七海建人「私の黒閃記録は53万です」 作:天間緑茶
まだ修行中のある日の事、事前に打った楔が効果を発揮したのか着信が入る。
「やぁ、久しぶりだね七海。といっても君が呪術師をやめて半年も経ってないか」
「お久しぶりです夏油さん。やはり人手不足ですか?何処の業界も現場はギリギリですからね」
「あぁ、その件だよ。まったく、特級だからって帳や情報収集、事前事後報告まで自分でやらだなんて無茶振りだとは思わないかい?」
「できる者にしか仕事を振らない残業をさせないのは経営者として妥当な判断です。まぁそれで人材が流出するまで理解していて止める事ができない無能の集まりですからね」
「君の毒舌になったものだ。今回の件頼めるかい?」
「承ります。丁度いくらいですよ。では後日、場所は?」
「……村だよ」
電話を切ると、一仕事終えたかの様な達成感を得る。五条悟ほとでは無いとは言え、相手も3人の特級の一角を担う男であり劇場版のラスボス、原作でもボスの肉体を担う男だ。
今回は夏油傑が呪詛師になる決定的な瞬間となる例の事件になるだろう。特級の実力を測るには丁度良い男だ。
山間の街という規模はあるよな住人の数が見込まれるが、年配の老人が大多数だ。50代後半ですら若いとすら言われるだろう。
この後の惨事を考えれば同情するべきかも知れないが、彼らの個人個人の人間性に触れなければ精神的なダメージは抑えられる。
「さて、呪霊を影響はこの村自体から感じられ無いとなると山の中にある施設でのみ影響を及ぼすのでしょう」
「平和な村だね。ご老人達も挨拶には挨拶で返してくれる。若者を歓迎しない風潮も無さそうだ」
純情が傑、ではないか、過ぎる。どんな思いで虐殺を行うのだろう。直接聞いてみるのも悪くは無いかも知れない。
依頼人を探さなくてはと早速到着した事を依頼主に伝えて役場のそばで待っていると、神主なのか住職なのかはわからないが、和装の男性が出迎えてくれた。
「今回のご依頼ですが、具体的にどの様な被害を受けているのでしょうか?事前の調査内容には被害が無いとの事ですが」
「被害はこちらで抑えているのですが、処理の仕方が分からず閉じ込めている状態です。安易に自分達で処理をしてしまうと呪われてしまいそうで……」
「なるほど、賢明な判断です。素人考えで行動を起こすよりも我々の様な専門家に任せる方が二次災害は確実に抑えられます。こちらには日本でも最高位に位置する夏油さんもいます。ご安心下さい」
「ッフ、君はどの実力者に褒められると悪くないね」
「ほーぅ!それはそれは安心です!さっさこちらへ、いやー私どもも常々困っておりまして、村人からの責任を負わされる物だから参っていたんですよ!」
私たちは男に誘われ、座敷牢の様な場所に案内されると少女が二人ボロ切れにくるまり抱き合う様に蹲っていた。殺す事も出来ないから食事は与えられている様だが虐待の痕跡が多数見られる。
とても同じ人間が人間にやる所業ではない。猿と呼ばれるのも大変共感できる。
「これは貴方が?」
「いえいえ、私だけが管理するなんて不公平なので町民が交代して役回りしています。子供の姿を模っておりますが、異形で危険のため接触は最小限ですが、中には祟りを恐れず攻撃するするものをある始末」
「なるほど」
夏油傑を見ると世界に人に裏切られた様な顔から苦虫を噛み潰した様な顔に切り替わっている。私は2人の少女に近寄り腰を下ろすと、上着を2人に掛けてお包みにし、抱き上げる。
「安心して下さい。助けに来ました。もう怖い思いも悲しい思いもしないで大丈夫ですから……では、この2人を連れて行きます。よろしいですね?」
「宜しいですねってアンタそれを何処にやるつもりですか!」
「お前に聞いてはいない」
私は依頼主を足蹴にして扉ごと吹き飛ばすと、夏油傑に振り返る。
