廊下に響いていた笑い声。
満席だった食堂。
いつも誰かいた談話室。
綺麗でいい匂いのした入渠施設。
毎晩遅くまで誰かが居たバー。
花壇に咲いていた沢山の花。
美しく、薄ピンクで鎮守府を彩っていた大きな桜の木。
そして、みんな提督に会うためにしょっちゅう訪れた大好き執務室。
廊下に散乱するなにかの一部。
死体が安置されている明かりの消えた食堂。
作戦用紙の散乱した談話室。
黒く、血痕が残り、悪臭のするドック。
空っぽのバーと飲みかけの酒。
踏み荒らされた花壇。
花は散り、不気味に枝を広げる大きな桜の木。
大きく穴が空き、海が見える執務室。
……………
はっとして目が覚める。
二段ベッドの向かいにおいてあるタンスの上の時計が今が夜明け前であることを示唆していた。
嫌な夢を見たものだ。
0500
総員起こしまでまだ時間がある。
私は、まだぐっすりと眠っている姉達を起こさないように、静かに、汗でぐっしょりになった寝間着からいつもの制服へと袖を通す。
そして、トレードマークである帽子を被りそっとドアノブを握る。
一瞬、ふと夢で見た情景を思いだし、思わずドアノブから手を離してしまった。
しかし、ありえないと私は気を持ち直し、そっと、ドアをゆっくりと開ける。
いつも通りの廊下。
ほっとため息をついた私は、まだ静かな廊下を、ゆったりと歩いていた。
気がつくと、いつの間にか「執務室」と書かれたドアの前に立っていた。
もうここまで来たのかと、思いつつ、先程から鳴っている腹の虫を静かにさせるために、この時間なら間宮さんがご飯の支度を始め、そろそろ出來始めている頃だろう、出来ていなくとも何かあるはずだ、と考え食堂へと向かおうとした。
その時、執務室のドアの隙間から光が漏れていることに気がついた。
私はその光に引き寄せられるようにそっとノックをする。
中から「どうぞ」という、優しい声が聞こえた。
……………
俺は山本和幸、もともと軍隊に入る気はなかったのだけれど、深海凄艦が突如出現したことにより、自分から志願して入隊した。
もちろん、両親などからは反対されだが、今の所、上手くやれているはずだ。
先月、大規模作戦を成功させた時、指揮能力を評価され、階級も大佐となった。
しかし…
「階級上がったから給料増えて仕送りの金額も上がるし良いことは多いとはいえ…この量はないだろ…」
目の前には高く積み上げられた書類の山がいくつもできていた。
昨日電といくつか終わらせたが、日付が変わる前流石に電は自室へと帰らせたため、作業が先程の半分程度の速度でしか進まず、こんな時間になってしまった。
つくづく提督並みに書類作業の処理能力のある、あの初期艦様の凄さに感服しつつも地道に書類仕事を進めていた。
0510を時計が指した頃、執務室のドアをノックする音が聞こえた。
こんな時間に誰だ?思いつつ「どうぞ」と声を掛けると、静かにドアが開きそこには白露型駆逐艦5番艦である春雨が立っていた。
誤字脱字等はコメントにて