七海建人「私の黒閃記録は53万です」 作:天間緑茶
伏黒恵が新入生として高専に入学してきた。まこーらという自爆技を持っている故にそのポテンシャルは最強クラスであるが、素体が能力に及んでいない。伏黒を利用できる存在はそれこそ宿儺くらいのものだろう。
「どうですか乙骨君」
「十種影法術。さすが禪院相伝だけありますね……この影めっちゃ便利です。でもまこーらですか……これは僕の現状だと少し厳しい気がします」
「ではいずれ……私の方でも受胎九相図について調べてみます」
「頼みますよ七海さん」
乙骨には夢が出来た。折本里香との間に子を設けて幸せな現代の家庭を築く事だ。受胎九相図は母体が人間である必要があるが、そこは逆でも何とかなるであろう。反転術式と常の呪力があれば叶えられない事はない。あらゆる術式の模倣がそれを可能とする。
伏黒恵の話に戻るが、悲しい事に常識がありすぎてイカれの才能が不足している。呪力が弱いのもそれが原因だろう。姉が倒れているのにこの体たらくは情けないにも程がある。姉に対する愛や劣情を認識させるべきか?しかしそれが力に繋がるかはわからない。伏黒の潜在意識の特性を考えても徒労に終わりそうな予感がする。ためしに津美紀を睡眠姦するか?いや、和姦までが遠すぎる。
「面倒ですね」
「なんか七海さん俺のこと睨んでますか?」
「どうやって君の姉を救うか悩んでるんで話かけないで貰えますか」
「!?津美紀を助けられるのか!教えてくれ!どうすれば!っぐ」
伏黒恵は口を手で押さえつけられ、そのまま首吊りの形で宙に浮く。
「感情の起伏の割に呪力の揺らぎが足りませんね」
ちんこついてるのかガキが……殺すぞ……と言いたくなるのを抑える。いっそのこと恵が睡魔姦する様に仕向けるか……それも難易度が高い……。
「また何か考えてるよ七海さん……どうせ碌でもない事なんだろうなぁ、縛り発動してるし……伏黒君ももっと足掻いた方が良いよ?七海さんは男には厳しいから」
乙骨が伏黒恵を悟す。
「実に面倒ですね」
伏黒恵は七海建人と言う術師がわからなかった。伏黒恵と言う人間に微塵も興味も関心も無いのに異常に頭を悩ませていることに。
七海建人の母校であり古くから七海を知っている人が多数存在しているので伏黒恵は周囲に七海について聞いて回った。
五条悟の場合。
「七海?昔から解りづらいし今も解んないね。歌姫との関係もなんか半端だしそういうのもあるんだなぁって程度にしか興味ないね。歌姫弄るのは面白いけど」
狗巻棘、パンダの場合。
「最初はやばい奴って思ったけど俺は結構仲良くしてるぜ。棘は全然関係気薄だけどな。以外だったのは恵に対する扱いだな、俺らの時はかなり扱かれたけど恵に対しては放置も良いところだ」
「すじこ」
「棘も死にかけまくったよな……。そんな訳でそんな俺らから言わせてもらうと恵はもっと体鍛えろって事だ。術式の調伏は自分でやらないとなんだろ?ぶっちゃけ術式なんて手段の一つに過ぎない。悟は期待してるんだ自信持てよ」
学長、夜蛾正道の場合。
「七海か……奴からしたら私もお前もつまらない奴なんだろうな」
「つまらない奴ですか?」
「私もお前も七海に比べれば使い勝手の良い術式を持っているが十全に使いこなしているとは言い難い。戻って来た奴に一度だけ言われた事がある。『私は大往生して満足して死にます』と」
「……哲学的な話ですか?」
「違う。奴はこの魑魅魍魎なる呪いの世で勝者になると宣言しているのだ。五条悟や夏油傑、九十九由基、乙骨憂太など特級の壁を理解しながらも……生への執着が呪術師の中でも人一倍。犠牲になるのは自分である必要が無い。奴は自分の敵を見据えそれに対して適切なカードを切っている。お前をそのカードに据えるか迷っているのだろう」
「以外と小さくて臆病な人なんですね」
「わからん!が、しかし!乙骨は悟の庇護下にありつつも完全に七海側だ」
日下部の場合。
「おいおい、何の用かと思ったら七海の事かよ。えっ?どんなやつかって?俺と同じ様な奴だよ。何か違う?コレだからガキどもは困るぜ」
