【R-18】男女比率がおかしい貞操観念逆転アカデミアだけど強く生きよう 作:hige2902
秋空に綿のようなヒツジ雲がのんびりと流れている。
夏の暑さもようやく落ち着き、心地よい朝の陽気が街を照らしていた。
供儀聖典という大規模テロ行為によって破壊されたインフラの修繕も終わり、人々の往来は以前とそう変わらない。しかし爪痕は薄っすらと残っている、目に見えない形で。
オールマイトが引退し柱を失い、求心党という政治団体がヴィランの片棒を担いでいた事実は不穏の種となり発芽していた。
いったいこの先、誰がオールマイトの代わりになってくれるのか。表面上は誰もが平静を振舞っているが、それは後継者がいない社会秩序に対する逃避であり、また同時に虚勢でもあった。
『秩序とは回転する独楽に似ている』
悪くない書き出しだ。と、ある女性記者はスタバの窓に面した席で、ウサギのステッカーの貼られたノートPCのキーを叩く。続けて──
『独楽が回っている間は秩序が保たれているが、放置すればいつかは必ず力を失い横転する。
組織や誰かが目を離すことなく、回転が弱まれば力を込めて捻り、盤上で回し続けなければならない。
だが今は独楽を回す者がいない。いや、存在するのだが良くも悪くも単一に象徴化されておらず、それが例えようの無い不安を市民に浸透させている。
それほどまでにオールマイトというヒーローはアイコニックで、舞台装置じみて強力無比で、だからヴィランの個性犯罪に対する常駐的な圧力になっていたのだ』
新作のピーチ&アールグレイ フラペチーノを一口やって、一呼吸置く。このまま流れに乗って書き進めたいところ。
向かいの高級腕時計店の前で、車窓がスモーク加工されたバンが停まった。
『いま、秩序は力を失いつつある独楽のように振れている。
かろうじて軸は盤上に立って回っている。
誰もかれもが諦めてほんの少し目を逸らせば、どうせ無駄だと回す事に億劫になれば、ゆるやかに回転が終わり盤上から転がり落ちてしまうような不安定な速度で』
バンから三人の覆面男が飛び出し、時計店に突入した。客や店員に構わず、乱雑にケースを割る。
平和の象徴のいない空白に増長した傲慢な犯行であるが、オールマイトによる見えない圧力下で計画だけは時間をかけられた。実際にやりはしないが、もし狙うなら……という思考実験の結果を見る日が来ただけなのだ。
下見や段取りは入念なものだった。ただ一手誤りがあるとすれば、それは耳に不快なガラスが砕ける音を立てるべきでは無かった。
現場から遠く離れたビルの屋上で寝っ転がりながら、ニンジンスティックをぽりぽりやっていたヒーローのもふもふした長い耳がぴくりと反応する。
白昼堂々の凶行に店員も客も声が出なかった。ショーケースの中の腕時計が、掃除機で吸われるように覆面たちの持つリュックにかっさらわれるのをただただ黙って見るしかない。
あまりにも唐突な出来事に脳の処理が追い付かず、呆然とするしかない。
一分と経たず目につく物品を回収した覆面たちは仲間の待つバンに踵を返すも、そこで固まった。客も店員も視線で追って口をあんぐりさせる。
美しい月銀の長髪に褐色の肌、紅玉のような瞳のラビットヒーロー ミルコが爪先一つでバンをくるりと転覆させていた。パンケーキでもひっくり返すような気軽さで。
車は完全に天地を逆さまにし、自重と衝撃で車窓は割れた。待機していた運転手は天井に頭をぶつけて気を失う。反射的に踏まれたアクセルに後輪が虚しく回る。
「やめとけ」
店内の覆面が口を開こうとするよりも速くミルコが機先を制した。
「もうおとなしく捕まるか、ゲロ吐いて捕まるかしかねぇ」
