※この作品はR-18です。

魔獣は暗闇より(悪魔ほむら×美樹さやかシリーズ)   作:さんかく@

9 / 9
魔獣死すべし5(完結)

「あら…どうしたの?」

 

巴マミは、ベランダにもたれて空を見上げている同居人に声をかけた。彼女の視線の先には銀髪の女性の後ろ姿がある。どうやら声を掛けても気付かないくらい「何か」に捉われているようだ。もう…とため息をついてマミはティ―カップを載せたトレイをテーブルに置くと自身もベランダへ向かった。

 

「なぎさ」

 

マミに名前を呼ばれようやく気付いたのか、銀髪の女性、百江なぎさは空から視線を外し、金髪の自分よりも年上の女性を見上げた。照れたように苦笑して彼女の名を呟く。

 

「…空を見てた…の」

 

のです…と言いそうになり、語尾がつまるなぎさを見て、マミは笑う。

 

「あら、私と二人きりの時は気にしないでいいのよ?」

「だって…」

 

20歳にもなり、「のです」口調が治らなかったら変ではないか?なぎさはそう思って気を使っているのだが、この年上の優しい同居人に対しては幼い頃からの口調がつい自然に出てしまう。そう、なぎさは幼い頃から彼女と一緒にいた。

 

「いいの、私はなぎさのその喋り方好きよ?」

「マミ…」

 

肩に手を置かれ、なぎさは顔を赤らめる。そうして今度は一緒に空を見上げた。

 

「嫌な天気ね」

「うん、なんだか不思議な感じ…」

 

なぎさは得体の知れない胸騒ぎを感じながら目を細めた。

 

*       *       *

患者のベッドのシーツを掛け直しながら、急に佐倉杏子は身体を強張らせ、空を見上げた。

そのいきなりな動作に、年配の患者が不安げに杏子を見上げる。

 

「?どうしたんだい、佐倉さん…急に何か取りつかれたみたいに」

「ん?ああ、いやごめんごめん、天気が悪いな~って思ってさ」

 

にしし、と八重歯を見せて杏子は患者に笑いかける。飾らない、どちらかといえば乱暴な言葉遣い。だが、その一本気で昔堅気な性格は病院内の患者に人気があった。年配の患者は杏子の笑顔に破顔した。

 

――何か起きているのだろうか?

 

そうして、杏子はまた空をそっと見上げた。蒼い髪の友人を案じながら。

 

*      *      *

 

「急に天気が悪くなってきましたねえ、まどか先生」

 

中年の人のよさそうな女性が、まどかにおっとりとした口調で声を掛けた。

 

「そうですね…子供達を中に入れてきます」

「あら、私も行きますよ…にしても大丈夫ですか?」

「え?」

「なんだか、とても不安そうですよ?」

 

鹿目まどかははっ、とする。そうなのだ、一時間ほど前まで、彼女は暁美ほむらと幼稚園内のベンチで会話を交わしていた。悩みを抱えていた彼女にまどかは何もしてやれなかったが、ほむらは何か思いついたのか、緊迫したような雰囲気のまま、それでも笑顔で去っていった。

 

『ありがとう、まどか…私行ってくるわ』

『うん…ほむらちゃん…大丈夫?』

 

それには答えず、ほむらは寂しそうに笑うと囁いた。

『今度は「あの人」も連れてくるわ』

 

ほむらは美樹さやかのことを「あの人」と言う。まどかはふと、ほむらがさやか以外の友人に対しては「あの子」と呼ぶことを思い出した。

 

「ほむらちゃん…さやかちゃん…」

 

何故か二人のことで胸騒ぎがする…まどかは不安そうに空を見上げた。

 

*   *   *   *   *   

 

「オオオオオオオ…オオオオオオオオオオオオオオ」

 

咆哮が、台風のうねりのように周囲に響き渡る。

 

「…ほむら」

 

美樹さやかは咆哮の主を見上げながら呟いた。

咆哮の主は悪魔だった。

恐ろしいほどの美貌、妖艶な肢体を包む黒の衣装、そして逆立つ長い黒髪。この世のものではない美しさに、さやかは目を奪われる。

 

――綺麗

 

