※この作品はR-18です。

花塵   作:天城 悠理

7 / 19
<上>

「ふぅ~。今日のごはんも、おいしかったのぅ……」

「そうですね」

 朝食後、二人で茶をすすっていると、「おはようございます」と、桔梗が声をかけてきた。

「…………ッ!」

 桔梗の声を聞くと同時に鬼太郎は、湯呑から手を離してしまい、熱いお茶を引っ被ってしまう。

「あつ……ッ!?」

「あ! 大丈夫ですか……!?」

 慌てて床に膝をつき、ハンカチでポンポンと、濡れた箇所を拭っていく桔梗。

 距離が近いせいで、またふわりと甘い匂いが香ってくる。

(あ……桔梗さんの……匂い……)

 花とも菓子とも思わせる甘い匂いは、よく嗅ぐとその奥で、妖しく官能的な香りを放っているようだった。

 そう感じるのは昨夜、彼女の艶めかしい肢体を見てしまったからかもしれないが……ともあれ嗅ぐうちだんだんと、クラリと酒に酔ったかのような感覚に陥ってしまう。

「あ……?」

 目眩に襲われ、桔梗に向かってグラリと傾いでいく鬼太郎の身体。

「鬼太郎さん……!?」

 ギュッと抱き留め、心配げな表情でじっとこちらを見詰めてくる桔梗を見るうち、鬼太郎の身体がブルブルと震えてくる。

「鬼太郎さん? 寒いんですの? まさか、風邪をひいたんじゃあ……」

 言って、熱を測ろうとして桔梗が鬼太郎の額に手を当てると、鬼太郎の全身が瞬時にして赤くなった。

 そして、震えは止まったものの、カチンコチンに硬直してしまう。

「……鬼太郎さん?」

「う……? あっ……」

 まともに受け答えすることも出来ない様子の鬼太郎を見て、桔梗は何かを察したようで、スッと静かに身を離した。

「……何か、温かいものをお持ちしますわ」

 言って桔梗は部屋を出て行き、彼女の代わりに女中が茶を淹れなおして持ってきた。

 

           * * *

 

「……鬼太郎。桔梗さんと何かあったのか?」

「……いえ」

「なら、さっきの態度はなんじゃ。桔梗さん、傷ついておったみたいじゃぞ?」

「そう……ですね……」

 鬼太郎自身も、桔梗に対して申し訳なく思っているのだろう。

 眉を下げ、ションボリと肩を落としている。

「謝ってきたらどうじゃ? お前も気にしておるんじゃろう?」

「……はい」

 鬼太郎は頷き、桔梗の部屋へと向かった。

 

           * * *

 

(えっと……こっちだったかな?)

 桔梗の部屋を探している最中、多恵という女と出くわした。

(あ……)

「…………」

 挨拶すべきと思うのだが、桔梗に対して鞭を振るっていた姿を思い出し、また身体が硬直してしまう。

 しばらく黙ったまま、顔を俯かせていると――

「……今、少しよろしいですか?」

 そう多恵が聞いてきた。

「え……? あ、はい……。なんでしょう……?」

「……桔梗さんのことです」

 桔梗の名前を出され、ビクリと肩が跳ね動く。

「下駄の音がしたので、もしかしたらと思いましたが……その反応。やはり昨夜、ご覧になっていたのですね」

「す、すみません……。悲鳴が聞こえたので……つい……」

 素直に謝罪し、頭を下げると――

「鬼の血が……桔梗さんをあのような行動に走らせるのです」

 と、抑揚のない声で多恵が言った。

「鬼の血……ですか……?」

「……はい。鬼宮家の方は皆、常人よりも性欲が強いらしく……鬼の血が薄いと思われた桔梗さんも、それは例外ではなかったようなのです」

「…………」

「桔梗さんは、そのことを恥じておいででした。そのため、身体に疼きが生じたら私に鞭打ってもらいたいと、そうおっしゃって……」

(そんなことを頼めるということは……鬼宮さんは桔梗さんに友達はいないと言っていたけど、多恵さんは桔梗さんの友達なんじゃないのかな……?)

 思っていることが顔に出たのか、多恵が自分と桔梗との関係について言葉を添える。

「当家は代々、鬼宮家にお仕えする家系でして……私も幼少の頃より、鬼宮家に入らせていただきました。そのせいか桔梗さんも、他の使用人よりは気安く接してくださっているようです」

「そうですか。それは桔梗さんも、心強いでしょうね」

「……鬼太郎さん」

「はい?」

「単刀直入にお伺いします。桔梗さんと、子を成す気はおありですか?」

「……えッ!? それは……あの……」

「可能性は微塵もないと?」

「いや、その……」

「…………」

「困ったな……」

 追い詰められて答えに窮し、ダラダラと冷や汗をかいていると――

「……私からも、お願いいたします。どうか、桔梗さんと添い遂げてください」

 そう言って多恵が、深々と頭を下げてきた。

「!?」

 慌てて「顔をあげてください」と言うが、多恵はこうべを垂れたままだ。

「あの……じゃあ、考えてみます……」

 仕方なく鬼太郎がそう返すと、ようやく多恵は顔をあげて、「お願いします」と去っていった。

「……ふぅ」

 ようやく緊張から解放されて、大きく息を吐く鬼太郎。

(多恵さんまで……。参ったなぁ、もう……)

 ポリポリと頬を掻きながら鬼太郎は、再び桔梗の部屋を目指して歩き出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。