誰も話さない。
話そうとしない。
無理もない。
あんなことがあった後なのだから。
と、白露型駆逐艦2番艦時雨は思った。
先ほどから白露はぼーっと窓の外を見ている。
夕立はお気に入りのクッションを抱いてずっと無言のままだ。
春雨は...もうずっと布団にこもったままだ。
艦娘にとって本来死とは身近なはずのものだった。
しかし、今の提督の命令に従っていくうちに、死は幻想のようなものになっていたのかもしれない。
今までに鎮守府の陥落、前線の後退とかの報告は沢山聞いた。
しかし、他人事だと思ってた。
今日までは。
そうだ。僕たちは戦争をしているんだ。
常に死と隣り合わせに生きている。
だが...あれは本当にそうなのか?
コンコン
ノックの音がした。
誰だろう。と思いながらドアを開け顔を出すと提督が立っていた。
「提督...」
「あー時雨。みんな居るかな...?」
「うん...みんな居るよ。どうしたの?」
「ちょっと話があってな。今中いいかな...?」
「うん...」
「じゃあ、失礼するよ。」
そう言って提督が部屋に入ると夕立が真っ先に反応した。
「提督さん!?どうしたのっぽい?」
「さっきのことで少し話があってな。」
さっきのこと、と提督が言うと白露はこっちを向いた。その顔は今にも泣きだしそうだった。
気のせいか春雨に布団もピクッと動いたような気がした。
提督は椅子に座り、4人を見た後静かに言った。
「あのことは誰にも言ってはいけない。俺たちの秘密だ。いいな?」
「どうしてっぽい?付近に強力な深海棲艦が出現したかもしれないっぽい!」
「その心配はない。時雨。お前は気が付いているんだろ?」
みんなの視線が時雨に集まる。
僕は口を開いて話した。あくまで可能性にしか過ぎないが最悪の可能性の話を。
「あの傷は...深海棲艦によるものじゃない。」
「な!?時雨あんた何言ってるの!?」
「どういうことっぽい!?」
僕の言葉に白露と夕立は面食らったようだ。
それもそうだ。僕もこんなこと知りたくなかった。
でも...
「遺体の傷は深海棲艦の装備じゃおかしいんだよ...深海棲艦に撃沈された艦娘の傷口は黒く変色するって聞いたことがある。でも...あの子には変色した痕跡がなかった...」
僕の言葉に提督はうなずく。
「その通りだ。」
「そんな!じゃあいったい誰がやったっぽい!?艦娘の体にあんな傷をつけられる人なんていないっぽい!」
「あぁ。人間ならね...」
「そんな...まさか...」
「じゃあ...あれをやったのは...」
その続きは誰も発しなかった。
誰もそんなこと信じたくなかった。
次に口を開いたのは提督だった。
「とにかく。この件は他言無用だ。これは命令だ。いいな?」
その言葉に僕たちは頷くしかなかった。
「ひとまず、哨戒は強化し、俺も大本営の信頼できる人間に連絡を取って調べてみる。」
そう言い残して提督は出て行った。
「一体...何が起こっているんだろうね...」
「どんなことがあっても...こんな事して良い訳ないっぽい」
その日はもう早く寝た。
みんな精神的に参ってるようだった。
一番心配なのは春雨だな...と考えながら僕は意識を手放し深い眠りについていった。
...........
「この作戦では大きな被害が出てしまいます!賛成できません!」
「黙れ!駆逐艦など盾にでもなればいいのだ!」
「ですが!これではあまりにも...!」
「口答えするなといっただろ!」
次の瞬間、何が起こったのかわからなかった。
気が付くと私は床に倒れていた。
頬がズキズキ痛む。
あぁ。殴られたのか。
ふらふらと立ち上がり、提督を見る。
「なんだその目は。駆逐艦風情が偉そうにしやがって。」
そういった提督の目はひどく冷たかった。
部屋に戻ると、妹がベットに横たわっていた。
「傷は大丈夫?痛くない?」
「大丈夫...」
「そう...なら良かったわ。」
.......
なんだあの駆逐艦は。
上官に反抗しやがって。
あいつが帰った後も俺は一人イライラしていた。
「あいつもそろそろ...処分だな。」
そうだ...!
ふふっ良いことを思いついた。
「大淀!」
「はい。提督。いかがされましたか?」
はぁ。まったく。こいつも目が死んでやがる。
まぁいい。そっちのほうが静かで便利だ。
「陽炎を呼べ。」
「了解しました。」
数分後、陽炎が執務室にやってきた。
「な...なんでしょうか」
ふむ悪くない。
「お前には妹がたくさんいたよな。」
そう言った途端、陽炎の目が大きく見開かれた。
「お願いします!どうか妹たちにだけは!」
「ならば...あいつを...朝潮を殺せ。」
「...は?」
誤字脱字等はコメントにて