伊地知、猪野の場合。
「最近はトラジがお気に入りでよく行きますね。焼肉の話じゃだめですか?いやでもあの人最近焼肉の話しかしないですよ?」
「伊地知さ〜ん、それ以外もあるじゃ無いですか〜」
「黙ってて下さい猪野君。ごっほん、伏黒君ももしかして余計なアドバイス……お節介を言われている感じですか。あの人はそこら辺極限なんです。女を抱くことが至上と決めつけている!」
「伏黒、守りたい女がいるなら全力になれ俺から言えるのはそれだけだ」
以上が周りから得られた七海建人の情報である。それを加味して伏黒恵は煮え切らない態度を取られた理由を推察すると、意地汚くても生きろと言われている気がする。
同級生は居ないため五条悟とマンツーマンで教育を受ける機会が多い。改めて五条悟から伏黒恵の欠点を指摘される。
「恵は冷めてるよね。そこが良いところでもあり悪いところでもある。僕も人のこと言えないけどね。恵もお説教くさいのはウンザリでしょ。僕だって既に最強なのに七海には最強になれって曖昧な事言われ続けるともやもやするもん」
「あの人説明足りなくないですか」
恵は不貞腐れたかの様に言う。
「違う違う。七海は弱いから手札を隠してるんだ。説明足りないんじゃない説明するメリットよりもデメリットの方が多いって思われてる」
「五条先生にさえそんな感じなんですね」
「七海が唯一見せた手札があるけど、僕にとって致命的な技だった。余裕なんだよ僕に勝つ手段は幾つも用意してると僕は踏んでるね。そしてそれを超えてくれってメッセージ……これ以上最強になりようが無いから本当に困るよ。恵は課題が見えてるだけマシだね」
「十種の調伏ですか?無理ですよ。歴代でも調伏出来た者はいないって先生も言ってたじゃないですか」
「コンプできるまでレベル上げするしかないよ。RPGで漸く手に入れた最強武器ってどこで使うんだろってなるけど、手に入れるまでか楽しいじゃないか、ソレだよ」
「はあ」
伏黒恵は経験が足りなかった。強くなるために必要な要素や感情や思いが足りなかったのだ。だから新しい仲間を早々に失う事になった。宿儺の器である虎杖は伏黒に恨みの一つもなく死んだのである。
姉妹校交流戦。虎杖の死を惜しむままなくイベントが組まれていた。そしてその打ち合わせに来た京都校学長に付き添って、東堂葵と三輪霞がやって来た。
『乙骨が出ないかも知れないと聞いてな、お前を潰せば出ざる得ないだろ。一つ聞いておく、どんな女がタイプだ?』
下らない質問をされたかと思ったら、東堂は泣き出して問題無用で殴りかかり伏黒恵はボコボコにされた。東堂から言われたことは七海と同じで肉体が薄く近接が弱い。
伏黒恵は術式を使わず一級呪霊を祓う東堂を化け物と思うが、七海は特級相手にすら術式を不要とする。それらゴリラと比べられると弱い。客観的に見て現時点の年齢で2級術師なら優秀であるのに誇れない環境がより恵の感情を腐らせる。
釘崎野薔薇は虎杖の死をそんなに重く受け止めてられなかった。虎杖について付き合いも短くよく知らないので何を悲しめばいいのか判らない。そんな
「呪術師は仲間の死に涙を流す必要はありませんか?感情が追いつかないですか?五条さんは伏黒君をお願いします。」
「野薔薇は任せたけど、七海には後々もやる事があるからほどほどにね」
「まぁ、伸び代がある分やりがいはありますね」
人の死を間近に感じて空元気、無感情そんな気取った態度は求めていない。
「少しはヘラって下さいよ小娘。仲間が死んだんですから」
「ぁあ?誰かと思えばロリコンじゃない。傷心中ならどうにでもできるって思った?残念屁でもないわ」
気が強いに拍車が掛かっている。
「強がれば強くなれるとでも思っているのですか?」
ローキック。
野薔薇は足蹴にされて地面を転がされていた。
「ッテェな!いきなり何すんのよ!」
「分不相応な腕でこの世界に入って来るから……大人しく田舎で引っ込んでいれば良いものを」
野薔薇のお喋りな口が軽快に回らない様にしなくてはならない。