悪魔の目は血の色のように赤く染まり、艶やかな唇は大きく開かれ、発達した犬歯が牙のように伸びていた。そこから美貌には似つかわしくない咆哮が発せられている。

 

これが彼女の悪魔としての真の姿――

 

高校時代に美樹さやかは何度かほむらの悪魔化した姿を見ていた。黒い羽根に黒い衣装(体毛?)だが、ここまでリミッター解除をした姿は初めてだった。禍々しい圧倒的な力を放出させながら咆哮する彼女は――美しかった。

 

「おお、美しい…」

 

対峙している白いスーツの男――-畑山も、目を赤く光らせながら美しい悪魔を賛辞する。

 

「この…」

 

相方を無作法に凝視する男に不快感を隠しもせず、さやかは怒りの表情を浮かべ立ちあがろうとする。脇腹にはまだ鉄の棒が刺さったままだ。

 

「くう…」

 

ポタポタと血が滴り地面へ落ちる。震えながら満身創痍の身体を起こそうとするが、失敗してさやかはほむらの足元で従者のように倒れ蹲った。と、さやかが悲鳴をあげる。悪魔が彼女を踏んだのだ。鋭利なかかとの部分が腰に当たる。

 

――カナイデ

 

「?」

 

さやかが苦痛で顔を歪ませながら、ほむらを見上げる。

 

――ウゴカナイデ、ジットシテイナサイ、コロスワヨ

 

 

念話だ。ほむらの声が直接さやかの脳内に流れ込んでくる。

不思議そうにさやかが周囲を見渡すと、さやかの周りにシールドが張りめぐらされていた。

光の球体がさやかを守るように包んでいる。

 

「ほむら…」

 

思わずさやかの声が掠れる。

あえて力を割いてまでシールドを張ってくれた悪魔の気持ちが嬉しくて。

 

――ありがとう

 

素直にさやかは礼を述べた。報われた喜びでさやかは幸せになった。もうこれで思い残すことはない――。

 

――カッテニシンダラコロスワヨ?

 

心を読まれたのだろう、悪魔からいつもの口調の脅し文句。えへへとさやかは口元を緩めた。悪魔に殴られた時の傷で口から血がツウ、と垂れる。

 

――死なないよ、あんたとずっと一緒にいるもの

 

―――――バカナイヌネ

 

そうして念話は途切れ、悪魔の羽根が大きく開かれた、戦闘開始だ。

 

ぶわあ、と風が舞い上がる。その風を受け、乱れた髪を伊達男ばりに整える畑山。

 

「おやおや、ここまでご執心なのですか、貴方ほどの上級な存在が何故あんな…ゴミを」

 

ほむらの目が見開かれた。

 

ドン

 

音を立てて畑山が爆発する。

ちぎれ、飛散する身体。

 

「アハハハハハ、ハハハハハ、さすがですねえ」

 

畑山の首だけが残っていた。まるで見えない糸で釣られているように宙に浮く顔。

 

「ですがっ!貴方さまでも私は倒せないっ!」

 

白く発光する畑山の首

 

「オオオオオオオオオオオオ」

 

目から口から、畑山の顔の穴という穴から白い発光体が溢れだす。発光体が周囲を照らし、

四方八方に広がる。

 

 

バチバチッ…!

 

「!」

 

さやかを守っているシールドに音を立てて発光体がぶつかる。

 

ほむらが右手をあげた。

閃光が走り、凄まじい轟音が鳴り響く、雷がほむらの右手に直撃した。

おびただしい光、光…目を瞑るさやか、輝く悪魔の赤い瞳。

 

美貌の悪魔はその手を優雅に魔獣へと差し示す。

 

ドオオン!

