう言った圭太の目はまっすぐ前を向いていた。
そしてすぐ「・・・な、なんてね。」と苦笑いしてみせた。
やっぱり照れ臭いようだ。
(まったく・・・なんてこった)
それまで圭太を見つめていたグレンだったが突然
「ぷははは・・・あはははは!あーははっはは!」と笑いだした。
「ははは!その志し実にいいよ!うん、実にいい!」と
床に突っ伏して笑っている。
今度は圭太がキョトンとする番である。
ひとしきり笑ってグレンは涙をぬぐいながら言う。
「ごめん、キミを馬鹿にしてるわけじゃないんだけど、
キミがあまりにボクの対極にいるんで、つい笑っちゃったよ」
その目にはもう敵意はない。
「そういう人たちがいるなら大切にした方がいいと思うよボクも。」
その言葉にはどこか優しさがあった。
「ちなみにボクは自分のために女装してるからね。そしてこれからもそう。
だから君と僕は対局なんだ。」
グレンは立ち上がると改めて圭太を見る。
その視線は優しいものだ。
「なんか、キミとは仲良くなれそうな気がするから、よろしく頼むね」
握手を求められた圭太は若干引いたが、改めてその手を握り返す。
「う、うん・・・」と。
「ああ、これも正直に言っちゃうけど、もしキミがボクの脅威になるようだったら、
容赦なくぶっ潰すつもりで呼んだんだ。」
と、突然笑顔でとんでもないことを言う。
その言葉を聞いて圭太は驚く。
(えええ!?それ、マジかよ・・・)
しかしそんな圭太の様子を見てグレンは再び笑う。
その笑顔にはやはり悪意がない。
そして続ける。
「この界隈結構魔境でさ、隙あらば誰かが誰かを蹴落とそうとする世界なんだ。
だから自分の身は自分で守らないといけないんだよ。手段なんか選んでられない」
圭太はその言葉を黙って聞いていた。
このグレンという少年が、一体どういう存在なのか圭太はまだ分かっていない。
「だから、ボクを利用しようとしたり、脅かすような存在は早目に潰すんだ。容赦なくね。
裏切ってくるような奴なんか特に。」
一見笑顔で話しているように見えるが、目だけは笑ってないように見えた。
切れ長なその眼はどこまでも冷たく感じられた。
「・・・!」
(なんかいちいち言い方が物騒だな・・・)
「ま、安心してよ。ボクは可愛いモノにしか興味ないし、それに」
(それに?)
「気に入ったものは大事にする主義だしね」
グレンはウインクしながら言う。
「・・・そ、そうですか」
圭太はそれしか答えられない。
「あと今日分かったけど、君はいい意味でボクの脅威にはなりそうにない。」
と、グレンは満足げだ。
どうやらお眼鏡に適ったらしい。
「まぁ逸材には違いないけど、キミにその気がないからね。」
(え?どういうこと?)
よく分からないが、とにかく気に入られたらしいことは分かる。
「無理に連れ出してすまなかったね。帰りは送るよ。」グレンは立ち上がる。
「え?いや、大丈夫だよ。」
「いいから、送らせてよ。」
(・・・ん?あれ?なんだろう?なんか違和感があるぞ)
圭太は着替えるとマンションを出た。
圭太は再び車に乗せられた。
(・・・この運転手さんずっと待ってたのか)
運転席に座る男を見る。
40代くらいだろうか。
寡黙な雰囲気の男だった。
圭太が乗っても何も言わず、運転に集中しているようだ。
グレンが助手席に乗り込むと車が発進した。
(この人、グレンさんのマネージャーかな?専属のドライバーとか?)
圭太はいろいろと想像を巡らすが本当のところは分からなかった。
帰りの車内は行きとは打って変わって、しんとしていた。
圭太は息が詰まりそうになったので話し出した。
「キミはあのマンションに一人暮らしなの?」
グレンは感情を出さずに話し出す。
「親は離れて暮らしているよ。昔ボクに殺されそうになったから、
逃げ出したんだ。」
「えええ?!」さらりと物騒なセリフが出てさすがの圭太も大きく驚く。
その途端表情を少し緩めて
「・・・冗談だよ。本当は二人とも海外で働いてる。」
などと笑いながら冗談か本気かわからないことを言う。
その目はやはり笑っていないように思えたが。
(ホントに物騒な物言いするな・・・)
そうこうしているうちに車はあっという間に家に着いた。
グレンは車を降りると圭太に手を差し伸べる。
その手を取り、圭太も降りようとすると
グレンは突然圭太の手を引き、唇を重ねた。
「???!」
その唇はとても柔らかく、ほんのり甘い香りがした。
少しだけ舌が入っていたかもしれない。
「じゃあね、お姫様」
そう言うとグレンは去っていった。
取り残された圭太は口元を押え、
真っ赤になりその場にへたり込んでしばらく動けなかった。
****
「グレン様にいきなり拉致られて帰り際にキスされたぁ~?
またまた御冗談を!」
(まぁ信じないとは思ってたけど・・・僕だって信じられない。)
圭太は先日の出来事を部室で話すが、案の定、真由里にすら信じてもらえない。
「この身に起きたんだけどなぁ・・・」
「いやぁ無理があり過ぎますって」
真由里は笑って言う。
「・・・でも圭太様とグレン様のキスシーン・・・想像しただけで・・・はぁ尊い。」
と、真由里は頬を染めてうっとりする。
(ああ、ダメだこりゃ・・・)
部室にあるタブレットにはまたグレンの動画が流れていた。
「やっぱりグレン様のこの衣装素敵ですね!もう最高です!」
「あーうんそうだね」
(僕にとっては恐怖の象徴なんだよなぁ)乾いた笑いが出る。
そんな圭太の気持ちはお構いなしに画面内のグレンは言う。
『ボクを愛してやまないキミたちにボクから熱いベーゼをお届け!』
(ベーゼと来ますか・・・)
そして動画の中のグレンはウインクしながら投げキッスをする。
相変わらずのミステリアスな小悪魔系な言動をしているが、
圭太が昨日見たような時折ある物騒な言動はここでは出ていない。
(そこはやっぱりプロなんだろうなぁ。)と一応感心する。
『それじゃあまた会おうね!お ひ め さ ま』
そのセリフに圭太の背中はぞくりとした。
おわり