覆面の一人が緊張と興奮により荒くなる呼吸を抑えようともせず、両手に個性を起動させる。その一拍前にミルコの膝が鳩尾に入った。白目を向き、胃の中の物をマスクの中に吐き出しながら落ちるように床に伏せた。
目で追えない速度で動くヤツっているんだ……
現実離れした光景に、その場の全員が息を飲む。
残った覆面のうちの一人は震える両手を上げて膝をつくが、最後の一人は粘ついた口内を開いて啖呵を切る。
「ふ、ふざけん……おまえみたいなカスヒーローが、おれたち、おれを捕まえられると思ってんのかよ!」
「足が震えてんぞー?」
「うるっせぇ! ヴィラン連合に誘拐されたクソザコのくせによぉお! おれを捕まえたきゃよ……オールマイト呼んで来いって!」
ミルコは髪をかき上げ、安い挑発を鼻で笑う。
「悲しーぜ。オールマイト以外は有象無象かよ」
「へっ、実際そうだろーが……言っとくが、おれは速ぇぜ」
「ほーん」
覆面は身をよじるように姿勢を低くし、ミルコの背後の空間から自身を【吸引】した。床を滑るように店の外へ一瞬で飛び出す。
「そんなノロマじゃまた攫われちまうぞ!」
そのまま通りを同じ手順で空中を高速移動しようとしたところ、抜き去ったはずのミルコに前方から蹴り落される。
「んがっ!?」
アスファルトに撃墜され完全に気を失った覆面を、ミルコはつまらなそうな溜息で見下ろす。
「なんだよ。ずいぶん速さに自信ありげだったが、運動会の駆けっこで一等賞でも取って勘違いしたのか?」
軽く伸びをして店内に戻る。降参した覆面は行儀よく手を上げたままだ。
「ケガとかしてるやつは……ん、いねーな。警察来るまでヴィランは見張っとくから、とりあえず店出な」
犯行から僅か数分で事態は収束を見せ、警察の到着と共に一段落した。
ヴィランを引き渡しその場を跳び去ろうとした時、スタバで原稿を書いていた女性記者は興奮冷めやらぬ声色で呼び止める。
「あ、あのっ。よければインタビューさせてもらえませんか!」
「あ? あぁ~」
腕を組んで少し思い悩み、ちらと若い女性記者を見やる。向かいの店でちょうど居合わせたのだろう。
今までのミルコなら忙しいの一言で置き去りにしていたが。
「んー、いいけど」
「ありがとうございます!」
女性記者はボイスレコーダーを取り出し、さっそく仕事に掛かった。小さな咳払いの後、よく通る声で。
「まずは迅速なヴィラン退治に感謝します。以前にも増してミルコさんの活動が活発になっていますが、やはりオールマイトさんの引退に影響を受けての事でしょうか?」
「いや全然。関係無いね」
「で、ですが! 今までのミルコさんの個性犯罪の解決方法とは明らかに違いますよね!」
記者は食い下がる。
「ちょうど向かいの喫茶店で仕事中だったので一部始終を見ていましたが、以前までのミルコさんなら、問答無用で蹴り飛ばしていたはずです!」
「まあ、そうだな」
思ったより詳しかったので少し呆気にとられる。
「ミルコさんの性格的にヒーロービルボードチャートJPの発表が近い事も関係しないでしょうし……それに最近はファンサービスも意識してされているようですが、いったいどのような心境の変化が……」
急にぶつぶつ言いだした記者を半目で眺めながら、ミルコは顎に手をやって逡巡する。
「んーまあでも、ビルボードはちょっと意識してるかな」
「えっ!? 解釈違いです!」
「は?」
「あ、いえ……今のは忘れてください。ですがその、今後はオールマイトさんのようなシンボルとしての役割を担うつもりということでしょうか?」
「わたしはオールマイトじゃない。あいつみたいに器用じゃねーし象徴として万人に好かれるとも思ってねえ。わたしはわたしに出来る事をやってるだけだ」