 

圧倒的な光が魔獣の発光体を襲った。ぶつかる光と光。

生まれる激しい衝撃波。揺れるビル、飛び散る瓦礫、思わず声をあげて身構えるさやか。

吹き飛ばされる高崎の死体。

 

「グオオオ…ス、スバラ…シイ…スバラシイ!」

 

圧倒的な力の前に感きわまったかのように恍惚とした表情を浮かべる畑山の首。

もちろん顔の穴という穴からは光を発したままだ。衝撃波でもはや美貌の跡形もない。

 

「コレガ…アナタサマノチカラ…!」

 

ふううう、と呻き声をあげ畑山の首が苦しそうに蠢く。

最後の力を振り絞っているのだろうか。

 

「ダガ…マダ…オワレナイ!オワレナイ!」

 

まるで女のような悲鳴をあげながら、畑山の首は回転した。

 

「嘘…」

 

さやかが声を漏らす。その顔は驚愕で歪んだ。

 

 

畑山の身体が再生されていくのだ。首を回転させながら、まるでビデオの逆回りのように飛び散った肉片がかき集められ身体をかたどっていく。ほんの数秒で、畑山は白のスーツの伊達男に戻った。

 

「ハハハハハ!終われない、終われないんですよ!」

 

終わることのない衝撃波の中、畑山は身体を激しく回転させながら、宙を舞う。廃墟ビルの壁を蹴りあげ、空高く舞いあがる。

 

「………終わるのよ」

 

ぎょっ、と畑山は目を見開いた。

空高く舞い上がった畑山よりもはるか高くに――悪魔はいた。

 

「あ…あ…貴方さまは」

 

黒い翼が太陽を覆い、畑山に闇を与える。その恐ろしいほどの美貌の主が冷ややかに笑うのを見て、ようやく畑山は――生まれて初めて恐怖を覚えた。

 

ゆっくりと悪魔の唇が怪しく蠢く。

 

――ソウゾウシュヨ

 

悲鳴があがった。畑山の心臓に深々と悪魔の右手が突き刺さる。

 

「人の「モノ」には手を出さないことね…」

 

す、とほむらが右手を引き抜く。落下する男。

数秒ほどして、ドシャと鈍い音が立つのと、さやかを守るシールドが解除されたのは同時だった。

 

*    *    *    *   *   *

――この男には聞きたいことが山ほどあった。

 

さやかはぐう、と唸り声をあげながら、ようやく立ちあがった。

 

ほむらは畑山にとどめを差していなかった。

否、あと数分もすれば滅するようにはしてあった。

 

「ぐうううう、あああああ。や、焼けるゥ…・中が熱い」

 

苦しそうに悶える畑山。滑稽だが、完全な死にいたろうとする今まさに畑山は「人間らしかった」彼の身体の中は灼熱のように燃えているはずだ。そうしてまもなく彼は灰になる。

ほむらも聞きたいことがあったのだろう、悪魔の姿のまま、彼女は冷酷に悶え苦しんでいる畑山を見下ろしている。

 

「何故私のモノを狙った?」

 

下衆な者に対する侮蔑を露わにして、ほむらの口調は傲慢だった。

 

「あああ、ひ、へへへ、それは…復讐…したいから」

「何故私のモノだけ?」

「……へ、へ、へ、言えません…へへへ」

 

そう、と呟いて、ほむらは右手を畑山に向けた。待たずにとどめを差すつもりだ。

 

「待って」

 

声に反応してほむらが振り返る。さやかがよろよろと立ちあがって近寄って来た。怒り、憂い複雑な感情を秘めたほむらの瞳がさやかを映し出す。さやかは倒れている畑山に近づいた。何故か…畑山は口元を緩ませた。

 

「あんたに…聞きたいことがあるわ、人間だった頃のあんたに…」

「そんなに血だらけで…ゾクゾクしますね」

「……なんで…罪のない女の子をあんな目に合わせられるの?なんで…」

 

ぐひひ、と畑山はさも愉快そうに笑った。

 

「ああ…そう、私も人間でしたね…別にどうでもいいでしょ?」

「な…」

「私は女性に興味が無いんです、だから…どうでもいい」

 

声をあげながらさやかは左手をあげた。

その手には銃が握られていた。――高崎の銃だ。

 

「撃ちなさい…どうせ私は死ぬ…フフフ…貴方ならいい、美樹さやか」

 

嬉しそうな畑山。ふと、何かを思い出したのか視線をほむらへ向ける。

 

「…貴方様に敬意をこめて…いいことを教えてあげます」

「……」

「貴方の「モノ」を狙っているのは…私だけではありません」

「……どういうことかしら」

「…ふふふ、それは言えません…ただ、貴方さまはこの「モノ」を大事にしないと…」

 

そう言って、畑山はさやかを指差す。

 

