……あれから、一週間が経過した。
とうに復旧作業は完了していたが、鬼太郎はまだ鬼宮村に留まっていた。
そしてまた今日も、鬼宮家へと向かう。
「…………」
焼け跡の瓦礫を、せっせとどけていく鬼太郎。
ここは既に見た場所だ。
しかし諦めきれず、また同じ場所を探していく。
そんな彼の背中に、「鬼太郎」と呼びかける声がある。
「……猫娘」
「えへへ、来ちゃった」
「……父さんが呼んだのかい?」
「え……?」
「横町に帰るよう、僕を説得しろって父さんに頼まれた?」
図星だった。
ここで上手い切り返しが出来れば良いのだろうが、機転がきかずに、正直に「うん……」と答えてしまう猫娘。
しかしその素直さが、彼女の良いところだろう。
それは鬼太郎も認めるところで――
「ありがとう、きてくれて」
柔らかな笑みを浮かべた。
「お、お礼なんていいのよ……! 私が来たくて来たんだから! それより、あのね?」
「うん」
「さっき村の人に聞いたんだけど、もうすぐこの村に病院が出来るんだって。この村にお医者さんが来てくれるようにって、鬼宮さんずっと頑張ってたらしいよ」
「そうか……」
それがもう少し早く叶っていれば、鬼宮家は妖力を捨てて生きていくことが出来たかもしれない。
そうすれば二人は死なずに済んだかもしれないと、そこまで考えたところで頭を振る。
(桔梗さんは死んじゃいない。きっと生きてるんだ……っ)
そう思い、また瓦礫をどけ始める鬼太郎。
「鬼太郎。私も手伝うよ」
「いいよ、手が汚れるから」
「いいの!」
「……ふぅ。じゃあ、よろしく」
「うん!」
手分けして瓦礫を撤去していく。
しばらくすると、鬼太郎の手が、何やらサラリとした物に触れた。
(ん……?)
それは、よく見ると黒髪のようで、鬼太郎は「桔梗さん!」と叫んで、その上に圧し掛かっている焼け焦げた箪笥をどけていった。
かくして出てきたものは――人形であった。
「…………」
「鬼太郎~! 桔梗さんいたのー?」
遠くを探していた猫娘が、こちらに駆け寄ってくる。
そして鬼太郎の顔を「ニャン?」と覗き込む。
「ニャ……」
鬼太郎は、泣いていた。
顔を覆い隠すこともなく、ただ茫然と立ち尽くして。
「…………」
「……猫娘」
「……なに?」
「桔梗さんじゃ……なかった……」
「……うん」
「桔梗さん……どこにもいないんだ……。ずっとずっと……探しているのに……見つからないんだ……」
「…………」
「桔梗さんはもしかしたら……本当に……もう……」
「そ、そんなことない……! きっと、どこかに行ってるだけだよ!」
「そう……かな……」
「そ……そうに決まってるじゃな~い! いつか帰ってくるわよ、絶対……!」
「本当に……?」
「うん……!」
猫娘の言葉が、真実であるかどうかは分からない。
けれど結局、桔梗の死を受け入れられない今、その言葉に縋るしか道はなく、鬼太郎はどこか遠くにいる桔梗を探すように、空を見上げた。
その瞳からは、依然涙が溢れ出ている。
(鬼太郎……)
切なさに、ギュッと胸を締め付けられる猫娘。
どうすれば鬼太郎を元気づけられるのかと、考えていると、鬼太郎がポツリと口を開いた。
「……あのさ」
「……ん? なぁに?」
「あなたは私を哀れに思っただけ……。そう桔梗さんに言われたんだ……」
「……うん」
「でも僕は……僕は本当に……あの人のことが……」
「……うん」
「好きだったんだ、本当に……」
「……うん、分かってるよ」
(ちょっと……妬けちゃうけどね……)
そう心の中で呟いたあと、猫娘は鬼太郎の手をつないだ。
「…………」
「……ねぇ、鬼太郎」
「……ん?」
「私はずっと、鬼太郎の傍にいるよ……。鬼太郎を置いて、どこかに行ったりしない……。だから……お願い。元気だして……?」
「……うん。ありがとう、猫娘」
そう答える鬼太郎の頬を、風がふわりと優しく撫ぜる。
……気のせいだろうか?
その風は、甘く官能的な香りを孕んでいるかのように思えた。
(……桔梗さん?)
風が吹いたほうを見てみる。
しかし、そこには誰もいない。
「…………」
「……鬼太郎? どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
もしまた桔梗に会うことが出来たなら――
(今度こそ何があっても離さない、離れない。もうずっと……永遠に……)
ふわりと揺らいで消えゆく甘い香りに鬼太郎は、そう固く誓いを立てた。
* * *
秋がきて、もみじが赤くなりました。
あの日みた、炎のように真っ赤です。
冬がきて、雪が降りました。
降り積もって、あの日の記憶を消してくれたらいいのに……。
春になり、多恵さんに子供が産まれました。
きっと将来、鬼宮さん似た優しい人になるでしょう。
そして夏。
あなたの花が咲きました。
でも……
(あなたはまだ、戻ってこないんですね……桔梗さん……)
「僕、いつまでも待っています。あなたを…………」
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