「ですがいま市民は、守ってくれる新たな平和の象徴を求めています」
「誰が守るかなんてなんて考え込むよか、少しでもいいから自分の周りのヤツの事を気にかけてやりゃいい。もういいだろ?」
慣れないインタビューに照れくささと面倒くささを覚えて、ぶっきらぼうに手を振って跳躍する。
空に消えるヒーローの背を眺めながら記者がぽつりとこぼした。
「……やっぱかっけぇ」
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「あらかじめ伝えた通り、シチュエーションとしては早朝の銀行立てこもり事件。過去問だから知ってる人もいると思うけど──」
(あー、やりずらー)
ミッドナイトは訓練施設で淡々と今回の目標を生徒に説明しながらも、内心は複雑な心境だった。
彼と関係を持った事は専用のアプリに事後(更衣室での)写真を上げたので芦戸たちにはバレている。
バレているのにヤらないのは損だし、彼とのセックスには抗えない肉欲を覚えてしまった。一度で終わらせるにはあまりにも惜しく、我慢できず、なし崩し的に日を変えた二回目はハメ撮りをすることになり、当然アップロードされた。
それを揶揄するような芦戸たちではなかったが、視線や雰囲気は抑えられない。いやーわかります。めっちゃ気持ちイイですよねぇ。とか、これでもう学校内でヤってるの見つけても怒らないですよね。とか、そんな共犯関係を匂わす類い。
そしてミッドナイト本人は隠せていると信じていたい事柄だったが、彼に対する女の仕草が見え隠れしていた。
声色が少し弾んでいるような、かと思えば自制が働いて露骨に素っ気ないような、それで傷つけたかもと後悔して恐る恐る気遣っているような。
彼と寝たかも。という前提知識が無ければ気付かないような程度だったが、つまりそれはミルコにとって確証だった。
個性使用を含めた実技訓練ではミッドナイトとミルコが揃って指導するので、その場でミルコからフーン、という視線を受けてミッドナイトはバツが悪くなる。
「──銀行内に残された行員および利用客の人数は不明。ヴィランの個性に関しては──」
(ええそうよ、ヤったわよ! 年甲斐も無く若いオスに腰をヘコヘコ振ってイきまくったけど!?)
もう開き直るしかなかった。
しかし、どうも解せない事もある。てっきり彼と関係を持ったと勘違いさせる為、ミルコはヒーロー活動のスタイルを軟化させたと考えていたが、どうもその作戦が成功した後も継続させている。
(もうわたしが彼とエッチしたって察してるんだから、いつも通りの硬派な感じに戻してもよさそうなもんだけど)
授業後の個人教員室で独り言ち、ミッドナイトは雑誌に目を通す。ヒーローに関する話題を纏めて刊行されているものも多々あり、中でも名の知れた月刊誌だ。たまにヒーローをモチーフにしたポーチやリュックなどが付録として閉じられており、人気ヒーローのモチーフだと即完売して転売されたりもする。
そんな有名紙にミルコのインタビュー記事が載っていた。以前なら面倒くさがって適当にあしらっていたはずだが。
まあいい。とミッドナイトは紙面を閉じて嘆息する。どうせ遅かれ早かれ彼女もヤるのだ。
その単純にして明快な予想は当然のごとく的中する。
ほぼ定例となっている体術の補習を終わらせ、汗を滴らせる彼を見て、ミルコはその内の熱情を辛うじて抑えていた。彼がエッチ過ぎる。
火照った身体に、嗅いでいるだけでムラムラするオスフェロモン。寝技の授業で女生徒がこっそりすーはーすーはーしてしまうのも止む無しといったところ。
(くそっ、なんでこんないい匂いさせてんだ?)