「失いますよ「永遠」に」

 

さやかが銃を構えるのと、ほむらが右手を向けるのは同時だった。

 

銃声と轟音が同時に起きる。

 

断末魔の悲鳴をあげて畑山は燃えた。業火で焼き尽くされる身体はほんの数秒で完全に消滅した。

 

――貴方のモノを狙っているのは私だけではありません

 

ほむらの瞳が揺れる。赤い色を宿していた瞳はいつのまにかアメジストのそれに変わって…

 

「ほむら」

 

名前を呼ばれて黒髪の美女は振り返る。そこには蒼い髪の相方がいて。

全ての感情を隠した表情で、ほむらは囁く。

 

「――ゾンビみたいね、貴方」

「そう?」

 

えへへ、と疲れ切った表情に浮かべた苦笑。

脇腹に刺さった鉄の棒、血だらけの服、顔半分が殴打により打撲している。

しばらく怒りとも憂いともつかぬ瞳でさやかを見つめていたが、はあ、とほむらはため息をついた。

 

「本当に…貴方って救いようのない馬鹿だわ。私に黙って死にかけて…」

「そう?」

「いっそ私が殺した方がいいかもね、馬鹿犬」

「うん…ごめん」

「ほんと殺すわよ…」

 

いつの間にか、二人は寄り添って、互いにもたれるようにして身体を重ねていた。

 

「ありがとうほむら…あんたがいなかったら…私、死んでた…」

「黙りなさい…」

 

さやかが囁いた途端、ほむらは強く蒼い髪の相方を抱きしめた。相方が痛みで声をあげるくらいに。相方の肩に頭をもたれさせ、ほむらは身体を僅かに震わせた。

 

「本当に忌々しいわ貴方…殺したくなるくらいに、どうしてかしら?」

「……私も…わからないわ」

 

羽根を生やした美貌の悪魔に、満身創痍の天使。二人は言葉少なにただ抱き合って。

 

「でも…さやか」

「何?」

「貴方を殺せるのは私だけ…他の誰にも殺させないわ」

「ほむら…」

「だから…」

 

死んじゃ嫌――

 

悪魔の黒い羽根が大きく広がり、さやかを包む。羽根の中、二人の姿は見えない。

長い間、二人はそのまま立ちつくしていた…。

 

*   *   *   *   *

 

 

――失敗した

 

と「彼」は考えた。

かつて因果を重ね続け、一人の少女を概念へと変えてしまった時間遡行のイレギュラー。彼女に対し、彼らは昔ある実験を行った。円環の理と呼ばれる概念を誘い出す実験を。

 

――実験は成功したが、計画は失敗だった。

 

彼女は人間としての存在を通り越し、新たに概念となった。

 

「悪魔」と名乗って。

 

彼らは冷静に考える。その時の失敗の原因を。つまりは人間の持つポテンシャルに対する認識不足だったと。

 

――人間は厄介で手に負えない。

 

これが彼らの結論だった。しかし、彼らの一部は彼女によって捉えられ、呪いを処理する役割を担わされている。力を搾取し、宇宙エネルギーとして還元することを目的とした彼らにとって、このような非生産的な活動は無意味極まりない。

 

無機質な赤い目が、「悪魔」とかつて「円環の理」の一部として機能していた存在を見つめる。荒れ果てた廃墟ビルの一角で抱き合っている二人の行為については彼らは意味を見出すことができなかった。彼らの目的はただ力の搾取システムの復旧。そしてこのような無意味な状態からの脱却。

 

――そのためには…まず障害物を削除しなければならない。

 

「円環の理」の一部であった美樹さやかの削除、そして「悪魔」と化した暁美ほむらを超える存在の構築。暁美ほむらの制圧。

 

魔獣と人間を融合させることを思いつき、促進したのは「彼ら」だった。

人を襲う魔獣を人と融合させるとどうなるか?彼らは暁美ほむらの存在を超えるものを構築しようとするが、未だ完全な成功例は無い。融合した人間はそのまま凶暴化し、知性を失くし同種族を殺戮していく。ようやく高い知性を保った「畑山」という成功例があり、美樹さやかの削除に乗り出したが、まだ力不足だったらしい。

 

「まだまだ試行錯誤が必要なようだね」

 

