七海建人「私の黒閃記録は53万です」 作:天間緑茶
釘崎野薔薇は強敵過ぎた……。体も未成熟のため肉体的な女性らしさも劣っている上に中身の男らしさと勘の良さには私も息子も裸足で逃げ出していた。
後でダブル双子に物理的に慰めて貰わなければ不能になっていたかもしれない。育ち盛り4人を満足に生活させるには金がいる。何事にも金がいるのは尊敬する呪術師の先輩もよく口にしていた。いくら呪術師が金になると言っても働かなければ報酬は得られない。
「と言う訳で猪野くん。稼ぎましょう。君ももう卒業して幾分経ちます。いい暮らしをしたいと思いませんか?いい暮らしには金が入ります。難易度の高い仕事をほど金払いがいい」
「だからって一級案件拾って来ないでくださいよ!」
彼は猪野琢真。そこそこ強い術式はあるが基本的に基礎能力ありきの術式であるため便利の域を出ない。危険度が高い仕事で是非とも壁を越えて頂きたい。後任育成は金になるのだ。
「君の等級は未だ2級。実力としては準一級はすぐでしょうが、私としては特級相手でも逃げ延びれる程度までは強くなる事をお勧めします」
「特級?!そんなん俺死んじゃいますって!?」
「私と居る限りそうそう死にません。特級対策に簡易領域、落下の情、領域展延。この内一つは修めて置いた方がいいです。私も3つ同時展開できるよう訓練中ですが、どれか一つなら習得は容易です」
「全然聞いたことないワードばっか!?七海さん〜何で俺ばっかりそんな厳しいんすか……」
「貴方には期待しているですよ。呪術界は心底終わっています。そんな中で死なないでいてくれる知人が居ればどれだけ救われるか」
「七海さん…!」
猪野が感動しているが半分は信頼できる便利な駒としての可動域を増やして欲しいと考えている。呪術界はクソだが、真希を離脱させてしまった以上はその代わりをある程度勤めなければならない。
その際に必要な駒として暗躍してもらわなければ……幸い慕われているため操作は容易だ。後は伊地知と新田♀くらいしか信用出来ない。人類側なのに纏まり無さすぎて呪霊にやられるのも納得だ。足の引っ張り合いしかしていない。
「あの……」
細身で一つ歳下なのに老け顔の私よりも老けた伊地知がしどろもどろになりながら口を挟んでくる。
「なんです?」
眉間に皺を寄せながら返事を返すと冷や汗が出たのかハンカチで汗を拭っていた。
「本日から一ヶ月出張続きなスケジュールなのですが、本気ですか?」
「高専に新入生が入学したらやる事が沢山あります。猪野君に構ってる余裕も無くなるでしょう。それまでにある程度物にして頂かなければなりません」
そう、来年になったらメカ丸と三輪が入学してくる。西宮は我が強いため強引な方法以外で手は出せそうに無い。残穢がある関係上は覆面で犯すなんて事は不可能。なんだかんだ人が良いという体でやって来た地位を崩す気にもならない。
三輪霞。呪術界の唯一の癒し枠。
わかりますよメカ丸……惚れるなって方が無理だ。しかし私は貴方を救う気はありません。悪く思わないで下さいね。
「七海さん……」
猪野や伊地知には後輩思いの先輩としての認識を得ている。人望の無い五条悟よりも後輩達からの人望は厚い。京都も東堂と加茂、西宮からはなんだかんだ尊敬されている。
強さと優しさは正義なのだ。歌姫からはメンヘラの様に絡まれるが、夜に傷がついた顔でも可愛いと言い続ければ塩らしくなる。
「ところで猪野君彼女は出来ました?」
「できましたできました!伊地知さん聞いて下さいよ!七海さんが紹介してくれたんですよ!もう笑顔が可愛くて優しくて!呪術界って野郎ばっかじゃ無いですか!女の子も一応いるけど変なのばっかだし!やっぱり普通がいいですよ!」
「な、七海さん?!もしかしてその娘って?!」