今回の補習の講評を述べながら、ミルコは濡らしていた。視線は彼の股間に彷徨わせながら、体育倉庫で見たイチモツを脳裏に描く。まだ、太ももに挟んだ肉棒の熱さは身体に覚えている。
本能に従うなら、今すぐにでも彼を犯したかった。ミッドナイトももう煩く言ってこないだろう。
が、体育倉庫の時はそういう流れというか雰囲気があったものの、時間が空くとどうにも誘いにくい。なのでらしくもなく、垂涎の肉体を前に視漢するしかなかった。
そんなチラッチラッとした視線は男性にはすぐわかることを、女性は往々にして気付かない。
補習が終わった後のちょっとした雑談は、どっちが決めたのかお約束になっている。ミルコの意図を汲んだ彼はだから、スポドリを飲みながらそっと助け舟を出す。
「そう言えば先生、インタビュー載ってましたね。買いましたよ」
「ん、ああ、あれか。たまにはな」
なんだか照れくさくなって視線を泳がせる。ぽりぽりと頬を掻いた。
「個性犯罪の抑制になるらしいから……ていうか読んでるのかよ、ああいうの」
「ヒーロー志望はだいたい読んでるんじゃないですか? おれは毎号買ってるわけじゃなくて、好きなヒーローが載ってる時だけ買う派ですけど」
「なっ!? 好きなヒーローっておまえ……」
ミルコは珍しく口をもにょもにょしだした。無意味に髪をかき上げる。
「まあ、やっぱアレだよな。エンデヴァーとか最近気合入ってるよな」
「いや先生目当てで買いましたけど?」
「ばーか、変な気ぃつかってんじゃねーよ」
「前から先生の事はファンでしたよ」
嘘では無かった。ミルコの事はエッチだなあと思っていたし、格闘戦メインの彼女の事は尊敬の念があった。
「それにおれって体術で何とかするしかないから、先生みたいな武闘派が教えに来てくれて嬉しかったです」
「そーかよ。ま、悪い気はしねえケド」
そっけなく言ってはいるが、心臓は初めてのヴィラン退治の時より高鳴っていた。
「それで、お願いがあるんですけど」
「ん、言ってみ」
「あの雑誌にサインしてほしくて」
「ああ、それくらいならいくらでも……」
けっこう、ガキっぽい。毒気や欲望を抜かれたミルコが口の端で笑って応じる。
じゃあ、と彼が蠱惑を潜ませた声色で尋ねる。
「今晩、先生の部屋に行って書いてもらっていいですか?」
さすがに軽口が出ない。
「え、な……」
「だっていま雑誌持ってないですし、シャワー浴びたら夕食の時間もあるから、そりゃ夜になっちゃいますよ」
それはそうかもしれないが、なぜミルコの部屋でなければならないのか。その建前は特にない。
時間を取り決めて別れる。
ミルコは定まらない思考で格技場のシャワー室で汗を流し、教員棟の自宅に帰った。
ボスンとベッドにうつ伏せに倒れる。そのまま枕に頭を押し付け、脚をバタバタさせた。
う~~。と唸って、持て余してしまう胸の内を密やかに吐露する。
(ヤバい! ヤバい! ヤバい! やっぱ好き過ぎる!!)
表面上はいつも通りを演じていたが、内心は彼と会うたび気が狂わんばかりの熱情でどうにかなりそうだった。
動悸は速まるし、油断すると声が上ずりそうになる。
なにせ二十数年の人生で初めて恋をしたのだ。
それもこれも好みのタイプが、「じぶんより強くて女気のあるヤツ」というワープ系の個性使いよりもレアで、そのハードルの高さを超えてくる男などそういなかったから。
オールマイトは平和の象徴という神聖性から、なんとなくそういう情を抱くのは不敬な気がしたし、実際のところアイドル視はすれどもガチ恋勢の女性は世間的にも案外少ない。
ビルボードでは上のエンデヴァーは既婚者だし、他にもまあいいかな……と感じる事はあっても「じぶんより強い」かつ「女気のあるヤツ」という二つの条件を満たす男はいなかった。
その厳し過ぎる査定は案外、兎山じしんが無意識のうちに恋愛を避ける為の方便だったのかもしれない。
兎と発情期、つまり性欲を結びつける人間は多く、そういった揶揄はプロになってからは目に見えて増え始めた。どんなヒーローにも、オールマイトでさえアンチはいるのだ。個性を性犯罪に結びつけられがちなヒーローは、例えば香山もそういったレッテルを貼られていた事もある。