「後は任せて良いですか」
「あぁ任せておけ、この山は引退した一級呪術廻戦には重い」
「なっ何をする----」
そう言うと男の命は事切れていた。
そこからは早かった。呪力の奔流とでも言うのだろうか、呪霊が夏油傑から溢れて波の様に人々に遅い掛かる。私が少女達に応急処置を行い終わる頃には生存者は誰一人居なかった。車内からブランケットを出して少女達に纏わせ、電気ケトルで湯を沸かし粉末スープを拵える。
少女達は絶望した世界が崩壊する様を見て空虚に乾いた心が再び動き出した。先ほどまであった怯え無くなり、温かいスープへと手を伸ばす。
「君たち名前は?」
「美々子」
「菜々子」
「双子ですか」
美々子と菜々子の頭に手を伸ばし優しく撫でる。彼女達が否まれる理由を全て承知している上で受け入れていると暗に示した。崩壊が止むと美々子と菜々子を車に戻して休ませる。これから訪れて来るであろう夏油傑への接触を最小限に留めておく為だ。
「やぁ七海」
打って変わって清々しい顔で登場した夏油は改めて七海健人に挨拶をしてきた。
「思ったよりも元気そうですね呪詛師の夏油さん」
「人を殺すと言うのはもっと重たい物だと思っていたが、随分軽かったよ。最初に僅かに感じていたそれも最後には手で虫を潰した時の不快感しか残らなかったね。------君には今の私はどう見える?」
「とても五条さんの親友が出来る顔では有りませんが、私は今の貴方も別に嫌いでは無いですよ」
「変わったね七海も、私が言えた義理じゃないか……良かったよ。猿共と違って七海を傷つけるのは避けたかった。君はこの世界をどう思う?」
「私は清濁に関してかなり寛容でして、ですが敢えて言うならばクソですね」
「作るよ私は、猿共が居ない世界を」
「呪術師だけの世界ですか、エキサイティングな世界になりそうですね。まぁそれも一興かと思いますが、ディストピアは不便なので今のままバージョンアップでお願いします」
「それはまたとんでもない要望だね」
「壊すのなんて簡単……は五条悟がいるので難しいでしょうが本当に難しいのは作る事です」
「肝に銘じて置くよ。彼女達の事は頼んだよ。私よりも七海の方が面倒見は良さそうだ」
残穢があるため夏油と今一緒にいるにはリスクが高過ぎる。私は別れを告げると車内に戻って目的であった双子達ひ呼びかける。
「私は七海建人と言います。これから2人は私と一緒に暮らしますが、今までの様に閉じ込めたり、殴ったりは致しません。この呪いの力の使い方も教えて差し上げますが宜しいですね?」
「「うん」」
そう言うとエンジンを掛けて、ラジオを車内に鳴り響かせると知っている曲が流れ始め鼻歌をならす。計画通りに物事が進んでいる。国を落とせれば特級という定義。その忌憚なき実力を垣間見て私は思う。
「こんな程度か……」
もちろん倒すのは容易では無いが、次元が違うとまでは感じられなかった。バックアップの美々子と菜々子を確保できたのは大きい。魂断ちは双子かつ呪術師でなければならない。普通の双子では呪力での防御膜がない為、触った感覚が掴めないのだ。作中に登場する双子は限られるが、無闇矢鱈に野良双子呪術師を探さないで良い点に相手はとても簡単だった。
今の段階なら宿儺の指程度ならば脅威にもなり得ないだろう。更なる強化のため簡易領域のシン・陰流をマスターしたい。三輪ちゃんは今の時期だとまだ一般人だが先に伝を作って置くのも悪くない。門外不出ではあるので見れば真似出来る範囲で有るならば有難い。京都にでも顔を出すとしますか。日下部や歌姫などと今の私を擦り合わせしておけば少しは五条悟へ悟られない様に出来るでしょう。
今後の予定が決まったところで、まずは傷ついた少女達への呪術セラピーでも施すとしますか。