執務室には時計の秒針が鳴り響く。
俺は頭を抱えていた。
「ふざけるな…囮を使うだと…?」
駄目だ。
あいつ等を死なせる訳にはいかない。
だが、命令は命令だ…
一体どうすれば…
もう一つ俺を悩ませていたのはショートランド泊地所属だった朝潮の遺体を回収したことだ…
向こうは艦娘を大切に扱う方だと聞いている…
ひとつ…かけてみるか…
……………
1100を回った頃だろうか。
書類を順調に捌いていると、執務室の固定電話がなる。
特に上の奴らからも用事はないはずだから俺は不審に思った。
ゆっくりと俺は受話器を取る。
「……もしもし?」
「おはようございます。中将殿。」
次の瞬間、俺は頭に血が上った。
受話器の先から聞こえてきた声は忌々しい艦娘穏健派のやつの仲間だと一瞬でわかった。
年齢の割に階級こそ普通な若造の癖に、戦果だけは異常だ。
他にも、艦娘の被害が全基地の中で一番少ないところの提督だ。
「あぁ。君か。一体どうしたんだい?」
「失礼します。つかぬ事をお聞きしますが…中将殿。あなたは艦娘をどう思われていますか?」
その質問に俺は驚き、そして焦った。
どういうことだ?
こいつはまさか知っているのか?
轟沈報告などは全部出した…
殺さした奴らも海に沈めた…
まさか…誰か裏切ったのか?
いや…姉妹艦を人質にしていたはずだ…
そこで俺は気がついた。
居るじゃないか。
失うものが何も無い、死んだ姉の跡を追いかけそうなやつを。
絞り出すように俺は言った。
「…我々を守ってくれる…頼もしく、感謝すべき存在だと思っている…」
少し間があったあと受話器の向こうから声が聞こえた。
「そうですか…なるほど…わざわざすいませんでした。…ありがとうございます。」
では。と言って俺は電話を切った。
あいつは危険だ。そう考える。
始末しなくてはな…
そうだ。満潮だ。
あいつはどうした。
「大淀!満潮を呼べ!」
すぐに大淀は反応して執務室から出ていった。
数分後、大淀が戻ってきたとき、俺は背筋に冷たいものが流れるような感覚がした。
「満潮さんは...部屋にいませんでした...」
「クソ...やられた。管理していたのは誰だ!?」
大淀はおびえたように言った
「艤装の管理は...明石轟沈以降から夕張が担当しています...」
「今すぐ呼んで来い。」
「はっ!」
もし満潮が助けを求めていたら?そうなると俺の立場が危うい。
しかし...もし俺の考えが当たっているのならば...憲兵が来ていないことを考えると知っているのはあの若造だけらしい。
ならば...
満潮が嘘を言ったことにすれば...あいつも満潮も両方消すことができる...
まずは情報を集めなくては...
そう考えているとノック音が聞こえた。
「入れ」
「っ失礼します。」
そう言って夕張が入ってきた。
「その...なぜ私は呼ばれたのでしょうか...」
「ほう...まさか貴様はなぜ自分が呼ばれたのかを知らないのか...ならば聞こう。最近艤装が一つなくなったのを管理している貴様が知らないというのか?」
俺がそういった瞬間に夕張の顔がみるみる青ざめていった。
「なぜ...それを...?」
ふむ...どうやらこいつは黙っていたらしい。
「俺の艦隊運営に不信感を抱く若造が現れた。誰かが密告したのかと思ったが...まさか...お前だったが手を引いていたとはな。」
俺がそういうと夕張は不審そうな顔をした。
「どうした...?何か間違っているのか?」
「いえ...何も...」
「ならばお前には罰を受けてもらう。次の作戦で前衛を務めろ。艤装は後程大本営に申請を出して後任を呼ぶ。いいな?」
「はい...」
そう言って夕張は下がっていった。
.............
満潮ちゃんが生きている?そんなはずはない...この目で見た。
けど...何で....
提督は誰の話をしているの...?
そういえば朝潮ちゃんの件も不自然だ。
深海棲艦の襲撃を受けて朝潮ちゃんは轟沈と聞いたが...哨戒に同伴していた陽炎ちゃんの艤装には傷一つなかった。
いや...正確に言うと損傷はあった。
損傷的には中破といったところか。
相方の轟沈の偽装には辻褄が合う。
しかし...私はいくつもの艤装を見てきた。
だからこそ確信を持って言える。
あれは...
深海棲艦の攻撃によるものじゃない。
恐らく、砲撃痕的に駆逐艦、それも陽炎ちゃん自身の砲撃による損傷だったわ。
もしそうなら...いったい何がこの鎮守府で起こっているの...?
...........
受話器を置いた俺は一息ついた。
どういうことだ...?
恐らく中将は朝潮を殺すように艦娘の誰かに命じたはずだ...
しかし...やはり本当のことは言ってくれないか...
もうすぐ、あと数か月後には大規模作戦が始める。
それまでに片をつけなくては...
今はとにかく証拠が欲しい。
そう思っているとき、一件のメールが届いた。
軍用の回線ではなく、民間の衛星回線だ。
今の時代、国外と連絡を取ること自体、非常に少なくなっていた。
かつての大国、アメリカ等は一部の海岸を除き、沿岸部からの撤退。内陸に引きこもり、最低限の貿易のみの為に艦娘を運用していた。
普段なら絶対に見ないが今回だけ妙に開かねばならない気がした。
恐る恐る開く。
一見普通の知り合いへ向けてメッセージのような感じだった。
しかし...宛先は俺の名前だが...送り主は知らない名前だった。
いったい誰だ...?
独自の回線で明石を呼ぶ。
数分後、息を切らした明石がやってきた。
「提督!どうされました!?」
「あぁ忙しい時にすまない。見てほしいものがってな。」
「ん?これは....」
「先ほど民間の回線から届いたメールだ。送り主の特定までとはいかないが、送ってきた地域は特定できないか?」
「なるほど...難しくはないですね。数分あればできます。しかし...この部分見てください。」
「これは...何だ...」
「もしかすると、何かの暗号かもしれません。」
「俺のことを知っている奴が何かを伝えようとしているのかもしれないな。明石。解読を頼めるか?」
俺がそういうと明石はびしっと敬礼をした。
「了解しました!では失礼します。」
そういって明石はメッセージを自分の端末にだろうか。転送し、意気揚々と出て行った。
そういえば...あいつはああいうのが大好きだったな...
俺は苦笑しながらそう思っていた。
戦争が終わったら...
彼女らにも...
俺は...彼女らと終戦を迎えることができるのだろうか....
ひとまず、囮作戦は駄目だ。
そう考えた俺は大本営に意見具申した。
誤字脱字等はコメントにて。
また感覚が少し開いてしましました。
出来るだけ早く書き上げられるように頑張ります。