小森も雄英に来る前は心無い言葉を投げかけられ、一時はヒーローになる事を諦めていたほどだ。
とにかくそういった輩の陰口にうんざりして、みずから色恋に距離を取ったのかもしれない。
別にそれでよかった。SNSでは痴情のもつれや愚痴で炎上しているし、男なんていなくてもオナニーは気持ちいいし、楽だし、消化しきれなかったムラつきはヴィランを叩きのめして発散すればいい。
そうして無関心でいたぶん、その反動は一回り年下の男の子に凄まじい速度で激突した。それが精神的には年端もいかない少女の初恋だ。それも二十数年も熟成され凝縮した濃厚な果実。
彼に波動という恋人がいようが、他に何人の女と寝ていようが関係、無い。
それほどまでに熟した初恋は甘かった。たった一口かじるだけで喉が渇くほどに甘かったのだ。
(くそっ、アイツのこと考えるだけで死ぬほど心臓がうるせぇ)
兎山の息が荒くなる。
インタビューの記事の話題になった時は心の中でガッツポーズしたし、前から好きなヒーローだったと言われた時はもう青空の下のニンジン畑を駆けている気持ちだった。ひょっとしたら知らず知らずのうちに跳び跳ねていたかもしれない。
体育倉庫で波動たちの痴情を目撃した時の件もしかり、この情動を隠しきれているのは数多のヴィランを相手にした経験の賜物だ。ヴィラン相手に動揺や弱気な所を見せるのは悪手でしかない、市民に対しても不安を与えてしまう。常に一定の感情、兎山にすれば不遜で不敵な態度を崩さないのは、プロとして身に着けたスキルの一つ。
(好きだ、たぶんこれが好きって気持ち。好き。あ~~! 好き……頭も胸も熱苦しくなる、けど心地いい……ずっとアイツの事を考えてたい。わたしはアイツを……あ、あい、愛して……)
「ん゙ぅ~~~~」
そこまで考えて悶絶する。じたばたする脚は、その辺のヴィランなら容易に纏めて十人ほど蹴っ飛ばせるほどの威力だ。
趣味と言えばヴィラン退治だったが、供儀聖典以降はもっぱらこんな感じで余暇を過ごしている。幸せで満たされた気持ちになるから。
だが、今夜ばかりはそんな妄想にばかり耽ってばかりではいられない。
決断しなければ。ベッド横の簡素なナイトテーブルの引き出しを開ける。
ドラッグストアで買った、小さな箱。
固唾を飲んだ。
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学生が教員棟のエントランスを通るのは可能ではあるが、問題でもある。夜間なら尚の事。
そのような訳で学生寮から少し離れた場所で待ち合わせをして、そこから兎山が彼を抱えてひとっ跳びすることになった。
月は雲に隠れ、逢引におあつらえ向きの夜空。外灯を避けて兎山は待ちわびていた。
月明かりは無くとも月銀の長髪とふわふわの大きな兎耳は目立ち、美しい褐色の肌を際立たせている。
キャミソールからは豊かな乳房が零れ落ちそうで、短いドルフィンパンツでは丸い尻肉を隠し切れず、そこからむちむちの太ももを恥ずかしげも無く晒している。まだ少し肌寒い時期であるが身体は火照っていた。
スマホで時刻を確認するのはもう何度目か、気負って早く来過ぎた証だった。そわそわしていると長くてふわふわの耳がぴくりと反応する。決して聞き間違える事の無いその足音を聞くだけでときめいてしまう。
(恋は病って聞いた事あるが、たしかにこりゃ病的だ)
じぶんにこんな一面があった事に未だ慣れないが、抑えられるものでもない。
「すみません、待ちました?」
兎山の姿を認めて小走りでやって来た彼はTシャツに短パンといったラフな格好だった。兎山にはそれがまた新鮮で、胸が弾む。
(ど、同棲とかしたら、ああいう格好で一緒の部屋にいるん、だよな)
などと妄想してしまう。
「いや、ちょうど」
素っ気なく返して、彼が抱えるトートバッグに視線をやる。雑誌一冊を持って来るには大きい。いわゆるお泊りセットが入っているのだろう。
(絶対……ヤる流れだよな、なんか急にあんま現実味がねえ。何度もオカズにしたからか?)
