「春雨〜?居る?」
私が炬燵で寝そべっていると時雨姉さんが私を探しながら部屋に戻ってきた。
「時雨姉さん?どうしたんですか?」
炬燵からひょいと首を上げ時雨姉さんの方を向く。
「あぁ。春雨。そこに居たのかい。まったく…すっかり炬燵にハマっちゃって…」
「えへへ…炬燵は温かいですから…姉さんもどうですか?」
「そうだね。僕も一緒させてもらうよ。」
そう言って姉さんは炬燵に足を入れてきた。
姉さんの足は冷たく、私の足に当たったとき冷たさのあまりビクッとなってしまった。
「ところで姉さん。どうしたんですか?」
「うん…そのことなんだけどね…」
急に雰囲気が変わった。
「春雨。君は…大規模作戦がもうすぐ発令されるのを知っているよね?」
「はい…知ってますけど…」
「なら…うちの鎮守府から出撃する艦隊のメンバーはもう知っている?」
そういえば知らない。
いつもならこの時期に貼り出されているはずだ。
「いえ…知らないです…」
私がそう言うと時雨姉さんはどんどん険しい顔をになっていった。
「あ…ごめんなさい…私がしっかりと確認してなくて…そのどこに貼ってあるんですか…?」
私はてっきり時雨姉さんが私に怒っていたのかと思った。
「違うよ。春雨に起こってるわけじゃないさ。僕は提督に怒っているのさ…」
驚いた。
確かに時雨姉さんは滅多に怒らない。
いや、私は姉さんが起こっているのを一度も見たことがなかった。
その姉さんが…司令官に怒っている…?
「えと…どう…いうこと…でしょう…?」
恐る恐る聞く。
しかし、時雨姉さんはその問いには答えなかった。
突如炬燵から抜け出し言った。
「よし。春雨。提督に会いにいくよ。」
「へ?」
……………………
「こちらはどうされるんですか?もう既に今から送っても解読できる日数は無いかもしれませんよ?」
「だが…やれるだけやってみよう。」
コンコン
ノックの音が聞こえた。
「入れ。」
ドアがゆっくりと開く。
そこに居たのは時雨と春雨だった。
「二人は今日はどうしたのかな?君たちの近海警備の書類系で不備はないよ。」
「………提督。次の作戦の…春雨の所属艦隊の変更は…出来ないんですか…?」
俺は息を呑んだ。
そして静かに答えた。
「ああ…上からの命令だ…俺にはどうすることも出来ん。」
「そんな!」
時雨の声が虚しく響く
「すまない…」
俺は頭を下げる。
最後の最後まで嘆願書は送り続けた。
しかし…帰ってきた答えは全体としてのリスクを減らすために致し方のないことである。という内容だった。
時雨が口を開く。
「それで…?春雨にはいつ言うんだい?」
俺は春雨を見る。
そうだ。いつかは言わなくてはならない...
「春雨…………」
「は…、はい…」
「君には…、各鎮守府より、選出された数名から構成される遊撃部隊だ。人選は…今回の総指揮をとられる大将が選出なされた…恐らく、生きて帰ることはできない………何もできなかった俺を許してくれとは言わない…ただ…謝らせてくれ…すまない…」
俺は頭を下げた。
そこで春雨からの言葉を待っていた。
しかし…春雨からはなんの言葉も発せられなかった。
春雨は静かに執務室から出ていった。
後には俺と明石。そして…冷たい視線を持った時雨が残っていた。
「時雨…春雨は…」
やはり伝えるべきではなかったかもしれない。
知らないまま死ぬのは嫌だ。
だが...死って戦地ぬ向かうものほど...しんどく辛いものはなっかたのかもしれない。
「多分だけど、囮艦隊に選ばれたこと自体を怒っているんじゃないと思う。黙ってて言わなかったことに怒っているんだよ。」
「そうか…」
優しさだけでは戦いには勝てない。
時には捨てることも大切だ。
だが...
この作戦だけは納得できない。
「明石、暫く席を外す。業務を変われるか?」
「勿論です。言ってきてあげてください。」
「有難う。」
「その代わり絶対に話はつけてきてください。」
「分かっている...」
「春雨は...よく屋上に行って拗ねてたっけな」
「時雨...」
俺は急いで執務室を出る。
階段を上り屋上のドアを開ける。
途端、冷たい潮風が顔に吹き付ける。
明るくなった視界の先に海のほうを向き一人の艦娘が立っている。
「春雨。」
ゆっくりとこちらを向いた春雨は泣いていた。
「司令官さん。遅かったですね。」
「すまない。話さなかったことを許してくれ。」
「別に良いですよ。司令官さんは優しい人だから...部下に死ねなんて言えなかったんじゃないですか?ですが...私たちは艦娘なんです。何度も言っていますが戦うために生まれてきました。死ぬ覚悟なんてできています。」
「ああ...俺は今まで部下の事を守るつもりで縛り付けていたんだな。」
「いえ。司令官さんは正しいことをしていると私は思います。守るために戦うのであって、死ぬために戦うわけではありません...」
「それに...私は帰ってきます。絶対に。こんな所で死ぬわけにはいきませんから...」
そういって春雨は敬礼をした。
「分かった。本当にすまない...貴艦の健闘を期待する。絶対に帰ってきてくれ...」
俺も深く敬礼を返す。
....................
時雨姉さんと執務室に入った時、私は少し緊張していた。
何を言われるのか。
姉さんが怒っていたのはどうしてだろう。
心配だった。
しかし司令官さんの口から発せられた言葉は予想もしていなかったことで私は耳を疑った。
「死んで来てくれ。」
それ以外は頭に入らなかった。
それと同時に皆が何故優しかったのか理解した。
時雨姉さんも言っていたじゃないか。
もう配属先は見たのかと。
皆すでに知っていたのだ。
私には何も言われてなかった。
だからこそ怒りが沸き上がってきた。
守るために戦える。
それは光栄なことだった。
しかし、大好きな司令官さんに裏切られるのはとても苦しいことだった。
向こうは私のことを信頼してくれていなかったのかと。
だが、司令官さんはきっと気を使って伝えなかったのかもしれない。
ならこの行き場のない怒りは何処に行けばいいというのだ。
私は踵を返し執務室をでる。
少し一人になりたかった。
視界が灰色と黒に染まる。
灰色の階段を上り灰色のドアを開ける。
臭い死臭が鼻につく。
暗い視界の先に黒い海が見える。
この海が私の墓。
最後まで戦いぬいて見せる。
それが艦娘として生まれたものの使命。
だが...皆と離れ離れになるのは少し辛かった。
私が落ち込んでいたら励ましてくれた姉さんたち。
優しく時に厳しく訓練の手伝いなどをしてくれた鎮守府の仲間。
そして...いつも優しく私たちを守ってくれた司令官さん。
「春雨。」
そう呼ぶ声が聞こえた。
振り返る。
司令官さんと話していくうちに視界に色が戻ってきた。
死ぬために生まれてきたわけじゃない。
守るために生まれてきた。
なら、私は生き抜いて見せる。
死ぬ覚悟はできている。だが生き抜いてまたここに帰ってくる。
誤字脱字等はコメントにて