※この作品はR-18です。

花塵   作:天城 悠理

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<下>

 ……あれから、一週間が経過した。

 とうに復旧作業は完了していたが、鬼太郎はまだ鬼宮村に留まっていた。

 そしてまた今日も、鬼宮家へと向かう。

「…………」

 焼け跡の瓦礫を、せっせとどけていく鬼太郎。

 ここは既に見た場所だ。

 しかし諦めきれず、また同じ場所を探していく。

 そんな彼の背中に、「鬼太郎」と呼びかける声がある。

「……猫娘」

「えへへ、来ちゃった」

「……父さんが呼んだのかい?」

「え……?」

「横町に帰るよう、僕を説得しろって父さんに頼まれた?」

 図星だった。

 ここで上手い切り返しが出来れば良いのだろうが、機転がきかずに、正直に「うん……」と答えてしまう猫娘。

 しかしその素直さが、彼女の良いところだろう。

 それは鬼太郎も認めるところで――

「ありがとう、きてくれて」

 柔らかな笑みを浮かべた。

「お、お礼なんていいのよ……! 私が来たくて来たんだから! それより、あのね?」

「うん」

「さっき村の人に聞いたんだけど、もうすぐこの村に病院が出来るんだって。この村にお医者さんが来てくれるようにって、鬼宮さんずっと頑張ってたらしいよ」

「そうか……」

 それがもう少し早く叶っていれば、鬼宮家は妖力を捨てて生きていくことが出来たかもしれない。

 そうすれば二人は死なずに済んだかもしれないと、そこまで考えたところで頭を振る。

(桔梗さんは死んじゃいない。きっと生きてるんだ……っ)

 そう思い、また瓦礫をどけ始める鬼太郎。

「鬼太郎。私も手伝うよ」

「いいよ、手が汚れるから」

「いいの!」

「……ふぅ。じゃあ、よろしく」

「うん!」

 手分けして瓦礫を撤去していく。

 しばらくすると、鬼太郎の手が、何やらサラリとした物に触れた。

(ん……?)

 それは、よく見ると黒髪のようで、鬼太郎は「桔梗さん!」と叫んで、その上に圧し掛かっている焼け焦げた箪笥をどけていった。

 かくして出てきたものは――人形であった。

「…………」

「鬼太郎~! 桔梗さんいたのー?」

 遠くを探していた猫娘が、こちらに駆け寄ってくる。

 そして鬼太郎の顔を「ニャン?」と覗き込む。

「ニャ……」

 鬼太郎は、泣いていた。

 顔を覆い隠すこともなく、ただ茫然と立ち尽くして。

「…………」

「……猫娘」

「……なに?」

「桔梗さんじゃ……なかった……」

「……うん」

「桔梗さん……どこにもいないんだ……。ずっとずっと……探しているのに……見つからないんだ……」

「…………」

「桔梗さんはもしかしたら……本当に……もう……」

「そ、そんなことない……! きっと、どこかに行ってるだけだよ!」

「そう……かな……」

「そ……そうに決まってるじゃな~い! いつか帰ってくるわよ、絶対……!」

「本当に……?」

「うん……!」

 猫娘の言葉が、真実であるかどうかは分からない。

 けれど結局、桔梗の死を受け入れられない今、その言葉に縋るしか道はなく、鬼太郎はどこか遠くにいる桔梗を探すように、空を見上げた。

 その瞳からは、依然涙が溢れ出ている。

(鬼太郎……)

 切なさに、ギュッと胸を締め付けられる猫娘。

 どうすれば鬼太郎を元気づけられるのかと、考えていると、鬼太郎がポツリと口を開いた。

「……あのさ」

「……ん? なぁに?」

「あなたは私を哀れに思っただけ……。そう桔梗さんに言われたんだ……」

「……うん」

「でも僕は……僕は本当に……あの人のことが……」

「……うん」

「好きだったんだ、本当に……」

「……うん、分かってるよ」

(ちょっと……妬けちゃうけどね……)

 そう心の中で呟いたあと、猫娘は鬼太郎の手をつないだ。

「…………」

「……ねぇ、鬼太郎」

「……ん?」

「私はずっと、鬼太郎の傍にいるよ……。鬼太郎を置いて、どこかに行ったりしない……。だから……お願い。元気だして……?」

「……うん。ありがとう、猫娘」

 そう答える鬼太郎の頬を、風がふわりと優しく撫ぜる。

 ……気のせいだろうか?

 その風は、甘く官能的な香りを孕んでいるかのように思えた。

(……桔梗さん?)

 風が吹いたほうを見てみる。

 しかし、そこには誰もいない。

「…………」

「……鬼太郎? どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

 もしまた桔梗に会うことが出来たなら――

(今度こそ何があっても離さない、離れない。もうずっと……永遠に……)

 ふわりと揺らいで消えゆく甘い香りに鬼太郎は、そう固く誓いを立てた。

 

           * * *

 

 秋がきて、もみじが赤くなりました。

 あの日みた、炎のように真っ赤です。

 

 冬がきて、雪が降りました。

 降り積もって、あの日の記憶を消してくれたらいいのに……。

 

 春になり、多恵さんに子供が産まれました。

 きっと将来、鬼宮さん似た優しい人になるでしょう。

 

 そして夏。

 あなたの花が咲きました。

 でも……

 

(あなたはまだ、戻ってこないんですね……桔梗さん……)

 

「僕、いつまでも待っています。あなたを…………」




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