それは過度な期待の反動なのだろうか。判断が付かないが、まあいいやと面倒を放る。
「んじゃ行くか。しっかり掴まってろよ」
兎山は彼を手早くお彦さまだっこして跳んだ。急激な加速と浮遊感、視界が一気に開けて、遠くにある街の光の粒が宵闇に輝いている。
腕には、彼の身体の感触がある。ずっしりとした重さ。生きている体温。否が応でも思い出す。合宿の時はこれを手放してしまった。悔やんでも悔い切れない苦い敗北。
無意識のうちに一際強く彼を抱きしめると、応えるように力を込められた。もとより他人の気持ちに寄り添える彼だ。いまの兎山の心境もわかっているし、同じ事を考えていたのだろう。
兎山にはそれが嬉しかった。同じことを考えているという事が。
(ま、当てが外れてセックス出来なくてもいいか。こいつと喋るだけで、すげー幸せだし)
何を話そう。なんでもいい。ぼーっとして、何も話さなくてもいい。とにかく一緒に居たい。なんなら、ずっとこうして一晩中跳んでいたって構わないと思えた。
その時間もあっという間に終わりを告げる。
みるみるうちに巨大な教員棟に近づき、その内の一室のベランダに着地する。待ち合わせ場所から目的地まで地に脚を着く事なく、文字通りのひとっ跳びで夜空を切った。
距離のある特定の場所へ一度の跳躍で到達するのは、並みの技量ではない。
「ベランダから入ると悪いことしてるみたいですね」
「まあ、良い事じゃないだろうな」
「家主が了承してるのに?」
「そうじゃなくて……いや、いい」
不法侵入的な意味でなく、こんな夜中に生徒が異性の教師の部屋に入る事が問題ではあるのだが、それを指摘すると都合が悪いので黙っておく。
兎山の部屋はまったくもって簡素だった。広い部屋にベッドと最低限の家具が置いてあるだけで、あとは食卓と書類作業を兼ねている小さなデスク。隅には荷ほどきされていないダンボールが数個ある。
「悪いな、なんも無い部屋で。適当に掛けといてくれ、飲み物用意する……って言っても、なんかあったかな」
冷蔵庫を漁るが来客用の洒落たものなど無い。炭酸水くらい。
(やっぱ買って来ればよかったか? でもそんなのわたしらしくねえしなー)
サインを書く為に来ているのに、長話でもするような歓待をする訳にもいかない。
まあいいかと適当なコップに炭酸水を注ぐ。この時間なら牛乳よりはマシだろう。
用意して、彼がベッドに腰掛けているの見て固唾を飲んだ。ソファも無く、一人用のデスクしかないのだから消去法なのだろうが、あまりにも状況が好都合過ぎる。
彼にコップを手渡し、隣に座る。
「ほれ、ただの炭酸水だけど」
「ありがとうございます、いただきます」
のどを潤し、両手に持ったコップを眺めたままの彼が、静かな熱意を込めて言った。
「おれ、今ならたぶん負けないですよ」
脈絡の無いように見えて、兎山には何の事かすぐにわかった。先ほどの跳躍で思い返した合宿での一戦についてだ。
わかるよ。と喉まで出かかった言葉を飲み込んで軽く笑う。
「ハッ、大きく出たな。四対一だろ?」
「あの時、すぐ逃げればよかった。先生の耳ならおれがどこにても合流できたはずだから。それに体力差で走って振り切れる可能性は高い。あの視覚外からの刃は避けられないかもですけど、木々が乱立する森の中なら使い勝手が悪そうだし、あの場に留まっていたからピンポイントでワープホールを頭上に仕掛けられたのかも」
「そんで?」
「時間を稼いで、先生が助けに来てくれたら判断に従います」
「ん、そうだな……そこまで考えられてんなら、二人でヴィランどもをぶっ飛ばす、かな。たしかに、いまのおまえなら負けないだろーな」