「例のパン屋の娘です」
「そんなのぁ……」
悪いですね伊地知……紹介するなら顔も収入もいい方になるのは当然だ。まぁ、猪野の仕事も受け入れてくれているし、子供でも出来たら猪野も無理はしない筈だ。
「あれ?もしかして伊地知さんにも紹介してたんですか?」
「いえ、以前酒の席で魔法使いになりそうと愚痴を聞きまして」
「……だってこんな事相談できるの七海さんだけじゃ無いですか!五条さんにそんな事言える訳ないですし」
「まぁあの人に知られたらダルいくらい弄られそうですね。あの人も魔法使い候補だとは思うんですが……」
「あの天下の五条悟に吊り合う女……想像出来ない……」
「学生時代の天内理子ならワンチャンあったかも知れないですね。彼女が生きていたら真に最強だったとは思います」
「天内理子……例の……」
「暗い話になりますし話を戻しましょう。伊地知に似合う女性……以外と九十九由基さんは相性良さそうですね。私は好みじゃ無いですが」
「九十九さんは無理ですって!足が震えて止まらなくなります!できれば歳下が……」
「窓に金髪の新田?でしたっけ?伊地知さんの後輩だから歳下でドストライクですよ!」
「七海さんに頼んで聞いてみたのですが……」
ある日何となく仕事終わりに車でしゃぶらせながら伊地知について聞いてみたが……
『伊地知さん?尊敬してるけど男としては無理っすね?そんな目で見られたら正直キモいっす』
そのワードを聞いてしまったら思わず白閃をしてしまったのを思い出す。あんなにチョロい女にも相手にされない伊地知……可哀想過ぎてフォローしてあげたくなる。
「伊地知!ソープに行きなさい」
「そんなの!負けを認めた様な物じゃないですか!」
「無理に戦い続けなくて良い!補助監督になった時の決意とおなじです!時には逃げるのも戦略です!」
「七海さん!ーーー」
プレイヤーでは無くなったときから貴方は負けているのだ伊地知……
「ーーーーやっぱり嫌です」
「伊地知ィイ!!」
DTを拗らせた末路とはここまで人を呪物にするのか……
「でも伊地知さんの股間の特級呪物どうするんですか?」
「猪野君……それ言い過ぎぃ。君、僕より後輩だよ……」
「冥冥さんならば或いは」
「まさか!?冥冥さんに僕の様な男が趣味と言う性癖が!?」
「5000万くらいあればワンナイトできるかも知れません」
「結局金!それ金で解決する愛のない奴です!ソープと代わりません!というか失う物多過ぎてもっと酷い!」
「ブッハハハ!」
「猪野君!そこ笑うな!」
冥冥は無しだろう。昔ならいざ知らず今の彼女は髪型もとち狂っているし、何を考えているか腹の底がわからない。
憂憂が同伴する危険性もある。姉をNTRて興奮するショタに見られながら伊地知がへこへこしているのは面白いが、誰も幸せにならないだろう。
「そ、そう言う七海さんこそどうなんですか!?」
女の影は見えない様にして来たため伊地知の反撃姿勢もわからなくはない。しかし、何だかんだ相談に乗ってあげている優しい先輩に対して失礼ではないか?ここは現実を知ってもらい立場をわからせてやらねばなるまい。
私はスマホからいい感じの事後のツーショットを探す。真希ならあまり童顔ではないのでロリコン扱いはされないだろう。
「うっわ若い」
「っち、チクショー!歌姫さんに言ってやるぅ!」
「やめなさい伊地知、やめなさい……」
「!!!ーーーーっあ、はい。仕事行きますか……」
「うぃーす」
この後、野郎3人で一ヶ月間の北陸関東呪霊参りに勤しんで、猪野は特級相手に致命者を与える程度には実力がついていた。途中死にかけもしていたが、家入の反転術式で難なく復帰していたため問題ないだろう。伊地知はガールズバーに連れて行ったら少しハマっていた。