※この作品はR-18です。

花塵   作:天城 悠理

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<上>

 帰宅して父親と二人、桔梗に買ってもらったシュークリームを頬張っていると――

「お。うまそうなモン食ってんじゃねぇか」

 ねずみ男が部屋に入ってきた。

「ねずみ男、どこに行ってたんだよ」

「ちょっと調べ物しに、本屋によぉ」

「調べ物! 本屋!? お前が!?」

「なんだよ! 俺が本屋に行っちゃおかしいって言うのかよ?!」

「うん」

「これはまた大雨が降るかもしれんのぅ」

「親父さんまで失礼だなぁ、おい! ったく……人のことより鬼太郎。おめぇはどうなんだよ」

「どうって、何が?」

「桔梗さんだよ、桔梗さん!」

「き、桔梗さん……っ?」

「おうよ。あれだけの美人なんだし、ありがたくヤらしてもらやぁいいだろ?」

「バ、バカなこと言うなよ! そんなこと……出来るわけないだろ!」

「なんで?! 桔梗さんのいったいどこが不満なわけ!?」

「不満なんてないよ……って言うかお前、なんでそんなに僕と桔梗さんをくっ付けたがるんだよ。……さては、何か企んでるな?」

「ギクッ!」

「……おい」

「鬼太郎ちゃあん! そんな怖い顔しちゃイヤ!」

「誤魔化すなよ。何を企んでるんだ?」

「…………」

「言うんだ、ねずみ男」

 髪の毛を逆立てて、凄む鬼太郎。

 髪の毛針で攻撃されてはたまらんとそう思い、ねずみ男は慌てて「話すよ! 話します!」と口を開いた。

「俺はただ、お前さんを説得したことにして、鬼宮さんから謝礼をもらおうって、そう思ってただけなのよ! な? その程度のことで、そんな怒るなよぉ」

「……何を考えてるのかと思えば、またそんなくだらないこと考えてたのか」

「くだらないとはなによ?! よく考えてみろよ! 美女とヤれて、金までもらえるんだぜぇ? 悪いことなんてなーんもないじゃないか! みんなハッピー! 万々歳よ?!」

「そんな単純な問題じゃないんだよ……」

「チェッ! もうお前には頼まねーよ!」

 そう吐き捨ててねずみ男は、シュークリーム片手に部屋から出ていった。

「ワ、ワシのシュークリームが……」

 

           * * *

 

「鬼宮さん、ちょっとよろしいですか?」

「ええ、どうぞ」

「へっへっ。お邪魔しますよ」

 襖を開き、揉み手しながら一二三の部屋に入っていくねずみ男。

「昨日言っていた件ですがね」

「……ああ、鬼太郎さん以外の妖怪を見付けてくるというお話ですね?」

「それです、それ! まだハッキリ分かりませんが、なんとかなるかもしれませんぜ!」

「そう……ですか」

「鬼太郎のやつがその気になってくれたら一番早いんですけどね。まぁあのとおり、堅物なやつでして」

「……真面目な、いい方だと思います」

「いやぁ、堅苦しいだけですよぉ! ……ま。とにかくなんとかなりそうなんで、期待しててくださいよ。へへ」

 言ってねずみ男は、ご機嫌な様子で部屋から出ていった。

 

           * * *

 

「ふぁぁ……よく寝た……」

 ムクッと布団から起きあがり、大きく伸びをする鬼太郎。

(さて、今日はどうしようか……。桔梗さんは例の件、もう忘れてくれって言ってたけど……でも……)

「う~ん……。井戸仙人なら妖怪医術や薬学に長けてるし、何かいい方法を知っているかもしれないなぁ」

(……と、そう言えば復旧作業のほうはどうなったのかな? ちょっと見に行ってみるか……)

 そう思い立ち、鬼太郎は廊下に出た。

 

           * * *

 

「ふぅ……。さすがにもう入らんわい……」

「ちょっと太ったんじゃないですか? 父さん」

「ふむぅ……確かにのぅ。じゃあ、今日は運動でもするかの」

「運動ですか」

「うむ。ジムがあれば一番いいんじゃがのぅ」

 などと目玉おやじが無茶なことを言っていると――

「川遊びというのはいかがです?」

 不意に桔梗が聞いてくる。

「き、桔梗さん……っ」

「割り込んでしまってごめんなさい。歩いていたら、お声が聞こえたもので、つい……」

「い、いえ……! そんな、全然っ……」

「……鬼太郎」

「はっ、はい……?」

「お前、顔が真っ赤じゃぞ」

「い゛い゛っ!? やっ、あの……そんなっ……」

 ますます真っ赤になる、鬼太郎の頬。

 鬼太郎はもうまともに話すことも出来ないようで、桔梗の誘いにしどろもどろ返事をする彼に代わって父親が――

「ぜひ行きましょう、桔梗さん」

 と、請け負った。

「まぁ、嬉しい。すぐに出かけます?」

「うむ。そうじゃな」

「……あ、待ってください。僕、ちょっと復旧作業の様子を見に行きたくて……」

「あら。じゃあ先にそちらに寄りましょうか?」

「いえ、危ないので僕らだけで行ってきます」

「そうですか。ではまたあとで」

 桔梗は会釈し、「気を付けてお出かけください」と退室した。

「ふむ。明るくていいお嬢さんじゃな。シュークリームも買ってくれたし」

「そうですね。……じゃあ、行きましょうか」

「うむ。レッツゴーじゃあ……!」

 

