※この作品はR-18です。

花塵   作:天城 悠理

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<中>

「ふあぁぁ……ぁぁ……」

 朝食の席で、大きなアクビをする鬼太郎。

 結局、朝告げ鶏が鳴くまで桔梗と抱き合っていて、ろくすっぽ寝ていない。

「…………」

「あ……すみません、父さん……」

「……いや。それより、ねずみ男に聞いたんじゃが、昨夜は大変だったみたいじゃのぅ」

「はい……。でも、桔梗さんと鬼宮さんがいたので、なんとかなりました……」

「ふむ。死人が出んで本当に良かったわい」

「はい、本当に……ふあああああ……ふぁぁ……」

「……ずいぶん眠そうじゃのぅ……」

「何度もすみません……」

「……まぁ、仕方ないのぅ。鬼と盛ってきたんじゃから」

「え……!?」

「ん? 桔梗さんと交わってきたんじゃろう?」

「ええッ!? い、いやっ、その……それは……あのっ……」

「隠さんでもええ。彼女の匂いがお前についておるのでな、分かるんじゃよ」

「匂い……ですか……?」

「ああ、彼女は体身香の持ち主じゃな。嗅いでると、たまらん気分になるじゃろう?」

「あ……はぁ……、まぁ……」

「それも鬼としての妖力の一つなのかもしれんのぅ」

「あの……鬼って……?」

「薄いとは言え桔梗さんの身体にも、鬼の血が流れておる。鬼の血を引く、イコール魔物じゃよ。じゅうぶん魔性を放っておるわい」

「そう……なんですか……?」

(魔物と言われても……ピンとこないな。あんなに……花のように綺麗な人なのに……)

 そう思うに連れ、無性に桔梗に会いたくなった。

 別れてまだ、さほど時間は経っていないのに。

「……まぁ良い。人間なら問題じゃが、彼女は一応は鬼。子が出来ても、差し支えあるまい」

「こ、子供って……! まさか、まだ……そんなっ……」

「何を赤くなっておる。それが目的で契ったのじゃろう?」

「それは……まぁ……そうなんですけど……」

「なら良いじゃないか。胸を晴れ、鬼太郎……!」

 ポンッと父親に背中を叩かれ、「はぁ……」と頼りなく応える鬼太郎。

 確かに子が出来ればと思い、一夜を共にしたのだが……実際心は、そこにはなかった。

 自分はただ純粋に、桔梗を抱いたのだ。

 たった今、それに気付いた。

(桔梗さん……。僕は……あなたを――)

「……おはようございます」

 一二三の声により、思考を打ち消される。

「あ、お……おはようございます……! 体調のほうは、もう……?」

「はい、すっかり。鬼太郎さんには大変お世話になりました」

「いえ、そんな……」

 通じた相手の兄と思うと、なんだか急に話しづらくなってしまうもので、鬼太郎は一二三から目を逸らしつつ、ポリポリと頬を掻いた。

「……鬼太郎さん」

「は、はい……」

「妹を、なだめてくださったみたいですね……」

「え……、いや、その……まぁ……」

「……ありがとうございます」

 一二三から目を背けていたため、彼がどんな顔をしてそう礼を言ったのかは分からない。

 ともかく一二三は礼を述べたあとお辞儀をして、去って行った。

(……ふぅ、緊張した……)

 心臓がバクバク言っている。

 スーハーと呼吸を繰り返し、気を鎮めていると――

「……鬼太郎さん」

 涼やかな声に呼ばれた。

「あ……はいっ……!」

 聞きたかった声を聞き、急ぎ顔をあげる。

「おはようございます……」

 はにかんだ笑顔をこちらに向けてくる桔梗。

 その笑顔が眩しくて、つい顔を俯かせてしまう。

「お、おはようございます……」

「…………」

「その……傷の具合はどうですか……?」

「え……?」

「あ! いやっ、あの……その……すみま……せん……」

「いえ……」

 そう言ったきり、黙り込んでしまう二人。

「なんじゃあ、いい若いモンがうじうじと! ちょっと二人で散歩にでも出てきたらどうじゃ? ん?」

「散歩に……ですか?」

「うむ。シュークリームでも食べてきたらええ」

「シュークリームって……それ、父さんが食べたいだけなんじゃあ……」

「否定はせん。土産を頼む」

 そんな鬼太郎と目玉おやじのやり取りを見て、桔梗は「くすくす」と楽しげに笑い――

「鬼太郎さん。私もシュークリーム、食べたくなってしまいましたわ。お店まで、ご一緒してくださる?」

 と、尋ねてきた。

 断る理由など何もなく、鬼太郎は「はい」と頷いた。

 

           * * *

 

「……なんだかすみません、気を使わせちゃって」

「いえ、本当に食べたくなってしまったものですから」

 夏の日差しが照りつける歩道を、カランコロンと下駄を鳴らして並んで歩く。

「今日も……暑いですわね」

「そうですね……」

 そんな他愛のない会話を交わしながらも、実は緊張の連続で、先ほどからもうずっと、暑さのせいではない汗をかいてしまっている。

(桔梗さんは昨夜のこと……なんとも思ってないのかな……?)

 顔をあげて、チラリと桔梗に視線を向けると、その先をねずみ男が歩いているのが見えた。

「あ、ねずみ男」

「あら……本当。ねずみ男さんも、お誘いしましょうか。昨日、声をかけずに帰ってしまいましたし……謝りたいわ……」

「そんなの、気にしなくていいですよ。しかしあいつ、最近あまり会わないけど……コソコソといったい何してるんだろう……」

「食事のほうは、ちゃんと摂ってくださっているようですけれど……」

「ハハ……。そういうところは、ちゃっかりしているやつでして……」

 などと苦笑するうち、ねずみ男の姿は見えなくなってしまった。

「……あれ? どこに行ったんだろう……?」

「あの先は、神社ですわね」

「う~ん、神社に用があるとは思えないんだけどなぁ……」

 首をひねる鬼太郎の頭に、ポタ……っと冷たいものが落ちてきた。

 そして、「あ……」と桔梗と言い合う間に、ザーーーッと本格的に雨が降ってきた。

「すごい雨ですわね……」

「ええ……。急で、びっくりしましたね……」

「ここからなら、家より神社のほうが近いですわ。そちらに行きましょう」

 言って桔梗は鬼太郎の手を取り、鬼宮神社へと急いだ。

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