炭酸水を一口やる。
「けど一つだけ間違いがある」
「そう、ですか……反省して対策を考えてたんですが、甘かったか」
少し気落ちする彼に不敵な笑みを向ける。
「たぶんじゃない、今なら負けない」
「先生……」
最初はなんとなく面白そうだからと引き受けた外部講師だったが、今となっては生徒の成長に嬉しいものがあった。
一人では勝てない。だから負けない戦略を採る。というのは勝ち気な兎山の趣味ではないが。みずからの弱さを理解している彼の最善手であり、強みである。
認められて嬉しさの滲み出る彼の顔を、今度はぽーっと眺める。
(こいつのそういうところが、良い。すげー、なんかどんどん好きになってく。大丈夫かよ、これ以上好きになって)
完全に油断して惚けていた。じぶんでもそんな表情していると気づかない程に。
淡い緊張が部屋に満ちていた。彼も兎山を見つめたままだ。
兎山がゆっくりと彼に顔を近づける。拒絶される様子はない。心臓が、張り裂けそうなくらい高鳴っている。
(好き……好きだ。好き好き好き。こんな気持ちになったのはおまえだけだ。おまえ以外の男なんて考えらんねえ)
唇が触れた。持っていたコップを適当にベッドの上に置く。彼の頭を抱き寄せ、押し倒す。
「ちゅ、んぅ、んっ。はぁ、ちゅう♡」
何度か柔らかな感触を楽しむと、兎山の舌が彼の口内に入りたそうにチロリと這った。迎え入れるように口を開くと、にゅるりと入り込んでくる。
「ぢゅる、んちゅるるぅっ、っはあ、ちゅぷっ、んじゅうぅ、れろっ、んにゅる。ん~、れろれぉ」
ほのかに甘い兎山の唾液を纏った舌を絡めとるように舐め回す。熱いベロを何度も擦り付け、それ自体が生殖器で交尾しているかのようだった。
「んくっ、ごく♡ んっ、ちゅばっ、ぢゅるるるっ、あむっじゅる、んふぅ~」
(あー好き、涎うまっ、ベロキスだけでイけそ)
彼は全身で兎山の体重と火照った熱量、女性の柔らかな、とりわけて暴力的に大きい乳房の柔らかさを感じながら、揉みごたえある尻に手を伸ばす。弧を描くように擦ると、ぴくりと反応した。
弾力のある尻肉を鷲掴みにすれば、兎山の口から嬌声が漏れ出る。
股の間に膝を立たせるとスリスリとまんこを擦り付けてきた。
(はっ、あっ、気持ちい♡ ベロちゅうしながらマンズリ♡ コイツの前でカッコ悪いマネしたくねえのに、やめらんねえ、んぁっ)
すでに兎山のむっちりとした太ももには愛液が滴っていた。当然彼の短パンは濡れ、にちゃにちゃと淫猥な音がしている。
このまま果ててしまいたかったが、そうもいかない。せっかくのエッチでイくなら、チンポが良かった。
名残惜しそうに口を離す。キャミソールを雑に脱ぐと、どたぷんっ♡ と生乳が揺れた。形の整った柔肉は汗で薄っすらとテカっており、乳首は期待と興奮で勃起している。
ドルフィンパンツとショーツが床に落ちる。ねっとりと淫液が糸を引いていた。
彼も同じく服を脱ぎ去った。露になった裸体に、兎山は釘付けになる。女受けする肉体に、力強く屹立する男根。
(服の上からでもエロいと思ってたが、こんな……)
「先生」
「んっ、ああ、悪いちょっと……」
あまりにエロくて見惚れていたとは言えない。
「ゴムあります? 無かったらおれ持って来てるんで」
「ああ、それなんだが」
ナイトテーブルから小さな箱を取り出す。開封するとパッキングされた錠剤が入っていた。自然と声が小さくなる。
「これ、飲むから……いいか?」
兎山が手に持つそれは即効性のある避妊薬だった。