           * * *

 

 下駄をカラコロ鳴らしながら、人に道を聞きつつ歩いていくと、程なくして土砂崩れの現場に辿り着いた。

 ヘルメットをかぶった男たちが、忙しそうに岩や土をどかしている。

「これは……見事に道が埋まっとるのぅ」

「ですねぇ……」

 遠巻きに復旧作業の様子を見ていると、どこからかねずみ男が現れ、彼は現場を取り仕切っていると思われる男に対して――

「復旧に何日ぐらいかかりそう?」

 と、尋ねていった。

「うーん、こりゃあ急いでも二週間はかかりそうだぁねぇ。ほら、二夜続けて雨が降ったもんだから!」

「ふむふむ、なるほどね~。……ま、俺様も用意に二週間はかかりそうだし、ちょうどいいや」

「何に二週間かかるって?」

「ッ!? き、鬼太郎ちゃん! いたのぉ?」

「誤魔化すなよ、ねずみ男。用意って、いったいなんのことだ?」

「な、なんでもねぇよ! じゃ、あばよ~!!」

 言ってねずみ男は、まるで風のような早さで逃げていった。

「あ、待て!」

「待てねぇよ~~~ん!」

 あっという間に見えなくなってしまう、ねずみ男の姿。

「……ったく、逃げ足だけは早いんだから。何かまた、悪いこと企んでないといいんですけど……」

「企んでいたとしても、所詮ねずみ男じゃ。大したことにはならんじゃろ。それより、鬼太郎」

「はい?」

「そろそろ戻って、桔梗さんと一緒に川に行こう。な?」

 早く泳ぎたくてたまらない様子の父親に苦笑しつつも、鬼太郎は「分かりました」と鬼宮の屋敷に戻っていった。

 

           * * *

 

(……と。そう言えば、桔梗さんの部屋はどこかな)

 女中に尋ねれば早いのだろうが、仕事の邪魔をしてはいけないとそう思い、父親と二人で屋敷内をうろついていると、「どうしました?」と一二三が尋ねてきた。

「桔梗さんの部屋を探してるんですけど……」

「桔梗の部屋なら、この角を曲がってまっすぐ行った、突き当りにありますよ」

「そうですか。どうもありがとうございます」

「桔梗に何かご用事ですか?」

「ええ。川遊びに行こうと、誘っていただいたもので……」

「そうでしたか。ですが、申し訳ない。桔梗は少し、体調がすぐれないようで……」

「え? そんな、大丈夫ですか?」

「……ええ。明日には元気になっていると思います」

「ふむぅ。残念じゃが、体調不良じゃあ仕方がないのぅ」

「すみません、妹のほうから誘っておいて……」

「いやいや、どうぞお大事にしてくだされ」

 そう目玉おやじが返し、鬼太郎もまた頭を下げて去ろうとすると、「あの……」と一二三が呼び止めてきた。

「はい?」

「……妹のこと、本当にどうもありがとうございます」

「……え!? いや、こちらのほうこそ色々と気を使っていただいて、申し訳なく思うぐらいで……!」

 急に礼を言われて、驚いてそう答えると――

「妹の……あんなに楽しそうな顔を見たのは、久々です。子供の頃以来……でしょうか」

 一二三が眩しげに目を細めて、ポツリと呟いた。

「…………」

「……妹には友達がいないのです。鬼宮家の者は村人に取って、畏怖の対象ですから……」

「……対等に接してくれる者が、おらんのじゃな?」

「……はい。ですから本当に、皆さんには心から感謝しております」

 言って一二三は深々と、二人に向かって頭を下げた。

「そんな、頭をあげてください……! こちらこそ、鬼宮さんや桔梗さんにはとてもお世話になっていて……本当にどうもありがとうございます」

 鬼太郎もまた頭を下げて、それを見た目玉おやじが、「お礼合戦じゃな!」と合いの手を入れた。

「お、お礼合戦って父さ~ん……。僕ら、戦ってるわけじゃないんですから……。ねぇ? 鬼宮さん」

「フフ……。そうですね」

 顔を見合わせ、笑い合っていると、「旦那様ー!」と、女中が一二三を呼ぶ声が聞こえてきた。

「あ……。と、すみません。失礼します」

 一二三は会釈し、「また妹と遊んでやってください」と、声のほうへと消えていった。

「……あのお嬢さん、不憫じゃのぅ」

「……そうですね」

「鬼太郎」

「はい?」

「桔梗さんが元気になったら、桔梗さんの気が済むまで付き合ってやりなさい」

「……はい!」

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