真上で戦闘が行われている音を聞きながら静かに目的地へと向かう。
上からの深海棲艦、艦娘、共に降ってくる。
艤装の破片が雪のようだ。
雪?雪って何だったっけ…
まぁ良い…
これね終わる。
暗い…海の底へ…沈め…
艦娘…貴様らはここまでだ……
………………
硝煙と血の匂いが鼻につく。
海面には艤装の破片や艦娘と深海棲艦の部位が浮き沈みしている。
「まるで…地獄だね…」
「時雨…大丈夫っぽい?」
「うん。夕立、有難う。僕は大丈夫だよ。けど…ここまで押されてるとはね…僕たちまで駆り出されてるって前線はどうなってるんだよ…」
「白露は大丈夫っぽい?」
「白露なら大丈夫さ。白露は僕たち白露型の中で一番強いからね。簡単には沈まないさ。」
「私達も生き残るっぽい!」
「そうだね。夕立。生きて帰ろう。」
砲撃音が近づいてくる。
前線はすぐそこだ。
……………
「はぁ…はぁ…」
下を向く私の頬を伝って生暖かい物が海面に落ち、滲む。
目に掛かった血を拭い、前を向く。
視線の先には一人の艦娘が深海棲艦に頭を持ち上げられ中に浮かんでいた。
まだ、かろうじて息があるのだろう。
頬を血とともに一筋の涙が伝っていた。
「たす…け…」
その声は最後まで続く事はなかった。
グシャッと音がして彼女の頭は消えた。
支えを失った体は膝から崩れ落ち、やがて沈み始めた。
クソ…
深海棲艦は私の方へゆっくりと進んでくる。
動け…動け動け…
もう既に私は限界だった。
必死に身体を動かそうにも立つことが精一杯だった。
「戦艦…棲姫…」
やつのキラリと光った砲塔と、空。
それが私の最後の記憶だった。
(あぁ…時雨…夕立…春雨…みんな…ごめんね…先に…逝くよ…)
………………
「大淀。報告しろ。」
「はい。最後の連絡では陽炎は駆逐艦春雨の殺害に失敗。夕張は命令無視の後、陽炎の殺害です。」
「ふん。まぁいい…こいつらを使うまでもなく裏に手を回すことはできた。さてと…陽炎の妹共はどうしてやろうか…」
「いいのですか?陽炎は任務を引き受けるかわりに手を出すなと言っていましたよ?」
「そんなもの、失敗するほうが悪いだろ。大淀。お前も何か隠してるのか?」
「いえ。」
「そうか?まぁいいだろう…」
……………………
「戦艦棲姫が動いたわ。」
「え?何の話?急にどうしたの?」
私はいきなりの話に面食らった。
「この前話したでしょ?あそこを縄張りにしていた戦艦棲姫が移動したのよ。」
「なんで分かるの?」
「…なぜ分かるのか分からないわ…けど…分かるの。」
「あんたねぇ…でも…動いたからって何かあるの?」
「やつはここ数年の間、縄張りから出なかったわ。前にあそこを動いたのは…私がやつと戦った時よ。」
「なら…」
朝雲は無言で頷く。
「早く行かなきゃ!」
私はそう言って朝雲の手を取り艤装を取りに工廠へ向かおうとする。
しかし朝雲はその手を振りほどいた。
「私は…行けないわ…」
「え?」
「何度か…試したの。けど…もう艦娘の艤装は…使えなかったの…ここに辿り着いたときから、もう機能してなかったのよ…」
「何を言ってるの?艦娘が艤装を使えないだなんてそんなこと有るわけ無いじゃない!死んだわけでもあるまいし…」
「……………私は…一度沈んだわ…」
「…え?」
その後朝雲の口から出てきた話は衝撃的だった。
朝雲の話の後、疑問になったことを口にする。
「じゃあ…あんたは…艦娘じゃないの?」
その言葉に朝雲は悲しそうに微笑んだ。
「どちらとも…言えないわ…それに…私はどっちみちここに残るわ。これも前に話したけど…霞との約束だから…。」
「でも…」
「もし会ったら伝えてね。朝雲が待ってるって。」
「わかったわ…」
「じゃあ。気をつけてね。」
「えぇ。朝雲。あんたもね。元気で。」
最後、私が後ろを振り返っとき、朝雲は微笑んでいた。
また朝雲を…妹を一人にするのは…心が痛む。
朝潮ねえさんもこんな感じだったのだろうか。
私はそう考えながら果てしない海へと漕ぎ出した。
……………………
満潮姉さんが行ってから私は一人、工廠へと向かった。
「言えるわけないよね…」
一人でそう呟き、艤装を展開する。
それは、到底艦娘とは呼べない、禍々しい、生き物のような艤装だった。
「私は…これからどうなるのかな…もし本当に霞が生きてて会いに来たら…それに…このことを知ったら…あの子はどんな顔をするのかな…」
私は一人隅に膝を抱えて丸まった。
あぁ…寂しいな…
誤字脱字等はコメントにて