「ねぇ。あんたは何でずっとここで一人で耐えられたの...?本当に...信じてたのだとしたら...あまりにも長すぎたわ...」
「う~ん...何でって言われても...私は艦娘。まだ戦える。ただ死に損なっただけ。せっかく拾った命なんだし希望くらい持って生きていたいじゃない。孤独は辛かった。けれど...絶望に駆られたら...深海棲艦と同じじゃない...?」
「なら...どうして...ここを出なかったの...?」
朝雲は微笑んでいった。
「私のことをきっと迎えに来てくれる可愛い妹がいるから。もし来なかったら...私は思いの詰まった此処で...朽ちるわ。」
「そんな...」
「此処の付近の海域は一応安全よ。ただ...少し逸れると...奴がいるわ。」
「奴って...?」
「ん~...見た目は戦艦棲姫よ。けど...あれは...気持ちの悪い...」
「ちょっと待って。戦艦棲姫...?確か数年前に掃討されたはずじゃ...」
「そうなの...?でもあれは...沈まないわ...恐らく...沈んだのは十中八九別の姫よ。」
「何で...そう断言できるの...?」
「それは私自身が戦ったからに決まってるでしょ。」
「ますます分からないわ。朝雲。あんたまだ生きてるのよね...?戦艦棲姫と戦って生きてる駆逐艦なんて...聞いたことがないわ...」
「私は...まだ生きてるのかなぁ...」
そう意味深なことを呟き、朝雲は立ち上がった。
「火、起こそっか。」
そう言われて確かに寒いことに気が付いた。
外には雪が降り始めていた。
「そういえば...そろそろクリスマスだったわね...」
備え付けの暖炉に火がついた。
二人で暖炉の前で温まっていると朝雲がもたれ掛かってきた。
「ちょ!あんた何なのよ!」
「久しぶりに艦娘に会えたんだもの...それに姉さんだなんて...もう少しだけ...生きるのも....」
「あんた何言って...」
横を見ると朝雲が微かな寝息を立てて眠っていた。
そうだ。
そんな訳がない。
こんな場所にずっと一人...艦娘の勝利を信じて暮らしているだなんて...
辛かったでしょうね...寂しかったでしょうね...
朝雲が度々口にしていた妹の存在。
それが...彼女の生きる一本の細い光なんだ...
それにしても...どうやって戦艦棲姫と戦って生きてたの...
そっとあった頭を撫で抱きかかえるように朝雲を床に寝かせ、私は廃れた鎮守府を歩く。
朝雲が掃除しているのであろう、比較的綺麗だった。
暗く、歩く度にミシッミシッと音を立てる廊下を歩き、暫くすると大きな鋼鉄製のドアが見えてきた。
工廠
ゆっくりと軋むドアを開け、そっと中に入る。
中は薄暗く、不気味だった。
非常用の電源は生きているのだろうか?微かな機械音がする。
電気のボタンを押すと、薄暗いがついた。
再び工廠の内部に視線を戻すと、私は絶句した。
床には工具が散乱し、おびただしい量の血痕。
あれは...もはやどの艦種かかろうじてでしか分からないレベルの破損した艤装。
既に持ち主は...もうこの世に居ないのだろう。
工廠の中央、建造ドックの前には一つ一つ、艤装の破片が丁寧に並べられていた。
機銃、駆逐艦の主砲、魚雷発射管、そして...飛行甲板
決して大きな工廠ではない。
しかし...
艤装の収納場所には艤装は一つしか置かれていない。
朝雲のものだろうか...
よく見ると、収納場所には一つ一つ名前が刻まれていた。
伊勢、金剛、龍鳳、瑞鳳、那智、衣笠、川内、那珂、
一つ一つ手でなぞりながら最後の、唯一艤装が一つ入っている列に来た。
朝雲、霞
艤装はよく整備されているようだ。
妖精さんも居る。
驚いたような顔をして敬礼をしてくれている
私は微笑みながら敬礼を返す。
そこで気が付く。
そういえば...私の艤装は...
工廠内をぐるりと見て回る。
良かった...あった...
丁寧に机の上に置かれていた。
特に問題も無いようだ。
改めて工廠を見る。
ここは...まるでお墓のようだ。
みんな...死ぬときは...何を思っていたんだろう。
朝潮姉さんも...
朝潮姉さんのことを考えると...後悔の闇に包まれそうになる。
でも...いつまでもくよくよしてられない...
朝潮姉さんもこんな事望んでいないだろう。
私は朝潮姉さんに救われた。
でも私は朝潮姉さんに何ができた...?何もできていない。
なら...姉さんにいつも言われいたじゃないか。
笑顔で、元気に長生きしろって。
私は、前を向かなければいけないのかもしれない。
工廠を後にした私は、近くのドックに来た。
予想通り、荒れ果てていた。
だが、朝雲が綺麗なのを見ると、どこかに使える風呂があるのだろうか。
廊下を歩きながら考える。
此処の廊下、ドック、工廠。
かつては賑やかだったのだろうか。
執務室。
そう書かれたドアの前に私は立っていた。
かつて此処には朝雲の提督が居た...
提督...そう考えると私の胸は締め付けられるようだ。
あいつと同じような人がいたのか?
ノックをする。
もちろん返事は帰ってこない。
「失礼します。」
そう言ってドアを開け執務室に入る。
カビ臭さが鼻につく。
埃も舞っている。
だが...ここも定期的に掃除されているようだ。
そっとかつての提督が居たであろう机に伏せられた写真を取る。
中央におそらくここの提督が満面の笑みで、朝雲や霞、そして此処の鎮守府の仲間と共に写っていた。
羨ましい。
そう感じてしまった。
はぁ。つくづく私はひねくれたなと自分に苦笑した。
暖炉の傍に戻ると、朝雲はまだすやすや寝ていた。
窓を見ると、もう月は西に傾きかけていた。
温かい朝雲にくっつきながら私は意識を手放し睡魔の泥の中に沈んでいった。
誤字脱字等はコメントにて。