「うっせえな!あたしが決めたんだからそれで良いんだよ!」
太ももに入ってローキックは野薔薇が絶対に立ち上れない大きなダメージを与えていた。
「上京して来ても何も変わりません。貴方程度では誰かの代わりに死ぬのも難しいです。腹立たしいですが真希を紹介しましょう私も忙しいので全ての面倒を見ていられません。……しかし余計な噂を広げられるのは面白くありません縛りを結びましょう」
「……何のだよ」
「私の性癖に関して」
野薔薇は後悔する事になる。虎杖の事を出されて実際には傷心中ではあったので実害がない縛りと安易に結んでしまった。
縛りを結んだ七海は内面を全て曝け出していた。酒は飲むしタバコは吸う女は抱く。ここまで絵に描いたよう様なクズは地元の田舎にも知る限り居ないが、文句も醜聞も言いふらしたいがそれを誰にも言うことはできない。自分と年齢が変わらない少女達は完全に洗脳されている。
七海宅でよ泊まりになるとワザかと言うくらい嬌声が木霊する。
「あたしの処女おわった……」
高専には女がいないので女友達ができるのは普通に楽しいが、彼女達の相手が野薔薇からしたら陰湿メガネゴリラだ。悪趣味と声を大にして言いたい野薔薇。
「4人同時って、どんな性欲してるのよ……」
部屋で膝を抱えて横になっていると真衣から野薔薇に声が掛かる。
「野薔薇が来ることは無いから大丈夫よ。というか私が嫌」
真衣は野薔薇の事をそんなに気に入っていないのか接し方に距離がある。しかし面倒見はよく死にかけても傷も残さない様に直してくれるし、その際はすこぶる優しい。
真希との訓練は苛烈であったが、その分呪術師としての戦闘面での成長は著しい。術式と呪具のレパートリーが豊富であらゆる対応が学べた。中でも乙骨は常軌を逸していた。
「スカ、今回のガチャは全部ハズレかあ」
術式をガチャ感覚で特級呪霊を回している。高専にいる時と人が違う様に感じるのは気のせいではない。
修行の成果は如実に出ていた。高専では伏黒と乱取りの対面をする機会が多いが、その差は日に日に変化していった。相手にするにはパンダは論外なくらい強く狗巻棘も中々強い。
「野薔薇〜お前強くなったな」
「すじこ……」
伏黒恵が膝をついてそのまま地面にキスをしている姿を見て、パンダと狗巻棘は野薔薇に何があったのか色々察した。そりゃ放課後バトルタイムで全然遊べていない。華の乙女の青春を犠牲しているので当然である。
甚だ遺憾であるが、野郎といるよりも女子でいた方が楽しい……。七海は馴れ馴れしい上にセクハラ感増し増しだが、慣れてしまったのか隠さない分前より以前よりも抵抗も少ない。
女子会感覚で友達の家に泊まりにいくのも悪く無い。何故かこの家、化粧品の数が尋常じゃない。これが使い放題のアミニティであれば女子ならば喜んで止まるだろう。優雅にシャワーを浴びていると浴室のドアが開く。
「っあ」
「ふむ、釘崎さんでしたか……菜々子あたりかと思っていましたが予想外ですね。ふむ、これは中々、成長しましたね」
「出て行けええええ!」
野薔薇の渾身のストレートが即座にお見舞いされる。
壁!?
野薔薇の拳は壁を殴ったように硬い肉体に堰き止められる。
「建人、今野薔薇が入ってるからダメだって」
処女喪失の未来が垣間見えると真衣がその背後から助け舟を出す。
「ッチ」
真衣の健闘により野薔薇の処女は守られた。
「真衣さん、大好き」
この環境に慣れてしまっている野薔薇はもう手遅れかも知れない。消えていった七海達と入れ替わり忠犬ミミナナが割り込んでくる。
「野薔薇まだ処女?建人様に捧げれば良いのに」
「田舎なのに遅いの意外ー」
「私はてめえらみてえに沸いてねんだよ」
バンッと浴室の戸を閉め、浴槽に逃げて一息つく。彼女らと遊ぶのは楽しい。七海のポジションに自分が治りたいがそれは欲張り過ぎだろうか。
湯船で1人過ごすと落ち着いて心情を整理する。この短期間で機動力や瞬間的な打撃が伸びている。虎杖の素と張り合えるくらいには動ける。
「性欲だけってわけでも無さそうなのよねぇ」