※この作品はR-18です。

花塵   作:天城 悠理

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<上>

「ふ~、食った食った~。さすがに腹いっぱいだぜー……」

「食べすぎだよ、ねずみ男」

「だってよぉ、朝からずっと運転してたんだぜ? 腹減りまくりだってぇの!」

「ワシも……少し食べすぎたかのぅ……」

「父さんまで」

 畳の上で大の字になるねずみ男と、目玉おやじの膨らんだ腹を見て、苦笑する鬼太郎。

「しかしよぉ、惜しかったんじゃないのぉ? ここ、絶対金持ちだぜ? 家もすっげーデカイしよぉ」

「そうじゃのぉ。ワシら三人、別々に部屋を用意してくれたぐらいじゃしのぉ」

「だろ!?」

「お前じゃないんだ。お金にそこまで執着しないよ」

「じゃあよ、桔梗さんは?」

「え……?」

「お前、桔梗さん見て赤くなってたじゃねぇか。断っちゃってさ、もったいなかったんじゃないのぉ~?」

「バ、バカ言うなよ。赤くなってなんか……」

「親父さんもよぉ、そろそろ孫の顔が見たいとか、そういうのあるんじゃねぇの?」

「孫か。ふむぅ……それはいいかもしれんのぅ……」

「ねずみ男! 父さんを焚きつけるなよ!」

 二人にからかわれ、真っ赤になって立ち上がる。

「む? 鬼太郎、どこへ行くんじゃ?」

「もう寝ます! おやすみなさい!」

 言って鬼太郎は、自分にと用意された部屋へと向かっていった。

 

           * * *

 

「二人共、面白がっちゃって……」

(……と。愚痴ってないで、桔梗さんを探しに行かなきゃ)

 そう思ったところでタイミング良く、「入ってもよろしいですか」と桔梗の声が聞こえてくる。

「あ、はい! どうぞ……!」

「失礼します」

 先ほど一二三の部屋に茶を運んできた時と同じように、静々と部屋に入ってくる桔梗。

「……このたびは、遠いところご足労いただきまして、本当にありがとうございます」

「いえ」

「……来てくださったということは、私の願いを叶えてくださると。そう思ってもよろしいのかしら……?」

 その言葉に鬼太郎は首を振り、「僕はあなたを止めにきたんです」と答えた。

「そう……ですか……」

 桔梗が、長い睫毛を伏せて俯く。

「…………」

「…………」

「……あ、あの!」

「……はい?」

「あなたから手紙が届いた直後、お兄さんからも手紙が届いたので少し驚きましたよ」

 部屋に漂う重々しい空気を払拭しようとして、明るい声で話しかける鬼太郎。

「ああ……。そう言えば兄も何か、鬼太郎さんにお話があったみたいですわね。……兄はなんと?」

「え!? いや……それは……あのっ……」

 真っ赤になり、返答に窮して、今度は鬼太郎のほうが俯いてしまう。

「?」

「と、とにかくですね……。早まらないで、他に何かいい方法がないか考えましょう。ね?」

「……鬼太郎さんは、噂どおり優しい方ですわね」

「や……優しいだなんて、そんなこと……」

「……あなたに、あんなことを頼んでしまって……。申し訳ありませんでした」

「いえ……」

「……失礼いたします」

 頭を下げ、退室しようとする桔梗を、「あの……!」と呼び止める。

「……なんでしょう?」

「手紙に書いてあったことは無理ですが……でも他に、何か僕に出来ることがあるようなら……なんでも言ってくださいね」

 鬼太郎のその言葉を聞き、桔梗は「ありがとうございます」と、花のように微笑んだ。

 

           * * *

 

「……おい、鬼太郎。鬼太郎ちゃんってばよぉ……!」

「……んー? なんだい? ねずみ男……」

「いつまでも寝こけてんじゃないよ! さっさと起きな! 飯食いに行くぞ、飯!」

「……起きてるよ」

 そう答えながらも、未だ布団に入ったまま、ボンヤリとしている鬼太郎。

「眠そうじゃのぅ。昨夜、早く寝たんじゃなかったのか?」

「はぁ……」

「あ。あれだろ? 雨の音がうるさくて、眠れやしなかったんだろ」

「雨? ……ああ。そう言えば、降ってたっけ……」

「そう言えばって程度じゃねぇだろ、あれはよぉ。バケツひっくり返したみたいに降りやがって、ずっとザーザーうるさかったぜぇ~。……と。それより、起きたなら飯だ! 飯!」

 ねずみ男は大アクビをしている鬼太郎の腕を引っ張り、居間のほうへと歩いていった。

 

           * * *

 

「ふー……、たんまり食った……。もう入らねぇ……」

「ワシもじゃ……」

「父さんまで、食べすぎですよ。もうすぐここを出て、宿を探そうと思ってるんですが、歩けますか?」

「宿ぉ? なんで宿なんか探すんだよ。依頼は断ったんだし、ならもうこんな村、用はないはずだろ?」

「……ちょっとね」

「あ、分かった。おめぇ、やっぱり桔梗さんのことが惜しくなったんだろ。え?」

「違うっ!」

「ならいいだろ。とっとと帰るぞ、とっとと。金にもならねーのにこんな辛気臭い村、いつまでもいれるかってんだ。……ま、飯がタダなのはありがてぇけどな」

 などと話をしていると、「帰るのは、ちょっと無理だと思いますよ」と横から女中が声をかけてきた。

「無理? 無理とはどういうことじゃ? お嬢さん」

「昨夜の大雨で、土砂崩れが起こったんですよ。復旧作業に一週間ぐらいかかるみたいです」

「土砂崩れぇ?! ってことは結局この村にしばらく足止めかよ~」

「……あの、すみません」

「はい?」

「この辺に旅館か何か、ありますか?」

「旅館……うぅん……。ないですねぇ」

「ない?」

「ええ。何もない村ですから、観光客なんてきませんし」

「そうですか……」

(困ったな……)

 鬼太郎が腕組みをしていると――

「宿はありませんが、旦那様が復旧作業が終わるまで、このまま当家にご逗留くださいと、そう言っていましたよ」

 との、ありがたい申し出があった。

「え? いいんですか?」

「いいんじゃないですか? 旦那さんがそうおっしゃってるんですし」

「良かったのぉ、鬼太郎。……どれ、鬼宮さんに礼を言いに行くとするかの」

「はい、そうですね。……行くぞ、ねずみ男」

「へいへい」

 鬼太郎は女中に「ご馳走さま」を言い、一二三の部屋へと向かった。

 

           * * *

 

「あの、しばらく泊めていただけるそうで、どうもありがとうございます」

「こちらこそ。こんなことになってしまい、申し訳ありません」

「いやいや、大雨が降ったのは何も鬼宮さんのせいじゃありますまい」

「そうおっしゃっていただけると助かります。何もない村ですが、充分にお持て成しさせていただきます」

「お持て成し?! じゃあ、あのぉ~、お酒なんかは出していただけるんでしょうか?」

「こら、ねずみ男!」

「いける口ですか? ではお持ちしましょう。良ければお父様もご一緒に」

「おお~、それはありがたいですなぁ~」

「もう、父さんまで……!」

「鬼太郎さんは、いかがですか?」

「え? いや、僕はお酒は……」

「そうですか。では、代わりに何かジュースでも」

「いえ、お構いなく。僕はちょっと、散歩にでも出てきます」

「誰かに案内させましょう」

「いや、一人で大丈夫ですよ。じゃあ」

 ペコリと小さく頭を下げて、鬼太郎はその場を辞した。

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