珍しく、彼は呟いた。感情などというものを持たない彼らが呟くのは滅多にない。

そうして彼はその白い小さな身体を翻し、闇へと消えて行く。

 

――待っててね、暁美ほむら。

 

 

*   *   *

 

蒼白い闇の中、二人は寄り添うように眠りについた。

 

「大丈夫なの…?」

「うん、なんとか…ね」

 

えへへ、と笑う蒼い髪の相方をあきれたようにほむらは見つめた。

ようやく彼女の回復魔法が効いてきて、傷が引いたところだった。シーツにくるまりながら、ほむらは左手をさやかの脇腹に這わす。さやかが声を漏らし、身を捩じらせた。

 

「くすぐったいわ…」

「黙って…」

 

脇腹に突き刺さった鉄の棒を引き抜いた時の相方の様子を思い出し、ほむらは唇をかみしめる。そうして、ほむらは優しく愛撫するように相方のそこを優しく撫ではじめた。

 

「ほむら…?」

「……静かにしてて…」

 

さやかの肩に頭をもたれさせると、猫のように目を細めた。

 

「ほんとうに…馬鹿ね貴方って…」

「……うん」

 

気恥ずかしそうに、さやかは視線を黒髪の相方から天井へと変える。

 

戦いの後、荒れ果てた廃墟の中高崎の遺体を探し出し、さやかは上司へ連絡した。

局地的な地震による災害――ほむらによって、周囲の記憶は改竄され、事態は収拾された。

 

「ありがとう…ほむら、あんたのおかげで…助かったわ」

「………」

 

ほむらはただ黙って目を瞑り、左手を動かすだけ。

 

「あんたが助けにこなかったら私……それに」

 

はあ、とさやかはため息をついた、それが気持ちによるものなのか、相方の愛撫によるものなのかはわからない。

 

――結局、二人は畑山からは何も聞き出せなかった。

その目的も、魔獣と人が融合するわけも、そして人間だった頃の畑山の犯罪の理由も。

 

「何も…聞き出せなかったわ」

「……………どうでもいいわ」

「え?」

 

黒髪の相方の囁きを不思議そうに聞き返すさやか。瞑っていた目を開き、ほむらは優しくさやかを見つめていた。

 

「どうでもいいのよそんなこと…」

 

ゆっくりとほむらが上体を起こす。さやかの上に覆いかぶさるようにして身を屈めると、長い黒髪がさやかの顔にかかった。

その手がさやかの頬に触れる。顔の傷は癒えていた。

 

「貴方がのたれ死ななかったから…それでいいの」

「ほむら…」

 

蒼い瞳が揺れる。それを面白そうに覗きこむアメジストの瞳。

小首をかしげながら、ほむらは囁いた。口元が一瞬つり上がる。

 

「意味おわかりかしら?」

「え…いや…それは」

 

ぱちん、と軽くさやかは額を叩かれる。いつもの彼女達の戯れ。

くすくすと笑いながらほむらはさやかに覆いかぶさる。

 

「馬鹿ねぇ…やっぱり犬には難しいのかしら…」

「ちょっと!…だから犬じゃないって…んっ」

 

さやかは最後まで喋れない。口を塞がれたから。

長い間、二人の顔は重なっていて。

 

ゆっくりと顔を離した時、互いの唾液が混じり合って、つう、と幾筋か垂れた。

惚けた表情で黒髪の相方を見上げるさやか。熱を帯びた目で見下ろすほむら。

 

「…ほむら」

「子供…作りましょう?」

 

ほむらは手をシーツの下に入れる。その手が撫でるのは脇腹ではないなにか。

う、とくぐもった声をあげて身をよじる蒼い髪の相方を目を細めて見下ろして、彼女は妖艶に微笑んだ。

 

「意味…わかるわね?」

 

こくり、とさやかは頷いた。嬉しそうに目を細め相方の顔に唇をあてながら、ほむらは囁いた。

 

「お利口ね…」

 

そうして強く相方を抱きしめ、悪魔は気持良さそうに目を瞑った――。

 

 

二人はシーツにくるまり強く重なったまま朝を迎えた。お仕置きはその日無かったという…。

 

 

END

 

 

 









戦いはまだ続く――
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。